クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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作者の最高司祭アドミニストレータです。まず、経緯を説明させてください。投稿こそしてないのですが、私は「小説家になろう」にもアカウントを持っております。そのメッセージに、こんな内容のものを受信しておりました。

メール【突然すみません、お願いがあります】
作者「おっ、なんだ? ハッ、まさか、一次創作の勘違い小説『俺以外の奴が死ぬのはどうでもいいが、俺が死ぬのは絶対に嫌だ』の書籍化してもよいかDM…!?(ワクワク)」
メール【ハーメルンの『進撃の巨人の二次創作(ここに作品名)』という作品に最低評価を付けてもらえないでしょうか?】
作者「ん???(困惑いっぱい)」 

これって、多分どころか100億%ダメな行為でしたよね? こんなストレートにメッセージして来てるものですから、思わずお茶を吹き出してしまいました。当該小説を書かれてる作者様には、既にメッセージ送信済みです。事が事ですからね。

さて、これは忘れて、本編の方に移りましょう。


七海SAIとコンピュータ

 ロケット開発。それは人類(全員ではないけど…)がストーンワールドに復活してから、再び星の海へと手を伸ばすという、あまりにも壮大で、あまりにも無謀な挑戦。その輝かしい目標を達成するため…我々はインドにやって来た…!!!

 

 そう、すべては…全人類を救うという我らが計画のために! 

 

 …いかんいかん。今一瞬、頭に変な計画がよぎってしまった。「人類補完計画」だなんて。ダメだ。私は大嫌いなんだ、それ。全人類が溶け合って一つになるなんて個性の否定、生命への冒涜じゃないか。そんな計画、もしこの世界に実在したら、わたしが先頭に立ってぶっ壊してやる! 人間をオレンジジュースもどきのLCLに還元パシャして、魂だけ回収するなんて、絶対にあってはならないことだ…。

 

 もちろん、旧世界の創作物として『観てる分には楽しめるからイイんだけどォ〜? 現実でやられたら堪ったもんじゃないというかァ〜? でも、あの巨大な人型兵器が機能停止することとか、使徒が空から降ってくるとかは、ちょっと再現してみたいよねって感じィ〜?』と、我が技術開発部を統括せし前世アメ〜リカ出身のアレックス03が、ギャル口調で宣う気持ちも、マインクラフターとしては痛いほど分かる。分かるけど、断じて違うのだ。

 

 我々の目的はどこまでもシンプルで、どこまでも純粋な「全人類を石化から復活させよう計画」なのだから。そのようなロマン溢れる計画は、たとえ再現したくても、世界の調和を乱す「荒らし」に成り下がるから断固却下! つまり、『巫山戯るなァァァァ!!!!』だ。我々は、一人ひとりが個として輝く未来を創るのだ!

 

 さて、インドに来た目的を、改めておさらいしておこうか。それは、ロケットを宇宙へ飛ばす上で絶対に避けては通れない、巨大な壁を乗り越えるためだ。その壁とは、コンピュータ無きこの世界で、どうやって複雑怪奇な宇宙航法の計算を行うのか、という問題である。その答えこそが、【数学の街でSAI(Super Alloy Intelligence)を創設する】という、千空とゼノが導き出した一つの解だった。

 

 もう少し素人さんにも分かりやすく解説しよう。ロケットを飛ばすというのは、ただ真っ直ぐ上に打ち上げれば月に着く、なんて簡単な話では断じてない。

 

 まず考えなければならないのが、【宇宙軌道計算】だ。地球は自転している。月は地球の周りを公転している。そして地球と月は、太陽の周りを公転している。つまり、目標である月は常に動いているのだ。動く的を、動く場所から撃ち抜くようなもの。しかも、その間には太陽や他の惑星からの引力という、目に見えない無数の力が働いている。これらの複雑な要素を全て計算し、最も燃料効率が良く、最も安全な航路を導き出す必要があるのだ。

 

 厄介なのが、【三体問題】と呼ばれる悪魔の計算だ。地球、月、そしてロケット。この三つの物体が互いの引力でどう影響し合うのか。これは、旧世界のスーパーコンピュータですら、完全な解を出すのが困難だった超難問。我々はこの難問に、人間の頭脳だけで挑まなくてはならない。

