『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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二十一話

 

 暗黒の塔を進んでいるゴブリンスレイヤーと孤電の術師の二人は鍵穴が無く、靄が代わりの如くとなっている扉のある部屋に辿り着いた。それは孤電の術師によって鍵が開けられ、そうして先へと進めばどこまでも続くような螺旋階段が見え、そのまま上り続けて行く。

 

「それであれはどういう理屈だったんだ?」

 

「あれはね……線と面の世界に住まう者は高さを理解できない。我々もまた同じ……」

 

 縦、横、高さに加えてもう一つ空間を示す座標、軸がある物体とゴブリンスレイヤーの質問に対し、そう言いおいて……。

 

「だけど立体の影を見て、その形を導き出す事は出来る。知恵があれば、ね」

 

「それだけの知恵がある魔術師の弟子になれたのは本当に幸運だったな」

 

「ふふ、そういう事だね」

 

 会話をしながらゴブリンスレイヤーと孤電の術師は会話をしていく。

 

「そして、やる事はこれではっきりしたな。俺はああした扉を貴方が開けるまで時間を稼げば良い訳だ。無限に湧き出すゴブリン共をまともに相手なんかできないから、良かったよ」

 

「こっちは死んだら、もう終わりだからね。守りは任せたよ」

 

「こっちも扉を開けてもらわなければ最後には死ぬ事になる。こっちこそ、鍵を開けるのは任せたからな」

 

 お互い、手を出し合い握り合った。

 

「しかし、あれだね。これが我々のための塔だとすれば、あの不定形こそ私の障害だ……つまるところ、神の影さ」

 

「神か」

 

「写し身とか木霊とか神の姿なんてわかりゃしないもの……私の数式がそれかもしれないぜ?」

 

「そういうものか」

 

 言いながらも進んでいき、第二階層にして同じ靄が浮かぶ鍵穴の無い扉がある部屋へと辿り着く。

 

「ふふ、法則、方式さえわかれば後は計算するだけだよ。ざまぁ見ろ、答えは八だっ!!」

 

 ゴブリンスレイヤーが何処からか湧き出して、向かいくるゴブリンの群れを投石紐による強烈な石の投石やゴブリンが持っていた武具、更にはゴブリンの死体を投げつけてゴブリンが迫りくるのを妨害しながら、時間を稼ぐ中……孤電の術師は扉を開けていく。

 

 

 

「十六」

 

「二十四」

 

 第三層、第四層では計算する素振りすら見せないままに力強く床を蹴り(タップ)、沸き上がる魔力で札を操り、たちどころに錠を回して開けた。

 

 

 

「……これはまた、中々……」

 

「難しいか?」

 

 だが、第五層では孤電の術師は唸り声を上げていた。ゴブリンスレイヤーはとにかく投擲中心で迫りくるゴブリンに対し、進路を塞いだりするようにしてまともに相手せず、こちらに来ないよう妨害していく。

 

「難しいとは良く言ってくれたな。見たまえ、百二十程度、組み上げるには一手で足りる」

 

 そうして、第五層の扉は開いて二人は先へ進む。

 

「まだ、ああした扉はあると思うか?」

 

「四、六、八、十二、二十……この五つが私達の知る、物の形の基準のなのだけれどね。これまで塔に落ちた影は五、八、十六、二十四、そして百二十だ」

 

「ちょうど、五つだな」

 

「だから、これで打ち止めだとは思うんだけど……」

 

 そうして最後と思わしき、部屋に辿り着けば黒壇の扉があり、やはり、影が……。

 

「どうやら、神というのは底意地が悪いらしいな。それとも俺たちに対する試練のつもりか」

 

「計算違いというのは気に入らないね……でも、基本は同じだ。なんとでもなるよ」

 

「なら、俺もなんとでもしよう……任せたぞ」

 

「そっちもね」

 

 こうして二人はそれぞれの役割を果たすために動き……。

 

「……くそ、なんだこれは……時間がかかりすぎる」

 

「さっきの百二十どころじゃあない。これは……()()()()()()!!」

 

 

 孤電の術師は正六百多胞体という想像した限界を遥かに軽々と超えた存在に苦悩する。

 

 理解は出来るし、想像もできる。だがしかし、しかし計算するのにどれほどの時間がかかる?

