クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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ゴムの街のクラフトって描写ほとんど無いよね? せや、だったら自分が濃厚に描写したろ!!


ゴムの街

 皆さんごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス。牛乳が大好きで、最近はスペイン料理の美味しさに目覚めた美少女ちゃんである。さて、アルミの輝く街オーストラリアを後にして、わたしたち科学船ニューペルセウス号がたどり着いたのは、赤道直下の熱帯、インドネシアだ。

 

 インドネシアは初めて行くなァ。肌にまとわりつくような湿気と、強烈な日差し。これぞ南国といった風情だが、わたしたちがここにやって来た理由は、観光でバカンスを楽しむためでも、美味しいナシゴレンを食べるためでもない。

 

 今からロケット開発における最後の拠点、「ゴムの街」を作っていくわけだが、なぜわざわざインドネシアへ寄ったのか? 単に「素材として必要だから」という一言で片付けるには、その理由はあまりにも深く、そして科学的にシビアな事情があるのだ。

 

 ここでは、わたしたちがゴムを求めてこの地に降り立った理由を、詳細に解説しておこうと思う。

 

 まず第一に、そして最大の誤解を解いておかなければならない。科学的な事実として、ロケットは金属だけでは作れないのだ。

 

 マインクラフター的な感覚、あるいは一般的なイメージで言えば、「ロケット=巨大な鉄やアルミの塊」だと思われがちだ。実際、わたしも最初はそう思っていた。Minecraftでロケットを作るMODなんかでも、金属ブロックを積み上げて終わり、なんてことが多いからね。

 

 だが、現実は甘くない。ロケット本体とは、金属の塊ではない。金属と、無数の「ゴムパーツ」の集合体なのだ。

 

 具体的に何が必要になるのか、想像できるだろうか? 例えば、液体燃料タンク。ここにはとんでもない圧力の液体燃料と液体酸素が詰め込まれるわけだが、金属のフタをしただけでは、微細な隙間から中身が漏れ出してしまう。そこで必要になるのが、密閉のための「Oリング」だ。

 

 他にも、燃料の流れを制御する「バルブのシール材」。複雑に張り巡らされた「配管接続部のパッキン」。発射時の凄まじい振動から精密機器を守る「振動吸収ダンパー」。電気系統がショートしないように守る「電線保護チューブ」。冷却システムの「冷却ラインのパッキン」や「冷却水タンクのシール」。そしてエンジン内部の可動部が摩耗しないための緩衝材。

 

 これらは全て、金属では代用が不可能なのだ。金属は硬いが、柔軟性がない。ゴムのような弾力がなければ、隙間を埋めることも、衝撃を吸収することもできない。特にロケットの燃料タンク周辺は、「液体燃料が漏れたら即爆発」という、ゲームオーバー直結のデッドラインだ。だからこそ、最高品質の、高性能なゴムがどうしても必要になる。

 

 では、なぜ世界中にある国々の中で、インドネシアを選んだのか? その理由は、シンプルかつ合理的だ。ここが、世界最大級の天然ゴムの産地だからである。

 

 科学王国の天才地理学者チェルシーが、ボロボロになった世界地図を広げ、地質や気候データを照らし合わせ、「ゴムを一番短時間で大量生産できる場所はどこか?」を徹底的に検証した。その結果、「インドネシアこそが最速・最大効率である」という結論が導き出されたのだ。

 

 千空の文明再生における戦略は、常に一貫している。「最短で最高の産地を使う」。中途半端な場所で時間をかけて育てるくらいなら、地球の裏側まで移動してでも、最適な環境で一気に素材を回収する。それが科学王国のやり方だ。

 

 そして、このゴムの街建設には、「ロケット製造ロードマップ」における「素材スタック」という重要な意味がある。わたしたちはこれまで、世界各地を回って素材を集めてきた。

 

 

 南米で、耐熱・構造材となる「超合金」を作り。

 スペインのバルセロナで、半導体の基盤となる「蛍石」を採掘し。

 インドで天才たちを蘇らせて「数学の街」を作り、軌道計算の頭脳を手に入れ。

 その頭脳を動かすための「コンピュータ」という制御システムを構築し。

 オーストラリアで、軽量外殻となる「アルミ」を大量生産した。

 

 

 金属、電子、数学。これらは揃った。だが、これらを物理的に繋ぎ合わせ、隙間を埋め、一つの機体として機能させるための最後のピースが欠けていた。それが天然ゴムだ。

 

