皆さんどうもごきげんよう。わたしは、マインクラフターのアレックス。創造主、とも呼んでくれてもいいぞ。
「ふふ、実に合理的だ。彼女の言う通り、このコーンシティーは我々の科学文明復興の礎となるだろうね」
「ああ。だが、やり方が少しばかり物騒だがな」
「少々エレガントじゃないのは、確かさ。けれど結果が伴うのならば、ボクは気にしないさ」
「ふっ、そうかい」
戦闘が終結した今、我らマインクラフターはコーンシティーの建築に着手。同時に、荒れてしまった大地を整理している。荒れた土ブロックを草ブロックに変えれば、簡単に様変わりし蘇る。コーンシティーはこのストーンワールドにとって、重要な街となるのだからこのぐらいしなくては。ヒトもいるのだ。しなくては…しないと死んじゃうかもだからな。
これは最終的に復活液を大量生産すると共に、大量栽培することで食料としても素材としても使いやすいからだ。それだけでなく医薬やらバイオやら等、根幹技術を復活させるためのステップでもある。
コーンシティーを形作るシンボルたる「とうもろこし」は、極めて合理的ともいえる。流石はゼノと言ったところか……わたしは全く思いつかなかったが。グルコースの効率的な供給源たる「とうもろこし」からは非常に効率の良いデンプン源であり、これを分解することで大量の単糖を得られる。大量栽培が可能で保存性も高い食料としての利用の他に、人口培地や薬品製造の材料にもなる。
とどのつまり、だ。コーンシティーは「これからのストーンワールド」にとって、超重要な要素であるのだ。まさに『〜新時代だ!!!』だ。話は逸れるが、わたしは某歌姫が大好きである。
わたしの世界にはいなかったが……うぅ、画面の中に彼女は! 可哀想なヒロインだった! 自分の命がヤバいのに関わらず引き換えに、夢に囚われた人々をすべて目覚めさせたのだから! 嗚呼、お労しや……名前なんだったけな? …まぁ、いいか! コーンシティーほど、さしても重要じゃあないしな! えっへん!
そんなコーンシティーは、創造主を中心に行われている。シングルプレイでは超困難だが、これはマルチプレイだ。たくさんもの創造主がアッセンブルしてくれているため、自発的にもやってくれている。時には協力しあい、時にはこれは違うと殺し合う。色とりどり、様々な個性で溢れ、そして飽きないのがマルチプレイなのだ。
「おお!? 見事な統率だ。まるでひとつの生命体のように、それぞれが役割を理解し寸分の狂いもなく動いている」
「軍隊でも、ここまで完璧な連携は不可能だ。命令系統が違う…思考そのものが、繋がっているようだぜ。テレパシーってやつか?」
「彼らにとって設計図が法であり、レッドストーンが言語なのだろう。実に興味深い生態だ…いつか解剖してみたい」
「いや解剖すんなよ??」
無数の土ブロックが敷き詰められ、整然と区切られた耕地は既に完成していた。ひとつひとつが均質な形状で耕され、水路が網のように巡らされている。畝の幅、灌漑の距離、陽光の角度に至るまで、何度も設計図を焼き直して調整された緻密な構造だ。その中央を走るレッドストーンのラインは、まるで心臓から伸びる血管のように全ての機構へと繋がっていた。
「ほう? 信号のクロック制御に、あれほど多用なアプローチがあるとは。ボクの知らない回路理論が、あちこちで実践されている」
「ご生憎、専門外なんでな。俺には違いが分からねェ。けど全員が、自分のやり方が正しいと信じてんのは分かるぜ」
「それこそが技術発展の源泉だよ、スタン。多用な解法がぶつかり合うことで、最適解が磨かれていくのさ」
粘着ピストンの行列は揺るぎなく構築され、リピーターとコンパレーターが埋め込まれるたびに、無数のマインクラフターたちは黙々と位置を確認し、整合性を測る。信号の流れを読む者、クロック制御の位相を刻む者、ホッパー搬送網を地下から這い上がらせる者。誰もが回路と向き合い、誰もが命令のような設計に従っていた。
