『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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二十八話

 

 ゴブリンスレイヤーは自分の昇級審査も兼ねたゴブリン退治の依頼へと査察官を連れて挑んでいた。

 

 依頼された退治の対象であるゴブリンの群れ(四体程であったが……)は『渡り』という巣穴を失ったか、追い出されたかでうろついているだけとあって、今回もそうだが、痩せて飢えているのが大半だ。

 

 しかも寝入っていたので難なく始末した。だが、周辺を探ってみると悪魔犬の足跡を発見した。

 

 別の場所を巣穴としているゴブリンが悪魔犬に騎乗して、この渡りに接触したのだろうとゴブリンスレイヤーは推測をした。そして、悪魔犬を飼えて騎乗するという手間をかけられるという事はそれだけの余裕があるという事。

 

 他のゴブリンの群れを収集しているのなら、かなりの群れがどこかで巣穴を作っているとも判断した。

 

 そしてゴブリンが巣穴を作る以上、その周辺には村があるのが基本である。

 

 それは当然、侵略する事で食べ物や家畜、道具を奪い、人間を殺しつつもある程度の人間は食料や孕み袋など嗜虐に欲望を満たすための人間を攫って行く。

 

 

 

 知ってしまったのだから、放置は出来ないとあってゴブリンスレイヤーは悪魔犬の足跡を追跡し、夜になっていったので野営をする事になった。

 

 そうして、仮眠を挟みながらも周囲の警戒をしていたゴブリンスレイヤーは……。

 

 

 

「(見事なものだ)」

 

 少し離れた場所で黎明の薄明りの下、査察官が鍛え抜かれた肢体に薄衣だけを纏って手足による鋭く流麗にして、直撃した者は瞬く間に打ち砕かれる事を伺わせる戦舞を舞っているのをゴブリンスレイヤーは観察していた。

 

 武器を使おうとも徒手空拳であろうとも、『武の技』というのは結局のところは身体の使い方が主軸だ。

 

 武器を使うなら、どう武器を持って手足を振るうか、徒手空拳ならば手足をどう繰り出すかなどやはり、体の使い方が要求されていく。

 

 だからこそ、達人の技を観察し学ぶのは無駄にはならないし、むしろ役立つ。

 

 故に少しでも学ぼうとゴブリンスレイヤーは査察官の戦舞を目に焼き付けていくのだ。

 

 

 

 

「すぅ……」

 

 次の瞬間、査察官は動きを止めながら拳を構える。それだけでまるで百余年は前からそこにいる自然さを体現する。そうして、完璧な曲線を描いた胸元が緩やかに上下し、全身の筋骨が柔らかな女肉を盛り上げる。

 

「しっ!!」

 

 その足がゆらりと動けば、地を踏み、前へ転げるようにして自然な一歩……弓の弦が弾かれるように緩められていた腕が撓って拳が空を打ち、音が弾けた。

 

「ふ、ぅ――」

 

 百歩先の梢がはらりと揺らすと査察官は息を吐く。頬は淡く上気し、呼気は白く煙になった。彼女はその腕で乱雑に頬と額に滲んだ汗を拭った。

 

 自分の技に満足はしてはいないようだった。そして、彼女の前髪が拭う過程で流れ、髪の隙間から普段は覆い隠されている右目が露わになってゴブリンスレイヤーと視線が合う。

 

 彼女の右目周辺の肌は酷く縮れていて、瞳も白んでいた。おそらく、焼かれているのだろう。

 

「見事だった……人間、手足の武闘でも極めればああいう事が出来るんだな」

 

「……井の中の星を打つように百歩先、あまねく虚空を打つ。曰く――井拳功。百歩神拳とも言いますが……今も別に実戦で扱えるわけでもありません」

 

 査察官はゴブリンスレイヤーに対し、応じながら布を拾い、披露するような仕草で汗を拭きとる。そして完璧な仕草で近くの枝に引っ掛けていたシャツを取って肩にかける。

 

「俺からすれば、十分に扱えているとしか思えない」

 

「ふふ、出来ると思って自意識過剰になった小娘の未熟が招いた結果がこれです……そして、仲間がいなければこれではすまなかった」

 

 手早く服を着ながら言いつつ、ゴブリンスレイヤーに対しまた覆い隠された右目を見せる。

 

「少年、何度も言いますが冒険者をするならば一党を組みなさい。単身ではそのうち、限界が必ず来ます」

 