 ゴムがなければ、部品同士を接合できない。密閉できない。つまり、ロケット本体の最終組立にすら入れないのだ。ロケットは、金属・電子・数学だけでは成立しない。ゴムという「繋ぎ」があって初めて、空を飛ぶ機械としての形を成すのである。

 

 ここで一つの疑問が浮かぶかもしれない。「最終組立をする日本で、ゴムも一緒に作ればいいのでは?」と。

 

 しかし、それには決定的な理由があって却下された。

 

 日本はあくまで「最終組立基地」であり、素材の生産地としては最適ではないのだ。特に天然ゴムは、パラゴムノキの栽培から始まり、樹液(ラテックス)の採取、不純物を取り除く蒸留、そして硫黄を加えて弾性を持たせる加硫(硫黄硬化)、最後に工業用ゴムへの加工という、非常に長く複雑な工程を必要とする。

 

 日本の気候では、ゴムの木を短期間で大量に育てることは難しい。温室を作れば可能かもしれないが、それこそ時間の無駄だ。

 

 だからこそ、「日本に移動する前に、地球規模で“全部の素材”を完璧に揃え切る」という千空の戦略が貫かれたのだ。日本に着いたら、あとはプラモデルのように組み立てるだけ。その状態にするために、わたしたちは今、インドネシアにいる。

 

 さらに、この「ゴムの街」には、ロケット本体以外にもう一つ、絶対に失敗できない重要な目的がある。

 

 それは「宇宙服」だ。月に行くのは機械だけじゃない。人間も行く。真空の宇宙空間に、生身の人間を送り込むのだ。そのために必要な宇宙服。その関節部分がカチコチの金属だったらどうなる? まともに動くことすらできないだろう。手袋の指先が動かなければ、作業もできない。

 

 宇宙服の「関節」の柔軟性、「手袋の気密層」、内圧に耐える「胴体の外層の弾性」、そしてヘルメットの「バイザーの密閉枠」。これらはすべて、ゴムと合成ゴムがあって初めて実現する機能だ。ゴムがなければ宇宙服は作れない。宇宙服がなければ、月面着陸も、船外活動も不可能。つまり、ゴムの街での生産が失敗すれば、その時点で月旅行プロジェクトは詰むのである。

 

 まとめよう。ここインドネシアは、ロケット文明の最後のピースを埋める場所だ。超合金、蛍石、数学、コンピュータ、アルミ。これら全ての努力を無駄にしないための、最後の必須素材。それがゴムだ。ゴムが揃わない限り、ロケット製造には着工できない。わたしたちは今、最短ルートでロケットを作るため、「地球規模の素材集め」という壮大なパズルの、最後のワンピースをはめ込もうとしている。

 

 世界各地の最高級素材を最短で回収し、日本で総結集させてロケットを完成させる。そのための準備は、すべて整った。さあ、理由も語り尽くしたところだ。ここからは、実践あるのみ! 

 

 

「まっ、正直なところを言えばだ。わたしたちマインクラフターの手にかかれば、日本だろうが北極だろうが、ゴムの大量生産は可能だがな」

 

 

 わたしはふと、目の前に広がるインドネシアの鬱蒼としたジャングルを見渡しながら、独り言のように呟いた。これは強がりでも何でもない、事実だ。Minecraftの論理を持ち込めば、環境などいくらでもねじ伏せることができる。地熱を利用して温室を作るもよし、あるいは異次元世界『ネザー』にゴムの木を植えるという手だってある。あそこなら成長速度は段違いだし、光量も確保できる。

 

 だが、それには致命的なリスクが伴う。ネザーで寝ようとしてベッドを置いた瞬間、大爆発を起こして全てが木っ端微塵になるという、あの世界の理不尽な仕様だ。拠点として住み込むにはリスクが高すぎるし、何より千空の「地球の素材をあるべき場所で手に入れる」というロジックの方が、今回はエレガントだった。それだけの話だ。

 

 

「よし! 技術開発部、配置につけ! これより、ロケット製造ロードマップの最終工程、『ゴムの街』建設オペレーションを開始する!」

 

 

 わたしの号令一下、白衣を纏った技術開発部のマインクラフターたちが、音もなく散開した。彼らの動きに、迷いは一切ない。喧嘩もしない。彼らは皆、理解しているのだ。ここがロケット打ち上げという人類史上最大の祭典に至る、最後の関門であることを。

 

 建設される街の全体設計は、極めて機能的かつ循環的だ。ジャングルの恵みである樹液を採取し、加工、精製、加硫を行い、最終的な工業素材として成形するまで。その全ての工程が、一つの街の中で完結する巨大なシステムとしてデザインされている。中心には、文明の象徴となる巨大な煙突。そこから伸びる血管のようなパイプラインと、神経のようなコンベアベルト。

