『貴様と結婚するぐらいなら、あいつと結婚する方が遥かにマシだ!』
皆さんどうもごきげんよう! わたしはマインクラフターのアレックス。どうぞ、美少女のゼロワンちゃんとでも呼んでくれたまえ。
……さて、いきなりフラれたわけだが、心は晴れやかだ。なぜなら空には、見たからしてロマン溢れる戦艦が迫っているからである。視界を埋め尽くす漆黒のV字。ただ浮いているだけだというのに、気分が参ってしまうぜ。この絶望的な状況下で、プロポーズを断られるショックなど微々たるものだ。むしろ清々しい。
『俺は長きに渡り、次元の回廊を彷徨い歩いてきた。数多の世界を渡り、時にはその理ごと焼き払い、星々を滅ぼすこともあった。だが、それは破壊の快楽になど溺れたからではない…! すべては理不尽に奪われた、俺の妻と娘を取り戻すため。そのためならば、この世界を灰燼に帰すことさえ、俺にとっては正義だ』
くぅ……立ち上がれない! 身体が鉛のように重い。視界の端で赤いハートがビクビクと明滅し警告音を鳴らし続けている。わたしのハート残り0.5個。つまり1ヒットで即死だ。最大エンチャントのダイヤ防具を装備した、このわたしを一撃でここまで追い込むとは…都市伝説の具現化さんは流石だよ。物理攻撃力がバグっている。
『勘違いするなよ? 創造主気取りの小娘が。俺だって、好んで破壊を撒き散らしたい訳じゃない。だが、奴らが…人間たちが愚かにも抵抗し、俺の道を阻むからだ。排除しただけだ。雑草を刈るように、石ころをどけるように。…かつて俺の家族を奪ったのも、また「人間」だったからな』
ヘロブラインさんは鬼だよ、悪魔だよ。彼はわたしを殴り飛ばした後、その余波でロケット発射台だけじゃなく、すべてのロケット関連施設を襲撃した。爆撃と雷撃の嵐だ。せっかく積み上げた発射塔が、黒曜石の土台を残して消し飛ぶ様は、涙なしでは見られなかった。
更にMinecraftド定番の敵性モブ軍団を差し向けてきやがった。うぅ、皆は無事だろうか。わたしたちマインクラフターはどうでもいい。どうせリスポーンするからな。
けれど、科学王国民は違う。彼らはころっと死んでしまう、脆弱な有機生命体だ。無事であることを祈りたい。シェルターが無い場所にいた連中は、大丈夫だろうか。マインクラフターはマイペースな性格だ。防衛を頼んでいるものの、彼らが死んでしまっては元も子もない。創造主が彼らの肉盾になってくれていると、よいんだが。
頼むぞ02、頼むぞ05。お前らの身体ならいい盾になるはずだ…もうリスポーンしてるんだったわ。ちっ、使えない。
『俺の前に立ちはだかる敵は、すべて排除する。俺の愛する者を奪い、俺のアレックスを侮辱した…貴様もな!』
ドガッッ!!
視界が反転した。殴られて吹き飛ばされたのだ。さっき金リンゴをかじって自然回復して満タンに回復したのに、またもハート1を切った。痛い。痛すぎる。
それにしても解せない。何か、失礼なこと言ってしまっただろうか。わたしは美少女であるから、相手を怒らせない言動をしないよう心がけているのだが…全く記憶に無いんだが。再婚を勧めたのがいけなかったのか? それとも、「不良騎士」の話をしたのが地雷だったのか? 乙女心ならぬ魔王心は複雑怪奇だ。
『…フン、脆いな。ホワイマン様からはこの島国を焦土にするよう、命令されているが…これくらいはいいだろう』
何がいいだろうだって? 彼は攻撃の手を止め、虚空を見上げた。その白目に怪しい光が宿る。
……あっなるほど。理解した。彼はまだ遊び足りないのだ。圧倒的な力の差を見せつけ、絶望の淵に叩き落とす。それが彼の愉悦なのだろう。
『楽しもうか。この世界の終わりの宴を。俺が味わった地獄の釜の底を…貴様らにも覗かせてやる』
彼の言葉と同時だった。上空の巨大戦艦から、彼の背後に極太のレーザーが降り注いだ。攻撃ではなかった。転送ビームだ。光の中から現れたのは、殺傷能力皆無のレーザーではなく、「敵性モブ軍団」の大群だった。おっふ…思わず変な声が出た。
無数のゾンビ。
無数のスケルトン。
無数のクリーパー。
無数のエンダーマン。
