クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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時間は進む。
アニメ第二話に!


KING OF THE STONE WORLD
この男は、何者か──


「ふぅ、今日も天気が心地いいなァ〜」

 

 クスノキの太く頑丈な枝に腰掛け、心地よい木漏れ日の中で昼寝をしながら、アレックスは思う。ここ最近晴れの日が多い気がする。《くらふたーのせかい》でもそうだったと、朧げな記憶が告げていた。のんびりとした時間が流れ、午後の気だるさが彼女を包み込む。

 

「フッ、わたしがいなくても大丈夫だろ」

 

 実のところ彼女がこんな場所でのんびりしている本当の理由は、単なるサボりである。拠点で真面目に働く仲間たちには少し申し訳ないが、たまには息抜きも必要だ。

 

 そしてもう一つ──最近どうも、杠の視線が少し怖いのだ。

 

 何か、悪いことでもしただろうか。アレックスは必死に記憶の糸を手繰り寄せてみる。そうだ。創造主としての規格外の能力を振るっては、仲間たちからツッコミを入れられ、いつしか彼女のことを内心で『ツッコミの杠』と呼称していた。もしかして、それがバレたのだろうか。

 

「わからん」

 

 他にあるとすれば、数日前の大樹が風邪を引いた時の出来事だろう。

 

『どうしたの大樹くん大丈夫?』

『ああ、なんだか体の調子が良くないみたいなんだ。怠くて寒気がするような…?』

『触んぞデカブツ。…バリバリの風邪だな。熱もある』

 

 あの時の大樹は本当に辛そうだった。マイクラの世界で言うなら、体力が徐々に削られていく衰弱のバッドステータス状態だったに違いない。

 

『大樹くん、ベッドで安静にしててね。…千空くん』

『鎮痛剤の用意は出来ねぇ。設備が無いんじゃな。漢方になっちまうが…アレックス?』

『どっどうしたの? アレックスさん?』

 

 心配そうに見守る二人を他所に、アレックスは衰弱した大樹にずいと近寄り、スニーク姿勢で彼の顔をマジマジと観察していた。瞳孔の開き、呼吸の速さ、肌の色つや。これはもう、やるしかない。アレックスは人助けのためだと覚悟を決めた。

 

『アレックスさん、それって…』

『牛乳だよな…?』

『安心しろ、二人とも。見ててくれ──全てを終わらせる』

 

 だから、アレックスは実行したのだ。異常状態を正常状態に戻すための、マインクラフターとしての絶対的な正義を…。

 

『ゴプッ!? ゴボボボッ!?!?』

『だっ、大樹くんー!?!?』

『ナニやってんだテメー!?!?』

『どうどう、落ち着くんだ皆!』

『『落ち着けるかァァアアー…ッ!!!』』

『えぇ…? わたし困惑…』

 

 アレックスはインベントリから取り出した牛乳バケツを、大樹の口に躊躇なく流し込んだ。状態異常の際はコレだとマイクラの世界では相場が決まっているのだ。

 

『安心してくれ大樹は助かった』

『…ゴフッ! …あれ? 体が全く怠くない寒くも無い…治ったぞォォオオー!!』

『大樹くん…よかった、よかったよォー! …千空くん!』

『ああ! …アレックス、テメー正座しやがれ!!』

『えぇ…?』

 

「わたしって、何か悪い事したかな?」

 

 アレックスはムムっと唇を尖らせる。

 

(大樹を救ったというのに、そこまでこっ酷く説教することはないじゃないか。現に彼は、ピンピンしているのだから)

 

「先生の時もそうだったかも」

 

 あれはまだ文明が栄えていた頃、学校の放課後の出来事だった。

 

『──まだまだ体は元気とはいえ、いつまで保つか。ワシはあの娘を…』

 

 夕日に染まる教室で、恩師のシルファが誰に言うでもなく黄昏れていた。

 

『先生』

『おぉ!? あっアレックス!? いたのか!?』

『いた』

『そっそうか。きっ聞いていたのか?』

『何も。にしても最近元気が無いようだが?』

『…いや何なんでもないぞ。ワシは元気いっぱいじゃ。それよりどうしたのじゃ?』

 

 明らかに元気がないのに元気があると嘘をついた先生に、アレックスは善意から牛乳を飲ませた。

 

『はい元気にな〜れ♪』

『なん…ゴプッ!? ゴボボボッ!?!?』

『さぁ先生! これで元気になるんだよォォオオー!!』

『ゴホゴホッ!? ア…アレ…ゴボボボッ!?!?』

『フッ、これで先生は…先生? 大丈夫先生? そっそんな…メディック、メディックー!!』

 

 こうして元気になった先生に褒められる…はずが、ものすごい剣幕で説教されてしまった。解せぬ。

 

『草むしりせい!!』

 

 罰として、広大な先生の家の庭の草むしりをさせられたのだ。今思い出しても理不尽極まりない。

 

 そうだ。思い出したことがある。先生の家には、本物のライオンがいたのだ。ペットとして一緒に暮らしていると聞いた時は、心底驚いたものだ。日本じゃまずあり得ない光景だった。

 

(そうそう、ライオンといえばだ。ちょうど茂みの影から、こちらを覗いて…うん?)

