皆さんどうもごきげんよう! わたしはマインクラフターのアレックス! 親しみを込めて、美少女のアレックスとでも呼んでくれたまえ。えっへん。
ネザー経由の超高速移動で日本に先回りしていた我々は、世界中から集められた素材を満載した貨物船団が東京湾に入港するのを、今か今かと待ち構えていた。
そして、ついにその時が来た。南米の超合金。スペインの蛍石と半導体。インドの数学的頭脳とプログラム。オーストラリアのアルミ。そして、インドネシアのゴム。地球を一周して集められた科学とクラフトの結晶が、ここ日本──科学王国の原点にして最終組立基地へと集結したのだ。
「クククッ、来たな。世界中の宝を根こそぎ積んで、最後のピースが揃ったぞ」
「フフッ。まさに、グローバル・サプライチェーンの再構築だね。実にエレガントだ」
いよいよロケット本体のクラフトだ。この場所、日本が選ばれた理由は単なる「故郷だから」というセンチメンタルな理由だけではない。科学的かつ戦略的な合理性がある。
一つは、島国ゆえの隔離基地化だ。ロケットの打ち上げは、爆発物の塊を空へ放つようなもの。万が一の事故、あるいは敵対勢力からの干渉を防ぐためにも、海に囲まれたこの地は天然の要塞として機能する。
そしてもう一つは、ここがわたしたちの全てのインフラの起点であり、最も充実した設備──高炉、化学プラント、そして何より熟練した仲間たちが揃っている場所だからだ。
「オッホー! ここで儂らの全てをぶち込むんじゃな! 腕が鳴るわい!」
「ブッハハハ! このブロディ様にかかれば、どんな巨大な鉄の鳥だろうと組み上げてやらあ!」
技術開発部と、千空、ゼノ、カセキ、ブロディといった科学王国のオールスターたちは、息つく暇もなく作業に取り掛かった。
まず最初に行ったのは、【打ち上げ港・発射台】の建設だ。これは単なるコンクリートの台座ではない。数千度の噴射炎と、数百トンの機体が飛び立つ際の凄まじい振動に耐えうる、超高強度の発射管制塔だ。マインクラフターは南米で培った建築技術を応用し、黒曜石と鉄ブロック、そして強化コンクリートを組み合わせ、空を突くような巨大な発射塔を組み上げた。
「デケェ! こんなデケェもん、今まで作ったことねえぞ!」
「うおおおお! 任せろ! どんな重い資材でも俺が運んでやるぞ!」
そして、その中心に据えられる主役──ロケット本体の組み立てが始まる。今回わたしたちが製造するのは、千空とゼノの設計による【3段式ロケット】だ。なぜ1段ではなく3段なのか? これには「重力」という地球最大のボスキャラを攻略するための、冷徹な物理法則が関係している。
「クククッ、単純な話だ。重力圏を脱出するには、途中で荷物を捨てて身軽になるしかねえ。使い終わったエンジンもタンクも、全部デッドウェイトだ」
「『捨てることは進むこと』。ロケット工学の根幹を成す、実にエレガントな方程式だよ」
ロケットは、自分自身を持ち上げるために燃料を積み、その燃料を持ち上げるためにさらに燃料を積む、というジレンマと戦っている。重いタンクやエンジンを、宇宙までずっと抱えていくのは非効率極まりない。だから、燃料を使い切った下の階層を空中で切り離し、身軽になって加速する。これを繰り返すことで、初めて第一宇宙速度を突破し、地球の鎖を断ち切ることができるのだ。
「捨てることは進むこと」。これこそがロケットの方程式だ。
最下層、第1段ロケット。ここはパワーの塊だ。オーストラリア産のジュラルミンで作られた巨大な円筒の中に、南米産の超合金で作られた5基のメインエンジンが束ねられる。その推力は、数百トンもの巨体を無理やり空へ押し上げる暴力的なエネルギーを生む。
「このエンジンのベルノズル! 儂の人生最高傑作じゃ! 寸分の歪みもないぞ!」
