クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

107 / 132
一週間ぶりの投稿…ディズニー+様の暗黒面に魅入られておりました。


石化装置の分解

「あら、ジョエルったら真剣な顔しちゃって。そんなに睨んだら、そのカワイイ機械が壊れちゃうんじゃないのォ?」

「なっ…! うるさい! 女は黙って見てろ! 神聖な作業の邪魔をするな!」

「はーい、はい。見てるだけ。でも、そんなに真っ赤になってると、集中できないんじゃないかしらァ?」

 

 

 皆さんごきげんよう! わたしはマインクラフターのアレックス! 海賊部のアレックスとも呼ばれている、美少女である。05と呼んでくれても構わんぞ? ……しかし、なぜわたしがここにいるんだか。この役目って、本来なら技術開発部のわたし(アレックス03)が担当するべきだろうに…。まあ、命令とあれば仕方ない…命令されるのは嫌いだ。あとで奴を殺しておこう。

 

 

「う、うう…! 集中! 集中だ! こんな精密機械を前にして、女なんかに惑わされてたまるか…!」

「ふふっ、面白い人。でも、腕は確かなんでしょ? 期待してるわよ、エース様ァ」

「当たり前だ! このジョエル様にかかれば、どんな機械だろうと赤子の手をひねるようなもんだ!」

 

 

 えっ、美少女のアレックスは何をしているのだって? ふふっ、しょうがいないなァ。わたしは今ね、人類史のターニングポイントとも言うべき、歴史的瞬間に立ち会っているところだ。すなわち、石化装置メデューサのカラクリを、科学の力で完全に解き明かしているところだ。

 

 ああ、少し語弊があったな。正確には、解明しているところを、特等席で見学している、だ。石化装置、忘れた訳じゃなかろう? 3700年もの間、人類を石の檻に閉じ込めた、あの忌まわしきオーバーテクノロジーの塊。今は目の前の作業台で静かに分解されているが、わたしはその本来の状態を、この目に焼き付けている。

 

 

「動力源…動力源はどこだ。ゼンマイも歯車も見当たらない。電気…? いや、バッテリーらしきものもない…!? ハッ、俺らが知ってる科学じゃねえってことか」

「ねぇこれってやっぱり、現代科学じゃ説明つかない何かで動いてるのかしらね? オカルト的な?」

「馬鹿を言えミナミ! どんな機械にもロジックがある! 神の仕業だのオカルトだの、そんな非合理的なもので動いてるわけがない!」

「威勢がいいのは結構だけど、お手柔らかにお願いね? 壊しちゃったら元も子もないんだから」

 

 

 あれは、ただの「装置」などという無機質な言葉では到底表現できぬ、一種の神秘を纏っていた。幼い子供の手にもすっぽりと収まってしまうほどの小さな存在でありながら、まるで星々の重力すらも屈服させるかのような、絶対的な威圧感を放っている。オーバーワールドでは重力は…おっと、悪い癖だ。つい思考が逸れてしまうな。話を戻そう。

 

 

「あらあら、まるで芸術品みたいねェ。こんなに綺麗なもの、壊しちゃうのもったいないんじゃないかしらァ?」

「だ、黙れ! これは機械だ! 芸術品なんぞと一緒にするな! 俺は構造を解明しているんだ!」

「はいはい。でも、その回路みたいな模様、なんだかロマンチックよねェ。古代のラブレターだったりして」

「なっ…! ふ、ふざけたことを言うな! 仕事の邪魔だ!」

 

 

 メデューサの本体は、互いに絡み合うように配置された三つの輪で構成されている。まるで古代文明の天文時計オーパーツに使われていた歯車機構のような、人間業とは思えぬ緻密さ。わたしは勝手に超古代文明アトランティスの遺産だろうと睨んでいるのだが、その素材は金属とも石とも判別のつかない未知の光沢に包まれていた。

 

 青白くどこか冷たい光を放つその表面には、古代の象形文字にも見える無数の回路模様。まるでタトゥーのように、びっしりと刻まれている。

 

 

