『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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二十話

 

 時間は流れゆき、その日はやって来た。ゴブリンスレイヤーの師となっている孤電の術師が彼に対し、冒険者に対する依頼をすると言っていた日だ。

 

「やぁやぁ、我が弟子よ。今日は良い天気だね」

 

 実際、その日に冒険者ギルドへと向かえば、孤電の術師が旅をする格好と荷物を持って其処に居たのだから……。

 

「ああ、そうだな。どこかに行くには本当に良い天気だ。それで依頼は?」

 

「なに、君にぴったりな依頼だよ」

 

 ゴブリンスレイヤーが孤電の術師に問えば、孤電の術師は微笑み……。

 

「ゴブリン退治さ」

 

 これも奇妙な事にね……と苦笑さえして孤電の術師は言い、ギルドでちゃんとゴブリンスレイヤーと依頼者とその依頼を受けた冒険者としての手続きを済ませると孤電の術師が目的地としている場所へと向かい始めた。

 

 街を出て道なき広野を行く旅であり、二日が過ぎようとするものとなっている。

 

「もう、夏が近づいているねぇ……君はそんな恰好で暑くないのかい?」

 

「暑い事は暑いが、慣れているからな」

 

「それは頼もしい」

 

 道中はそんなたわいもない話をしながら、二人は移動しその日の晩……野営地にて……。

 

「んんっ、これは何とも美味しいね。良い牧場だ」

 

「お気に召したようでなによりだ」

 

 糧秣として用意した牧場特製の腸詰めとチーズを串にさして焚火で火にかけたそれを口にして孤電の術師は舌鼓を打った。ゴブリンスレイヤーにとっては身内と呼べる場所のものを褒められたのでそれに対し、喜ぶ。

 

「ああ、やっぱり口にする物は美味しい物が一番だからね」

 

「俺の最初の師である圃人の老爺も『生きていたいなら、温かくて旨いものを食え』と言っていたよ」

 

「まさしく、その通り。中々含蓄のある事を言う御仁じゃないか」

 

「色々と滅茶苦茶で、破天荒だったりしたけどな。良く振り回されたし、酷い目にもあわされた」

 

「弟子を振り回すのは師の特権さ」

 

「その言い方じゃ、貴方も俺を振り回している事になるな」

 

「ふっふっふ……もし、そうだとしたら嫌かい?」

 

「少なくとも最初の師と比べれば、遥かにマシだ」

 

「その師とどういう日々を送っていたのか、実に気になって来たねぇ」

 

 美味しい食事を口にしながら、孤電の術師とゴブリンスレイヤーは会話を弾ませる。

 

 

 そうして……。

 

「つまるところは、角なのさ」

 

 荒野の果てをそろそろ迎えようかという頃……足元に茂る草は減り、剥き出しの地面が露わになっている荒野であり、荒れ野。

 

 神代の戦いによる古戦場でもあるその場所まで孤電の術師とゴブリンスレイヤーは辿り着いた。

 

「四つに限らないが、四方の一つと言って良い。まあこの場合は概念的なものだけど」

 

「そこが目的地という訳か」

 

「ある意味においてはね……良いかい?」

 

 孤電の術師は手を振って、魔法のような不自然さで骰子(サイコロ)を取り出す。

 

「この骰子の角はいくつかな?」 

 

「八だ」

 

「お見事、では面は?」

 

「六だ」

 

「またもお見事……じゃあ、角に至れば何が見える?」

 

「三面だ」

 

「まさに……本当に君は優秀な弟子だね」

 

「良い師に教わっているからな」

 

「っ!!……ふふ、本当に優秀な弟子だよ。ともかく、山の頂に至らんとする際、目的地はそこか、景観か、その先か、という話さ」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉を聞いて機嫌を良くしながら、孤電の術師は進みゴブリンスレイヤーはその後を追う。

 

「そこにゴブリンが居るという訳か」

 

「ああ、本当に何の因果だか……」

 

 ゴブリンスレイヤーからの問いに孤電の術師は額を抑え、参ったとばかりに首を振る。そして、見たまえよと目の前を差し……。

 

「……さっきまで見えなかったな」

 

「知れる者しか見えぬものだからね」

 

 薄い闇の中に聳え立つ、黒く、高き、影のような塔。それが荒れ野の真ん中に天高くへ向かって生えていた。

 

 ()()()()()()()

 

 そうして、薔薇の茂みに身を伏せながら塔の入り口へ目を凝らせば……。

 

「影が無い」

 

「あれは影だからね。どこか東方で合戦でもあったかな? 小鬼の死の影がこちらにまで伸びているのさ」

 

 夕日を背負い黒々と影に沈む塔の外周には、塔そのものの影が落ちていない。見張りとして、手槍を携え眠たげな様子で立ち尽くしているゴブリンの二体もそれは同様だった。

 

「影に影は出来ないという事か」

 

「その通り、どっかの合戦場から再来(リスポーン)したんだろう」

 

「中はもっといそうだな」

 