 

 そして、無事に月に到達した後の帰り道、【再突入計算】という最大の難関が待っている。地球の大気圏に突入する角度が浅すぎればロケットは弾き返されて宇宙の藻屑となり、深すぎれば燃え尽きてしまう。許される誤差は、ほんの数度。その完璧な角度と速度を、事前に計算し尽くさなければならない。

 

 最後に、航行中の【姿勢制御と燃料最適化解析】。ロケットは常に、完璧な向きを保ち続けなければならないし、限られた燃料を1グラムたりとも、無駄にはできない。どのタイミングで、どのエンジンを何秒間噴射すれば最適なのか。その答えを、リアルタイムとはいかずとも、膨大なシミュレーションによって事前に導き出す必要があるのだ。

 

 これら全てを、コンピュータなしでどうやって? 

 

 答えは、力技だ。大学の生徒や教授、研究所の研究員、金融アナリスト…。旧世界で「計算」を生業としていた、優秀な頭脳を持つ者たちを、このインドの地で集中的に復活させる。そして、彼ら一人ひとりをコンピュータのCPUに見立て、一つの巨大な「人力シミュレーション機関」を組織するのだ。

 

 この天才数学者たちを集めて創設される統計都市、そして彼らの頭脳の集合体こそが、【SAI(Super Alloy Intelligence)】。「超合金知性」とでも訳そうか。まるで様々な金属を混ぜ合わせて一つの強靭な合金を創るように、多様な天才たちの知性を結集させ、宇宙航法という難問を理論面でクリアせんとする、壮大な試みなのだ。

 

 まあ、ぶっちゃけるとだ。

 

 宇宙には3700年間たった一人でISSを守り続けてきた、超高性能AIのREIがいるのだから、そもそもこんな回りくどい「数学の街」作りなど、しなくともよいのかもしれない。彼女の計算能力を使えば、三体問題だって一瞬で解けてしまうだろう。

 

 だが、それでも、この街は未来のために絶対に必要なのだ。これは、千空やゼノも同意してくれた。人類が一度失った科学を再び自らの手で、一段一段積み上げていく。その経験こそが、この先の文明復興において何よりも重要な礎となるのだから。…と、まあ、これが表向きの理由。

 

 本音を言うと、わたしが「ISSもREIも、その存在自体を千空たち科学王国は知らない」というこの状況が、面白くて面白くて仕方がないから、という理由が大きい。彼らが必死で人力コンピュータを組織しているその頭上で、本物のAIが「唆りますね、ヒャッホイです」なんて言いながらラーメンを啜っている。この壮大なすれ違いコント、最高のエンターテインメントじゃないか! 本当にラーメン啜ってたら笑える。

 

 いつか真実を明かした時の、彼らの驚く顔を想像するだけで、ニヤニヤが止まらない。だから、「数学の街作りは、人類の未来のために絶対必要だよ!」と、わたしは熱弁を振るったのだ。あやべ、思い出し笑いでまた口元が…。

 

 

「「「100万人分の頭脳の天才SAIが、龍水の兄だってー!!?」」」

「いやだから僕は! そんな天才とかじゃないんだって! 龍水が勝手に言ってるだけだから、昔から!!」

 

 

 ゴホン。その数学者の頂点たる男、七海SAIについて、このわたしアレックスがナレーションしておこう。我々が復活液で甦らせたSAIは、子供の頃から10年以上インドに住んでたらしい。日本人とインド人のハーフだそうで、その容姿は弟の七海龍水とはまた違った魅力を持っている。身長181cmとスラリとした高身長で、髪の色は陽に焼けたような焦げ茶色。龍水よりも彫りが深く、どこか憂いを帯びた瞳が特徴的だ。

 

 イケメンだぜヒャッハー! これはもう押し倒…おっと、危うくこの物語のレーティングを上げるところだった。

 

 

「だから龍水、大袈裟なんだよ君は。僕が天才なら、世の中は天才で溢れ返っている」

「ハッハー! 謙遜するなSAI! 貴様の頭脳は100万人力! この俺が保証する! 違うか?!」

 

 

 年齢は知らんが、大学で講師をしていたってんだから、龍水より年上なのは確定だ。だって見た目からしてそうじゃないかwww…おっと、この思考を口に出したら、ご本人様から綺麗なストレートパンチを頂戴してしまった。イケメンからのご褒美、痛みすら快感だぜ!