「…この三つの輪の連動、完璧すぎる…。時計のムーブメントとは次元が違う。一体どんなエネルギーで…?」

「もしかして、人の想いとかで動いたりしてねェ。ジョエルくんの、その熱い情熱とか?」

「情熱で機械が動くか! 非科学的なことを言うな! 全ての動力には必ず物理的な根源があるんだ!」

 

 

 一見すれば、王族が手にする装飾品のような、人を惹きつけてやまない妖しい美しさだ。だが、その複雑怪奇な造形は、明らかに「機能するもの」として設計されている。人工物か、自然物か、それとも遥か高次元の存在…神の手によるものか──判然としなかったが、一つだけ確実なのは「この時代の、いや、旧世界の人類の技術ですら到達不可能な領域の産物」であるということだ。

 

 しかしその後の調査で、これが自然物でも神の御業でもなく、紛れもなく科学によってクラフトされたものであることが既に判明している。それが我々が今、ここにいる理由だ。

 

 

「科学で作られてるってことは、これを作った人がどこかにいるってことよねェ。会ってみたいわァ、どんな人なのかしら?」

「フン、分かって言ってるだろう? 月面のホワイマンに会ったところで、俺ほどの技術があるとは思えんがな! この複雑な機構、俺だからこそ分解できるんだ!」

「あら、自信満々。でも、それってつまり、あなたなら同じものを作れるってことかしらァ?」

「そ、それは…! 構造を完全に理解すれば…不可能ではない! まずはこの動力源の謎を解くのが先決だ!」

 

 

 石化装置が起動する瞬間は、声という命令によって制御される、極めてシンプルなものだった。だが、その内部で起きる現象は、理解を超えた神々しささえあった。命令を認識した瞬間、それまで沈黙を保っていた三つの輪が、滑らかに、そして静かに動き出す。その動きは徐々に速度を増し、やがて肉眼では捉えきれないほどの高速回転へと移行する。

 

 すると表面に刻まれた紋様が、まるで生命を得たかのように脈打ち、明滅を始める。最初は静謐な青色だった光が次第に毒々しいまでの、しかし目を奪われるほどに美しい緑色へと変化。それと同時に、“キン”という、鼓膜を直接震わせるような甲高い共鳴音が鳴り響いたのだ。あの時のはもう…トゥンクでしたね。緑色に変化する場面が見えれば更に。

 

 

「なるほど、アレックス。緑色の光だった訳か。その光自体に何か秘密があるのか、それとも単なる作動中のサインか…」

「でも、とっても綺麗だったわよね。あんな綺麗な光で石にされちゃうなんて、皮肉なものね」

「感傷に浸ってる場合か! 綺麗だろうが何だろうが、これは人類文明を滅ぼした兵器だ! 感傷は構造を理解してからにしろ!」

 

 

 そこから放たれたのは、不可視の──特定の種族、すなわち人類にしか認知出来ないであろう、石化の光線。空気を押し広げるようにして奔ったその波動が、対象を瞬時に、そして完全に包み込むのだ。

 

 とどのつまり、今、千空たち科学王国が解明せんとしているのは、「何を動力源として、この超常現象を起動しているか」という、核心中の核心だ。そして、その「綺麗に分解!」という、言うは易く行うは難し、な大役を担うべく復活させられたのが、高級時計ブランド「ロデックス」の自他共に認めるエース技師、ジョエルという赤髪の青年だ。

 

 

「…だから、女は黙ってろと言っているだろうが!」

「あら怖い。でも、そんなにカリカリしてると、手元が狂っちゃうわよォ?」

「なっ…! 俺の手元が狂うだと!? この一流時計技師ジョエルの、神の指先が狂うものか! お前こそ、俺の集中力を乱すな!」

 

 

 わたしが作業台に近づくと、ジョエルはビクリと肩を震わせ、顔を真っ赤にしながら叫んだ。その手には極細のピンセットと、宝石鑑定士が使うようなルーペが握られている。彼の腕は一流だが、コミュニケーション能力、特に女性に対する耐性は皆無らしい。面白い。

 

