ゴブリンスレイヤーは魔術の師であった孤電の術師と共に向かった暗黒の塔で、その頂上にあった部屋の中で別れた。彼女が虚空の中へと旅立ったからである。
師が自分を置いて旅立ったのはこれで二人目であり、それに思うところが無いわけではないが、特に何も言い残さずに旅立った圃人の老爺よりは色々と最後に伝え合えたので『まあ、良いかな』とは思っている。
それに彼女は彼女の冒険を果たしに行く事が出来、自分はその助けを救う事が出来た。弟子が師に対する礼儀としては十分な事が出来たのだと彼女の反応からゴブリンスレイヤーは納得できていた。
ともかく、一人で冒険者ギルドへと依頼達成の報告をしに向かったゴブリンスレイヤーは受付嬢へと伝えれば、自分が知らない間に孤電の術師が受付嬢に渡していた彼女の家と中の物、全てをゴブリンスレイヤーに報酬として渡す事を記した置手紙に彼女の家の鍵が渡された。
それに交じって何らかの感触……受付嬢はウインクして、よろしくお願いしますと小さな声で伝えてくる。
それに頷き、歩きながら器用に一瞬だけ、鍵と一緒に渡された紙きれを見れば日時とこの街の場所が記されていた。
受付嬢が仕事を休む日という事である。雑嚢に収納するとゴブリンスレイヤーは酒場に寄って軽い料理の幾つかと林檎酒を一瓶、頼んだ。
「よう、大分冒険していたみたいだな」
「そっちも良い冒険をしたようだ」
「お陰、様でね……」
槍使いと魔力の光で輝いている装飾の施された金属部品がはめ込まれた細長い杖を持った魔女がゴブリンスレイヤーのいる席に座る。
『乾杯』
とりあえず、林檎酒で乾杯しつつ槍使いに魔女も別に酒と料理を頼み、そうしてお互いの冒険を讃え合い始めた。
「今回はゴブリン退治ではあったが、冒険者らしい事をしたぞ。暗黒の塔を登り尽くした。師匠だった魔術師と別れる事にはなったけどな」
「そう……あの、人は、行ったの、ね。ことわり……の、外に」
「ああ、師匠は師匠の冒険に向かったんだ」
「じゃあ、その指輪は魔術の発動体って奴か?」
「そうだ」
「何回、使える、の?」
「六回だ」
旅の間にゴブリンスレイヤーは魔術を使用してちゃんと回数を確かめている。
「ぶほぉっ!?」
「ふふ、優秀、なのね……」
ゴブリンスレイヤーから冒険の話を始めたが魔法の話題になると槍使いは凄まじい情報に酒を噴出さざるを得ず、魔女もなんとも言えない表情で言葉を紡ぐ。
「師の教えや魔術師は影と対決する者だというし、その影の象徴みたいなあの塔を攻略した恩恵なのかもな」
「お前……お前……」
色々と言いたい事があり過ぎて言葉に出来ず、とりあえずは自分たちの冒険に多く誘う事には決めた。ゴブリン退治に専念させ続けるには本当に勿体なさすぎる者になってしまっているからだ。
「これから、もっと……声、かけさせて、もらう、わね。頼り、になる、もの」
「ああ、誘いに応じられるときはパーティに加わらせてもらうな……それでそっちは、杖が変わっているな。魔法の杖か?」
魔女からの言葉に頷きながら、彼女が持つ杖に視線を向けて問いかける。
「ああ、そうだ。俺達は
それに槍使いが答えた。二人はとある村の洞窟を拠点とする妖術使いを退治する依頼をこなしに向かい、妖術使い自体は洞窟から出てきたところを魔女によって術を使えない状態にしてあっさり退治できたが、なんと洞窟内に入れば、厄介な怪物である鶏のような姿だが翼は蝙蝠で尾はトカゲ、嘴に石化の能力を有するコカトリスが番犬の如く存在していた。
どうやら、コカトリスを量産しようとしていたらしい。とはいえ、なんとか魔女は残り一回しか魔法を使えないながらにその一回、状況に適した魔法で槍使いを支援し、槍使いはコカトリスを仕留めた。
後は宝箱の中にあった魔法の杖を槍使いは今後ともよろしくといった感じで渡したのである。
「何が起こるか分からないのが、冒険だが……予想外過ぎるのは困るよな」
ゴブリンスレイヤー自身、ゴブリン退治においてゴブリンチャンピオンやらゴブリン退治を片付けたかと思えば、盗賊団を相手にする事になったり、トロルがいたりなど結構、厄介な事態となったりしたのでその言葉に実感が籠っていた。
「まったくだ。嫌な汗をかくはめになったぜ」
「ドキ、ドキ、したわ」