 

 さあ、始めようか。ジャングルを、ロケットの心臓部へと変える魔法を。

 

 まず着手したのは、【天然ゴム農園(Rubber Plantation)】の造成だ。湿地帯特有の足場の悪さなど、彼らには関係ない。整地用マシーンが一瞬で地盤を固め、そこに整然とした区画を作り出す。

 

 植えられるのは、ただのゴムの木ではない。工業化MOD『IndustrialCraft2』や『TechReborn』の遺伝子を持つ、極めて樹液産出量の多い改良品種だ。苗木が植えられ、骨粉の効果にも似た成長促進技術によって、瞬く間に巨木へと育つ。だが、ここからが違う。

 

 人力で樹皮を傷つけ、カップで受ける? ノンノン、そんな悠長なことはしない。彼らが設置したのは、『Forestry』や『Industrial Foregoing』の技術を応用した【自動樹液採取機(Tree Tap / Automatic Extractor)】だ。機械的なアームが正確無比な角度で幹に切り込みを入れ、滲み出た白い血液──ラテックスを、一滴も漏らさずに吸引していく。

 

 数百、数千本のゴムの木が、まるで点滴を受ける患者のようにチューブで繋がれ、その全てが中央のタンクへと集約されていく。辺り一面に漂うのは、樹液特有の甘く、少し鼻につく青臭い匂い。だがそれは、不快なものではない。これから始まる化学変化への期待を孕んだ、生命の匂いだ。集められた膨大なラテックスは、次なる区画【撹拌・精製ライン】へとパイプ輸送される。

 

 ここからは、完全に機械の領域だ。巨大な工場建屋の中に並ぶのは、鉄の塊のような重厚なマシン群。『IndustrialCraft2』の【抽出機(Extractor)】が重低音を響かせながら回転し、粘り気のある樹液から、不純物を取り除いた「生ゴム(Raw Rubber)」を分離していく。

 

 更にその隣では『Thermal Expansion』の【分留器(Fractionating Still)】が稼働している。複雑なガラス管と金属タンクが入り組んだその装置は、温度差を利用して液体ゴムの成分を調整し、より純度の高い状態へと精製する。

 

 

 シュゴォォォォ……プシューッ!!! 

 

 

 定期的にバルブが開き、白い蒸気が爆発的に噴き出す。そのたびに床が小刻みに震え、工場全体が生きているかのように脈動する。パイプの中を流れる液体ゴムは、透明な強化ガラス越しに見ることができる。ドロリとした白い流体が、ポンプの力で押し出され、次の工程へと急ぐ。

 

『Mekanism』の【化学注入機(Chemical Infuser)】や『GregTech』の【化学反応炉(Chemical Reactor)】といった、高度な化学設備も惜しみなく投入される。ここでは、保存性を高めるための安定剤や、特性を変化させるための添加剤が、ミクロン単位の精度で混合されていく。歯車が咆哮し、ピストンが往復運動を繰り返す。その轟音は、ジャングルの静寂を切り裂く文明の産声だ。

 

 そして、液体のゴムが固体の「部品」へと進化する最重要拠点、【加硫ライン(Vulcanization Plant)】へと到達する。ここは、この街で最も熱く、最も危険で、そして最も重要な場所だ。生ゴムのままでは、熱で溶け、寒さで割れてしまう。ロケットの部品としては使い物にならない。そこに「硫黄(Sulfur)」を加え、熱と圧力をかけることで、分子構造そのものを書き換える「架橋反応」──すなわち「加硫」を行うのだ。

 

 使用されるのは、『GregTech』の【加硫プレス機(Vulcanization Press)】と、『Thermal Expansion』の【誘導溶解炉(Induction Smelter)】。「Raw Rubber + Sulfur + Heat + Pressure → Vulcanized Rubber」

 

 この化学式を現実のものとするため、炉の内部は数百度の高熱に保たれている。赤々と熱せられた炉の中に、黒い硫黄の粉末と白い生ゴムが飲み込まれていく。圧力計の針が危険域ギリギリまで振れ、油圧シリンダーが軋み声を上げる。

 

 

 ガチャン!! ガチャン!! 

