皆さんごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス! 嘘は飛びきりの愛で有名な、美少女ちゃんでもあるぞ。
「うおっ! アレックス、いきなりどうしたんだ?」
「ハッ! また何か妙なことを考えている顔だな。企んでいるのか?」
「ククク、いつものことだろ。放っておけ」
…いや、少し訂正させてもらおう。皆さんごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス! 統括のアレックスとも呼ばれ、ゼロワンとも呼ばれる、天才ちゃんなのだ! じじ〜つ、もうひとりのわたしがそうだからだ! 皆さんご存知の、技術開発部のアレックスのことを指しているぞ。あいつの頭脳は本物だが、同時にうっかりちゃんでもある。
かつて旧世界のジブリ作品「天空の城のラピュタ」というアニメーションの名台詞「バルス」を、よりにもよって超高密度エネルギー圧縮実験の最中に口ずさんで、本当に施設ごとバルスしちゃってあの世行きしてしまった、という輝かしい経歴の持ち主だからな。
「オッホー! なんてこったい! とんでもないうっかりさんじゃな!」
「フム…並行宇宙の同一存在か。実にエレガントで非科学的で、興味深い話…おっと、ボクとしたことが。またしても、初めて知りましたよ反応をしてしまった」
「えーっ! そうなの!? 同じ顔で同じ名前なのに、そんな変態的な最期を遂げたアレックスがいるなんて、最高にクールじゃん! ごめん、不謹慎で!」
「うおおお! よくわからんが、仲間がたくさんいるというのは良いことだ!」
さて、誠に勝手ながら、これまでの出来事を語らせていただきたい。前回は確か…わたし達が総力を挙げてクラフトしたオフロードバイクとオフロード車で、南米大陸の岩だらけの荒野を見事に走破したところだったか。そこから話を始めようか。
「おう! あのバイク、ヤベェくらい速かったよな! 風になったみてえだったぜ!」
「ハッ! 確かに、あの鉄の獣の速さは大したものだった。わたしの足でも追いつけん」
「あのデコボコの地面をものともしないサスペンションの動き、変態的だったよね! 地理学者としてさいこうに興奮したよ! ごめん、うるさくて!」
「ワシらがゼロから作り上げた鉄の塊が、あんな風に大地を駆けるとはのう…! オッホー! 物作りはやめられんわい!」
知っての通り、我々は南米大陸を探検している最中にある。最終目的地は、3700年前に地球全土を覆った、あの忌まわしき石化光線の爆心地。その理由は、至極単純明快。「石化の正体を探るため」にある。全人類を石に変えたあの現象が、南米大陸の某所で発生した「祝! 世界規模で石化現象を包み込めることに成功!」という、ふざけた偉業であることが判明している。
ならばそこには「初代の石化装置メデューサ」。すなわち3700年前に人類を石化させ、文明を一度完全に滅亡させたアイテムが存在する可能性が濃厚だと推測されたからだ。その核心がそこにある以上、我々に行かないという選択肢はなかった。
「ククク、当たり前だ。科学使いとして、目の前に謎があるなら解き明かす。それが俺たちのルールだ」
「その通りだよ、Dr.千空。この世界の根源に関わる謎だ。これほどエレガントな研究テーマは他にない」
「ラスボスがいる場所がわかってるってことだろ!? 行かねえわけねえじゃんか! ヤベェほど燃えてきたぜ!」
理由は他にもある。人類の未来を切り開くためだ。石化という現象を科学的に解明し、制御下に置くことができれば、それは医療や資源問題など、あらゆる分野に応用できる可能性を秘めている。…とはいっても、不老不死など、わたしにとっては実に「くだらない笑」話だ。
