皆さんどうもごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス! 親しみを込めて、「完璧美少女のアレックスちゃん」とでも呼んでくれたまえ。
…なんて、いつものように軽口を叩いてはみたものの、目の前に広がる光景を見てしまえば、流石のわたしも美少女スマイルを引きつらせざるを得ない。
嗚呼、なんていうことだ。わたしたちが心血を注いで作り上げ、あとは打ち上げるだけだったロケット発射場が、こんなにも無惨に、見るも無残な瓦礫の山へと変わってしまっている。あのヘロブラインとかいう白目のオッサンと、彼に貸与された巨大戦艦の火力は伊達ではなかったということだ。いや、伊達であってほしかった。
せっかく積み上げたブロックを、匠に爆破された時の悲しみ。それを数億倍にしたような虚無感が、わたしの胸を去来する。だが、感傷に浸っている時間は1秒たりともない。
ホワイマン許すまじ! あいつは絶対に許さん。わたしたちの努力を、汗と涙の結晶を、あんな高いところから見下ろして笑っていたのだから。ということで、今回は怒涛のダイジェストでお送りしよう! そうだ、先にこれからやることを高らかに紹介しておこう。
やることはただひとつ…月面に乗り込む! ただ乗り込むだけではない。あわよくば対話? 和解? ノンノン、そんな甘っちょろい段階はとうに過ぎた。
ホワイマンをフルボッコにするのだ。ヘロブラインの情報がもしも真実であれば、奴は機械ではなく有機生命体である可能性が高い。ならば、痛みを感じるはずだ。恐怖を感じるはずだ。
泣かせられるんじゃね? そんなサディスティックなムフフという感情がふと湧いたとしても、誰もわたしを責められないだろう。我々は悪くない。悪いのは、先に手を出してきたホワイマンだ。
まずは、戦力の再編と頭脳の統合だ。あの神話的な槍を投擲し、巨大戦艦を沈めた殊勲賞、REI。彼女は『レイゲリヲンMark.06』と共に地上へと降り立ち、ついに3700年越しの悲願である石神千空との合流を果たした。感動の対面? もちろんあった。だが、それ以上に凄まじかったのは、その直後に始まった「科学の暴走」だ。
宇宙で3700年間、たった一人で科学とクラフトを極め続けたAI、REI。ゼロから文明を築き上げ、石の世界の理を解き明かした科学少年、石神千空。そして、エレガントな独裁者にしてNASAの天才科学者、ドクター・ゼノ。この三人が、同じテーブルを囲み、膝を突き合わせたのだ。
化学反応なんてレベルではない。ビッグバンだ。REIが提供するISS由来の未来技術データと3Dプリント技術。ゼノが提示する軍事的合理性とロケットエンジンの最適解。そして千空が繋ぎ合わせる柔軟な発想と応用力。彼らが本気を出した瞬間、復興のスピードは「倍速」どころか「クリエイティブモード」の領域へと突入した。
瓦礫の撤去? 一瞬だ。基礎の打ち直し? 瞬きする間もない。わたしや技術開発部のマインクラフターたちが、彼らの設計図通りにブロックを配置していくだけで、破壊される前よりも遥かに強固で、遥かに高性能な施設が次々と再建されていく。
REIは現地の千空たちと一緒に行動し、その演算能力とアーム操作で、人間には不可能な精密作業を平然とこなしていく。彼女の存在そのものが、最強のチートツールだった。
次に、意志の統一だ。科学王国の国民たち、そして世界中から集まった仲間たちの間で、緊急の民会が開かれた。議題はシンプル。「月に行くか、行かないか」。
だが、議論など必要なかった。燃え落ちた発射台。傷ついた仲間たち。そして、空から降ってきた理不尽な悪意。それらを目の当たりにした全ての科学王国民が、ホワイマンをフルボッコにすることに完全同意したのだ。
反対意見など皆無。平和主義者の杠やルリでさえ、静かなる怒りを瞳に宿して頷いていた。もはや、これは単なる探求の旅ではない。生存を賭けた戦争であり、未来を勝ち取るための喧嘩だ。
「やられたらやり返す、倍返しだ」なんて言葉が旧世界にあったらしいが、わたしたちは倍どころか100億倍にして返すつもりだ。その熱気が、疲弊していたはずの人々の背中を押し、不眠不休の作業へと駆り立てていく。
