『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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三十七話

 

 微睡みの中で感じるはいつまでも浸っていたい温もりに感触の良い柔らかさ、そして心地の良い香り……気を抜けば、また眠りに落ちてしまいそうになるほどである。

 

「(そういう訳にもいかないけどな)」

 

 昨日、幼馴染である牛飼娘と『女の子一人じゃ心細いし、不安だから』という名目の元、彼女と抱き合いながら眠りについたゴブリンスレイヤーは意識を覚醒させていった。

 

 そうして、牛飼娘を起こさないように離れようとすれば……。

 

「んんぅー」

 

 目を瞑った状態ながら逃さないとばかりにゴブリンスレイヤーを牛飼娘は抱き締め始めた。

 

「いや、眠っている状態でこんな力強く出来るかよ。ほら、無事に寝る事が出来たなら離してくれ」

 

 明らかに起床しているなとゴブリンスレイヤーは確信する。

 

 そもそもゴブリンスレイヤーは冒険者として早起きであるし、牛飼娘も牧場の仕事があるため、早起きである。

 

「んんぅ、眠いー」

 

 牛飼娘はゴブリンスレイヤーの言葉に応じない。

 

「そっちがその気なら、悪戯しちまうぞ?」

 

「すー……」

 

 再度、ゴブリンスレイヤーは牛飼娘に告げたが、そんな事しないとで思っているようで牛飼娘は取り合わない。

 

「良し、じゃあ悪戯するからな」

 

「んひゃっ!? ひゃははは、や、止めてぇぇ」

 

 そもそもこれまで鍛えてきているし、ゴブリンが主だが他にもゴブリンより厄介な怪物たちや邪教集団、盗賊たちと戦い、倒してきたゴブリンスレイヤーと牛飼娘には力の差があり過ぎる。

 

 あっさり牛飼娘の抱擁を振り払うと次の瞬間、擽って牛飼娘を悶えさせる。もっとも、すぐに擽りは止めたが……。

 

 

 

「はぁ、はぁ、もう酷いよ……いたいけな女の子に悪戯するなんて」

 

「警告はしたのに聞かなかったからだ。そろそろお前の伯父さんが帰ってくるだろうし、こんなところ見られたら俺は殺されるだろうしなぁ」

 

「だからって……ん!?」

 

 不満げな牛飼娘だが、次の瞬間、ゴブリンスレイヤーは彼女へと深く口づけする。

 

「正直、あれ以上は悪戯どころか襲っちまいそうになるところだったんだよ。それぐらい、お前は俺にとって魅力的だ」

 

「も、もうそんな事言って……ぅぅ……」

 

 ゴブリンスレイヤーが見つめながら言えば、牛飼娘は顔を赤く染めながら視線を逸らしつつ、言う。しかし、どこか嬉しそうである。

 

 

 

「俺は伯父さんを出迎えに行く……それとお前のお陰で気持ち良く眠れたよ。ありがとうな」

 

「ん……私も安心して眠れたよ、ありがとう」

 

 軽く口づけし合いながら、二人は笑い合ったのだった。

 

 そうして、まだ日がそう出ていない時分であり、うっすらと白い靄が漂っている牧場の外をゴブリンスレイヤーは歩き……。

 

「お、近づいてきているか?」

 

 車輪の音が少し離れた所から聞こえたので牧場主が帰ってきたのだと認識しつつ……。

 

「伯父さーん」

 

「おお、出迎えに来てくれたのか? すまないな」

 

 そう牧場主の声による返答があり……。

 

「やぁ、おはよう。牧場と聞いた時にまさかとは思ったが……凄い巡り合わせだな」

 

「そ、そうだな……おはよう」

 

 ゴブリン退治を終えて別に巣穴へと戻ろうとするゴブリンがいないかの監視をしようと出会った森人剣士がいた。なんと街道にオウルベアが出て、牧場主を襲おうとしたのを助けたのだという。

 

 彼女は彼女で怪物の首や爪、皮などの戦利品を運ぶ手段が無かったので荷車を引く牧場主の存在は助かったという。

 

