ゴブリンスレイヤーは妖精弓手と今後の関係についての話を酒場にて交わしながら、葡萄酒を飲んで酩酊した彼女を酒場に備え付けられた宿の部屋に運びつつ、寝台に寝かせて部屋から出ると宿泊料を払って酒場を出た。
因みに妖精弓手の寝顔は自分の想いにゴブリンスレイヤーが応じたからか、幸せそうであった。
そして、ゴブリンスレイヤーが酒場を出たのは魔術師が率いるゴブリンが『収穫祭』を行っているこの街一帯に襲撃を仕掛けてくるかもしれないそれを警戒し、罠を仕掛けるためである。
「秋冬は夜が長く、朝が遅くなるのがな」
そう言いながらもゴブリンスレイヤーは辺境の街の大門を抜けた外、獣道からも外れた獣道の中まで来た。
広野にはなるが、一面ひたすらに草原が続いている平らな場所では無く、丘があり、林が茂り、藪があり、道を外れた未開拓の土地である。
とても人が通る場所では無く、だからこそゴブリンスレイヤーはここに罠を仕掛ける。
まずは穴を円匙にて掘り始めた。深さは人の背丈、只人の背丈まで掘っていく。
そうしてできた穴の底に細く、鋭く尖った杭を並べて埋め、穴の上には掘る前に除いた地表を被せる。穴の上に張った布で地面を支えさせれば一見して穴があるとは思えない見た目となった。
そうした穴を自分が必要だと思う数、ゴブリンスレイヤーは用意し落とし穴を作った一帯に鮮やかな色のついた小石をばら撒く。
「後はこっちもだな」
穴を作った事で出来た大量の残土をあらかじめ用意していた麻袋に次々、詰めていき土嚢とする。
口を縛って拵えた土嚢を両肩に担ぐようにして二つずつ、穴から多少離れた藪の中へと運ぶと隠しながら、半円型に並べてしっかりと積み上げる。
ぎっちり隙間無く土嚢を敷き詰めて組み上げると最後に円匙で叩く事で固めていく。
「さて、他の罠はこれで終わりだ。最後は……時間の余裕も無いし、急がないとな」
まだ組んでいない杭と網と材木を使った罠を仕掛けるのみとなったが、双月の傾きから残された時間を判断して急ぐ事にする。
紐を通した幾枚もの木板を取り出し、茂みや木々に張り巡らせると細々とした作業をしていった。
そうして、別の場所へ荷物を持って藪を超え、木立の間を潜り抜ける。
「おい、そこで何をしている!!」
女性による鋭い声がかけられた。
「ゴブリンが襲撃してくるかもしれないから、罠を仕掛けていたんだ」
「ゴブリンだと?」
外套に全身を包んだ背の高い女性が鞘に納めた長剣をいつでも抜けるようにしながら姿を現す。
「この前、採掘場で魔神王の残党かもしれない魔術師がゴブリンの群れを兵として使っている形跡を見てな。だから警戒しているんだよ。食料を奪うにしても、儀式の生贄を用意するにしても油断しやすい『収穫祭』は最適だからな。あと、この街のギルドには許可も取っている」
ゴブリンスレイヤーは自分の認識票を見せながら、説明した。
「む、すまない……こんな夜に動いていたものだからな」
「いや、疑われるだけの事はしていたからな」
「ほら、駄目だったじゃないか……まったく、直ぐに……お、お兄さんっ!?」
「ん……君は……あの村の……」
女性とやり取りをしていれば、彼女の後ろから小柄な外套姿の女性が現れ、ゴブリンスレイヤーを見ると驚愕し、叫ぶ。
ゴブリンスレイヤーもその女性には見覚えがあった。まだ白磁等級だった時に大量のゴブリンの群れの討伐をする事となった村で出会った少女だったからだ。
「久しぶり、お兄さん。ずっと会いたかった」
「おっと……随分と大きくなったし、可愛くなったな」
「えへへ、ありがとう」
あの時の少女はゴブリンスレイヤーへと近づいて、彼の身体に抱き着き、ゴブリンスレイヤーは苦笑しながら、受け止め抱擁した。
少女は満足気な声を出しながら、喜び礼を言うのだった……。