無数のネザー産ガスト。
そして、宙を浮遊する多数のウィザー。
地獄の釜の蓋が開いたとはまさにこのことだ。だがそれだけならまだいい。ゾンビとスケルトンは、太陽熱死に対する対策であろうダイヤ製ヘルメットを被っているぐらいだから、それはいい。可愛いもんだ。
問題は空を覆う巨大な影。あれは……機械仕掛けのエンダードラゴン? 全身が金属の装甲で覆われ、レッドストーン回路が血管のように脈動し、目はサーチライトのように輝いている。翼からは蒸気が噴き出している。
すぅ…おっふ。絶望的にも程がある。通常のエンダードラゴンですら厄介なのに、サイボーグ化しているとは、一体全体どういう了見だ。ホワイマンの科学力とヘロブラインの魔力の悪魔合体かよ。
『さあ踊れ。足掻いてみせろ。死に物狂いで生にしがみつき、そして無様に散るがいい。その断末魔こそが、かつて守れなかった俺への、最高の手向けとなる』
どうやればいいっていうんだ。あいや待てよ。アイアンゴーレムだって倒せるんだ。別に機械でも、「切り裂いてもないのに、えいや攻撃して何故か当たり判定」になるくらいだし。Minecraftの判定ガバガバ仕様は、この世界でも健在だ。エンダードラゴンだって倒せるさ……アイアンゴーレムって機械なのか生物なのかという哲学で、現実逃避しそうだがそれは後にしよう。
目の前の現実は待ってくれない。機械竜が口を開き、紫色のブレスをチャージしている。ウィザーたちが、不気味な回転を始めている。クリーパーたちが、シュースーと音を立てて点滅している。
『…満身創痍だな、偽物。仲間は散り、武器は折れ、回復の術も尽きたか。かつてのアレックスなら、その状況でも俺の喉笛を食い千切ろうとしただろうが…貴様には、その牙すら無いようだな』
ヘロブラインが憐れむように言い放つ。悔しいが事実だ。舐めプするんじゃなかった。回復アイテムはゼロ。インベントリのポーションも尽きた。「わたし以外のアレックス」はさっきの雷撃と爆撃で、全員遺品をバラ撒いて死んでしまった。リスポーン地点は遠い。すぐには戻れない。
この場に残っているのは、奇跡的に生き残った「キャプテン・アメリカのコスチューム」を纏っている美少女のアレックスだけだ。つまりは、わたしだな。星条旗柄の盾と青いタイツ。見た目だけはアベンジャーズだが、中身は瀕死のマインクラフターだ。
引くわけにはいかない。背後には科学王国民が避難しているシェルターがある。地下だけど、背後にある設定にしておこう。
とにかく、ここを突破されたら終わりだ。わたしは盾を構え震える足に力を込めた。高潔な精神の持ち主キャプテン・アレックスは君を倒す! ひとりで!
…や、ヤッパリ……タスケテ。
そう心の中で泣き言を漏らした、その瞬間だった。ノイズ混じりの通信機から、懐かしくも頼もしい声が響いた。
『──ハッ。アレックス! 待たせたな! 左を見ろ』
えっ、何どうしたの。言われるがまま、左後方を振り返る。そこには、空間が切り裂かれたような光の渦が出現していた…oh。
黒曜石のネザーゲートじゃないぞ!? これは技術開発部が極秘裏に開発していた、空間転移ゲートか!? わたしのコスチュームに通信機があったのも驚いたが、それ以上だな。
光の渦が広がり、そこから一人の戦士が飛び出した。背中にエリトラを装備した、メスライオンの異名を持つ戦乙女。コハクだ。彼女は優雅に空中を旋回しわたしの隣へと舞い降りた。
『待たせたなアレックス! 少々ばかり、村の掃除に手間取ってな。だが安心しろ。石神村の戦士は、全員ここにいるぞ!』
コハクに続いて、ゲートから歩み出てきたのは屈強な男女たち。コハクの父コクヨウ。そして、ジャスパーにターコイズ等の石神村の大人組だ。ヘロブラインが『!!?』と、驚愕の表情を浮かべている。
わたしの方が驚いた。すまねえ。正直に言おう。気づけば存在そのものを忘れていた! し、仕方ないんだこれは! 登場リストには名前があるのに、実際には見たこと無い「チタン」という青年と一緒だろ!? 「あっそんな人いたんだァ。いないもんかと思ってたわ」っていうあの感覚だ!