「俺にとって大切な身内を助けてくれた事、感謝する。俺は斥候の技能に自信があるし、魔術は六回使える。助けが欲しいなら、呼んでくれ。必ず力にならせてもらう」

 

「……魔術を六回も……そうか、ならその時は遠慮なく力になってもらうとするよ」

 

「ああ」

 

 牧場主の命を助けてもらった恩人であり、そもそも自分がやるべき事をしてもらった借りも含めて森人剣士の力になる事をゴブリンスレイヤーは誓い、森人剣士は考えながら、ゴブリンスレイヤーに告げる。

 

 

 

 そうして、彼女は颯爽と立ち去って行った。

 

「手伝います」

 

「あ、ああ」

 

 ゴブリンスレイヤーはその後、牧場主が荷車を引くのを手伝い始め……。

 

「本当に無事で良かったです……言ってくれれば、いつでも護衛はしますので」

 

「備えはしていたんだ……私も歳だな」

 

 腰に帯剣している鞘に納めた剣を触りながら牧場主は呟く。

 

「これでも五年前よりはマシなんだ。ずっとずっとな」

 

「そうですね」

 

 そんな話をしながら、二人は牧場へと向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺境の街へと牛飼娘と共に向かい、配達の仕事を手伝い終えると冒険者ギルドに向かったゴブリンスレイヤー。

 

「ん……おお、それは魔法の武器か?」

 

「へっ、やっぱり分かるか……ああ、魔槍だよ。遺跡での出物がありゃあ良かったけどな。これで俺はもう駆け出しとは呼ばれねぇ」

 

 待合室の扉をくぐると槍使いに出会った。そして、彼が担いだ燐光を纏う槍の穂先を見て、魔法の武器だと察し尋ねれば槍使いはご機嫌で応じた。

 

「その等級で駆け出しなんて呼ばれはしないと思うけどな。昇級おめでとう。あんたもな」

 

「おう」

 

「ありが、と……」

 

 槍使いと魔女の首元にある認識票を見て昇級したのを把握し、祝いの言葉をかければどっちも喜びで応じる。

 

「ただ、その穂先……どっちかというと剣に見えるな」

 

「本当に良い目をしてるな。元は剣だったのを槍の穂に親方が仕立てたんだってよ」

 

「成程……ともかく、良かったな。冒険者として羨ましいよ」

 

 魔法の武器は冒険者ならば、誰もが手に入れて使いたいと思う代物である。無論、ゴブリンスレイヤーだって例外では無い。

 

 優れた装備があればあるほど、それだけ窮地や困難を突破できる可能性は高くなるのだから……。

 

「お前だって、そのうち手に入るさ」

 

「ありがとよ……で、今から二人で冒険(デート)か?」

 

「ああ、金羊毛の皮を探しに行くんだ。都のお大臣からの依頼でな」

 

「そうか、楽しい冒険になる事を願っておく。それと気をつけてな」

 

「ああ、そっちもな」

 

「また、ね」

 

 激励し合いながらゴブリンスレイヤーは冒険へと向かう槍使いと魔女を見送った。

 

 

 

 

 そうして……。

 

「おはよう。しっかりと昨日は休んできたよ」

 

「おはようございます、ゴブリンスレイヤーさん。冒険者は休むのも仕事のうちですからね……」

 

 挨拶を交わすゴブリンスレイヤーと受付嬢は共に笑顔であった。

 

 

 

 

「ああ、という訳で今回もゴブリン退治をしようと思う」

 

「じゃあ、ちょっと見てみますね」

 

「頼む」

 

「任せてください」

 

 三つ編みの受付嬢とそうしたやり取りをしながら、ゴブリンスレイヤーはゴブリン退治の依頼を受ける。

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「はい、気をつけて」

 

 そうして、依頼をこなしに向かうため冒険者ギルドを出発し始め、その背に受付嬢は見送りの声をかけたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのゴブリン退治の依頼は定型的である。近隣の村近くでゴブリンが出現し、野菜を盗んだ。

 

 このままいけば娘を襲い、人を襲うのでその前に対処するため村はゴブリン退治の依頼を出したのである。

 

 そうして村人が突き止めたゴブリンの巣穴となっている天然岩の洞窟へとゴブリンスレイヤーは向かい……。

 