「…始まったな」
「おや? 穏やかじゃないね。回路設計の不一致が、そこまでの闘争に発展するとは」
「気に入らなければ力で捻じ伏せる。やり方は野蛮だが、合理的ではある。議論するよりも速いからな」
けれど、同じ設計図を前にしても思想は揃わない。ピストンの列の中、一人のクラフターがレイアウトを変えた。ホッパーの動作に対する信号反応を変えるための、自己設計の分岐回路。効率は高いが、全体制御とは齟齬をきたす危険性を孕む。指摘があり、修正が命じられる。しかし彼は動かない。次の瞬間、刃が閃く。
鉄の剣がレッドストーンのラインを割り、火花が飛ぶ。回路ではない、肉体が切られる。返すようにしてもう一人が刃を振るい、反復装置の前に血が飛び散る。構築中の機構の中心で、回路を巡る戦いが始まっていた。マインクラフターは剣を抜く。設計を通すために、回路の在り方を譲らぬために。ある者は修正し、ある者は命を刈る。
「これは…面白い! リピーターの遅延タイミング派とコンパレーターの分岐優先派の闘争か。さながら宗教戦争。実にエレガントじゃあないか! 実に人間的あって素晴らしい!」
「呆れた連中だ。死んでもリスポーン出来るからって、やりたい放題にも程があんよ」
「死を恐れない創造主ほど、厄介なものはないからね。彼らは自らの信じる"正しさ"のためなら、何度でも命を賭ける。遊びでね」
一対一ではない。思想は波のように伝播し、各区画で刃が交わる。派閥が生まれ、制御信号の取り回し一つを巡って衝突が繰り返される。ピストン群の影、レールが交差する地点、シュルカー搬送ラインの側で、クラフター同士の血がこぼれ落ちる。回路の設計を信じる者と、それを最適化しようとする者。どちらも命がけで、それぞれの正しさを剣に乗せていた。
剣戟の音がパルス音に混じり、断末魔が信号にかき消される。戦いの場であっても、建築は止まらない。死者の影の上に新たなディスペンサーが設置され、破壊されたピストンの代わりに新しい構造が組み直されていく。争いの中で失われたラインは、次の設計者が書き換え、戦いの中で残った勝者がその場の回路を自らの思想で閉じる。
「遺品が散乱してる直ぐ横で、次のブロックを置いてやがる。神経どうなってるんだ?」
「無駄がない、ということさ。闘争は闘争。建築は建築。彼らにとって、それは完全に独立したタスクなのだろう。素晴らしい効率だ」
「あんたは少し、その感性を疑った方がイイぜ? ゼノ」
「そうかな?」
「そうだぜ」
やがて争いは収束し、生き残った設計がシステム全体へと広がっていく。妥協のない形、それでも動作することが証明された唯一の回路。各所のリピーターがその設計に合わせて調整され、遅延制御が同期する。ホッパートロッコの搬送速度が均一化され、センサーによる収穫検知が統一される。
機構は完成に近づいていた。剣の交錯を越えて残った者たちは、ただ一つの目的に集中する。制御棟が建てられ、メインクロックが接続され、信号が全体に行き渡る。ピストンが動作する。トロッコが走る。レッドストーンが脈動し、土の上に撒かれた種が指定通りのタイミングで吐き出される。
「…なるほど。淘汰されたという訳か。生き残った者の設計が、この機構の正史となる。ダーウィンの進化論を、数分で実践しているようなものだ」
「結局、一番強かった奴の意見が通る。分かりやすい世界だな」
「ふふっ、実にシンプルで美しいじゃないか」
回路は一つになった。建築に反したものは剣で裁かれ、建築に従うものだけが生き残った。誰もがハァンしつつも沈黙し、中央の塔から発せられる最初のパルスを待つ。設計図にない余計な枝は斬り落とされ、回路の流れは研ぎ澄まされていた。誤差も、枝分かれも、信号の反逆もない。クロックが点火する。波が走る。ピストンが動く。
「とうもろこし」が一斉に根元から倒れる。ホッパートロッコがそれを飲み込む。回路が鼓動し、全域が完璧に連動する。種子が撒かれ、水が潤い、ボーンミールが自動で散布される。数百ブロックの耕地が一斉に稼働し、すべての信号が想定通りのルートを進む。