そして始まったのが、世界規模での「月面に着陸する宇宙船」の建造だ。以前のロケットは、あくまで「月へ行き、帰ってくる」ためのものだった。だが、今度は違う。敵地への強襲揚陸艦としての機能も、持たせなければならない。
南米の超合金の街からはより分厚く、より耐熱性の高い装甲板がピストン輸送されてくる。
オーストラリアのアルミの街からは、軽量化と強度を両立させたフレーム素材が届く。
インドネシアのゴムの街からは、真空に耐えうる最高級の気密パッキンと、衝撃吸収材が山のように積まれてくる。
インドの数学都市SAIでは、ヘロブライン戦で得られた敵の戦艦のデータを解析し、月面着陸時の回避機動プログラムが書き換えられていく。
世界中の拠点が、一つの巨大な工場のように連動していた。同時並行で進められたのが、宇宙服の量産と改良だ。戦闘を想定し、動きやすさと防御力を極限まで高めたバトルスーツ仕様。フランソワと杠を中心とした被服チームが、徹夜で針を動かし、ゴムと特殊繊維を縫い合わせていく。
わたしも、エンチャントテーブルを持ち込み、完成した宇宙服に「耐久力Ⅲ」や「飛び道具耐性Ⅳ」といった、科学では説明のつかない魔法的防御力を付与して回った。科学とクラフト、そして魔法。すべてを詰め込んだ最強の装備が、次々と完成していく。
ハードウェアの準備と並行して行われたのがソフトウェア──つまり人間自身の徹底的な強化と改造だ。
戦闘訓練。月面は低重力だ。そして真空だ。そんな極限環境下でホワイマンや未知の敵と戦わなければならない。が、今回の作戦は一部のエリート戦士だけが特攻するような、生温いものではない。
総力戦だ。科学王国の国民全員が、戦う意思を見せたのだ。誰一人として守られるだけの存在で、いることを良しとしなかった。石神村の子供から老人まで。現代からの復活者も。全員が武器を取り立ち上がった。
もちろん、素人がそのまま戦場に出ればただの的だ。だからこそ、地獄の訓練が始まった。
まず着手したのは、装備のアップデートだ。真空の宇宙空間では、従来の火器は問題を抱えている。酸素がないこと自体は、銃弾の中に酸化剤が含まれているから発砲可能だ。
問題は反動と排熱だ。無重力空間でフルオート射撃を行えば、反動で射手自身がきりもみ回転して、宇宙の彼方へ飛んでいってしまう。さらに空冷が効かない真空では、銃身がすぐに焼き付いて暴発する危険性がある。
そこで千空とゼノ。そして技術開発部が共同で開発したのが、【宇宙戦仕様制動小銃スペース・アサルト・ライフル】だ。銃身には南米産の超耐熱合金を使用し、銃身全体を冷却ジェルで覆う強制冷却機構を搭載。そして最大の特徴は、インドネシア産の高弾性ゴムとダンパーを組み合わせた衝撃吸収ストックと、姿勢制御用の小型スラスターが銃そのものに内蔵されている点だ。
引き金を引くと同時に、逆噴射ガスが吹き出し反動を相殺する。これにより子供や力の弱い者でも、宇宙空間で安定した射撃が可能となった。まさに科学の勝利だ。
わたしたちマインクラフターも負けてはいない。わたしたちが用意したのは【多弾頭ロケット花火装填式クロスボウ】だ。空気抵抗のない宇宙空間において、ロケット花火は減速することなく直進するレーザーのような兵器と化す。
着弾と同時に広範囲に爆発と閃光を撒き散らすそれは、目くらましと攻撃を兼ね備えた凶悪な弾幕となる。さらにエンチャント「拡散」「高速装填」を付与することで、もはやそれは個人の携行兵器の域を超えた制圧兵器となった。
武器の用意はできた。次は使い手の訓練だ。司。氷月。コハク。モズ。キリサメ。松風。ストーンワールドが誇る最強の戦士たちが教官となり連日連夜血の滲むような模擬戦が繰り返された。場所は技術開発部がクラフトした、巨大なドーム状の施設【低重力再現室】だ。
床にはスライムブロックが敷き詰められ、空気中には常時「跳躍力上昇」と「低速落下」のポーション効果を含んだ霧が散布されている。一歩踏み出せば身体がふわリと浮き上がる。壁を蹴れば弾丸のように飛んでいく。上下左右の感覚が狂う三次元的な戦場。ここで彼らは、徹底的にしごかれた。