「ブッハハハ! こっちのターボポンプも完璧だぜ! 毎秒数トンの燃料を送り込む心臓部だ!」
接続部には、インドネシアで生産した極厚のゴムパッキングが噛まされ、燃料漏れを完璧に防いでいる。
中間層、第2段ロケット。ここは真空空間での加速を担う。大気のない場所で効率よく噴射するための、釣鐘型に広がった特殊なノズルを持つエンジンが搭載されている。制御システムには、スペイン産の半導体と、インドのSAIが書き上げた姿勢制御プログラムがインストールされたコンピュータが組み込まれ、針の穴を通すような精密な軌道修正を可能にする。
「姿勢制御プログラムの最終シミュレーション完了。全パターンの軌道逸脱に対応可能だ」
「うへェ。SAIちゃん専門用語すぎてジーマーで分かんないけど、とにかく凄いってことだけは分かるねェ〜」
そして最上層、第3段ロケット。ここがロケットの頭脳であり、心臓部だ。燃料タンクには、単なる金属ではなく、【コンポジット燃料タンク】が採用された。これはアルミの内張りの外側に、
「軽さは正義だ。1グラムでも軽くすりゃ、その分だけ長く飛べる。科学の執念だ」
「複合材か。異素材を組み合わせることで、単一素材では到達できない性能を引き出す。実に美しい発想だね」
軽くすればするほど、積める荷物が増える。科学の執念が生んだ軽量化技術だ。その第3段ロケットの先端に鎮座するのが、宇宙飛行士たちが乗り込む【再突入カプセル】だ。こここそが、科学王国の技術の総決算と言える場所だ。
「ハッハー! このコックピット! この俺が座るに相応しい、最高の操縦席じゃないか!」
「計器類がすごい数だね。凄く機能的に配置されてる。これなら緊急時でも迷わなさそうだ」
外壁は大気圏再突入時の数千度の熱に耐えるため、セラミックとアブレータ。熱で溶けながら、熱を逃がす素材の多層構造になっている。窓にはスペインの光学工場で磨き上げられた、歪みのない分厚い石英ガラスがはめ込まれている。
内部はSAIと技術開発部が共同で配線した、何千本ものケーブルと計器類で埋め尽くされている。計器の針一本、スイッチ一つに至るまでカセキとブロディの職人技が光る。
「このスイッチの感触! カチリと指に吸い付くようじゃろう! 魂を込めたからのう!」
「だよな! この配線の取り回し、俺がやったんだぜ! 芸術的だろ!」
そして座席。ここには衝撃を極限まで和らげるため、インドネシア産の最高級ラバーで作られたクッションと、パイロットの体型に合わせて成形された衝撃吸収ジェルが敷き詰められている。カプセル内には、もちろん【宇宙服】も格納されている。
【宇宙服】は、単なる服ではない。何層にも重ねられた気密層、断熱層。そして、微小隕石用の防弾層)。関節部分には、蛇腹状に加工された特殊合成ゴムが使われ、真空状態でもスムーズな動きを約束する。ヘルメットのバイザーは紫外線をカットしつつ、クリアな視界を確保する特殊コーティング済みの強化ガラス。生命維持装置には超小型化された空気循環システムと、予備の酸素タンクが詰め込まれている。
これらは科学班と、裁縫界トップに認定された杠によって生誕された。やはり彼女は人間をやめている…ごめん悪かったから針で刺さないで…。
安全な帰還のための装備も抜かりはない。カプセル上部には、【パラシュート】が格納されている。これはただの布ではない。強靭な合成繊維で織られたメインシュートと、それを引き出すためのドローグシュート。開傘時の凄まじい衝撃に耐え、確実に開くよう、折りたたみ方一つにも数学的な計算が用いられている。
「開傘シークエンスの最終計算完了。大気密度と降下速度から、最適なタイミングを算出済みだ」
「クククッ、最後の最後は神頼みじゃねえ。計算し尽くされた科学のセーフティネットだ」
