『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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三十二話

 

 辺境の西の街にある冒険者ギルドは様々な種族の冒険者、その冒険者に依頼を出す依頼人、そうした者達に対応する受付嬢など常に賑やかだ。

 

 そんな冒険者ギルドの入り口で……。

 

「すぐに行かなきゃなんねぇんだよっ!!」

 

 重戦士が凄く焦った様子で冒険者ギルドを飛び出そうとしている。それは彼の故郷である村周辺にある鍾乳洞をゴブリンの群れが巣穴にしていると彼の村が『ゴブリン退治』の依頼を出したからだ。

 

 重戦士は冒険者になる前は友人と共に傭兵をやっていたのだが、その友人は戦中に足を怪我した事でとても傭兵としてはやっていけない状態になってしまった。

 

 その友人は村長となり、重戦士が密かに想いを抱いていた女性と結婚した。

 

 そういう事もあって、重戦士は傭兵から冒険者へと転身したのである。

 

 しかし、そんな彼の村がゴブリンの群れに襲われようという……村の人々は勿論、村長である友人は妻とこれから、子供も生まれて幸せな日々を過ごしていくのだ。

 

 それを奪おうというゴブリンを重戦士は当然、放っておくことは出来なかった。

 

 しかし……。

 

 

 

「行くってお前……そんな消耗した状態じゃ無理だ!!」

 

「そうだぜ、あんなに大変だったのに……」

 

「今の状態じゃ、ゴブリンにだって負けます」

 

「ただでさえ、この依頼のゴブリンはかなりの規模のようですし……」

 

 重戦士の一党は大仕事を果たしたばかりで消耗しきっている。そんな状態なのに頭目たる重戦士が飛び出そうというのだから、女騎士も少年斥候も少女巫術師も半森人の軽剣士も必死で止める。

 

「俺の村だ、俺が助けないでどうするってんだよっ!!」

 

 しかして重戦士は当然、引かない。

 

「(こんな時にあいつがいてくれたら……)」

 

 重戦士を必死に手で押さえて止めている女騎士はゴブリンスレイヤーがいてくれれば、何とかしてくれるのにと思う。

 

 

 

 そして……。

 

「なんと言われようが、俺は行く。一党を解散してでも俺は村に出たゴブリンを「そのゴブリンが出た村とは……の村か?」っ!?」

 

 言い争いをしている間に入ってきたゴブリンスレイヤーが重戦士に問いかけ、重戦士は自分の村の名であったために驚愕する。

 

「確認だが、その村の村長は昔、戦に出た時に負傷して杖無しでは歩けなくなっていて、そんな村長を細君が支えている。そして細君は身籠っている……どうだ?」

 

「……ああ……ああ……そうだ……じゃあ、ゴブリンは……」

 

「俺はゴブリンスレイヤーだぞ」

 

「っ、感謝する」

 

 安堵や感謝など様々な感情を抱きながら、重戦士は自分の問いに頷き、言うゴブリンスレイヤーに深く頭を下げて感謝を示した。

 

「どういたしまして……ただ、この借りはでかいぞ」

 

「分かっている。しっかりと返させてもらうさ……時間をいくらかけてもな」

 

「ああ、私達でな」

 

「ゴブリンスレイヤーの兄ちゃんのお陰で助かったよ」

 

「本当に……良かった。ありがとうございます、ゴブリンスレイヤーさん」

 

「私からも感謝を」

 

 重戦士と頭目を失わず、一党も解散しないで済んだ女騎士と少年斥候、少女巫術師に半森人の軽剣士はそれぞれ、ゴブリンスレイヤーに感謝を示す。

 

 重戦士の一党にとって今日、ゴブリンスレイヤーは大恩人になったのである。

 

 

「詳しい話が聞きたいなら、後で酒場に来い」

 

 ゴブリンスレイヤーは一党の感謝に応じながら、三つ編みの受付嬢の元へと足を進め……。

 

 「あ、ゴブリンスレイヤーさん!!」

 

 三つ編みの受付嬢はゴブリンスレイヤーに笑顔を浮かべる。

 

「依頼も審査も終わった。査察官はそのまま、都へ戻ると言って別れたよ」

 

「……そうですか」

 

 ゴブリンスレイヤーからの言葉に受付嬢は自分を教育してくれた先輩である査察官が一言も言わずに都に帰った事は寂しいし、残念だがしかし、査察官らしいとも思った。

 

「それで審査の方は?」

 

「これを渡せと言われている」

 

 ゴブリンスレイヤーは雑嚢から封書を渡し、「拝見します」と受付嬢は引き出しから取り出したペーパーナイフで封を剥がすようにして開封。折りたたまれた羊皮紙を取り出すと最初から最後までじっくりと読み、もう一度見落としが無いように読み……。

 

「おめでとうございます」

 

「という事は、審査は合格か?」

 

「はい。まだ正式に決定ではありませんが……審査は無事に終わりましたので、昇級は決まると思います」

 

