『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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三十五話

 

 

 ゴブリン退治の依頼は基本、定型的(テンプレート)である。

 

 村の近くにゴブリンが出現し、作物や家畜に手を出したので追い返した。巣穴を突き止めたが、村の若い者がちょっかいを出す前に退治したいというもの……ゴブリンの巣穴は基本、村の近くの村の中にある洞窟である事が多い。

 

 偶に廃遺跡、砦に古城といったものもあれば、廃れた小屋などといった物もあるが……。

 

そして、村の薬草摘みの娘や猟師の娘がゴブリンに攫われたりなどという事もある。

 

ゴブリンは村人にとっては脅威だ。だが、村での依頼であるために報酬は少ない。

 

ゴブリンはゴブリンなりに巣穴で罠を張っているし、数も多い。洞窟を巣穴にしているなら、暗所で閉所と行動を多少なりとも制限される場所で戦わなければならないと面倒だ。

 

 更に時折、悪魔犬など他の怪物を利用している事もあればシャーマンにホブ、チャンピオンにロードと変異種がいる場合もある。

 

それを退治してもゴブリンはゴブリンだからと報酬に上乗せされる事も無いのでそうした事から初心者の冒険者はともかく、熟練の冒険者からは避けられる事が多いのだ。

 

 

 しかし、一人の冒険者は初心者から中級の域へと至ろうという『鋼鉄』等級でありながら、基本、『ゴブリン退治』を優先して行う者がいた。

 

「ふっ!!」

 

「GROBB!?」

 

石に瓦礫を投擲する事で見張りを交代中のゴブリンへ奇襲し、そのまま短剣と盾を用いての白兵戦で機先を制しながら全滅させると巣穴へと進入。

 

洞窟の壁の強度やゴブリンが用意しているかもしれない奇襲用の穴、全体の状況を調べながらゆっくりと行動し……。

 

「しっ!!」

 

「GBR!?」

 

 縄と楔に杭などで罠を仕掛けつつ、ゴブリンを誘き寄せる事で罠に嵌めて殺していく。

 

 あるいはゴブリンが固まっていれば、催涙弾を投げて行動不能にしてから攻撃をし、洞窟が入り組む程に広ければ、硫黄と松脂を練り合わせて固めた物を火で炙る事で投擲し、その固めた物から出る重く沈む毒煙で殺す。

 

更に……。

 

 

「≪ペルフェクティ(完全)……プラキドゥム(沈黙)……ドヌームン(命令)≫」

 

『!!』

 

 周囲の物音や発声を≪沈黙≫の術で封じながら、行動する事で自分の動きを感じさせずに接近し、攻撃。薄い壁を破壊する事でゴブリンが良く使う壁抜きをする事で機先を制していくなどこの冒険者はこの術をゴブリン退治において良く愛用していた。

 

それだけ、応用性があって使いやすいからだ。

 

 

 

 

「≪ソムヌス(睡眠)……ネブラ()……オリエンス(発生)≫」

 

『GO?……』

 

 更に吸えば眠りへと誘う霧を発生させる≪惰眠≫の術も人質ごと眠らせる事が出来るし、やはりゴブリンの行動を封じれるので冒険者はこれも愛用していた。

 

 

 

「≪ホラ()……セメル(一時)……シレント(停滞)≫」

 

『!?』

 

 時間の流れを遅滞させる事で周囲の動きを遅滞させていく、その影響によって攻めかかったゴブリンの群れの動きも遅滞。

 

停滞(スロウ)≫の術も相手の機動力を奪い、機先を制する事が出来るのでやはり、愛用。

 

他にも……。

 

「≪アラーネア(蜘蛛)……ファキオ(生成)……リガートゥル(束縛)≫」

 

「GROBB!?」

 

 蜘蛛の糸を地面や洞窟内の穴の出入り口に張り巡らせ、ゴブリンをその粘着力で束縛して動きを封じる事で一方的に始末する。

 

そうした≪粘糸(スパイダーウェブ)≫の術に……。

 