しかして事態を乗り越えさせすればそれもまた、良い思い出だ。そうして話を交わしながら、ゴブリンスレイヤーと槍使いに魔女はそれぞれの冒険を讃え合うのであった……。
二
いつもの街並……しかして今日は何故だか新鮮なものを見ているような気持ちになった。
「(うぅ、私ってこんなに単純だったでしょうか……)」
ゴブリンスレイヤーに自分が休暇を取った日に待つ場所を伝えた受付嬢は胸を高鳴らせながら、彼が来るのを待っていた。
格好は当然、私服であるが清楚であり、装飾が無く目立たない白のブラウスに動きやすさを最優先したキュロット、それから伸びた足を包むのは飾り気の無いタイツ。
今日はゴブリンスレイヤーがお礼をする日という事なのであまり、浮かれているのを悟られたくないし、どちらかと言うと彼には年上の姉のような余裕ある女性として意識してもらいたい。
彼によると自分は彼の姉に似ているとの事でもあるし……利用するようで悪いが……。
しかし、昼食や夕食を一緒にするのとは違って、デートというのは初めてで好意を抱いている相手とあっては本当に色々と考えてしまうし、期待やら何やらで動揺してしまう。
とても余裕ぶる事は出来そうにない。
そして……。
「む、早めに来たつもりだったが、待たせてしまったか?」
兜をしていない素顔、平服姿だが護衛を務めるためか片手剣を腰帯で吊っているゴブリンスレイヤーがやってきた。
「いえいえ、私は待つのが好きですから大丈夫ですよ……なんて、私も早く来ちゃいました」
最後に軽く悪戯をしたような笑みを浮かべてゴブリンスレイヤーに伝えた。
「その期待に応えられるよう、励ませてもらう。じゃあ、行こうか……今日は貴方の行きたいところに行くし、買いたいものを買わせてもらう」
「はい、よろしくお願いします」
ゴブリンスレイヤーは自分の悪戯を受け入れると嬉しくなる言葉を送ってくれた。どこまでも真面目で真摯な彼に「(本当にどうして、この人は)」とこっちの顔が熱くなり、胸を高鳴らせる言葉に態度を示せるのかと思ったりしながら、ゴブリンスレイヤーに対応をした。
そうして、ゴブリンスレイヤーは受付嬢に応じて彼女の行きたい場所や買いたいものを買うなど彼女が満足できるように色々としていった。
日頃、受付嬢として自分の冒険者としての活動を支えてもらっているお礼をするために……。
「食事に誘ってもらったり、こうして街を歩いたり……少なくとも、私は貴方のお姉さんみたいに良く思われてるって事で良いんですよね?」
「いや」
「ぇ……」
まさかの否定に一瞬、受付嬢は不安になったのだが……。
「確かに貴方は俺の姉さんに似ているし、だから親しみやすいってのはあるが……それでも姉さんは姉さんで貴女は貴女だ。俺はそれを意識して頼りにさせてもらっているし、良い関係になりたいと思っている」
「っ~~~~!?」
ゴブリンスレイヤーの言葉は受付嬢の心に
どうして、こうも言って欲しい言葉以上の言葉をかけてくれるのだろう……ナンパとは違い、どこまでも真面目に真摯に伝えてくる言葉がこんなにも凄まじいとは……。
「っ、そ、その……私も……貴方と良い関係になりたいと思っています」
「なら、良かった。どうか、よろしく頼む」
「は、はい……こちらこそ」
そんな言葉を交わし……。
「その……今日は楽しかったです。本当に」
「こっちとしても楽しかった」
夜の食事を済ませた後、ゴブリンスレイヤーは受付嬢の家へと彼女を送り届け……。
「その、十分すぎる程にお礼をしてもらったので、返させてください……ん」
受付嬢はそう伝えるとゴブリンスレイヤーの顔に触れて口づけする。
「っ、もっと……」
啄むようなキスを受付嬢はゴブリンスレイヤーにしていく。
「んむ……」
最後は長いキスをゴブリンスレイヤーにした。
「おやすみなさい」
「ああ、良い夢を見れる事を願っている」
そんな事を言いながら、ゴブリンスレイヤーは受付嬢の元から立ち去る。
「良い夢なら間違いなく、見れますよ。だって……」
だって、こんなにも今、自分は幸せなのだから……ゴブリンスレイヤーの背を愛おし気な表情で見送りながら、受付嬢は呟く。
「愛してます」
面と向かってはまだ言えないが、いずれ伝えるための練習代わりに彼に対する気持ちを呟きもしたのであった……。