何はともあれ、今の彼らは輝いている。忘れられていた鬱憤を晴らすかのように、武器を構える姿は頼もしさの塊だ。
「ハッ、さあ反撃の狼煙を上げよう。全員準備は万端だ。ここからが本当の戦いだ。最高のショータイムと行こうじゃあないか!」
コハクが不敵に笑う。それを合図にするかのように、空間が次々と裂け始めた。な、ななんていうことだ!? ひとつだったゲートが数え切れないほどの数に膨れ上がり、空を埋め尽くしたぞ。オレンジ色の火花を散らす、リング状のポータル。そこから科学王国の軍勢が、怒涛の如く歩みだしている。
石神村の戦闘部隊。
宝島の戦士団。
アメリカ科学王国の軍人たち。
バルセロナでレンズを磨いていた職人たち。
インドで計算に没頭していた数学者たち。
アルミの街オーストラリアで、精錬に汗を流していた技術者たち。
etc…。
世界中から集結した仲間たちだ。彼らは技術開発部と科学王国の共同クラフトの末で量産された、最新鋭の装具を装備している。輝くダイヤの剣。連射可能な自動銃。超合金の盾。
連合軍は、ヘロブライン軍勢と真っ向から対峙した。
連合軍は歩兵だけじゃなかった。コハク以外にも空を舞う影がある。エリトラを装備した美少女たち。…あれはスキン変更したマインクラフターたちだから、詳細にしなくていいか。
特筆すべきは地上戦力だ。地響きと共に現れたのは、皆大好きアイアンゴーレムで構成された軍団だ。彼らが並ぶだけで、敵のゾンビの大群が怯んだように見えた。
「おっとと。中々じゃじゃ馬で癖がありますが、この異界の竜も悪くありませんね。石化王国の戦士として、空は私が制圧します!」
更には空だ。信じられないものがいる…エンダードラゴンだって!? おいおい。背中に乗っているのは、宝島最強の戦乙女キリサメか!? 彼女は手綱を操り、巨大な竜を乗りこなしている。あの暴れん坊を飼い慣らしたとは…やりおるわ。
機械仕掛けのドラゴンに対抗して、こちらは生物としての最強種をぶつけるというわけか。…まさか本当に、〈神聖時間軸〉を再現してしまうとは思わなんだ。これぞ、究極のファンサービス。わたしが見たかった、景色そのものだ。
『おのれマインクラフター! 貴様ら如きが徒党を組んで、俺に挑むだと!? 虫ケラどもが調子に乗るなァァァァ!!!』
ヘロブラインは顔を歪め、憎悪の咆哮を上げる。彼は気分が優れないようだが、わたしは最高に気分が優れている。絶望的な孤独から一転。今やわたしの背後には、最強の仲間たちが控えている。
ふっ、ヘロブラインよ…これが我が軍だ! では、"あれ"を言うとしようか。
わたしはインベントリを開く。ボロボロになったキャプテン・アメリカのコスチュームを脱ぎ捨てる。そして取り出したのは、この決戦のために用意しておいた至高の逸品。最高級のエンチャントが施された、最新ネザライト防具だ。漆黒の鎧が重厚な輝きを放ち、わたしの身体を包み込む。そして右手には天から飛来したかのように呼び出した、ソーのハンマー「ムジョルニア」。
…まあ中身はエンチャント特盛のネザライトの斧なんだが、見た目は完璧だ。
わたしはハンマーを握り締め、全軍を見渡す。千空がニヤリと笑う。龍水が指を鳴らす。ゼノが優雅に頷く。全員の視線が、わたしに集まる。息を吸い込む。ここしかない。ここ以外に言うタイミングはない。決めゼリフだ。
『クラフターズ!──アッセンブル』
その囁きは、不思議と戦場全体に響き渡った。静寂が一瞬世界を支配する。そして──
『『『ダァァァァ!!!』』』
科学王国改めクラフターズの雄叫びが轟く。地を揺るがす咆哮。ふっ、決まった。声量を小さくしたのに、よく聞こえたものだ。まぁ、キリサメの言葉が聞こえたのもそうだし、細かいことは気にするな。大事なのは、ノリと勢いさ。
『我が軍勢よ! あの目障りなクラフターズとやらを、一人残らず食い尽くせ! この地を、完全なる死の平原に変えてしまえ!』
ヘロブラインも負けじと号令を下す。敵性モブ軍団も雄叫びを上げて突撃してくる。
緑のゾンビの大波。
白骨の射手たち。
自爆特攻のクリーパー。
豆腐と呼ばれるガスト。
空を覆うウィザー。
ボス級の機械竜。
対するは、こちらも全軍突撃。アイアンゴーレムが敵の前線を粉砕せんとし、エリトラ部隊が空を翔ける。
さぁ、熱くなって来た。神話級の怪物vs科学とクラフトの連合軍。どちらが勝つか…ショータイムだ。
わたしはムジョルニアを掲げ、先頭を切って走り出した。もう怖くはない。後ろには、頼もしい仲間がいる。前には、倒すべき敵がいる。それだけだ。
行くぞヘロブライン! これがわたしたちの答えだ!
書いててムフフしちゃいましたw