 

「覗いている?」

 

(ライオンがわたしを? ……マジで?) 

 

 アレックスが枝からひらりと飛び降りると、茂みから──百獣の王ライオンが、ゆっくりと姿を現した。

 

「ライオンだ!」

 

 アレックスは恐怖よりも好奇心が勝り、喜び勇んで雄ライオンのもとへ駆け寄った。

 

(おぉマジか! 動物園でしか見られないライオンが、今自分の目の前にいる!)

 

「ほうほう〜」

 

 彼女は、ライオンをマジマジと観察してみる。流石は百獣の王と呼ばれるだけある。その黄金の立髪、鋭い眼光。そして、鍛え上げられた筋肉。威風堂々としたその佇まいは、まさに圧巻の一言だった。

 

 アレックスはライオンの正面に立つと、その大きな顔とふさふさの立髪を恐れることなくそっと触る。最高だ。そんな中、ふと疑問が湧いてきた。

 

「ライオンって撫でたら喜ぶかな?」

 

(いや考えるまでもない。きっと喜ぶに決まっている!)

 

「よしよし、イイ子だな」

 

 そう言って、頭を撫でようとしたその時だった。

 

 ライオン「ドゥオヲォ──ン!!」

 

 アレックス「うわビックリした」

 

 ライオンが地を揺るがすほどの雄叫びを上げた。なんなら、その鋭い牙で噛みつこうともしてきた。どうしたんだろうと、首を傾げた時だった。ぞろぞろと多数のメスライオンが、雄ライオンの後ろから姿を現したのだ。

 

「ハッ、ハロ〜?」

 

 目を丸くするアレックス。

 

(ナニコレ聞いてない。まさか団体様だったなんて。とりあえず、当たり障りのない挨拶をしてみよう)

 

 ライオン『ドゥオヲォ──ン!!』

 

「あ、ダメみたいですね」

 

 アレックスは一歩また一歩と静かに後ずさり、そして──次の瞬間、全速力でその場から逃げ出した。

 

「うおおー!?」

 

 脱兎の如くアレックスは走り去っていく。一体何がダメだったというのだ。ライオンは友好的なモブじゃなかったのか。

 

 逃げる。彼女はとにかく逃げた。しかし、気づけば目の前には、切り立った崖がそそり立っていた。

 

(うわ普通に高いな)

 

「後ろを振り向けばぁ〜『ドゥオヲォ──ン!!』…団体様ですね、どうもありがとうございます」

 

(だが、自分はここで終わるようなタマじゃない!)

 

「さらば!」

 

 アレックスは覚悟を決めて、崖から飛び降りる。ぐんぐん落下し地面に到達せんとするが、インベントリから取り出した水バケツを利用したことで、ダメージ無しでの華麗な着地に成功した。

 

「よし成功」

 

 アレックスは崖の上で見下ろしているライオンの群れに振り返ると、ニチャァ〜っと悪戯っぽい笑みを浮かべて煽ってみせた。

 

「来れるもんなら来てみろ!」

 

 And time passsed(そして時は経ち)

 

『ドゥオヲォ──ン!!』

 

「あらま」

 

 背には退路を断つ、大木と石化した一人の男。眼前には回り込んできた多数のライオン。アレックス、絶賛大ピンチ中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 アレックスは今、目の前の光景にただただ絶句していた。

 

「…」

 

 言葉が出ない。先のライオンの群れに、完全に包囲されているという絶望的な状況よりも、彼女が最後の手段として咄嗟に復活させた男が為したその超常的な行いに、完全に思考が停止していたのだ。

 

 アレックスが伝えた断片的な情報を、瞬時に正確に理解したその男は、自分よりも遥かに大きな体躯を誇る雄ライオンを、たった一撃のもとに沈めてみせた。武器も使わず、ただのグーパンチでだ。ごうっと風を切る音がしたかと思うと、百獣の王は悲鳴すら上げることなく、その巨体を地面に沈めていた。

 

 コイツは絶対に人間じゃない! アレックスは戦慄した。

 

「詳しい説明は…うん、ゆっくり聞くよ。ただ一つ約束する。君には、もう二度と危険ってやつは訪れない。これからは、この俺が戦うからだ」

 

 静かだが、絶対的な自信に満ちた声が響く。風に靡く長い髪。彫刻のように整った顔立ち。生まれたままの裸の姿でありながら、少しも臆することのないその堂々とした佇まい。そして、筋肉は無駄なく極限まで練り上げられている。それはまさしく、至高の領域に近い完成された肉体美だった。

 

 残ったライオンたちを睥睨し仁王立ちするその男の姿を見て、アレックスはただ思う。この男は一体何者か──と。その圧倒的な存在感は、彼女が知るどんな生物とも異質であり、神秘的ですらあった。




作者、最高司祭アドミニストレータでございます。

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