 

 男女平等を貫き、容赦なく殴ってくれたことに感謝。「おっふ♡」なんて声を出させてくれたSAIに、心からの感謝を。あとで特製のインドカレーを作ってあげよう。フランソワが。

 

 SAIは自分のことを「数学者」と呼ばれることに、どこか抵抗があるみたいで、「プログラマーだ」って自己紹介し直していた。この一言からも、彼の数学やプロミングに対する、ただならぬこだわりとプライドが感じられる。

 

 特に、この七海龍水とその兄SAIの関係は、ただの水と油ってだけじゃない。その裏には、深い絆やら複雑な家族の歴史やらが、ドロドロと渦巻いているようだった。だから、この二人の兄弟の関係について、わたしが見聞きし、観察した範囲で、ちょっと深く掘り下げてみようと思う。

 

 SAIと龍水の子供時代は、七海財閥っていうクソデカい家の中で、かなり特殊な立場にあったみたいだ。二人が話していた思い出の多くは、龍水の無茶苦茶な「欲しい」っていう一言に、SAIがその天才的な頭脳を無理やり使って付き合わされる、っていう構図が中心だった。

 

 龍水が「裏庭にF1が見れるレース場が欲しい!」と言い出せば、SAIは徹夜で最適なコースレイアウトと構造計算をする羽目になり、またある時は「太平洋を横断できる帆船が欲しい!」と喚けば、SAIは流体力学と天文学の知識を総動員して、子供の落書きレベルの設計図を現実的な航行計画にまで昇華させられた。

 

 これが、彼らの日常茶飯事だったらしい。この経験がSAIにとっては一種のトラウマになっていて、石化から復活して、真っ先に龍水の顔を見た途端、全力で逃げ出したっていうんだから、その深刻さがうかがえる。

 

 面白いのは、龍水の方には、兄に「強制」しているっていう意識が全くなかったことだ。彼にしてみれば、これらの共同作業は、ただ兄の圧倒的な才能を尊敬し、一緒に何かをデカいことを成し遂げる喜びを分かち合いたいっていう、クソ純粋な気持ちから来ていた。龍水は損得勘定なんて抜きにして、ただただSAIと一緒に遊びたかった、ってわけだ。まあ、その遊びのスケールが地球規模だっただけで。

 

 幼い頃から、このすれ違いのパターンが繰り返されて、互いを理解しようとしながらも、決定的にズレ続けるっていう、なんとも複雑な兄弟愛が形作られていったんだろう。

 

 SAIと龍水は、性格もマジで正反対。内向的で、自分の好きなこと、特に数学やプログラミングにしか興味がないSAI。彼にとって純粋な知的探求こそが生きがいで、権力だの富だのにはマジで無関心。一方の龍水は、「欲しい」が口癖の強欲の化身。欲しいものはどんな手を使っても手に入れるっていう、超絶行動派。外交的で、自信満々で、世界の全てを自分のものにしたがる。

 

 この違いは、二人が七海財閥で居場所がなかった時の行動にも、はっきりと現れている。SAIは静かにインドへと「逃げる」ことを選んだけど、龍水は「欲しい」ものを手に入れるために積極的に動き回って、最終的には財閥そのものを「乗っ取ろう」とさえ考えていたらしい。ヤバすぎだろ。

 

 そもそも、二人は七海財閥の一族でありながら、その立場は超微妙だった。実は、七海家の正妻の子じゃなくて、妾の子どもだったそうだ。一族の集合写真では、いつも二人だけがフレームの外に追いやられていたっていう話は、流石にちょっと同情した。

 

 SAIの数学の才能は、子供の頃からズバ抜けていて、財閥の連中は、その能力を金儲けに利用しようと、保険数理士として育てようとしたらしい。でも、SAIはそんな道には全く興味がなくて、結局、自分の居場所を見つけられずにインドへ逃げた。

 

 龍水も、その規格外の才能から跡継ぎ候補として期待されたけど、性格が破天荒すぎて「問題児」扱い。まあ、本人はそんな評価、屁とも思ってなかったみたいだけど。フランソワっていう超有能な執事をゲットして、着々と自分の牙を磨いていたんだから、したたかなもんだ。

 

 

「…だから僕は、君が苦手だったんだ、龍水」

 

 

 おっと、始まったぜ。七海兄弟による、感動(?)の再会ドキュメントだ。復活させたSAIが、弟である龍水から逃げ回っていた理由を、今まさに告白しようとしている。わたしはというと、陰からゲンやスイカと一緒にこっそりその様子を窺っていた。こういう人間ドラマは、最高のエンターテインメントだからな! 