『石化装置が人類の未来を切り開く?』などと聞けば、科学王国の誰もが満場一致で「見つけ次第すべて破壊」を徹底するだろうに。笑止千万である…何を隠そう、わたし自身が転生特典とやらで不老不死のマインクラフターになってしもうたんだよなァ。別に絶望はしていないが、皮肉なものだ。
「ハッ! 未来のためか。ルリ姉や村の皆が、もう二度とあのような目に遭わずに済むのなら、私はどこへでも行こう」
「そうだ! 皆を石化から完全に解放するためだ! 俺は、そのために100億倍働くぞ!」
「不老不死なんざ非科学的なもんに興味はねえ。だが、石化のエネルギー源を解明すりゃあ、100億年は文明を動かせるだけのパワーが手に入るかもしれねえからな。唆るぜ、これは」
「永遠の命より、永遠のエネルギー…フフフ、実に君らしい答えだね、Dr.千空」
さてと。…実をいうと、前置きが長くなってしまったが、我々はもうその最終目的地に到着してしまっている。
そして、わたしの目の前には、噂の初代石化装置が鎮座している。わおデカい。想像を遥かに超えて、デカい。
「う…うわああああ! なんだありゃあ! ヤベェ! ヤベェぞ! デカすぎるだろ!」
「オ、オッホー…! なんという大きさ、なんという造形じゃ…! 神の御業としか思えんわい…!」
「で、でかい…! 今まで見たどんなものよりも、でかいぞ!」
「うわー! 何このスケール感! 地球のプレートが隆起してできた山みたい! この存在感、変態的すぎるよ! ごめん、言葉が見つからない!」
「…これが、全てを石に変えた元凶…。なんという悍ましい気配なのだ…」
それは、もはや「装置」という言葉のスケールを逸脱していた。天を衝くほどの巨大な黒曜石の塔のようであり、同時に巨大な生命樹のようにも見える。無数のメビウスの輪が複雑に絡み合い、一つの巨大な構造体を形成しているのだ。その表面は滑らかで、まるで磨き上げられた金属のようでありながら、どこか有機的な温かみすら感じさせる。
びっしりと刻まれた幾何学模様の回路は、青白い光を絶えず明滅させており、まるで巨大な生命体が静かに呼吸しているかのようだ。美しい。だが、その完璧すぎる造形美の中には、明確な、そして悍ましいまでの敵意が内包されている。これは我々人類を拒絶し、淘汰するために生み出された存在なのだと、その佇まいが雄弁に物語っていた。
「ククク…なるほどな。こいつが3700年間、地球の主だったわけか。デカけりゃいいってもんじゃねえが、こいつは格が違う」
「…実にエレガントで、冒涜的なデザインだ。これを創り上げた知性は、我々とは全く異なる美意識を持っているようだね」
「こんなヤベーモン、明らかな脅威じゃんよ」
「ハッ! 見ているだけで気分が悪くなる。早く壊してしまいたいものだ」
そして、この悍ましい美の巨塔の周囲には、アマゾンのモンスター…もとい、危険生物たちを寄せ付けないための工夫がなされていた。道中、我々は軍隊アリの巣から大量のアリを捕獲し、それをアルコールで抽出した特殊なエキスを作り上げていたのだ。ほんのりと、しかし確実に食欲をそそるお出汁の匂いがする。まるでカツオ節のようだ。この最強エキスを身体に塗りたくることで、フェロモンに敏感なジャングルの捕食者たちを遠ざけることができる。
「うおおお! この匂い、腹が減る匂いだ! だが、これで安全ならいくらでも塗るぞ!」
「うげぇ…なんかベタベタすんな。でも、千空が言うならやるしかねえか」
「アリさんのフェロモンで他の虫を騙すってこと!? その発想、変態的じゃない!? ごめん、ちょっと面白い!」