 

「しっかし…なんだ? この構造は。歯車の一つ一つが、まるで生きているように滑らかに噛み合っている。いや、そもそもこれは歯車という概念で正しいのか…? 時計とは全く違う、異次元の設計思想で作られている…」

「まるで精密なパズルみたいねェ。あなた、そういうの得意そうだもの」

「得意とかそういうレベルじゃない! これは挑戦だ! この俺の技術と知性に対する、作り手からの挑戦状だ!」

 

 

 わたしを追い払おうとはするものの、彼の視線はすぐに手元のメデューサへと戻る。その瞳は、もはや職人のそれだ。彼の前には、慎重に分解されたメデューサの部品が、白い布の上に整然と並べられていた。

 

 その部品の一つ一つが、まるで最新鋭の3Dプリンターで出力したかのような、複雑で立体的な形状をしている。ネジ一つ、バネ一つ見当たらない。全てが一体成型されたかのような、滑らかな曲線と鋭い直線で構成された、芸術品のようなパーツ群だ。

 

 

「お、おい! そんなにジロジロと見るな! 貴重な部品に息がかかるだろうが…!」

「あらあら顔真っ赤ね? アレックスちゃんが見てるだけじゃない。わたしも、ずーっと見てるわよォ? あなたのその、真剣な横顔」

「う、うううう……! やめろ! 二人して見るな! 気が散る!」

 

 

 彼の言う通り、わたしは興味津々でその部品を覗き込んでいた。わたし達マインクラフターのクラフトは、基本的にブロック単位だ。どんなに複雑な回路も、元を辿れば四角いブロックの集合体。だが、目の前にあるこれは違う。概念からして、全くの別物だ。

 

 

「…しかし、どんな複雑な機械だろうと、必ず設計思想と役割があるはずだ。この六角形の部品はゼンマイの役割か? いや、エネルギーを蓄えるような構造じゃない…。こっちの菱形のパーツはテンプ…? 違うな、一定の振動で時を刻むにしては、あまりにも静かすぎる」

「もしかしたら、一つ一つに意味なんてないのかもねェ。全部が合わさって、初めて一つの魔法になる、みたいな」

「魔法だと!? まだそんなことを言っているのか! いいか、これは科学だ! 一つ一つの部品に必ず役割がある! 魔法なんて言葉で思考停止するな!」

 

 

 ジョエルは独り言を呟きながらも、その指先は寸分の狂いもなく動き続けている。時計の分解で培われたであろう、神業のような精密さで、彼は未知の機械を着実に解剖していく。彼にとって、このメデューサは解きごたえのある最高のパズルなのだろう。彼の言う通り、どんな機械にも部品ごとの役割はある。それは腕時計も、この石化装置も同じはずだ。

 

 

「そういえば、千空くんたちが言ってたわよねェ。動力源は、中に入ってるアレじゃないかって」

「…ああ、あのダイヤモンドのことか。確かに、これだけ精密な機械の中に、あんな宝飾品がポンと入っているのは不自然だ」

「でしょォ? キラキラしてて綺麗だけど、なんだか怪しいわよねェ」

 

 

 わたしは、南米にいる千空やゼノから無線で送られてきた仮説を思い出していた。彼らは、このメデューサの動力源が、内部に収められていた「ダイヤモンド」ではないかと推測していた。宝島で手に入れた複数のメデューサを比較した結果、綺麗な六角形の形をした、完璧なダイヤモンドには、どれも微細なヒビが入っていることが判明したらしい。

 

 そして、黒ずんだダイヤモンドには、そのヒビや傷が一切ない。つまり、綺麗なダイヤは何らかのエラーで起動しなかった不発弾であり、黒ずんだダイヤこそが、エネルギーを使い果たした使用済みの電池だというのだ。

 

 

「なるほど…ヒビが入っている方が未使用品で、黒ずんでいる方が使用済み…。つまり、エネルギーの放出が、このダイヤモンド自体に物理的な負荷をかけているということか」

「電池が切れると見た目が変わるなんて、なんだかカワイイわねェ」

「可愛いわけがあるか! これは重要な手がかりだ! つまり、この黒いダイヤにはもう石化させる力は残っていないということだ!」

「あら、じゃあ、その綺麗な方はまだ使えるってこと? 危ないんじゃないのォ?」

 

