クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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先日の土曜日は風邪だったので病院に行きました。細いねェと、優しいおばあちゃんから声をかけられました。体重を聞かれたので、40kgだと正直に答えました。もっと食べなさいとお金を渡されました。作者と同い年であろう女の子の目が怖かったのでお金返しました。帰宅してゲームしまくっていたら悪化してベッドにダイブしました。薬を飲んで直ぐ寝ることを学びました。

なんであんなバカなことしたんだ、私。


月面着陸と開けゴマ

 皆さんどうもごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス! 親しみを込めて、どうぞ「完璧美少女のアレックスちゃん」とでも呼んでくれたまえ。

 

 ついに、ついにやって来たぞ! 見渡す限りの灰色の世界。漆黒の空に浮かぶ、巨大な青い地球。わたしたちは今、正真正銘の月面に立っている! 

 

 月はロマンがあっていい。ウサギがお餅を搗いているなんてファンタジーな伝説もあるが、実際に来てみればただの荒涼とした岩の塊だ。でも、それがいい。何より、あの憎きホワイマンを直接ぶん殴るという明確な目標があるからか、今のわたしの気分は絶好調だ。アドレナリンがドバドバ出ている。

 

 …おっと一つだけ、訂正しておくことがあった。月面だからといって、マインクラフターが無敵だと思ったら大間違いだった。それは、「宇宙服がないとリスポーンしてしまう」という残酷な事実だ。どうやら、宇宙空間はMinecraftのシステム上において、「水中のように窒息する特殊な環境」として判定されるらしい。

 

 すぅ…おかしいじゃないか! 初めのうちは宇宙服なんか着なくても、全然大丈夫だったのだぞ? 

 

 月面に降り立ってすぐのことだ。わたしはあの生意気な、「不良騎士のアレックス」の背後を取ってやった。あいつ、地球でわたしを正座させて説教しやがったからな。ちょっとした仕返しだ。インベントリから宇宙用の狙撃銃を取り出し、スコープ越しにあいつの頭を狙い撃とうとした…まさにその瞬間だった。

 

 急に画面が赤く点滅し、視界が歪んだ。「うっ胸が…息が…」というあまりにも情けない遺言を残して、わたしはその場にアイテムをバラ撒いて死んでしまったのだ。月面到達直後の栄えある第一号の死者が、まさかの窒息死。しかも、身内を狙撃しようとして自滅。

 

 恥ずかしすぎる。黒歴史だ。ベースキャンプのベッドでリスポーンした時は、他のアレックスたちから腹を抱えて笑われた。

 

 なので仕方なく、わたしは今ヘルメットを被っている。ただのヘルメットじゃあないぞ? 技術開発部の連中がこの月面作戦のために、特別に開発した特製ヘルメットだ。見た目は装着者の美しい容貌がバッチリ分かる、透明度の高いマイクラのガラスブロック製ヘルメットそのものだ。

 

 これを装着するだけで、「うっ胸が…ってなる訳ないだろうw」という素晴らしい能力。すなわち、水中呼吸ならぬ真空呼吸のエンチャント効果が常時付与されるのだ。使用可能な時間は無期限という、ゲームバランス崩壊レベルのとんでもない破格の性能だ。

 

 もちろん、無敵ではない。何百回もゾンビ等の敵性モブから攻撃されれば、耐久性がゼロとなって跡形もなく壊れてしまう。壊れた瞬間にまた窒息してリスポーンする羽目になるから、前線に立つ時は予備のヘルメットが必須だ。

 

 さて、わたしの恥ずかしいお話はここまでにして、今は目の前のことを片付けなくてはならない。

 

 

「ななんなのだ? この文字は…象形文字っというものなのか? 石神村に伝わる百物語にも、こんな奇妙な模様は出てこなかったぞ!」

「ヤベー、全然わかんねー!? 千空! テメーの頭ん中にある科学の知識でも、この文字は読めねえのか!? これじゃあ、開けゴマの呪文も唱えられねえぞ!」

 

 

 石神村の美少女コハクと青年のクロムが、巨大な壁を見上げて騒いでいる。目の前にあるのは、ホワイマンの基地だ。そして、我々が今見上げているのはそのエントランスらしき場所に設けられた、巨大な扉に刻まれた謎の文字だ。

 

 ちなみに今の「我々」とは、クロムとコハク、七海龍水と石神千空、ゼノとスタンリー、そしてREIの精鋭メンバーだ。他のメンバーは地球防衛のために残ったり、月面の別エリアの攻略や拠点の構築で別行動を取っている。

 