ちなみに、このエキスを塗り忘れた一部のマインクラフターは、毒蜘蛛や毒蛇にまんまと噛まれて体力がハート半分まで削れたものの、すぐさま牛乳バケツを一気飲みして毒を無効化し、分厚いステーキをたいらげて満腹度をMAXにすることで、あっという間に全回復していた。さすがは創造主、生命力が違う。
「ハッ! 毒を受けておきながら、あの回復力…! マインクラフターというのは本当に頑丈なのだな!」
「牛乳のタンパク質が毒素を中和、分解しただけの合理t…だよな??」
「それにしても、あのステーキの食いっぷりは見事じゃったわい」
「俺も負けていられないな! もっと食って、もっと働くぞ!」
でだ。爆心地まで来るには、それはもう大変な道のりだった。…いや、訂正しよう。そこまで大変じゃなかったかもしれない。当初の計画では、アンデス山脈を超えるべく、現地で資材を調達して巨大なロープウェイや、山肌を滑り降りるウォータースライダーをクラフトする予定だったが、その必要はなくなった。代わりに、我々は「オスプレイ」を使ったのだから。
「オスプレイ! マジでヤベかったよな! 空飛ぶ船みてえでよ!」
「オッホー! あの複雑な機構を、このワシらが作り上げたとは…! 何度見ても信じられんわい!」
「垂直離着陸と水平飛行の両立…実にエレガントなエンジニアリングの結晶だ。スタン、君の操縦も見事だったよ」
「ふっ、そうかい」
垂直離着陸と高速水平飛行を両立させた、旧世界の輸送機。その再現は、まさに我々マインクラフターの真骨頂だった。軍事部という名の軍隊ごっこ大好き同好会の面々が、完璧な航空力学と軍事知識に基づいた設計図を引き。そして技術開発部がチタン合金のフレームから、カーボンナノチューブを織り込んだ複合材のローター。更にはジェットエンジンに至るまで、全てのパーツをゼロからクラフトした。
二つの部署の共同作業は、まさに芸術的だった。座標さえ分かれば、あとはこっちのモンとはよく言ったもので、オスプレイは我々を乗せて、アンデスの険しい山々をスイスイと飛び越えていった。
「眼下に広がる山脈の褶曲! 変態的に美しい! 空から見る地球って、本当にさいこうだね! ごめん、はしゃぎすぎ!」
「ハッ! 鳥の視点とはこのようなものか。世界は広いのだな」
「すごいぞ千空! 科学の力は本当にすごいんだな!」
「ククク、当たり前だ。これが科学の空のロードマップだ」
本当はネザーゲートを経由して、オーバーワールドの距離を大幅にショートカットしたかったのだが、灼熱地獄のネザーにマインクラフター以外の人間が入れば、多分全員が熱中症で数秒後には昇天してしまうだろうから、それはやめておいた。やはり創造主(マインクラフター)になってよかった。彼らのような、物理法則の不自由など無いからだ。……あれ、今の発言、もしかしてヒトに対する偏見やら差別やらしているかもしれない、わたし? …ま、ままままさかねぇ〜。
「ねざー…? 聞いたことのない言葉だな」
「なんだそりゃ!? もっとすげえ近道があんのか!?」
「テメーらが行ったら100億%黒コゲになる世界だ。忘れろ」
「フフフ…科学で解明できない領域の話は、また今度ゆっくり聞かせてもらうとしようか、Dr.アレックス」
「えーなになに!? 灼熱地獄!? 何その変態的な響き! 地理学者として興味しかないんだけど! ごめん、好奇心が!」
オスプレイを着陸させる場所どうすんのよ、という問題も、とっくの昔に解決済みだ。先行部隊として送り込まれたマインクラフターたちが、爆心地周辺の広大なジャングルを、数日間かけて完璧な平地に変えていたからだ。木を伐採し、地面を均し、川の流れさえも変えて作り上げた、広大な滑走路。やはり整地厨…いや、整地という行為は、すべての文明の基礎であり、すべてを解決する素晴らしい力を持つ人材(創造主)の成せる技だ!