 

 

『Create』MODの【メカニカルプレス】がリズミカルに、しかし容赦のない力で金型を押し潰していく。プシュウウウッ! と青白い煙が吐き出され、プレス機が開くと、そこにはもはや白い液体ではない、漆黒の光沢を放つ強靭なゴムの塊が鎮座していた。

 

 

 弾力があり熱に強く、薬品にも侵されない。これぞ、科学の鎧をまとった「加硫ゴム」だ。成形トレイに並べられた、無数のOリング。油の光沢を宿し、鈍く黒光りするその小さな輪こそが、ロケットの爆発を防ぐ最後の砦となるのだ。加硫されたゴムは、最終工程である【工業部品成形工場】で、用途別に姿を変える。ここはさながら、ゴムの百貨店だ。

 

 あるラインでは、燃料タンクを密閉するための極厚のOリングが作られている。これは『CraftTweaker』で独自のレシピ設定を施した、超高耐久仕様だ。別のラインでは、液体燃料や冷却水を送るための【ラバーホース】が、長い蛇のように押し出されていく。『IC2』や『GregTech』の被覆技術が応用され、数千度の熱や極低温の液体酸素にも耐えうる構造になっている。

 

 更に奥では、発射時のGを吸収するための【防振ダンパー】や、コンピュータの基板をショートから守る【絶縁被覆材】が次々と生産されていく。

 

 そして、忘れてはならないのが、宇宙服のための【EVAラバーシート】だ。宇宙飛行士の命を守るこの素材は、特に念入りに作られる。『CustomNPCs』や『CraftingTweaks』のような繊細な調整技術を用い、髪の毛一本分の厚みのムラも許さない、完璧な均一性を持ったシートが織り上げられていく。

 

 工場内部はプレスの打撃音、コンベアの駆動音、蒸気の噴出音、そして完成品を検査する電子音が混ざり合い、一種の交響曲を奏でている。それは鉄と油とゴムが奏でる、人類復興のアンセムだ。

 

 完成した製品は、ベルトコンベアに乗って【物流拠点・港湾エリア】へと運ばれる。海風が吹き抜ける開放的なドックには、『Create』MODの技術を応用した【ガントリークレーン】や【プーリーシステム】が設置されている。木製のカーゴドックを、波が激しく叩く。そこに横付けされているのは、蒸気機関で動くタグボートと、日本への長距離輸送を担う貨物船だ。箱詰めされたゴム製品が、クレーンによって次々と船倉へと積み込まれていく。

 

 

 ──Oリング、よし! 

 ── 耐圧ホース、よし!

 ──宇宙服素材、よし! 

 

 

 技術開発部のクラフターたちが、指差呼称で確認を行う。彼らの視線の先にあるのは、遥か北東、最終目的地である日本だ。この港は、インドネシアと日本、素材と完成品、現在と未来を繋ぐ、ロケット産業の大動脈なのだ。

 

 日が落ちる。ジャングルに夜が訪れると、ゴムの街はその本性を露わにする。

 

 中心にそびえ立つ巨大な煙突から、絶え間なく吐き出される白煙。それが工場群の明かりに照らされ、オレンジ色に染まる。高炉の排熱、化学反応炉の怪しい光、溶けたゴムの赤熱。それらが闇を突き破り、空を焦がすような赤色に染め上げる。火花が散り、蒸気が立ち込め、油の匂いとゴムの焦げる匂い、そして働く者たちの汗の匂いが、湿った夜風に混ざり合う。むせ返るような、濃厚な空気。

 

 これだ。これが、文明の匂いだ。空ではコウモリが旋回し、地鳴りのような重機の駆動音が、眠らないジャングルの生物たちを威圧するように響き渡る。これを自然破壊と言う者も、いるかもしれない。だが、わたしにはそうは見えない。

 

 これは自然への冒涜ではない。あの冷たく暗い、死の世界である宇宙へ挑むため。そして、石化した70億の人類を救い出すため。そのために必要な、熱く激しく、力強い心臓をここで作っているのだ。ここは世界を救うための、情熱の巣窟なのだ。わたしは、積み込みを終えて出航準備に入った船を見上げ、この長かった「素材集めの旅」を振り返った。

 

 超合金、蛍石、数学、コンピュータ、アルミ、そしてゴム。全てのピースは揃った。これからわたしたちが作ろうとしているロケットは、単なる金属の巨人ではない。ゴムを血管とし、燃料を血とし、金属を骨とし、コンピュータを脳とし、そして火を心臓に持つ巨大な生命体だ。だからこそ、このインドネシアの街は、その生命体に魂を吹き込むための重要な臓器となったのだ。

 

 

「全船、出航準備! 目指すは日本! 最終組立基地だ!」

 

 