 それにしても、この基地はあまりにも巨大だ。そして古い。相当の年月が経っているから基地というよりも、遺跡という表現の方が正しいのかもしれない。どっちが正しいかはさておき、地球の天文台から観測していた時よりも実物を目の前にすると、そのデカさに圧倒されるな。

 

 

「なあゼノ。NASAの最新鋭の望遠鏡で、こんなバカデカい人工物を観測してねえって嘘だろ? それとも、政府のトップシークレットとして、俺にも隠してたのか?」

「情報隠蔽なんてしてないさ、スタン。ボクだって驚いているんだからね。月面の裏側とはいえ、これほどの構造物を見落とすなんて、旧世界の科学でもあり得ないことだ。光学迷彩か空間歪曲か…実に、エレガントじゃない事実だよ」

 

 

 スタンリーが宇宙服仕様の電子タバコをふかしながら、ゼノに尋ねる。ゼノもまた、目の前のオーバーテクノロジーに知的好奇心を刺激されているようだ。

 

 デカいとはいえ、我々の戦力をもってすれば包囲が不可能なレベルではない。月面に持ち込んだ90式戦車部隊も、歩兵として参加している戦闘員たちも、すべてが臨戦態勢を整えている。脳内には通信が絶え間なく飛び交っている。

 

 

『こちら02。月面防衛部隊の殲滅完了。残存兵力ゼロ。実に歯応えのない連中だった』

『こちら04。拠点の防衛ライン構築完了。いつでも支援可能だ』

『こちら05。お宝の匂いがプンプンするぜ! さっさと中に入って略奪しようぜ!』

『こちら03。この施設の構造、マジで解析しがいがあるねェ〜。装甲の一部切り取っていい?』

 

 

 相変わらず、好き勝手言っている連中だ。なお一般のマインクラフターたちはいつも通りというべきか、バニラの素材を使って月面都市を作ろうとあちこちを疾走している。無重力を利用してアクロバティックな餅つきをする者もいれば、月面の砂で雪合戦(砂合戦?)をする者まで幅広く存在している。

 

 一般だろうが軍事部だろうが裁定部だろうが、なんでも好き勝手しているのが創造主という生き物だ。海賊部や技術開発部なんかは、「お宝は何かな」「ホワイマンって解体可能かな」等でワクワクしているし本当に緊張感がない。

 

 ちなみに、ホワイマンが展開していた防衛部隊は、すでに全て全滅させた。数こそ力なり。量と質を合わせることこそ最強なり。マインクラフターの飽和攻撃と科学王国の精密攻撃の前に、敵の機械兵器どもはただのスクラップと化したのだ。

 

 

「おそらく、3700年前の石化事件の時点から、既にここは存在していたのでしょう。私の中に蓄積されたISSの観測データと照らし合わせても、この施設の風化具合は異常です。もしかしたら千年単位ではなく…万年という途方もない時間を、ここで過ごしてきたのかもしれません」

「クククッ、だろうな。こいつの材質はどう見ても地球上のモンじゃねえし、3700年前の科学力でも到底作れねえ代物だ。宇宙人の秘密基地か、超古代文明の遺産か。どっちにしろ唆るじゃねえか。中身を全部ひん剥いて、科学の糧にしてやるぜ」

「ハッハー! どちらでも構わん! この月の裏側に眠る未知のテクノロジーも、あのホワイマンとやらも! 世界の全てはこの俺、七海龍水が手に入れる! 新たな大航海時代の果てにある、最高の宝というわけだ! 違うか!?」

 

 

 REIの冷静な分析に千空が悪い笑顔を浮かべ、龍水が高笑いと共に強欲さを爆発させる。もしかしたら、本当に古代アトランティスのような存在なのかもしれないな。ホワイマンは、そんな古代文明の最後のひとりかも? 

 

 

 知らんけど!

 

 

 どんな背景があろうと、わたしたちに喧嘩を売った事実は変わらない。さて、この堅牢な扉をどうやってこじ開けるか。TNTキャノンで爆破するか? それとも、ゼノのエレガントな兵器を使うか? わたしがインベントリを探り始めた…ってええ!? 

 

 

「あ、開けれちゃったぜ。なんだよ…鍵かけておけよ!!」

「まさか叩くだけで開けれてしまうとは…こんな巨大な扉が、なんの抵抗もなく動くなど。罠の可能性もある。警戒を怠るな!」

 

 

 巨大な扉が音もなく、重々しく横へとスライドしていく。その中心に立っていたのは、なんとクロムだった。彼が謎の象形文字をコンコンと叩いただけで、扉が開いてしまったのだ。自動ドアかよ! セキュリティガバガバじゃないか! 