「うおおおお! 見ろ! 何もない平地だ! すごい! これも仲間たちが作ってくれたんだな!」
「なんという仕事の速さじゃ…! これだけの土地を平らにするなど、ワシらだけでは何年かかることか…」
「ハッ! マインクラフターの力、恐るべし、なのだな」
「すっげえ! ここでやりてえ放題じゃねえか!」
そして今、我々はその整地された大地に陣取り、初代石化装置の破壊作戦を開始した。
「全門、撃ち方始め!」
「ククク、3700年越しの戦争だ。派手にぶっ放せテメーら!」
「エレガントに、そして跡形もなく消し去りたまえ」
号令と共に、大地が揺れた。現地で即席クラフトされた10門のTNTキャノン砲が火を噴き、圧縮されたTNTブロックの塊が、轟音と共に初代石化装置へと吸い込まれていく。同時に、これまた現地でクラフトされた戦車部隊が前進を開始。主砲が唸りを上げ、大口径の徹甲弾を次々と叩き込む。
上空では、同じく現地クラフトされた多数の攻撃ヘリ「アパッチ」がホバリングし、搭載されたチェーンガンから毎分数百発もの弾丸を雨のように降らせ、ロケットポッドからは無数のミサイルが炎の尾を引いて突き刺さる。
爆音、閃光、衝撃。文明の力が、3700年の時を超えて、人類の敵に牙を剥いた。
「いけええええええ! 俺たちの科学の力を見せてやれ!」
「オッホー! ワシの作った戦車が火を噴いておるわい!」
「ヤベェ! ヤベェぞ! 祭りみてえだ!」
「ハッ! 行け! 鉄の獣たちよ! あの忌まわしき塔を砕け!」
「うわー! この破壊力! 地形が変わっちゃうレベルだよ! 変態的すぎてさいこう! ごめん、興奮しすぎ!」
文明の総力を結集した猛攻は、ついに神の領域と思われた創造物に深々と爪を立てた。TNTの爆炎が黒曜石のような外殻を溶解させ、戦車の徹甲弾がその構造体に風穴を開け、アパッチから放たれる無数のミサイルが内部へと食い込んでいく。やがて、悲鳴のような金属音と共に、初代石化装置はその美しい均衡を崩し始めた。
「ククク、効いてる効いてる。どんなにデカくても、科学の前じゃただの的だ」
「やったか!? やったのか!?」
「まだだ! まだ完全に壊れてはいない!」
「美しいものが壊れていく様も、またエレガントだね」
よし! 破壊が成功したようだな。わたしは爆風を防いでいた腕を下ろし、もうもうと立ち上る黒煙の向こうに現れた闇を見据えた。うん? 空洞があるぞ…どうなってるんだ? 中に入ってみよう!
「行くぞテメーら! ラスボスのお出ましだ!」
「ハッ! 何が出てこようと、この私が斬り伏せる!」
「フフフ、いよいよ核心に触れるわけだね。実に楽しみだ」
「あんたってやつは…はしゃぎすぎんぜ? ゼノ」
「よしきた! 何でも運んでやるぞ!」
千空の「行くぞテメーら!」という号令を皮切りに、我々は慎重に、しかし迷いなくその内部へと足を踏み入れた。先陣を切るのは、軍事部のクラフターたちだ。彼らは旧世界の特殊部隊の教本から抜け出してきたかのように、完璧なフォーメーションを組んで前進する。20式小銃の銃口をあらゆる角度に向け、常に互いの死角をカバーし合いながら、一歩一歩、安全を確保していく。その無駄のない動きは、まさにプロフェッショナルそのものだった。
「クリア」
「頼もしい限りだね、スタン」
「うわ、この緊張感…変態的にゾクゾクする! ごめん、静かにします!」
「お、おい…なんか光ってねえか? 奥の方…」
「静かに! 何かがいるかもしれんのだぞ!」
わたしと千空、そしてコハク、ゼノ、スタンリー、チェルシーがその後に続く。コハクは既にナイフを両手に抜き放ち、ライオンのようにしなやかな足取りで周囲を警戒している。ゼノは興味深そうに、崩れた装置の断面構造を観察し、スタンリーはゼノの半歩後ろに付き、その瞳は内部の闇のさらに奥を射抜いていた。千空はと言えば、クククと不敵な笑みを浮かべ、その目は科学者としての飽くなき好奇心に爛々と輝いている。
「この断面…何層にも重なった複合素材か。やはり我々の知る物質ではないようだね」
「ああ。だが、作られたモンなら必ず構造がある」
「壁が光ってる! 地質学的にありえないよこれ! 変態! ごめん、つい!」
「ハッ! お前たち、少しは警戒というものをしたらどうなのだ!」
内部に足を踏み入れた瞬間、誰もが息を呑んだ。なんて広さだ。外見から想像していたような、機械が密集した無機質な空間では全くなかった。そこはまるで、巨大な聖堂か、あるいは異星の神殿を思わせるような、だだっ広いドーム状の大空間だったのだ。壁も床も、装置の外装と同じく、継ぎ目のない滑らかな未知の素材で作られており、自ら淡い青白い光を放っている。その光がドームの高い天井に乱反射し、空間全体を幻想的な光で満たしていた。
「オッホー…! こりゃあ…なんという広さじゃ…。外から見るよりずっと広く感じるわい」
「すっげえ! 秘密基地みてえだ!」
「天井が、高い…!?」
「この空間の作り方、ありえない! 変態的な建築技術だよ! さいこう!」
「しっかしよ。こんなヤベーほどデケェ初代石化装置が降ってきたなら、なんで21世紀の連中は直前まで気づきもしなかったんだ?」
「確かに、そうだね。NASA含め、どの天文台からも何も聞いていないな」
「元々この場所にあったと仮定しても、ステルスじゃなくとも見つかるもんだしな」
しん、と静まり返った空間に、我々の足音だけが奇妙に大きく反響する。空間の中央付近には、ぽつりぽつりと、まるで忘れ去られたかのようにいくつかの座席が設置されていた。しかし、このあまりにも広大な空間に対して、その数はあまりにも少ない。ひと〜つ、ふた〜つ、み〜つ。この広さには全く釣り合わないのだ。演出のためかにゃ?