「まさか、遺跡に繋がっているなんてな」

 

 彼が言うように洞窟はそのまま、遺跡と繋がっていた。ゴブリンスレイヤーは更に遺跡に仕掛けられているかもしれない罠などあらゆる全てを警戒しながら、ゴブリンを倒していく。

 

 そうして……。

 

 

 

「ふっ!!」

 

「GOB!!」

 

遺跡内を移動していると右の曲がり角からゴブリンが一体、飛び出して奇襲を仕掛けてきた。

 

 しかし、それをゴブリンスレイヤーは事前に感知していたため、右手に持っていた拳大の石をゴブリンの姿を見もせずに投擲し、それは炸裂すると共に飛び上がっていたゴブリンの頭部を粉砕しながら地面へと打ち堕とした。

 

「これは……」

 

 ゴブリンの死体を見ればゴブリンの手から、青白く燃える剣が落ちていた。魔法の剣である。

 

 遺跡を探索しに来た冒険者が罠にかかったかで死亡し、彼が持っていた魔法の剣をゴブリンが拾ったのであろう。

 

「ありがたく使わせてもらうとしよう……ん?」

 

 遠慮なくゴブリンスレイヤーは魔法の剣を拾い、そのまま遺跡の探索を続けるとゴブリンとは違う腐敗臭を嗅覚で感じ取り、足音も聴覚で捉える。

 

 なのでゴブリンとは違う脅威だと判断し、すぐさま物陰に潜んで様子を見る。

 

 

 

巨大な目玉の怪物(ビッグアイモンスター)か……ふっ!!」

 

 巨大な目に手足と口がついた怪物が移動しているのを見たと同時に逆手に持った魔法の剣を槍投げの要領で投擲する。

 

「NOTHIC!!」

 

魔法の剣は横から目玉の怪物を穿ち貫く事で死亡させた。

 

「……君は武器を投げるのが好きなのかな?」

 

 この状況に森人剣士がゴブリンスレイヤーへと問いかける。

 

 

 

「投擲は得意だからな……それに当てて倒せるなら、それが一番だろう」

 

「道理だな……それにしてもまた会うなんてね」

 

 ゴブリンスレイヤーは目玉の怪物に刺さった魔法の剣を抜きながら、森人剣士の問いに返答し、森人剣士は頷きながら微笑む。

 

 

 

「ああ、という訳で一緒に遺跡探索でもどうだ? 宝があれば分け前は七と三……勿論、そっちが七だ」

 

「そこは全部とは言わないのか……」

 

「最初から一緒に冒険してのそれじゃないからな」

 

 そんな会話を交わしながら、ゴブリンスレイヤーは斥候を務めつつ森人剣士と遺跡探索をする。そして、自分がゴブリン退治の依頼を受けてこの遺跡を探索する事になったのを言えば……。

 

「君はオルクボルグとでも名乗るつもりかい?」

 

 オルクボルグはエルフたちの言葉で小鬼を殺す者、つまりはゴブリンスレイヤーを意味する言葉である。

 

「ゴブリンスレイヤーとは呼ばれている」

 

「既にだったか……名乗るなら、もっと良い異名があるだろうに」

 

「これでもいろんな村からゴブリン退治で頼られているんだ。どんな形であれ、誰かの希望になっているなら、悪い事じゃ無いだろう?」

 

「……ふふ、本当に君は良い奴なんだな」

 

 森人剣士は改めてゴブリンスレイヤーを評価した。

 

 そうして、遺跡の最奥には辿り着くと宝箱があり、ゴブリンスレイヤーが開ける役割を務め、そうして宝箱を開ける。

 

「貴金属と鉱石か」

 

「随分と古いものだがな……」

 

 古い貴金属と鉱石が宝箱の中に大量に入っていた。それを森人剣士が七割、ゴブリンスレイヤーが三割という配分で分け合った。

 

「じゃあね、オルクボルグ」

 

「ああ、じゃあな」

 

 ゴブリンスレイヤーは退治したこの洞窟兼遺跡を巣穴として利用しているゴブリンの生き残りが戻ってこないかどうかなどの監視をするため、森人剣士とその場で別れたのであった……。

 

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