 わたしの号令が夜空に轟き、停泊していた貨物船やニューペルセウス号のエンジンが唸りを上げる。マストには風を受け、煙突からは黒煙が力強く立ち上る。うむ、素晴らしい。実に絵になる光景だ。これぞ大航海ロマン。男の子(と一部の女の子)の夢。素材を満載した船団が、荒波を越えて希望の地へと向かう…感動的じゃないか。

 

 わたしは満足げに腕を組み、潮風に吹かれながら、遥か北東の彼方を見つめた。日本。わたしたちの旅の終着点であり、ロケット発射のスタート地点。そこへ辿り着くには、また1週間の航海が必要になる。長い旅路だ。船上でのパーティーも楽しいが、そろそろ陸のベッドが恋しくなってきたのも事実…。

 

 ……ん? 待てよ? ふと、懐の通信機(ケータイ)が震えた。千空からだ。

 

 

『おう、テメーらまだ出航してなかったのか? 俺らは一足先に別動隊の高速艇で日本に着いて、最終組立工場の整地を始めてるところだぞ。遅えと置いてくぞ』

「……は?」

 

 

 通信機から聞こえた、気の抜けるような声。あ、あれ? 千空たち、もう日本にいるの? ああ、そういえばそうだった。ゴムの街の建設と生産ラインの安定化は、わたしと技術開発部に一任されて、千空やゼノたち科学班のトップチームは「現地の受け入れ準備があるから」とか言って、先に高速艇で発ってしまっていたんだった。

 

 わたしがあまりにも工場萌えを発揮して、「配管の美しさが~」とか「排煙の色の調整が~」とかやってる間に、彼らはとっくに到着していたというわけか。

 

 

「……マジか」

 

 

 このまま帰ったら、到着する頃には千空たちに「仕事が遅え」と煽られる未来が確定している。それは癪だ。非常に癪だ。それに、マインクラフターとしてのプライドが許さない。創造主たるもの、移動においても神速を見せつけなければならないだろう。

 

 わたしはニヤリと笑うと、くるりと船尾の方へ向き直った。船でのんびりクルージング? ノンノン。それは一般人の移動手段だ。わたしたちには、物理法則を無視した「裏道」があるじゃないか。

 

 

「技術開発部、聴け! 予定変更だ! 貨物船団はこのまま通常航路で日本へ向かわせろ! わたしたち本隊は…ショートカットするぞ!」

 

 

 わたしの言葉に、白衣を着たクラフターたちが一瞬で意図を理解し、「ウォウォ! (了解!)」と歓声を上げた。そう、わたしたちには『ネザー経由』というチート技がある。Minecraftの法則において、現実世界(オーバーワールド)と暗黒界(ネザー)の距離比率は「1:8」。

 

 ネザーで1メートル進めば、現実世界では8メートル進んだことになる。つまり、ネザーを経由すれば、移動距離も移動時間も、理論上は8分の1に短縮できるのだ。更に言えば、ネザーの天井付近の岩盤直下に、氷ブロックを敷き詰めた『氷塊ボートロード』を建設すれば、その移動速度は音速すら超える。多分! 

 

 日本までの数千キロ? ハッ、散歩レベルの距離だね! 

 

 

「座標は分かっているからな。日本の座標を8で割るだけの簡単な算数だ!」

 

 

 わたしはインベントリから黒曜石を取り出すと、甲板の上に手早くゲートのフレームを組み上げた。縦5、横4。見慣れた黒い枠。そこに、火打石と打ち金を打ち付ける。

 

 

 シュヴォオオオン…!!! 

 

 

 不気味で、しかしどこか懐かしい紫色の粒子が渦巻き、異界への門が開かれた。

 

 

「さあ乗り込め! 忘れ物は無いな? シュルカーボックスにゴムのサンプルと、お土産のナシゴレンは詰めたか!? 千空たちが必死こいて整地してるところに、後ろから『やっほー』って声かけて、腰を抜かさせてやるんだ!」

 

 

 わたしは高らかに宣言すると、紫色の渦の中へと一番乗りで飛び込んだ。視界が歪み、世界が反転する。熱帯の湿った空気が、一瞬にして硫黄とマグマの焦げ付くような熱気へと変わる。目の前に広がるのは、赤黒いネザーラックの壁と、遥か下に広がる溶岩の海。そして遠くから聞こえるガストの鳴き声。

 

 地獄? いいや、ここはわたしたちの庭だ。

 

 さあ、日本へ。科学とクラフトの結晶であるロケットを組み上げる、最後の聖地へ。船よりも速く、風よりも疾く。

 

 

「待ってろよ千空! 今行くぞ!」

 

 

 わたしは氷の上にボートを設置すると、オールを全力で漕ぎ出した。




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