そこにいるクラフターたちは、誰も言葉を交わさない。目で確認し、指で整え、剣で裁き、レッドストーンで意思を流した。畑は一つの意志に貫かれ、思想を血で統一され、絶対の動作を約束する自動機構となった。それは農場ではない。命の上に構築された、剣と設計の果てに立ち現れた一つの機械生物。
マインクラフターたちは黙って立ち尽くし、ただ動くその機構を見つめていた。完成の瞬間。血にまみれた最適解が、静かに息づき始める。
「完成したようだね。スニーク姿勢して喜んでいるよ、彼らは」
「あいつらのあれって、ただ煽りしまくってるだけじゃんよ」
「…まぁ、そう見えるのは無理ないよ。ボクも初めは、そうだったからね」
「慣れるのに時間かかりそうだぜ」
「ふふ…しかし完璧だね、この全自動農場は。非の打ち所がない。ボクの計算をはるかに超える、効率と安定性だ」
「ああ、確かに。文句のつけようがねぇな…」
無限に広がる耕地には、まるで黄金の波のように「とうもろこし」の茎が規則正しく並び、等間隔に精密に植えられている。すべての作物は成長状態が揃えられており、葉の角度すら統制されたかのように整っていた。空から眺めれば、巨大な回路図の一部のように畑全体が一つの機構として構築されており、まるで作物そのものが機械の歯車のように息づいている。
「しかし、壮観な眺めだな。作物がここまで整然と並んでると、逆に気味が悪い」
「秩序だよ、スタン。自然の無秩序を、創造主の知性が完全に支配している証だ。美しいじゃないか」
「支配、ねェ…。そのうち畑にまで反乱起こされなきゃいいが」
赤石トーチが微細な閃光を灯し、地下に潜むレッドストーン回路が音もなく起動する。信号は交互に設けられた反復装置を通じて増幅され、耕作地の下層を這う無数の配線に一斉に流れ込む。動作は完璧に同期されており、一か所でも遅延やロスが生じれば即座に全体が調整されるように設計されている。
高精度のクロック回路によりタイミングは0.1ティック単位で調整されており、まるで心臓の鼓動のように周到に制御されていた。
「見てごらん、あのピストンの連動。まるで巨大な生き物の蠕動運動だ。実に機能的で、実にエレガントだ」
「収穫っつーより、捕食だな。あのトロッコが、作物を食い尽くしてるようにしか見えん」
「ふふ、詩的な表現だね。だが的を射ている。あれは生態系そのものを、機械で再構築したものなのだから」
耕地の端に設けられたピストン機構が一斉に動作を開始する。列をなすピストン群が等間隔で地表を押し出すと、成熟した「とうもろこし」が根元から押し出され、音もなく刈り取られてゆく。一列ごとに順繰りに展開されるピストンの動作は波のようで、遠くから眺めれば一つの巨大な生き物が身震いしているかのような錯覚を起こす。
作物の層が崩れると同時に、待機していたホッパートロッコが滑り込むようにレール上を走り出し、地面に落下したアイテムを寸分の狂いもなく吸い込んでゆく。
収穫されたコーンはレールに沿って滑らかに移動し、各地に設けられた仕分けステーションへと運び込まれる。仕分け機構はレッドストーンコンパレーターを核に構築されており、チェストへ向かうホッパーの流れを逐次解析しながら、自動的に指定されたコンテナへと物資を仕分ける。完熟とうもろこし、未成熟、種子、その他の破片──すべては完璧に分類され、整然と格納されていく。
「収穫しながら、もう次の種を撒いてやがる。休むってことを知らねぇのか? あいつらは」
「彼らの世界では、効率こそが正義なのだろう。ボクも見習うべき点が多いよ」
「やめておけよ。あんたがこれ以上効率的になったら、俺の身が持たないぜ」
再植の機構は収穫と同時並行で進行する。ディスペンサーの列が起動し、あらかじめ蓄積された種子を耕地へと撒き出してゆく。水流の微細な制御により地面は常に適度な湿度が保たれ、耕作ブロックの状態も常に更新されている。
