『ゴブリン退治』の依頼を四件受注し、それら全てを片付けたゴブリンスレイヤーは一度、牧場へと帰って来た。
トロルを倒した証拠であるトロル自身の頭部の処理や廃城でのゴブリン退治にて息が切れるのを看取った女性冒険者と骨だけとなった冒険者達の認識票(全部では無いかもしれないが)といった物の整理をするためというのもあるが、まずは疲れた身体を休めたり、ゴブリンの鮮血で塗れた兜に鎧の掃除などもしたかったからである。
いや、結局のところは……。
「おかえりなさい」
「ただいま」
冒険者の仕事を済ませて帰ってきた自分をいつも笑顔で出迎えてくれる幼馴染の牛飼娘に会いたかったからだ。
決して口には出さないが、自分を出迎えてくれる存在がいるというのは幸せであるとは知らなかった。摩耗していく心身が牛飼娘の笑顔や言葉、雰囲気だけで癒されていくのである。
「……お疲れ様」
眺めていると牛飼娘はゴブリンスレイヤーを抱擁した。
「っ、汚れるぞ」
ゴブリンスレイヤーは牛飼娘にそう言うも……
「良いよ、服っていうのは汚れるものだし……ほら、顔を見せて」
牛飼娘は微笑みながら、ゴブリンスレイヤーの兜に触れた。
「あ、ああ……」
ゴブリンスレイヤーは牛飼娘が兜を外せるように兜の金具を外す。
「やっぱり、疲れてる顔してるね」
「実際、疲れているからな」
「じゃ、元気になれるようにしてあげるね……ちゅ」
牛飼娘はゴブリンスレイヤーの兜を取り、素顔を見つつ、両頬に触れながら接近し口づけした。
「元気出たでしょ?」
「とってもな」
「良かった」
二人は微笑むとそうして、ゴブリンスレイヤーは身体を洗ったり、食事をしたりすべき事を済ませ、翌日の昼頃に目覚める。
「大分、疲れていたようだ。手伝えなくて済まないな」
「全然大丈夫だよ。それに冒険者は身体が資本なんだから休める時は休まなきゃ」
「本当にありがとう」
そう牛飼娘に感謝をし、そうして準備をすると依頼達成の報告をすべく冒険者ギルドへと向かう。
その前に……。
「すまないが、死んだ冒険者達のために祈りを頼めるか?」
「勿論です、それこそ私達がやるべき事ですから」
何度も世話になっている地母神の神殿へと向かって死んだ冒険者達への祈りを頼む。
そうしてゴブリンスレイヤーも礼拝堂へと行き、認識票を置くと皆で祈りを捧げた。
「冒険者さん、貴方はとっても優しい方ですね」
十歳くらいの侍祭の少女がゴブリンスレイヤーに声をかけた。
彼女、いや地母神に仕える神官長に神官達の全員、まるで地母神の如き慈悲深さだけでなく、誠意を持っている彼に敬意を抱いている。
だからこそ、そんな彼が辛そうな様子を見せているのに少女は堪らなくなった。
「いや、優しくなんてないさ……これは俺がやるべきだと思った事をやっているだけで自己満足のようなものだ」
「いえ、貴方は優しい人ですよ。その優しさに救われた人が今、いるんですから」
ゴブリンスレイヤーは自嘲するも侍祭の少女は否定するのを許さないよう断言し、とある方を差す。それは以前、ゴブリンスレイヤーが救出し神殿に保護を頼んだ女性たちであった。
彼女たちは侍祭の少女の言葉に同意するように頷く。
「……俺の方こそ、救われたよ」
彼女たちの気持ちにゴブリンスレイヤーは確かな救いを得た。自分のやっている事は無駄では無いのだと納得する事が出来たからである。
そうして、祈りを捧げた認識票を回収すると
「依頼達成の報告に来た」
「あ……はい、お疲れ様です。良かったら、紅茶をどうぞ」
ゴブリンスレイヤーが三つ編みの受付嬢の元へと行けば、彼女は笑みを浮かべながら自分が飲もうとして口をつけていない紅茶の入ったカップを差し出す。
「ありがとう……美味しいな」
ゴブリンスレイヤーは頭を下げると紅茶を飲んだ。
「お口に合ったようでなによりです」
受付嬢は微笑むとゴブリンスレイヤーからの報告を聞き、ゴブリン退治の際にトロルが出て、それを倒した証拠を見て驚いたり、顔を歪めながら死んだ冒険者達の認識票を数個出すゴブリンスレイヤーの姿に悲し気になったりしながらもしっかりと対応。
トロルが出たゴブリン退治のそれに関してはトロルを倒した分、報酬を増額した。
「本当にお疲れ様でした」
「ああ……本当に疲れたよ、だから少しの間、ゆっくり休む」
「はい、ゆっくり休んでください」
受付嬢はゴブリンスレイヤーに深々と頭を下げながら言うのだった。
その後、依頼達成を報告し報酬も受け取ったゴブリンスレイヤーは酒場へと行き、酒を一瓶、注文する。
「こんな時間からお前が飲むなんて珍しいじゃねえか?」
「そう、ね」
「依頼を済ませたところなんでな。その際、冒険者達の死体を見つけた……だから、な」
槍使いと魔女がゴブリンスレイヤーに近づき、声をかける。
すると槍使いと魔女の二人はゴブリンスレイヤーと同じ席に座った。
『冒険に散った冒険者に……』
ゴブリンスレイヤー達、冒険者は冒険者流の弔いを始める。
「昔は冒険者になって、世界も国も人も救えると思っていた……救うというのがこんなにも大変で難しいとは思っていなかったよ」
「そうだな、誰かを救うってのは本当に難しいよな」
「夢と現実は、違う、ものね」
そうして、飲みながら会話を交わす。
「……目の前で死なれるってのはかなり、辛い……辛いんだ」
「それは確かに辛いな」
「えぇ」
少しするとゴブリンスレイヤーは辛酸を舐めたような表情と共に言う。
「……やれる事しかできないし、やれる事をやるしかないとは分かっているんだけどな……すまない、大分酔っているらしい。愚痴になった」
「酔っているなら、仕方ねぇよ。それに愚痴を言いたい時は誰にでもあるさ」
「そう、よ。気にしない、で」
槍使いと魔女はゴブリンスレイヤーに対し、苦笑しながらそう言った。
「っていうかよ……お前はゴブリン退治しすぎなんだよ。もっと冒険者らしい事をしろよ。遺跡探索や宝探しとかな。お前はもっとそうするべきだ……なんだったら、誘ってやるからよ」
「ふふ、きっと、楽しい、わ」
「その時はよろしく頼む」
槍使いと魔女はゴブリンスレイヤーへと言い、ゴブリンスレイヤーは頷いた。
その後は酒を飲み終えるとゴブリンスレイヤーは槍使いと魔女に別れを告げる。その時に魔女はゴブリンスレイヤーに座標を書くよう、頼まれていた≪転移≫の巻物を渡し、ゴブリンスレイヤーは礼を言って、受け取ると今度こそ去った。
「本当、優しい奴だな……」
「ええ、本当、にね」
去り行くゴブリンスレイヤーに心配げな様子で槍使いと魔女の二人は呟くのであった……。