『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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四十一話

 

 

 嵐の影響で墨を垂れ流したような雨が降り注ぎ、雷電竜の咆哮も甲高く、稲光が時折、空を照らしている悪天候の中、ゴブリンスレイヤーは工房で頼んでいた魔法の剣の鞘と修繕し、金属で補強した革鎧を受け取った。

 

 今日、出来上がると昨日に聞いていたのでこの後、直ぐに冒険へと出かける武装や用意は出来ていた。

 

「出来はどうだ?」

 

「ああ、ばっちりだ。流石だな」

 

「結構な大仕事になったんだ。簡単に壊したりするんじゃねえぞ」

 

「それは冒険次第だな……勿論、出来る限り気をつけるが」

 

 工房の親方とそんなやり取りを交わすと次に依頼を受けるため、冒険者ギルドの待合室へと向かい……。

 

「実はその……冒険者さん達が戻ってこないという洞窟がありまして……」

 

「依頼内容としてはゴブリン退治だが……三組も冒険者の一党を送ってか。かなり、拙いな」

 

 受付嬢にゴブリン退治の依頼を聞いてみれば三組も冒険者の一党を送ったのにゴブリンを片付けられず、しかもその誰もが帰還していないという依頼があるのだという。

 

 異常という判断は確かに出来る。しかし、詳細な情報が無いために現状の報酬のままで喜んで引き受けてくれる高位等級の冒険者はおらず、しかし、報酬をギルドの金庫から持ち出して追加し、補填するには情報がやはり足りない。

 

 他のギルドの支部と連携して云々をするには現在、嵐より前に起こった土砂崩れによる街道の封鎖もまだ解けていない。

 

 冒険者ギルドとしては頭を抱える問題である。

 

「誰も帰って来ないから、何が起きているのかも分からない。斥候なら絶対、避けるべき問題でもある」

 

「はい、なのでゴブリン以外の不測事態があればすぐに引き返して……報告に戻ってくださいね。貴方が戻って来れないのが一番の問題ですから……」

 

「ああ、分かった。それじゃあ、行ってくる」

 

「はい、気をつけて……」

 

 こうして、ゴブリンスレイヤーはゴブリン退治の依頼を受け、受付嬢の見送りを受けるままに待合室を出る。

 

「ふふ、愛されているじゃあないかオルクボルグ」

 

「良い耳を悪用するなよ」

 

 外で待っていた森人剣士の揶揄い交じりの言葉にゴブリンスレイヤーは不機嫌になりながら、言いそうして二人の一党でゴブリン退治へと向かった。

 

 しかして、雨も風も激しい悪天候の中では移動するのは一苦労であった。整備された街道は元より、開拓村に続く横道ならば尚の事である。

 

「足捌きを極めるだけでそんな事も出来るんだな」

 

「ふふ、私だってまだまだだよ。だが、君ならすぐに出来るようになるさ」

 

 しかし、そんな悪天候でも雨に濡れた様子もなく、歩くときに水飛沫を上げる事すら無いままに森人剣士は移動しており、そんな森人剣士の足捌きを観察しながらゴブリンスレイヤーは模倣して移動する。

 

 多少は雨の中でスムーズに移動できるようになってきている。

 

「もう少し頑張れ、先ほど、風の精霊が囁いていた。この先に大樹があるらしい。休めるぞ」

 

「それは良かった」

 

 森人剣士の言う通り、移動を続けていると古く大きな大樹が聳え立っており、そこで休憩を取る事にした。

 

「良いかい、雨の中でも火を熾す創意工夫はあるんだ」

 

 森人剣士は薪となる細い枝を見出し、その何本もの枝を纏めて麻紐で束ねて薪の準備をする。そして濡れた地面を長靴のつま先で掘り返し、幾つかの石を組み合わせて竈を拵えるといとも容易く、火を熾してのけた。

 

「薪は埋もれている物なら濡れていないし、割ってみれば乾いている物だ」

 

「成程……」

 

 ゴブリンスレイヤーに教えながら、森人剣士は大樹から差し出されるように剥がれた木の皮を被せて雨よけにすると燃え上がった炎の周囲に濡れた枝を円を描くように並べていく。

 

「こうして、火がつけばその火で薪を乾かして注ぎ足せば良い」

 

「森人がこんなにも火の扱いに長けていたのは意外だ」

 