「なら、良かった……じゃあ、次は依頼についての報告だ。実は受けた依頼は二つになったんだよ。だから、長い報告になるぞ」

 

「分かりました。少しお待ちください」

 

 こうして、ゴブリンスレイヤーは受付嬢に監査官との昇級審査であり、二人の一党による冒険でもあったその全てを話したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブリンスレイヤーは報告を終えると重戦士の一党と共に酒場へと行き……。

 

『乾杯!!』

 

 互いの冒険の成功、そしてゴブリンスレイヤーの昇級が決まった事も兼ねて宴をした。

 

「よりにもよって、ゴブリンロードとゴブリンに悪魔犬の大群が俺の村を襲おうとしていただと……本当に危ないところだったな」

 

「まったくだ。お前は消耗した状態で飛び込もうとしていたんだぞ」

 

「うぅ……ゴブリンの大群ってだけで考える気も失せる」

 

「そんな群れを相手にするのはとても大変でしたでしょう……流石ですね」

 

「改めて感謝を……」

 

 ゴブリンスレイヤーから自分の村を襲おうとしたゴブリンの話を聞いた重戦士たちはそれぞれ、苦い顔をしながらも再度、ゴブリンスレイヤーに感謝を示していく。

 

「どういたしまして、じゃあ次はお前たちの冒険だ」

 

 ゴブリンスレイヤーは重戦士たちの感謝に応じる。そうして、重戦士たちの冒険の話を聞いたりして楽しい宴の時間を過ごす。

 

「おお、帰ってきてるって事は審査終わったんだな。どうだった?」

 

 冒険から帰ってきたばかりという様子で若い戦士とその一党が酒場に入り、若い戦士はゴブリンスレイヤーの姿を見ると問いかける。

 

「合格したよ。昇級も決まるだろうとの事だ」

 

「そうか、それはおめでとう!」

 

「ありがとう」

 

 結果を伝えると若い戦士は喜び、そうして握手を交わした。

 

「しかし、随分と大変な冒険をしたようだな」

 

 若い戦士たちの一党が重戦士の一党と同じかそれ以上に疲れ切っていて、ぼろぼろな様子だったので聞いてみると……。

 

「ああ、大変だったよ」

 

 そうして、自分たちは最近、連続して起きていた地震の調査をした事を言い、すると領民や自分の妻子を皆殺しにした邪悪な暴君が治めていたが、そのために地下に封印されて廃都と化したそれを見つけた事。

 

 先に金等級のバーバリアンだろう戦士が探索していて協力した事。

 

 闇人の集団が廃都を儀式場にして魔神王を復活させようとした事。

 

 失敗して死人の王と化した暴君に、そして彼に殺された者達が死者の軍勢に覚醒して襲い掛かってきた事。

 

 途中で独自に闇人の集団の行方を追っていた鉱人の盾砕きが参戦し、皆で協力して戦った事。

 

 最終的には恐らく闇人の集団の拠点に保有されていた『()()()()』でも爆発したのだろう突如発生した大衝撃によって、地下の天蓋が崩れた事で死人の群れは潰れ、若い戦士達は脱出の機会を得られた事。

 

 その最中に上手く、死人の王の隙を衝いて武闘家の少女が致命的な攻撃を炸裂させて倒した事などを告げた。

 

「中々の大冒険だったようじゃないか」

 

「ああ、命懸けだったけど悪くない冒険だった……な、皆?」

 

 若い戦士の声に半森人の野伏の少女に鉱人の戦士に知識神の僧侶、武闘家の少女に犬人の魔術師に鉱人の斥候に森人の僧侶ら七人が頷いた。

 

 

 

「(そういう事だったのか……)」

 

 ゴブリンスレイヤーは若い戦士の話からゴブリンロードは若い戦士が辿り着いた地下の廃都で魔神王を復活させようとした闇人の集団と繋がっていて、更に闇人の集団はゴブリン達に火の秘薬を守らせていたのだと理解した。

 

 因みにゴブリンスレイヤーは重戦士の一党にゴブリンの話はしたものの、どう退治したかは詳しく話してはいない。同じように若い戦士の一党にも今回対決したゴブリンの事は話したが、闇人が保有していた複数の木箱分の火の秘薬を爆発させて巣穴を潰した事は詳しく言わなかった。

 

 全ての事態を予め知る事は誰にだって無理ではあるし、余計な事まで考えていたら、自分の冒険において最適な一手を選び、実行する事は出来ない。

 

 今回は若い戦士達に窮地を切り抜ける絶好の機会を与える事が出来たようだが、何か間違っていれば危うく地下に埋める事になっていた事などとても言う事は出来なかった。

 

 

 

『乾杯』

 

 それはそれ、これはこれとして若い戦士の一党ともゴブリンスレイヤーは互いの冒険を讃え合う宴を楽しんだのであった……。

 

 

 

 

 

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