 

 

 「≪オレウム()……マレ()……ファキオ(生成)≫」

 

『GOB!?』

 

 地面に油の海を流れさせ、ゴブリン達の足を滑らせて地面に倒れさせる。

 

潤滑(グリース)≫の術を使い、そうした油まみれになっているゴブリンへ松明の火を放つ事で焼き殺す。

 

基本、その冒険者は魔法でしかできない事を用いて常に状況を有利にしながら、戦う事を好んでいるのだ。

 

無論、別に攻撃魔法が使えない訳では無く……。

 

「≪サジタ()……ケルタ(必中)……ラディウス(射出)≫」

 

 狙った相手に対し、必殺必中の性能を有する力場の矢である ≪力矢(マジックミサイル)≫の術を使う事で無駄無く、標的を射殺していく。

 

誤射や回避される事も無いのでこの冒険者は攻撃魔法としては≪力矢(マジックミサイル)≫を好んで使っている。

 

ともかく、一人の冒険者はゴブリンに対して手段は選ばず、少しでも徹底的に、効率的にそして、一方的に殺すやり方を試行錯誤しながら、使っていた。

 

他の者が見れば、ゴブリンに対しここまでする事は無いというだろう。しかし……。

 

「奴らは人の何もかもを踏み躙っていく。なら、こっちも踏み躙るまでだ」

 

 彼はゴブリンの悪意に対抗するために同じようにゴブリンに対し、悪意を振るっているだけ。

 

少しでも完全に自己中なゴブリンに恐怖、苦しみ、絶望を与えて断末魔の叫びを上げさせながら殺すために……。

 

何故なら、彼こそ……。

 

「俺は()()()()()()()()()だからな」

 

 小鬼を殺す者なのだから……。

 

 

 今日も又、村の近くの洞窟を巣穴にしていたゴブリン退治をしにいったゴブリンスレイヤー……。

 

「ホブ含めて十体か……いつもこんなに楽だと良いんだがな」

 

 四体を自分の存在に接近を悟らせずに殺して奥へ侵入、そうして松明を投げ込みながら部屋の様子を把握しつつ、今回のゴブリン達の主であったホブへ長剣を投擲する事による狙撃にて屠り、後は短剣にて動揺するゴブリン達を切り刻み、刺し貫いた。

 

数を確認すると巣穴から出て、戻ってくるゴブリンがいないかの確認のために近くに野営する事を決めると薪を集めようと月明かりに照らされる夜の森の中を歩き……。

 

「(これは……強いな)」

 

 自分へと近づく大きな足跡、漂う殺気を経験によって磨かれた勘働きで感知するとゴブリンスレイヤーは自然体で立ちながら、左腕に括りつけた丸盾を取り外しつつ、深呼吸。

 

それは査察官から学んだ集中とそれによる全力発揮のやりかたであった。

 

 そして……。

 

「OWWWWWLLLL!!」

 

森の影から姿を現したのは闇の中、爛々と獲物を求めて燃え上がる瞳をもつ梟の頭に筋骨隆々とした恐るべき大きさの熊の体を持つ梟熊(オウルベア)ともいうべき  合成獣(キマイラ)であった。

 

「はああっ!!」

 

 ゴブリンスレイヤーはオウルベアが出現したと同時に全力を解放しながら盾を投擲。尋常ならざる勢いと共に壮絶な回転を伴うその盾はオウルベアの首に炸裂すると同時に抉って千切るようにして無理やり切断したのであった。

 

 そうして回転力と勢いを失った盾は地面に落下、同じく首を失ったオウルベアの身体も地面に力無く倒れていった。

 

「ははは……とんでもない光景を見てしまったぞ。よもや、盾で首を刎ねるとは……」

 

 ゴブリンスレイヤーが盾を回収しようとするとその美麗な顔で呆気に取られた表情を浮かべている青く長い髪を後ろに結い、尖った耳、背には鞘に納めた広刃の剣を背負っている森人剣士がそう、呟きを発したのであった……。

 

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