 

 

 

 とんでもない代物に対し、孤電の術師は苦悩していき……。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え……」

 

「要はそういう事だろう」

 

「っ、ふふ……君という優秀な弟子に会えたのは私にとって幸運だよ。ゴブリンスレイヤー!! ゴブリンの血で良い、こっちにばらまいてくれ」

 

「分かった」

 

「GROB!?」

 

 少しして孤電の術師の足元へとゴブリンの臓器が落下し、破片となるそれと同時に血がばら撒かれる。

 

「稲妻よ、私の後についてこい―― ≪促進(エクスペダイト)≫」

 

 孤電の術師はその赤黒い水たまりを蹴りながら、溢れ出す紅い魔力の奔流に身を任せ、自身が編纂した魔術書、札の束へと手をかけると一枚の札を引き抜き、高らかに呪文を唱えあげる。

 

 彼女の足元から湧き上がる赤い稲妻がその石を祝福するかの如く、煌めいた。彼女の手には指輪による灯《スパーク》の輝きが……。

 

 そうして孤電の術師は世界を置き去りにして加速する。肉体を、思考を、その頭脳を……。

 

 こうして扉は開かれ、二人は果てしない階段を上がって行き……。

 

 

 

 螺旋階段の終着点、踊り場に辿り着いて、黒壇の扉を見る。この扉に靄は無かった。

 

 「開ける、よ?」

 

 孤電の術師は両開きで継ぎ目のない扉を撫でながら言い、そうして開ければ空があった。

 

 黒い空から赤く、白く、透き通っていく夜明けの空が……。

 

 

 

「これが目的地か?」

 

「うん、そうだよ」

 

「行くのか?」

 

「ああ、そのためにここまで来たからね」

 

 ゴブリンスレイヤーの問いに孤電の術師は答える。

 

 

 

「そうか……貴方の弟子になって短いとはいえ、今回も含めて悪く無かったし、もっと色々と交流していきたかったよ……ただ、間違いなく貴方に会えて良かったと心から思う」

 

 兜を取りながら、ゴブリンスレイヤーはそう本心からの言葉を伝える。

 

 

 

「っ~~~~!? ああ、もう全く君って奴はどうして、最後にそんな事を……ああ、私も君と会えて良かったよ」

 

「ん……」

 

 孤電の術師はゴブリンスレイヤーの言葉に驚愕し、そうして照れて動揺すると彼の顔を愛おし気に触り、情熱的な口づけをした。

 

 ゴブリンスレイヤーは林檎の香り、あるいは味を感じる。

 

「ふふ、私のファーストキスだ。これくらいはね……さて、じゃあこれを渡しておくよ」

 

 孤電の術師は灯の消えている指輪を外してゴブリンスレイヤーに渡す。

 

 

 

「≪呼気≫の指輪だったな」

 

「ああ、そしてこれがお待ちかね……発動体だよ。これをはめれば魔術が使えるようになる。何回使えるかは君次第だけど、きっと多く使えるだろう。君は優秀な弟子だからね」

 

「ありがとう」

 

 ≪呼気≫の指輪を受け取り、そして魔法を使うための発動体である指輪は右手の人差し指にはめた。

 

「こちらこそだよ……それと他にもこの依頼の報酬は用意してあるから、受付嬢さんに聞いておいてくれ」

 

「分かった。なんにしろ、無駄にしないと誓う」

 

 

「そうだね、存分に役立ててくれたまえ……じゃあ、別れが惜しくなりそうだし、私は行くよ」

 

「ああ、貴方が冒険をやり遂げられるよう祈っておく」

 

「もうっ、本当に君って男は……愛しているよ」

 

 

 そう言うと孤電の術師はゴブリンスレイヤーにまた口づけして虚空へと身を躍らせた。

 

「また、旅立たれるなんてな……だが、今回は悪くない」

 

 ゴブリンスレイヤーは扉から背を向けて塔を出るために歩き出す。そうして、一階へと降り立ち、外に出てゴブリンスレイヤーが振り返れば、塔は影のように消え失せていたのであった……

 

 

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