更に着陸寸前の衝撃を和らげるための、【逆噴射装置】。固形燃料を用いたこの小型ロケットは、地面激突の数秒前に正確に点火し、カプセルの落下速度をゼロに近づける最後の命綱だ。日本の発射場には連日連夜、火花と轟音が絶えることがなかった。
「うおおおお! もっと資材が必要か! 俺が持ってくるぞ!」
「ヤベェ! 科学の全部乗せだ! 頭がパンクしそうだぜ!」
巨大なクレーンが動き、各ステージが慎重に積み上げられていく。マインクラフターたちが足場を組み、科学者たちが配線をチェックし、職人たちがボルトを締める。千空が全体を指揮し、ゼノがエンジンの燃焼データを最終確認し、龍水がコックピットの操作性をシミュレートし、カセキが金属の悲鳴を聞き分け、SAIが膨大なコードの海を泳ぐ。
全員がそれぞれの持ち場で、己の全存在を懸けていた。誰一人として、妥協する者はいなかった。何故ならここにあるネジ一本、パッキン一枚の不具合が、仲間の死に直結することを知っているからだ。その失敗が、3700年待ち続けた全人類の希望を断つことになることを、骨の髄まで理解しているからだ。
「サボるなゴラ!!」
映画鑑賞してたら殴られた。嗚呼、ポップコーンが散乱してしまった。フッ、どうやら科学王国民は不具合が起きているようだな! 頭のネジがよく締まっていないようだ! …ショットガンはやめてもろて。ハート1しかないから。瀕死だから…殺意が高いなァ。
そして、ある晴れ渡った朝。ついにその作業は終わった。
整備用タワーのアームがゆっくりと開く。朝日を浴びて輝く、白銀の巨塔。全長数十メートル。南米の赤土、オーストラリアの赤土から生まれた金属が、日本の空の下で一つになり、天を指している。
その側面に描かれているのは、科学王国の旗印。そして、この船の名。
【SENKU号】。科学と工作。この石の世界を切り拓いてきた、二つの力の結晶。もはや、単なる機械の塊ではなかった。わたしたちの血と汗と涙と、そして未来への意志が凝縮された巨大な希望そのものだった。
その圧倒的な存在感を前に騒がしかった現場が、一瞬静寂に包まれた。誰もが言葉を失い、ただ見上げていた。自分たちが作り上げた奇跡を。人類が再び、宇宙の領域へと手をかけた証を。
「…クククッ。出来たな。月までの道がよ」
「ああ。実に…実にエレガントだ! 人類の叡智が、今ここに形となった!」
「ハッハー! 素晴らしい! これぞ、この七海龍水が駆るに相応しい、世界最高の船だ!」
よし! 完成だ。これにて、ロケット本体の製造ロードマップ、コンプリートである! あとは燃料を注入し、カウントダウンを開始し、この巨体を宇宙へと放つだけ……ではなく!
わたしは、感極まって涙ぐむ仲間たちを振り返り、高らかに宣言した。
ロケットは完成した! だが、これで即打ち上げとはいかないぞ! 大仕事を終えたんだ。そして、これから命がけの旅に出るんだ。その前に、やることがあるだろう!?
皆がキョトンとする中、わたしはインベントリから、ある「種」を取り出した。それは黄金色に輝く、イネの種籾。そうだ。ここ日本で育て上げ、パンの代わりとして、パン以上のソウルフードとして愛し続けてきたもの。
米作りだ!!! 最高級の銀シャリを炊いて、盛大なお祝いパーティーをするぞ! 腹が減っては戦はできぬ! 日本人の魂をチャージしてからでなきゃ、月なんて行ってられるか!
「クククッ、面白え。そそるじゃねえか、その提案!」
「ハッハー! 米! 欲しいぞ! 最高の宴で、船出を祝おうではないか!」
「うおおおお! 米作りか! 任せろ! 俺の体力の出番だな!」
ロケットの打ち上げは、一旦お預けだ。まずは科学の勝利を、仲間との絆を、最高の白米と共に噛み締めようではないか。
次回は米作りだ!