ゴブリンスレイヤーは昇級における審査のため、冒険者ギルドの査察官を同行させての『ゴブリン退治』の依頼をする事になった。
この審査はゴブリンスレイヤーが一党として行動できるのかを見るという目的もあるため、査察官はゴブリンスレイヤーを『頭目』として二人の一党として行動する事にもなっている。
「一党として行動するなら、貴方の能力を軽く見せて欲しい」
「ふむ、確かに一党なら互いの戦力把握は大事ですね」
そういう訳で彼女の能力を把握するために実力や武装を見せてもらうように言うと彼女は袖口から幾重にも鋭い棘の生えた長大な鎖であり、
隠匿術というもので袖口に収納されていたのである。そして、円環状の握りによって査察官は超絶的な技量を持って生ける蛇の如く、自由自在、或いは変幻自在に操ってみせながら鋭く流麗な拳と蹴りの戦舞を披露した。
「こんな感じですね」
「十分に頼りになるな」
ゴブリンスレイヤーは自分よりも遥かに実力があるのを見つつ、参考にするためしっかりと査察官の動きを観察し、目に焼き付けていたのだった。
そして、ゴブリンスレイヤーの方も自分の実力を査察官に教える。
「……専門で無いのに、そんなに……」
査察官はゴブリンスレイヤーが魔術を六回(術次第、或いは術の使い方次第では減ったりもするが)、使える事に軽く驚いていたりした。
ともかくとしてまず、ゴブリン退治の依頼を出した開拓村から情報を得て、ゴブリンを目撃したという荒野へと向かう。
「どういう足運びをしているんだ?」
「これはですね……」
足音を立てずにしかし、速度はゴブリンスレイヤーの後を追える程に速く、野外に向いていない制服姿なのにそれをものともしない彼女の運足法について質問する。
勿論、彼女の動作一つ一つを学ぶため、密かに横目で観察するのも忘れない。
そうして、彼女の口から足運びについて聞く中で……。
「見つけた、ゴブリンの足跡だな。足跡が多く、数は一つで小さく、浅い。歩幅もまばらだな。渡りのようだ」
ゴブリンスレイヤーは広野にてゴブリンの足跡を発見した。
「渡りとは?」
「巣穴を失ったか、追い出されたかしてうろついているだけの奴の事だ。ゴブリンの中では大した事の無い部類だな、何より群れている数が少ない」
査察官からの質問にゴブリンスレイヤーは応じる。
「群れの物見が少数で送り込まれている可能性もあるでしょう。それについては?」
「それなら、巣穴が無ければおかしいが村の人たちの情報と合わせて広野を見渡しても森に林に洞窟、遺跡も……ゴブリンが巣穴に出来る物はこのあたりには無い」
「ふむ、良いでしょう。なら敵は渡り、と、それで?」
「足跡を追って、ゴブリンを目撃次第退治する」
「……ふむ、単独行が力押しでどうこうなるとも思いませんから、納得ですが何処でそうした技を?」
「手ほどきは姉さんから……父が猟師だったが俺が物心つく前にいなくなった」
「そうでしたか」
「ああ、一応臨時で一党を組んだ時は斥候を担当している」
「でしょうね、貴方は確かに野伏や斥候が向いている」
「俺もそう意識している。個人的なこだわりで言えば戦士でありたいとは思っているが」
そんな話をしながら、ゴブリンスレイヤーはゴブリンの足跡を辿って行き……そうして、岩陰に隠れて寝入っているゴブリンを四体発見した。
「今から接近して殺していく。しくじった時のフォローを頼みたいから準備しておいてくれ」
「分かりました」
査察官にバックアップを頼みながら……。
「≪
≪
「ふっ!!」
「……」
寝入っているゴブリン四体、それぞれの首をナイフにて深々と切り裂いていく事で全滅させた。
その後、術が切れると……。
「これを見て欲しい」
「ゴブリンとは別の足跡ですね」
念のため、周囲を改めて探っていたゴブリンスレイヤーはゴブリンとは別の足跡を見つける。
「多分、悪魔犬のものだ」
「でしょうね……
「知っているし、見た事がある。俺の師匠である魔術師が怪物辞典の改訂を引き受けていてな。ゴブリンの研究のために協力した。その時、ゴブリン達が狼を飼っていたし、鞍も発見したからこっちは実際に見てないが、騎乗もしているようだ」
「ふむ……ただ、渡りが飼っているものではありませんね」
「たった四体で飼えるものでは無いだろうし、足跡からして遠ざかっているから、別の群れのものなのは間違いないだろう……全て、俺次第と言ったな?」
「ええ」
「開拓村の依頼は終了になるが……巡り巡って別の群れが依頼した村を襲うなんて事は避けたいし、その別の群れが大きな巣穴を作っていて、その周囲の村を滅ぼすなんて事になるのも避けたい。だから、このまま足跡を追う」
「……分かりました」
こうして、渡りのゴブリンとは別のゴブリンの群れに繋がる悪魔犬の足跡の追跡をゴブリンスレイヤーはしていき……。
「ひとまず、休憩する」
「はい」
途中で食事や水分補給、少しの仮眠と言った休憩をして、少しすると追跡を再開。
夜になってくると一旦、追跡を切り上げて野営を始めるのであった。
「流石に単独でやっているだけはありますね、少年。焚火も調理も野営も手馴れている」
「どうも」
「しかし、見張りについてはどうにもなりませんよね?」
「まぁ、その辺も仮眠を挟んだりとか色々試行錯誤中だ」
ゴブリンスレイヤーは査察官の鋭い視線と指摘に参ったとばかりに苦笑しつつ、答えを返す。
「結局のところ、一党を組んだ方が良いですよ少年。貴方は優秀すぎる程に優秀な斥候だ。ただでさえ、冒険者の中では斥候は不足していますから……」
「助言、ありがとう」
「それと正直、貴方はゴブリン退治をするよりもっと厄介な怪物と戦う方が良い。ただでさえ、ゴブリンより厄介な怪物はこの四方世界には溢れているのですから……」
「分かっているが、ゴブリンだって厄介な怪物ではあるからな。他の怪物と繋がっていたり、この前は邪教集団の手先になってもいた……それに運が良くて、俺の村とそこに住む人たちがゴブリンの餌食にならずに済んだが、だからこそ、村を襲おうとしているゴブリンを放っておきたくないんだよ。世界を救うなら、村を救えないとな」
「考え自体は理解できますが……」
「色々と冒険者として、善処はさせてもらう。それしか言えないし、やれないが」
そんな会話をしながら、ゴブリンスレイヤーと査察官は野営にて長い夜を過ごしていくのであった……。