「火や石とて自然だよ。精霊の御業だ。勿論、扱いの得手不得手はあるけれどね」

 

 ゴブリンスレイヤーは装具を緩めながら座り込み、森人剣士は長靴を脱いで素足を焚火に当てて温め、乾かし始める。

 

 そうして話をしながら、干し肉とチーズという保存食と水で薄めた葡萄酒の詰まった水袋をゴブリンスレイヤーは取り出し、森人剣士は乾燥させた木の実や果実の類を出す。

 

「圃人の師からは森人は焼き菓子を糧秣にすると聞いたが……」

 

「……っふ……ははは。勘弁してくれ、あれはおいそれと作れるものでは無いし、只人に配れるものでもない」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉に呆気にとられた森人剣士はすぐに鈴の鳴るような美しい声を喉で転がして笑い出した。

 

「そうか……適当な事、言われたもんだ」

 

「そうみたいだな。けど、面白くはあったよ」

 

「なら良かったが……因みにその師は焼き菓子を飽きる程食べた事があるらしい。味についても具体的に言ってたから、これは本当かもしれないが……」

 

「それは大層な御仁だな」

 

 食事をしながら、そんな話を交わし……。

 

 

 

 

「さて、一つ、ある魔術師の話をしようか」

 

 森人剣士は魔術師についての話を始めた。

 

 ある日、埃に塗れ、薄汚れ、みすぼらしい外套を着た魔術師の男が森人の集落を訪れた。

 

 装いから≪学院≫を卒業した証である杖は携えていなかったのである。

 

 授からなかったのか、おられたのか、あるいは≪学院≫を出た後に失われたのかは分からなかったが……。

 

 ともかく、集落の人々は大樹はその枝の下に入る者を拒んだりしないという事と旅の者が一夜の枝を乞うたなら、それを与えるのが矜持という事から男を喜んで迎え入れた。

 

 魔術師はより優れた生き物を作るという術を求めている事など、己の知識を誰にも聞かれていないのに語り続けたのだという。

 

「優れた生き物を作る……もしかして、オウルベアもそうか?」

 

「ああ、間違いなくな」

 

 ゴブリンスレイヤーが思い至り、聞けば森人剣士は暗い顔で頷いた。

 

 そして、話を続ける。

 

 宴で森人から歓迎された魔術師であるが、森人の一人が梢に手を伸ばして木々に声をかけると果実を手に取った。

 

 それは森人にとっては何でもない事である。自然からの恵みであり、厚意で得た贈り物であるからだ。それを見た魔術師は目の色を変え……。

 

『木々に命令を下す。それはどのようなまことの言葉か?』と問うた。

 

 当然、答えは否だった。真言によって従えたわけではないからだ。

 

しかし、魔術師は気に入らず、森羅万象の法則を操るのはまことの言葉以外になく、である以上それはまことの言葉であると森人たちの説明も、古老の語りさえも魔術師ははねのけた。

 

「予想はつくが、何故だ?」

 

「『己はそうは思わない』からだそうだ」

 

「救いようのない愚か者だ……≪学院≫からもどうせ、追い出されたんだろうよ」

 

「ふふふ、私もそれは同感だ……気を付けろよ、オルクボルグ。この手の輩の行く所、後には死んだ灰が残るばかりだ」

 

 酷くくたびれたように呟き、僅かに力の無い笑みを森人剣士は浮かべてゴブリンスレイヤーへと言う。

 

「まさか……その魔術師は……」

 

「……」

 

「愚か者どころか……塵屑とはな」

 

 森人剣士の言葉に魔術師が自分を歓迎した森人の集落で何をしたか、予想がついてしまった。そして、森人剣士の目的も……それら含めて魔術師に対し、激しき義憤に駆られる。

 

 

 

「……本当に君は優しいな。怒ってくれるのか」

 

「当然だろう。改めて手を貸す……貴女の人生に一つの決着をつけられるように」

 

「……っ~~、オルクボルグ……君に出会えて本当に良かった」

 

 森人剣士の顔を見ながら、ゴブリンスレイヤーが誓うと彼女は嬉しさから涙を流し、そして感謝の言葉を告げる。

 

「それは俺もだ」

 

 こうして互いに笑みを浮かべつつ、二人はしばらくの間、休息を続けるのであった……。

 

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