「それこそ、無限と思う」

 

「……魔術師は影と対決する者だとは聞いた。己が影を認め、まったきものとなった魔術師こそが偉大で影を力と思い込んだ魔術師は夢の国(ファンタージェン)に生きて帰らぬあほうだと」

 

「その通りだよ……君の圃人の師に会いたくなってくるな」

 

「お勧めはしない。だが、ゴブリン退治が俺の仕事で未知の場所を探索するのが冒険者の本分で影と対決するのが魔術師なら……まったくもって不足は無いな」

 

「頼もしい限りだよ」

 

 言いながら、ゴブリンスレイヤーは革切れと紐によって作られた投石紐(スリング)を雑嚢から出すと足元から石を二つほど拾う。そして一つを投石紐に巻き付け、もう一つは左手に握っておき……。

 

 

「ふっ!!」 

 

 右手に持った投石紐を下から一回転させると共に遠心力を加えた事で普通に投擲するよりも超速と化した礫がゴブリンの頭部に炸裂し、穿つ。

 

 すかさず、左手に握っていた石をまた投石紐に巻き付けると先程と同様に下から一回転させながら石を放ち、やはり、ゴブリンの頭部を穿った。

 

「行こう」

 

「ああ、けどその前に……」

 

 ゴブリンから手槍を二本奪い取りながら、言うゴブリンスレイヤーに応じながらも孤電の術師はゴブリンの血糊を指で掬い取って顔に複雑な文字(テキスト)のようなものを描きつける。

 

「それは?」 

 

「ただの香り付けの文句(フレーバーテキスト)。じゃあ、行こう」

 

 ゴブリンスレイヤーと孤電の術師は暗黒の塔の入り口を潜り抜ける。

 

 

 

 

 塔の中は異様な程に捻じれ入り組んだ迷路のような有様であり、金属だろうか、繋ぎ目の無い通路が延々と続き、窓はなく、通路は横に二人立つのが精一杯というものである。

 

 松明がいるかと思えば、光源がある訳でもないのに不思議と良く見え、一定以上の距離は暗闇に遮られるかのように視界が通らない。点火した松明を放り込んでもそれは変わらなかった。

 

「はっ!!」

 

「GBBOR!?」

 

 

 ともかく、二人は移動を続けつつ、護衛のために前衛となっているゴブリンスレイヤーはゴブリンとの接触を感知しつつ、先手を取ってゴブリンから奪った武器を投擲して屠る。

 

 そして、また倒したゴブリンが持っていた武器を拾って移動を再開。ゴブリンが無限に出て来るなら、消耗を抑えた戦い方を意識して行う事にしたのだ。

 

「さて、ここからが私の仕事だ」

 

「任せたぞ、我が師よ」

 

「ああ」

 

 伽藍の中に重厚な扉があり、鍵穴の無い黒檀で出来た扉の前に靄のようなものが浮かんでいた。

 

 黒板と白墨、札の束を孤電の術師は鞄から取り出し扉の前へと向かい、ゴブリンスレイヤーは後ろから迫りくるゴブリンのそれを察知したので、回収していたゴブリンが作っていた武具を床において投石紐を出し、腰帯に雑嚢とは別に吊るしている袋から石を取り出し、それを巻き付け頭上にて回転させ続ける。

 

 

 

「この塔は影が全てなようだ……なら、おそらく鍵も影に由来していると思う」

 

「GB!?」

 

ゴブリンの群れが姿を現し、ある程度の距離まで近づいてきたところで頭上で回転させていたそれをゴブリンに対し、振るいながら石を放ちながら孤電の術師に意見を言う。

 

 ゴブリンスレイヤーは放った石は幾つものゴブリンの頭部を穿つ事でゴブリン達を殺した。

 

「はっ!!」

 

 続けて投石紐はその場に放りながら、床に置いていたゴブリンの武具をどこからか湧き出てきたゴブリンの群れに放ち、それらが落とした武具を拾ってはまた投擲する事でゴブリン達を殺していく。

 

「…まったく、頼りになるよ君は……その通り、これは影だ。三つの頂点、三つの線、四つの頂点、四つの面、しからば一つの次元にて最小の図!」

 

 手にした札の数々を表へ返し、ほとばしる魔力の渦にて靄へと孤電の術師は挑みかかり、呪文の如き言葉の奔流が黒い靄を次々に襲い、虚空から裏返って花開くように変化した。

 

「つまり、五つの頂点、五つの(セル)という訳だ。さあ、行こうゴブリンスレイヤー」

 

 黒壇の扉に一筋、剣で断ち切られたかのように光が走り、暗黒の塔は開かれた。

 

「勿論だ、追ってこられないように戸締りを忘れるな」

 

「当然。元々、お呼びじゃ無いからね」

 

 そうして、ゴブリンスレイヤーと孤電の術師は開いた扉の中へと進みながら追って来ようとするゴブリンに対し、扉を閉める事で追えないようにするのだった……。

 

 

 

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