ディスペンサーはただの装置ではなく、前回の収穫パターンからアルゴリズム的に最適化された撒き方を実行しており、光合成効率や成長速度も計算に組み込まれている。苗の植えられた土はすぐに元の規則性を取り戻し、まるで何事もなかったかのように再び静寂へと戻ってゆく。
「驚くべきは、この機構が自己進化することだ。収集したデータを元に、常に最適解を導き出している。もはや、ボクらの知る『機械』の定義を超えている」
「…生き物か。確かにそうかもな」
「そうだよ。我々は今、新たな生命の誕生に立ち会っているのさ!」
遠くでは、中央管理装置のクロックタワーからわずかながら信号のパルスが届き続けている。畑全体は独立した無数のモジュールに分割されており、各モジュールはそれぞれ独立して動作しながら、同時に中央のマスター回路と完全同期していた。
負荷調整のためにリピーターのディレイが自動変動し、地形や時間帯によって変化するパフォーマンスを無駄なく補正している。気候データや成長パターンはコマンドブロックと連動した検知装置でリアルタイムに取得され、回路内で逐次反映されてゆく。
レッドストーン信号は、常に最適な回路を辿り、無駄なクロスや衝突を一切起こさないよう綿密に設計されていた。
「収穫したトウモロコシが、もう別の何かに変わってる。食い物から、燃料か何かか?」
「バイオエタノールの精製ラインだろうね。食料であり、エネルギーであり、化学資源でもある。一つの作物から、文明の全てを生み出すつもりか…貪欲だねぇ」
「全くだ。敵に回したくねぇ連中だよ、本当にな」
回収されたコーンがストレージへ到達すると、仕分け装置の一部が動作を切り替え、アイテムの一部は精製エリアへと送られる。そこではフェンス状のチューブが蛇のように張り巡らされており、「コーンを粉砕→乾燥→糖化」と段階的に変換するための機構が並んでいる。
水を用いたクラッシャー、炎を使った乾燥炉、更にはスライムブロックを応用した圧搾装置が連動。ただの作物だったものが化学資源へと変化してゆく過程が、まるで自然の法則そのもののように無音で展開されていた。
「見ているかい、白夜。これがボクらの知らない、もうひとつの科学の形だよ。実に…実に…サイエンス・イズ・エレガントだ!」
「へっ、あいつらマインクラフターに言わせりゃ、『これでいつでも戦争が出来るZE』ってとこだろうがな」
「それもまた、一興だと思うよ」
すべての動作が終わったとき、畑はまた静けさを取り戻す。しかしレッドストーン回路は止まっていない。耕地下には常時稼働する監視装置が設置されており、日照量、湿度、作物の成熟率、害虫の兆候すら数値化され、中央のコマンドブロックネットワークに記録される。
それらの情報は定期的に同期され、次回の収穫・再植に向けた最適化アルゴリズムへと還元されていく。常に進化し続ける農場、ただの畑ではなく、これは知性を持つレッドストーンの生体構造物。人の手は不要、必要なのは設計と、わずかな起動信号だけ。
「革命でも起こせるじゃんね」
「科学の目的とはこの世界の構造を解き明かし、まだ見ぬ発見へと至ること──」
「ん?」
「──飽くなき探求と新たな発見にこそ、科学の喜びはある…ふふっ、独裁者なんてクソ食らえさ」
「…ハッ、やっぱり変わってんね、あんたは」
「だろう? という訳でだ、スタン。幼少期ぶりの、熱い握手を交わそうじゃあないか! キャンディも舐めて欲しい!」
「唐突じゃんね…ったく」
「とうもろこし」の刈り跡が風に揺れ、やがてまた芽吹く頃、既に次の収穫の準備は終わっている。回路は眠らず、畑は止まらない。全人類70億を復活させた後でも、マインクラフターの設計したこのシステムは黄金の波を刈り取り続けることだろう。
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