 

 SAIはどこか遠い目をして、静かに言葉を続けた。彼の声には、長年の諦めと、ほんの少しの寂しさみたいなものが混じっていた。

 

 

「君の『欲しい』は、いつだって僕を巻き込む。僕の平穏を、僕の数式の世界を、いとも簡単に壊していくんだ。僕はただ、誰にも邪魔されず、静かにプログラムをしていたいだけなのに。君はいつも、それを許してくれなかった」

 

 

 うわーお、これはまた、積年の恨みつらみが籠もってるねェ。まあ、気持ちは分からんでもない。わたしだって千空の科学的無茶振りに、何度レッドストーン回路をショートさせそうになったことか。ショートなんてしないけど、ショートしたことにしよう。天才の隣にいるっていうのは楽じゃないんだ、マジで。SAIのやつ、ずっと苦労してきたんだな…。

 

 

「…そうか。貴様にとって、俺との時間は『強制』された苦痛だった、というわけか」

「…」

 

 

 龍水が、いつもの「ハッハー!」という高笑いを完全に封印して、真剣な顔で兄を見つめている。あんな神妙な顔の龍水、初めて見たかもしれん。ただの底なしの強欲船長じゃなかったんだな。見直した。

 

 

「なら一つだけ言っておく。俺は貴様に、何かを強制したことなんぞ、ただの一度も無い」

「なんだって…? レース場も帆船も、全部君が言い出したことじゃないか」

「ああそうだ! だが俺は、貴様に命令はしていない!」

 

 

 龍水の声に、今まで聞いたこともないような熱がこもる。なんだなんだ、ただの兄弟喧嘩かと思ったら、案外シリアスな展開になってきたぞ。

 

 

「俺はただ純粋に貴様と…貴様と一緒に、デカいことをやりたかっただけだ! 貴様のその頭脳が描き出す未来が、俺は何よりも見たかった! 貴様が計算し、俺が舵を取る! それは世界で最も刺激的な冒険だと、今でも信じている! そこに打算など、欠片も無い!」

 

 

 …なんだよ、ただのクソデカい感情を抱えたブラコンか! 

 

 龍水の剥き出しの言葉。それは、弟が兄に向ける、不器用で、あまりにも真っ直ぐな憧れそのものだった。利用してるとか、そういうんじゃない。ただ、唯一無二の兄弟である自分と、同じ夢を見て、同じ船に乗って、世界の果てまで行きたかっただけなのだ。うーん、熱い! 熱いぜ! 

 

 SAIの目が、僅かに見開かれたのが分かった。彼はずっと、自分は龍水に才能を「利用」されているだけだと思っていたんだろう。でも、違った。龍水はただ、たった一人の兄と、同じ冒険を楽しみたかっただけ。その不器用な愛情表現が、この長年のすれ違いを生んでいたのか。やれやれ、男同士の友情やら兄弟愛ってやつは、面倒くさくて、だからこそ見ていて飽きない。

 

 

「…嗚呼、そうか。そうだったのか。君は、ずっと…」

 

 

 SAIの口から、微かな声が漏れる。長年の誤解が、インド洋の潮風に溶けていくのが見えた。

 

 

「…うわーお、ジーマーでバイヤーな兄弟愛、見せつけられちゃった感じィ?」

 

 

 げっ! いつの間に背後にいやがったんだ、このコウモリ野郎! 物陰からひょっこり顔を出すゲンに、わたしは思わず飛び上がりそうになった。

 

 

「兄弟って、いいんだよ…! 尊くて、『おっふ』なんだよ!」

 

 