 

 さらに、その仮説を裏付けるように、カセキがそのダイヤモンドの一つを、釘とハンマーで見事に割ってみせたという報告も受けている。ダイヤモンドには「劈開」という、特定の方向に割れやすい性質がある。カセキは、その原子の結合が弱い面を的確に見抜き、一撃で叩き割ったのだ。その割れ目こそが、エネルギーの流れる導線になっているのではないか、と。

 

 

「ふん、このジョエル様に分解できない機械など存在しない。見てろ、必ずこのカラクリを丸裸にしてやる…。この黒ずんだダイヤが電池だとして、この綺麗なダイヤが未使用品だとして…」

「まるで時計の電池交換みたいねェ」

「そうだ。その通りだ…! どんなに未知の技術だろうと、原理は同じはずだ!」

 

 

 ジョエルはピンセットで慎重に、黒ずんだダイヤとヒビの入った綺麗なダイヤを摘み上げ、並べて比較している。彼の脳内で、無数の仮説が組み立てられては消えていくのが、その真剣な横顔から見て取れた。そして、不意に彼の動きが止まる。何かに気づいたようだ。

 

 

「もしこれが、劣化して使い物にならなくなった電池みてえなもんなら、一度外して、新しい電池に付け直せば…ひょっとして、もう一度、起動のタイミングと効果範囲を音声で入力すれば、正常に発動するんじゃねえのか?」

「すごいじゃない、ジョエル! 流石エース様ね…んん?」

 

 

 おっ、作業は順調そうだな。わたしは彼のそのひらめきに、うんうんと一人で頷き、満足げに微笑んだ。時計の電池を交換すれば再び動き出すように、このメデューサも、動力源であるダイヤを入れ替えれば再起動できる。あまりにもシンプルで、だからこそ真理に近い仮説だ。

 

 一流の職人は、やはり発想の起点が違う。これで、この厄介な装置の謎も、また一つ大きく解明へと近づいた。人類の勝利は目前だ。そう確信し、わたしが安堵のため息をつこうとした、その瞬間だった。

 

 

「1メーター、1セカンド…!!!」

「ちょっとナニしてんの!!?」

 

 

 視界の端で、ジョエルの様子に奇妙な違和感を覚えた。さっきまで、わたしが近くにいるせいで茹でダコのように真っ赤だった彼の顔。その赤みが、まるで血の気が引くようにすっと消え、不自然な灰色へと変色していく。あらら、石化装置起動しちゃえ祈りが届いちゃったかァ。

 

 

「あやべ指先だけのつもりが」

 

 

 それは見間違いではなかった。メデューサの部品を慎重に扱っていた彼の指先から、まるでインクが染み込むように、じわじわと石の色が広がっていく。わたし、思うんだ…ゆっくり過ぎない?? 

 

 

「ジョエルー!!?」

「……が……ぁ……」

 

 

 彼の口から絞り出された声は、もはやくぐもって聞き取れない。石化の侵食は腕を駆け上り、彼のトレードマークである赤髪も、職人の誇りが宿る首筋も、みるみるうちに硬質な石像へと変わっていく。驚愕に見開かれた瞳のまま、彼は完全に沈黙した。作業台の前で、ピンセットを握りしめたポーズのまま、完璧な一体の石像が完成した。

 

 あらら、やっちゃったか。わたしはその一部始終を瞬きもせずに見つめ、そしてわざとらしく両手で口を覆うと、女優ばりの甲高い声で叫んだ。

 

 

 きゃああああああああああああっ!!!?? 

 

 

「あんたねぇ! 人が石になってるっていうのに、何その楽しそうな悲鳴はーっ!!」

 

 

 南に叱られてしまった。ぴえん。




感想やお気に入り登録、高評価などをいただけますと、作者のモチベーションとなりますので是非よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。