「動きを止めるな! 止まったら死ぬぞ!」
司の怒号が響く。参加を希望した科学王国民たちも必死だ。大樹は持ち前の無尽蔵のスタミナと防御力を活かし、全身をネザライト装備と大型シールドで固めた【重装タンク】としての役割を確立した。彼は敵の攻撃を一手に引き受け、仲間を守る壁となる。
「俺が守る! 全員後ろに隠れろぉぉぉ!」
その姿はまさに守護神だ。意外な才能を見せたのが、スイカだ。彼女の小柄な体躯は宇宙服を着てもなお小さく狭いダクトや敵の死角に入り込むのに最適だった。彼女は偵察と工作のスペシャリストとしてゼノから直々に爆破工作と情報収集の技術を叩き込まれた。
「スイカは名探偵なんだよ! 敵の弱点を見つけてドカンとやるんだよ!」
被り物の上からヘルメットを被ったその姿はマスコットのようでいて油断ならない戦士だ。
ゲンや南といった非戦闘員組も逃げ出さなかった。彼らは直接殴り合うのではなく情報戦とサポート部隊としての訓練を受けた。通信機を通じた撹乱。デコイの散布。そして負傷者の救護。戦場においては彼らのようなサポートこそが、生死を分けることを全員が理解していたからだ。
「ジーマーでバイヤーだけどやるしかないよねぇ~!」
ゲンが泣き言を言いながらも、的確な指示出しの訓練をこなしていく。
そして老人たちもだ。カセキやコクヨウたちも、「若いもんだけに任せておけん」と立ち上がった。個体によるが、彼らには体力はない。しかしながら、経験と技術がある。彼らはパワードスーツのような外骨格【アシスト・ゴーレム】に乗り込み、その操作技術を磨いた。
採掘や建築で培った操作感覚は、兵器の操縦にも応用が効いた。重機を操るように、敵を粉砕する老人部隊。嗚呼、頼もしすぎる。
訓練は過酷を極めた。筋肉が悲鳴を上げ、骨がきしみ疲労で意識が飛びそうになる。けれど、誰一人として音を上げなかった。金リンゴと回復のポーションが湯水のように消費され、傷ついては治し倒れては立ち上がり、彼らは強くなった。
「個」の武力ではなく「集団」としての殺傷力。ホワイマンがどんな手を使っても、どんな兵器を繰り出してきても、物理と科学と結束力で粉砕するという鋼の意志が、彼らの拳に宿っていた。
準備は日本だけではなかった。世界中で、宇宙船が建造されていた。南米の超合金の街。オーストラリアのアルミの街。インドネシアのゴムの街。それぞれの拠点が巨大な工廠となり、空を目指す船を次々と生み出していた。当初の計画では、日本から一機のロケットを打ち上げるだけだった。
だが、今は違う。世界中から無数のロケットが、同時に打ち上げられる手筈となっていた。大型の強襲揚陸艦。小型の戦闘艇。物資を運ぶ輸送艦。それらが各大陸の発射台にずらりと並ぶ光景は、圧巻の一言に尽きる。
これは探査ではない。地球人類による月面への【逆侵攻】だ。かつて石化光線によって滅ぼされた人類が、3700年の時を経て科学の力で蘇り、今度は空の彼方へ殴り込みをかけるのだ。その先頭に立つのは、もちろん我らが科学王国の旗艦【クラフト号】だ。その後ろには、数え切れないほどの僚機が続く。わたしたちの進撃は止まらない。
物量には物量を。
暴力には暴力を。
そして絶望には希望を。
準備完了。乗り込む準備は整った。それぞれの胸にそれぞれの決意を秘めて、選ばれし戦士たちと科学者たち、そして創造主が発射台へと向かう。振り返れば、そこには見送る仲間たちの顔がある。
誰も泣いてはいない。ただ信じているのだ。わたしたちが勝利し、この石の世界に本当の意味での夜明けをもたらすことを。
風が吹いている。新しい時代の風だ。
さあ行こうか。
月へ。
ホワイマンの元へ。
3700年の時を超えた、人類史上最大の喧嘩を売りに行くために。わたしはインベントリの装備を確認し、ニヤリと笑った。
ダイヤの剣よし。
ロケット花火よし。
金リンゴよし。
何より折れない心よし。
待っていろホワイマン。お前が泣いて謝るまで、ダイヤの剣で殴るのをやめないからな。
全軍搭乗開始!
カウントダウンなど待っていられない。
気分はもう最高潮だ!
次回、科学王国の逆襲。