 その隣では、スイカがヘルメットの中で滝のような涙を流していた。お前ら、雰囲気ぶち壊しだよ! …いや、でも、このままじゃ湿っぽくなるだけだったし、いい仕事してるか。

 

 

「…龍水」

 

 

 SAIは弟に向き直ると、ふっと、本当に穏やかな、憑き物が落ちたような笑みを浮かべた。

 

 

「僕の頭脳を、君たちの『欲しい』のために使おう。いや…僕がそうしたい。ロケットを飛ばすという、君たちの途方もない冒険に、僕も乗せてくれ」

 

 

 おし! SAIがやる気に満ちだだけでなく、科学王国の仲間入りを果たしたぞ! これで役者は揃った。人力計算という、ある意味でロマン溢れる脳筋プランも良かったが、やはり文明復興を謳うからには、避けては通れない道がある。そう、電子の頭脳──コンピュータ作りの始まりだ! 

 

 SAIという最高のプログラマー兼数学者が加わったことで、千空とゼノの頭の中にだけあった設計図が、ついに現実のものとなる時が来たのだ。もちろん、技術開発部もこの歴史的クラフトに参加だ! 

 

 

「クククッ、まずは原点回帰だ。ケータイ作りで嫌というほど作った、こいつから始めるぞ」

 

 

 千空がピンセットでつまみ上げたのは、手のひらサイズのガラス管──真空管だった。コンピュータの最も原始的な構成要素、スイッチングと増幅を行うためのパーツだ。

 

 

「オッホー! ガラス細工なら、このカセキに任せるんじゃ!」

 

 

 カセキが、息を吹き込んで次々と寸分の狂いもないガラス管を成形していく。その横では、杠が持ち前の手先の器用さで、髪の毛よりも細いタングステンのフィラメントを、ガラス管内部の電極に寸分の狂いもなく巻き付けていた。

 

 

「1個や2個じゃねえ。何千、何万個と必要になる。おい、お前ら! 量産開始だ!」

 

 

 千空の号令で、技術開発部のクラフターたちが動き出す。彼らは一度見たものを完璧に再現する能力に長けている。かまどでガラスを溶かし、作業台でフィラメントをクラフトし、驚異的なスピードで真空管のレプリカを組み上げていく。まさに神業の工業化だ。

 

 

 だが、ラボの隅でその光景を眺めていたSAIが、静かに首を振った。

 

 

「千空、杠。この方法では限界がある。真空管は大きすぎるし、熱を持ちすぎる。何より、フィラメントがいつか必ず焼き切れる。これでは、安定して月まで飛べるコンピュータは作れない」

「クククッ、分かってんじゃねえか。だったら、どうする?」

 

 

 千空の問いに、SAIは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「次のステージに進むんだ。真空管の次…トランジスタを作る」

 

 

 トランジスタ。半導体だ。電気を通したり通さなかったりする性質を持つ物質を使い、真空管と同じ機能を、遥かに小さく、遥かに低電力で、そして半永久的に実現する魔法の石。

 

 

「材料はケイ素…つまり砂だ。だが、ただの砂じゃダメだ。純度99.9999%以上の、超高純度のシリコンウェハーが必要になる。それと、P型とN型の半導体を作るための、不純物ドーパントもな」

 

 

 SAIが語る理論を、千空とゼノが科学的に翻訳し、具体的な製造ロードマップへと落とし込んでいく。マインクラフターが集めてきた純度の高い石英の砂を、超合金の街で作ったアーク炉で溶かし、単結晶インゴットを引き上げる。それを、これまたカセキとブロディがクラフトしたダイヤモンドカッターで、極薄のウェハーへとスライスしていく。SF映画で見た光景そのものだ! 

 

 

「ヤベェ…! 全然わかんねえけど、なんかヤベェことだけは分かるぞ!」

 

 

 クロムが、目をキラキラさせながらウェハーを覗き込んでいる。

 

 

「クロム、君の出番はこれからだ。リンやホウ素といった、微量な不純物を探し出してきてもらいたい。それがないと、トランジスタはただの石ころだからね」

「おう! 任せとけ、イケメン兄ちゃん!」

 

 

 最初はSAIのインテリな雰囲気に反発していたクロムも、彼の底知れない知識と、自分の探求心を的確にくすぐる能力を認め、すっかり懐いていた。

 

 そして、開発はさらに次の次元へと加速する。

 

 

「トランジスタを一個一個ハンダ付けしていては、いつまで経っても月には行けない。これを、一つの基板の上に、写真技術で焼き付ける。集積回路──ICの出番だ」

 

 

 SAIの言葉に、今度はわたしと技術開発部の出番が来た。スペインで建設した、あの光学産業ファクトリーの技術がここで活きる! 