「席…? ここで誰かが何かをしていたというのか?」
「コントロールルーム…と見るべきだろうね。だが、あまりにもミニマルすぎる」
「クククッ、ほとんどが自動化されてやがったってことだろうよ」
「罠の可能性もあるだろうな」
そして、それぞれの座席の前にはデスクがあり、その表面からは淡い光を放つホログラムの文字や、複雑な図形がいくつも浮かび上がっていた。まさにSFでしか見たことのない光景だ。わたしは、まるで博物館の展示物を見るかのように、その一つ一つのデスクを眺めて回った。
「ククク、こりゃあ唆るじゃねえか。旧世界のどんなスーパーコンピューターより高度なインターフェースだ」
「うおっ! これ、触れねえのに字が浮いてるぞ! 妖術か!?」
「なんとまあ不思議な…! どういう仕組みなんじゃろうか…!」
千空が興奮を隠しきれない様子で、ホログラムに手をかざしている。ゼノもまた、「実にエレガントだ。このUI設計、そして空間の使い方…我々の科学とは根本的な哲学が違うようだね」と感嘆の声を漏らした。
「ハッ! よくわからんが、気味が悪いことだけは確かだな」
「この情報の表示の仕方、変態的に洗練されてる! 私の脳内地球儀もアップデートされちゃうかも! ごめん、意味わかんないよね!」
「おい千空! これ、どうなってんだ!?」
「クククッ、空気中の微粒子か何かに、光を投影してやがるんだろ」
その時、わたしの目に、ある一つの表示が飛び込んできた。数あるホログラムコンソールの中で、ひときわ大きく、そして警告色であるかのように赤く囲われた表示。この赤く囲ってあるホログラムは何だ? その形状は、どう見ても「押してください」と言わんばかりの、シンプルなボタンの形をしている。他の複雑なデータ表示とは明らかに異質で、強い存在感を放っていた。
「あ! アレックス! そのボタン、超目立ってない!? 絶対重要なやつだよ! 押してみなよ!」
「待て! 迂闊に触るな! 何が起こるかわからんのだぞ!」
「で、でもよぉ…あんなの見たら、押しちまいたくなるのが人情ってもんだろ!」
わたしは、まるで磁石に引き寄せられる砂鉄のように、その赤いホログラムボタンへと歩み寄った。見るからに、何か重要な機能を持つボタンみたいだ。押してみよう。
「フム…興味深いね。一種のトラップか、あるいは緊急停止装置か」
「おい、アレックス。テメー、まさか…」
千空がわたしの意図を察して制止の声を上げようとしたが、もう遅い。好奇心という名の衝動は、いつだって理性に勝るのだ。日本人の特権と思ったら大間違いである。わたしは悪戯っぽく笑いながら、迷わずその赤いホログラムに指を伸ばし、そっと押し込んだ。
「あっ! こら!」
「うおお! 押しやがった!」
「きゃー! その行動力、変態的にクール! ごめん、何が起きるかな!」
「おおお…!」
「アレックスが押したぞ!」
わたしの指は、実体がないはずの光のボタンを、まるで柔らかな水面に触れるかのように、確かに押し込んだ。その瞬間だった。
しん、と静まり返っていた空間に澄んだ、しかしどこか物悲しい電子音が響き渡った。その信号は光の速さで空間を駆け巡り、大気圏を突き抜け真空の宇宙を渡り、はるか38万キロ彼方の月へ…つまりホワイマンへと到達した。えっ、ホワイマンってマジ?
