冒険者である投擲手の彼はゴブリンが頻繁に目撃されている事から早く対処すべき辺境の開拓村での『ゴブリン退治』の依頼を引き受け、その場所へと向かった。
村の手前だろう場所まで辿り着くとそこに長い黒髪に腰を帯で締めた
おそらく村が出したゴブリン退治の依頼を引き受けた冒険者の姿を好奇心から見ようと待ち伏せしていたのだろう。
「こんにちは……此処がゴブリン退治の依頼を出した村で間違いないかな?」
兜を取り、素顔を見せながら視線を合わせるため屈んで少女に話しかける。
「そーだよ……それにしても凄い武器がいっぱいだね」
「ゴブリンの群れを退治するんだから、必要な準備だ」
少女は楽し気にそして、好奇心に満ちた表情で言った。
「それじゃあ、村の中まで案内頼めるか?」
「うん、良いよ」
そうして少女と供に投擲手は村へと向かい……。
「これ、外に出るなとあれほど言っておいたでしょう!!」
少女が育てられている旅と幸運、商売繁盛を司り、縁の神でもある交易神の寺院へと向かうと女性の院長が少女を叱る。まあ、ゴブリンが出るから外に出ないよう言ったのに村の外に出たのだから、当然だ。
「待ってくれ、確かにこの子は危険な事をしたがこの子が俺をここまで案内をしてくれた事は事実で俺はこの子に恩がある。そんな恩人が叱られるのを見るのは気が引けるんだ。だから、今回は俺の顔を立てて不問という事にしてくれないか?」
「……そう仰られるのであれば……」
ゴブリン退治を依頼している冒険者から言われると強く言えないので不承不承と言った形で院長は頷いた。
「お兄さん、ありがとう!!」
院長から庇ってくれた事で少女は抱き着きながら投擲手に笑みを浮かべる。
「どういたしまして……ただ、君が危険な事をしたのは変わりない。反省して、次からはちゃんと院長の言う事を守るように……交易神に誓うな?」
「うん、誓う」
「なら、良し。じゃあ自分の部屋に戻るんだ」
「はーい、またねお兄さん」
「ああ、またな」
そうして、やり取りを交わすと少女は投擲手に笑みを浮かべながら手を振って去って行った。
「我儘を聞いてもらってすまない」
「いえ、ですが随分と子供の扱いに慣れているようですね」
「優しく育ててくれた姉が俺にしてくれた事を真似ただけだ」
「そうでしたか、立派な方のようですね」
「ああ、父も母も俺が物心つく前に亡くなって女手一人で育ててくれたからな」
「本当に立派ですね……それでお仲間の方は?」
「悪いが他の冒険者はもっと危険な怪物を退治するのに手一杯だ。だから、俺一人なんだ。 あぁ、ゴブリンは国からも冒険者からもどうしても後回しにされるもんなんだよ。それが現実だ」
「……」
「だが、こうして来た以上、ゴブリンは全て退治させてもらう。交易神に誓ってな」
何とも言えない表情を浮かべた院長に対し、言うとゴブリン退治を済ませるまでの間の宿泊代と食料代を払う。
寺院を出て山裾の小さな開拓地で十なん軒かの小さな家が肩を寄せ合うようにして集まったどこにでもあるような寒村を歩くと周囲を見回しつつ、北の方に山がある事や馬で通れるくらいの勾配があるのを聞き、ほらあなや遺跡が無い事を聞く。
そして余ってる材木に柵の材料、細工道具を買うだけでなく、投擲用の武器として古いナイフや包丁と言った刃物や使わなくなった瓶や片手で持てる鍋に皿、農具といった物を金を払う事で貰う。
ゴブリンの群れの精確な数が分からない以上、投擲用の武器が調達できるならそれに越した事は無いのだ。
更にゴブリンに異変を悟られないように夜警を続けさせたり、ゴブリンの主な狙いが畑だと確信し、収穫を早めにしてもらいながら水路の水かさを上げて堀にできるようにしてもらう。
ゴブリンを油断させるため、祭りをしてもらうように頼みながら杭と柵を作り、手ごろな大きさの木の先を削って手製の投槍を幾つか作り、石や瓦礫も手ごろなものを探しながら拾う。
農具の先端、桑などの刃先となるそれを短く切り詰め、残った柄の先端をやはり削って手製の投槍にもしていく。
「お兄さん、大変そうだね」
「戦うってのは大変なんだ……勝つためには周到に準備しなければならないからな。必ず、勝つから応援していてくれ」
「うん、応援してるよお兄さん」
すっかり懐いた少女が積極的に交流して来るのを相手し、叱りに来る院長に対して『良い気晴らしになるから』と宥めたりして、投擲手は村の周囲にゴブリン用に設計した柵を張り巡らしていき、堀にした川には杭を立てていく。
その中でゴブリンの群れを誘き寄せつつ、行動範囲を限定するために敢えてゴブリンの群れがやってくる北の鉱山の方角だけ、柵を結ばずにゴブリンが僅かに通れるだけの隙間を作ったのであった。
そうした準備だけで一日、経過しており……。
「雨か」
西の夕焼けが酷く淀み、雷を発生させる
雨に風が強ければ強い程、視界や投擲に問題が出来るので臨機応変に対応しなければならない。何事もやりようではある。
ただ、悪い事ばかりでなく雨によって、自分の匂いは消えるので潜む事は簡単となる。
「いつでも、来い」
投擲手は身を潜ませながら、手製の投槍や石に瓦礫、投擲用に確保した物を傍においてゴブリンの群れの襲来を待ち受けたのであった……。