 

 SAIが設計した複雑怪奇な回路図を、千空がフォトマスク用の原版に描き起こす。その原版を元に、技術開発部のクラフターたちが、フッ化水素酸を使ったエッチング作業で、シリコンウェハーの上にナノメートル単位の回路を刻み込んでいくのだ。彼らのインベントリと作業台を経由すれば、現実ではありえない精度と速度で、ICチップがパンのように焼き上がっていく。

 

 やがて、そのICをさらに高密度に集積し、演算と制御を司る心臓部──CPUが完成した。

 

 ハードウェアだけじゃない。SAIは、杠が手伝って作ったパンチカード(!)を使い、この世界で初となる独自のプログラム言語と、コンピュータを動かすための基本ソフト(OS)を、ゼロから構築していった。それは、人類が70年以上かけて築き上げたコンピュータの進化の歴史を、僅かな時間で駆け抜ける、狂気のタイムアタックだった。

 

 そして、ついにその瞬間が訪れた。

 

 ラボの中央に鎮座した無数の真空管と、最新のCPUが同居するキメラのようなプロトタイプコンピュータ。そのスイッチを、千空が静かに入れる。ブゥン、という低い起動音。カチカチとリレーが鳴り、ブラウン管のモニターに、緑色の文字が浮かび上がった。

 

 

『HELLO, STONE WORLD』

「「「うおおおおおおおおっ!!!!」」」

 

 

 ラボが、割れんばかりの歓声に包まれた。千空もクロムもカセキも杠も、そしてSAIも。全員が肩を抱き合い、文明が新たな一歩を踏み出した奇跡を分かち合っていた。

 

 そのお祭り騒ぎの最中だった。ラボの扉が勢いよく開き、見慣れた、しかし今は場違いな三人の女たちが姿を現した。軍服姿のわたし02と、黒い背広姿のわたし04、海賊姿のわたし05だ。

 

 

「ほう、ここが電子頭脳とやらの開発室か。なかなか騒がしいじゃないか」

「噂は聞いている。新しい仲間は龍水の兄で、天才プログラマーだそうだな。ドラゴンクエストも好きだとか」

「面白そうな男じゃねえか! どれ、わたしがたっぷり可愛がってやろうじゃあないか!」

 

 

 三人のアレックスがずかずかとラボに入ってくると、興味津々といった様子で、この騒動の中心人物であるSAIを取り囲んだ。

 

 

「「「よろしくな(ね)!」」」

 

 

 三方向から、全く同じ顔。しかし全く違う個性の女たちに一気に詰め寄られたSAIは、数秒間、完全にフリーズしていた。おっ、これはまさか? …あっ、そうみたい。ゴホン、次の瞬間。

 

 

「ピギャアーーーッ!!!!?」

 

 

 彼は、この世のものとは思えない奇声を発すると、脱兎のごとく龍水の背後へと隠れてしまった。

 

 

「な、なんなんだ君たちは!? アレックスが三人に増えている!? いや、統括を合わせれば四人!? 悪夢か!?」

 

 

 わたしの派生系たちに囲まれ、ガタガタと震えている天才プログラマー。その姿を見て杠たち科学王国の女性陣は、やれやれと苦笑いを浮かべるのだった。

 

 SAIワロタ。どうやら彼の女性耐性は、ジョエルといい勝負らしい。




技術開発部のアレックス「み、皆さま方。感想やお気に入り登録、高評価などをいただけますとンン⤴︎…は、腹の痛み無くなるはずなのでデェ⤴︎…お、お願いしますぅ…うう泣きたい。私の模型REIがァ」
最高司祭「最後までお読みいただき、ありがとうございます。2025/11/20、新しい作品(R18)も始めますので、もしご興味があれば是非」
https://syosetu.org/novel/393378/
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