『…Vex'naal korr'va. Xy'thos rha'zhaad. Æccess n'gath'khor… Ktharr'naa, Ktharr'naa!』
突如、わたしが押したボタンのあったデスクのホログラムが激しく明滅を始め、先ほどまでとは全く異なる、無機質で冷たい合成音声のアナウンスがドーム全体に響き渡った。それは、誰かに警告するというよりは、ただ定められたプロトコルを読み上げているかのような、感情の無い声だった。何語だこれ??
『Khor'vash Tyr'naa, V'ragg zhaal'raaz. K'thos zy'tharr'naal. V'yyr'shaa! Kh'or'thuum "Zhaal'gorath"… K'tharr v'raaz'naal!』
アナウンスと共に、ホログラムには巨大な蜘蛛を彷彿とさせる、禍々しいシルエットの機動要塞の姿が大写しになった。そして、その横には地球の立体地図が表示され、一つの赤い点が、驚異的な速度で今まさに我々がいるこの場所へと向かってきていることが、誰の目にも分かりやすく示されていた。その赤い点の移動速度から計算されたであろう到達までの予測時間が、無慈悲なカウントダウンとなって表示されている。
「ハッ! 何だか知らんが、とんでもないものを呼び出してくれたようだな!」
コハクが戦闘態勢に入り、その瞳に鋭い光を宿す。ゼノはエレガントに眉をひそめながらも、その口元には楽しむかのような笑みが浮かんでいた。
「…なるほど。これは実にエレガントで、そして過激な防衛システムだね。ボクたちの想像を遥かに超えている」
「防衛ライン構築するなら、初代石化装置の周り囲っちまえばいいじゃんよ?」
「そうしたほうが良さそうだね。いっそのこと、創造主に頼んで改築してもらおうか」
「永遠のエネルギー云々は?」
「すまないスタン。ボクは日本語しか喋れないから、君の言っていることが全く理解できないんだ。嗚呼、悔しいかな悔しいかな」
「バリッバリに英語デキてんじゃねえか??」
スタンリーは既に銃を構え、その銃口は空洞の入り口へと向けられている。軍事部のクラフターたちも、即座にドームの入り口付近に迎撃態勢の防衛ラインを構築し始めた。千空は絶望的な状況であるはずなのに、その顔には恐怖の色など微塵もなく、ただただ楽しそうに、いつものように不敵に笑っていた。
「クククッ! 面白ぇことになってきやがった! 3700年越しの置き土産が、ただのガラクタじゃねえってことかよ!」
「なんだかわからんが、敵が来るんだな! よし、全員俺が守る!」
「デストロイヤー!? 面白くなってきたぜ!」
「機動要塞!? 何それ、SFじゃん! 変態的にカッコいい名前! さいこうにヤバい状況だけど、さいこうにワクワクするね! ごめん、不謹慎で!」
あらやだ、どうしましょう。わたしは、迫り来る赤い点が表示されたホログラムを眺めながら、こともなげに呟いた。どうやら、とんでもなく厄介で、最高に胸が躍る化け物を、またしてもこの手で目覚めさせてしまったらしいわ。
元の文と翻訳 1:
『…シグナル、受信。発信源データを照会。マスター権限の無い、未登録ユーザーによる不正アクセスを確認…警告、警告』`《…Vex'naal korr'va. Xy'thos rha'zhaad. Æccess n'gath'khor… Ktharr'naa, Ktharr'naa!》`
元の文と翻訳 2:
『防衛プロトコルに基づき、脅威と認定。対象座標を物理的に排除します。ただちに退避してください。機動要塞デストロイヤーが、ここを破壊します』`《Khor'vash Tyr'naa, V'ragg zhaal'raaz. K'thos zy'tharr'naal. V'yyr'shaa! Kh'or'thuum "Zhaal'gorath"… K'tharr v'raaz'naal!》