冒険者である投擲手の彼は今日一日、冒険者の仕事を休んで英気を養う事とした。それは何もしないという訳では無く……。
「これは此処で良いのか?」
「ああ、うん。そうだよ」
自分が納屋を貸してもらっている牧場――幼馴染の牛飼娘と彼女の伯父である牧場主の仕事を手伝っていた。家賃を払うとはいえ、自分が生活できる環境を与えられているのだから仕事を手伝うのは当たり前だ。
勿論、牛飼娘がする家事は普段から手伝っていた。
「いやぁ、男手が増えるのは助かるよ」
「そう思ってもらえるなら良かったです。これからも仕事が休みな時や暇があるときは手伝わせてもらいますね」
そして、冒険者として戦闘能力を有しているがゆえに怪物や野盗といった物ら向けの柵の修繕及び改築、放牧した牛の警備などが出来る投擲手の手伝いは牧場主にとって大変、喜ばれた。
「えへへ、いつも冒険者の仕事で大変なのに手伝ってくれてありがとうね」
勿論、牛飼娘からも感謝されており、何が嬉しいのか共同作業中、鼻歌なんかを歌ったりするほどに彼女は機嫌が良かった。
「大変なのはお互い様だろ? むしろ、普段からもっと手伝えとか言わないでいてくれている事に感謝しているくらいだ。ありがとうな、冒険者でいさせてくれて」
投擲手の彼はそう言った。実際、牧場主も牛飼娘も生活空間を貸しているのだからもっと仕事を手伝うよう要請できる立場にあるのにそういう事はせず、冒険者としての仕事を投擲手に対してさせているのだから、本当に投擲手は感謝しているのだ。
「……うん、どういたしまして」
牛飼娘は顔を赤らめ、微笑みながら投擲手に言い……。
「君のそういうところが好き」
小さく牛飼娘は呟いた。
その後、食事なども済ませ、投擲手は自分の生活空間である納屋に戻ろうと母屋から出ようとした。
「じゃあ、おやすみ」
そうして母屋の入り口で見送る牛飼娘に振り返りながら声をかけ、納屋へと歩こうとした。
「待って」
「ん、どうし……「ちゅ」っ!?」
声をかけられたので振り返ると牛飼娘が近づき、右頬に軽く口づけした。
「今日、手伝ってくれた報酬だよ……そ、それじゃあおやすみ」
牛飼娘は顔を赤くしながら、言うとそのまま素早く母屋の方へと帰り、扉を閉めた。
「……十分すぎる報酬だ」
投擲手の彼は温かく、心地良さを感じながらそう笑みを浮かべて呟くのであった……。
二
休息を取った翌日……いつも通りを装おうとしている牛飼娘のそれに応じて普段通りの態度を取った投擲手。
「昨日の報酬は嬉しかった」
「っ~~、う、うん」
牛飼娘の街への配達を手伝いつつ、それが終わると冒険者ギルドに依頼を受けようと別れる時に報酬についての礼を言うと嬉しそうに牛飼娘は応えるのであった。
そうして……。
「今日は随分と人が少ないな」
「はい、皆さん、鉱山の騒動で出払っていて……」
「ロックイーターが出たんだったな」
「そうです、中々の大物なのであらゆる等級の冒険者の参加を求める依頼が出ているんです。貴方も受けますか?」
三つ編みの受付嬢が投擲手の彼にそう言い……。
「いや、もう既に何人も集まっているんだったら別に良い……むしろ、こういう時こそいつもの奴を受けるべきだろう。ゴブリン退治の依頼はあるか?」
「……本当にありがとうございます」
受付嬢は投擲手の言葉に頭を下げるとゴブリン退治の依頼書を複数出し、それを投擲手の彼は手に取って吟味……。
「これは受けた方が良さそうだな」
そして、ゴブリンの目撃数が多い辺境の開拓村が出したゴブリン退治の依頼書を出す。
「ちょっと、数が多いですね」
「だからこそだ、下手をすれば群れの侵略があるかもしれない。大丈夫だ、やりようは幾らでもある」
「……お気をつけて」
「ああ、貴方の心遣いを無駄にしないようにする」
心配する受付嬢に対し、そう答えると受付嬢に水薬を幾つか頼めば、『せめて、これくらいはサービスさせてください』と
そして次に冒険者ギルドに併設された工房へと行き……。
「……一人で戦争でもしようってのか?」
「まあ、似たようなもんだ」
工房の親方は上等な鎖帷子と短剣にナイフを五つ程、その短剣とナイフを携帯するための肩帯、長剣に片手剣も幾つかカウンターに置いた投擲手に呆れたような口調で言い、投擲手は応じた。
実際、これからゴブリンの群れと一人で挑むのだから戦争するのは間違いない。
「そうか、まあ金を払ってくれるならなんでも構わねぇけどな……頑張れよ」
親方は予備武器にしてもあまりに多い武器をどう使うのかと思案しながらも口には出さず、上客に対して応援するに留めた
「ああ、全力で挑んでくる」
そうして、肩帯によって短剣とナイフを吊り、普段からしている片手剣と鷲の頭を模した短刀を腰帯に、更に腰帯に差す形で長剣と片手剣を装備、石と瓦礫を入れた袋と装備を済ませると他にも酒場で食料の調達を済ませ、依頼の村までの距離まで考えて行けるところまでは馬車で移動を始めたのだった……。