「……箴言として胸には刻んでおく」

 

 査察官としての完璧な服装となりながらの言葉にゴブリンスレイヤーは言い、そうして朝食を取る事となった。

 

「≪死の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)≫はどんなところだった? 」

 

 査察官へゴブリンスレイヤーは王都の北にあり、最奥には魔神王がいたとされる迷宮について質問をした。

 

 五年前、当時は名の知られていなかった六人の冒険者が魔神王を討ち取っており、それによって冒険者全体の名も上がっている。こうした武勇伝も又、冒険者になろうとする者達を増やしている要因でさえある。

 

「それに答える前に……少年、どうして、私が≪死の迷宮≫に入った事があると思いましたか?」

 

 どこか楽しむように査察官は質問を返した。

 

「さっきの武闘の技量やいつでも有事に取り掛かれるような佇まい……それは激戦を何度も経験していなきゃ身につかないからな。消去法だ」

 

「……お見事。私は最奥まではいけませんでしたが、そうですね……」

 

 ゴブリンスレイヤーの答えに納得すると過去を振り返りつつ、死の迷宮について話始め……。

 

 

 

 

「……貴女は冒険者に戻りたいんだな」

 

 過去を振り返る査察官の様子がとても誇らし気で楽しそうであったからゴブリンスレイヤーは言う。

 

「っ、ふふ、まさか……もう私は引退した身ですよ」

 

「再起に向けて準備していると感じたよ……良い話をありがとう。そろそろ、追跡を再開しよう」

 

「ええ」

 

 朝食を終えつつ、少し話をしたゴブリンスレイヤーは追跡をする事を告げて査察官は応じる。

 

 そうして、悪魔犬の足跡とそれに交じるゴブリンの足跡を追跡していけば……。

 

 

 

 

「やっぱり、村があったか」

 

 ゴブリンスレイヤーはありふれた様子の小さな村――自分が住んでいた村と良く似ている雰囲気の村を見つけた。しかし、依頼を出されたわけでも無いのにまだまだ駆け出しの黒曜程度の冒険者が声をかければ警戒される可能性が高い。

 

 ただのごろつきと大差ないからだ。

 

「村人への対応を頼みたい」

 

「結構……騎士貴族出身の者や神官は等級に依らず、信用されやすいですから頼るのは手ですよ」

 

 査察官は頷くと「お忙しい所、大変申し訳ありません。少しお尋ねしたいのですが……」と交流しやすい態度でもって野良仕事中の村人へと接し……。

 

「それでどうするつもりですか?」

 

「ゴブリン退治の依頼を出してもらう……その方がギルドとしても良いんだろう?」

 

「……その、臨機応変な対応力は驚嘆に値しますよ、少年」

 

「色々と考えているだけだ。最善の手を……」

 

 査察官に答えると査察官は驚愕を込めた言葉で返す。そうして、村の長の元へと行くと……。

 

 

 

 

「ああ、ゴブリンの群れが近くに巣穴を作っている事は知っているよ」

 

 村の長にして成人の少し上くらいの男性で細身だが筋骨逞しいのが垣間見れる肉体を有している彼はゴブリンスレイヤー達にそう答えた。

 

 因みに足を怪我しているのか立っている時は杖を突いているし、座る椅子は安楽椅子だ。なんでも膝に矢を受けてしまったとの事、戦において武勲を上げたので恩賞として村の長という立場を得たそうだ。

 

 そして、彼には細君もいて彼の補佐をしながら、ゴブリンスレイヤー達の話を進めていく。

 

 村が目撃したゴブリンの数からして十匹くらい、巣穴は村の近くの森の奥……鍾乳洞であるとの事だ。

 

 

 

 

「村の中じゃ、銀貨はそうそう使わないんだがなぁ……」

 

「だとしても規則ですから、こればかりは……」

 

  話は進み、村長はゴブリン退治の依頼書を用意していく。

 

「ところで一つ、聞いても良いかい?」

 

「なんだ」

 

「なんでしょう?」

 

「どうしたって、冒険者ギルドの職員と冒険者が二人で小鬼退治に?」

 

 村長がゴブリンスレイヤーと査察官に対し、質問をすると……。

 

『昇級の審査』

 

 そう答えを返せば、村長は当然、何とも言えず戸惑うばかりであった……。

 

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