 

 クロム…大活躍じゃないか。流石は、科学王国の誇る天才科学使いだ。ただの偶然の可能性が極めて高いが、結果オーライだ。扉の向こうには、底知れない暗闇が続いている。さあ、乗り込もうか。ホワイマンの待ち受ける深淵へ。

 

 さてさて。クロムのまさかの「コンコン、ガチャ」という、奇跡的なファインプレーによって開かれた巨大な扉。わたしたち精鋭部隊は、警戒を最大レベルに引き上げながら、その底知れない暗闇の中へと足を踏み入れた。

 

 内部は、想像を絶する空間だった。これ、本当にアトランティス人説…あるんじゃね? そう口にしたいくらいだ。

 

 足を踏み入れた瞬間、センサーが反応したのか、通路の奥に向かって次々と柔らかな青白い光が灯っていったのだ。だが、それは電球やLEDの光ではない。壁に埋め込まれた未知の鉱石そのものが、まるで脈打つように発光しているのである。

 

 壁面には外の扉にあったのと同じような、波打つような象形文字とも幾何学模様ともつかない意匠が、びっしりと刻み込まれていた。それは太古の神殿を思わせる荘厳さを持ちながら、同時に宇宙船の内部のような無機質な洗練さをも兼ね備えている。

 

 ストーンワールドの地球には、決して存在し得ないオーバーテクノロジーの結晶。旧世界の科学力でもこれほどまでに美しく、かつ巨大な施設を月面に建造することなど不可能だったはずだ。

 

 もし、かつて地球に高度な文明を持った種族──それこそアトランティスのような存在がいて、彼らが何らかの理由で地球を捨てて月に移り住んでいたのだとしたら。そして、その末裔がホワイマンなのだとしたら。

 

 千空やゼノも、壁の材質や光源の仕組みを鋭い眼光で観察しながら、無言で歩みを進めている。彼らの科学者の血が、この未知の遺跡を前にして激しく沸騰しているのだろう。

 

 通路を進めば進むほど、ビックリするくらいアトランティス関係のモチーフが次々と現れるのだ。床には、水が流れていたような滑らかな溝が彫られており、天井からは珊瑚や海藻を模したような奇妙な金属製の装飾が垂れ下がっている。空気はない真空の空間だというのに、まるで深海を歩いているかのような錯覚に陥る。

 

 

「ホワイマン。奴はよっぽど海が好きなのか。それとも、本当に地球から引っ越してきたのか…」

 

 

 龍水が周囲を見渡しながら、興味深そうにハッハーと笑い声を漏らす。だが、油断は禁物だ。いつどこから防衛システムが作動し、レーザーやミサイルが飛んでくるか分からない。わたしは手にした武器を強く握り直し、先頭を進むコハクの背中に続いた。

 

 ふと背後から重く、しかし確かな足音が近づいてくるのに気づいた。

 

 振り返ると、いつの間にかスティーブが合流していた。かつてヘロブラインとして世界を滅ぼし、先ほどまでわたしたちと死闘を繰り広げていた白目の魔王。今の彼は纏っていた禍々しいオーラをひっそりと潜め、ただ一人の父親としての、そして復讐者としての冷たい怒気を全身から立ち上らせていた。

 

 彼の手には、青白く紫電を纏うダイヤモンドのツルハシが握られている。そして彼のすぐ後ろには、父親の背中に隠れるようにして歩く娘の姿と、彼女を護衛するように剣を構える不良騎士のアレックス──もうひとりのわたしの姿があった。

 

 スティーブの瞳は通路の奥、ホワイマンがいるであろう最深部だけを真っ直ぐに見据えている。その瞳に宿る憎悪の深さは、同じ空間にいるだけで肌が粟立つほどだった。無理もない。彼はホワイマンに騙され利用され、愛する妻の亡骸を「ゴミとして処分した」と宣告されたのだ。彼にとって、これはただの戦いではないのだろう。

 

 

「ん?」

 

 

 その時だった。我々の行く手を遮るように、あの不吉な漆黒のモノリスが出現した。表面には、『SOUND ONLY』の赤い文字が明滅している。ホワイマンの通信端末だ。

 

 

『ふっ、愚かな下等生物どもに告げる。ここには何しに来t──』

 

 

 ホワイマンの尊大で、見下すような声が通路に響き渡った。だが、そのセリフが最後まで紡がれることはなかった。

 

 

「俺の全てを奪い、弄んだ貴様を、八つ裂きにするために決まっているだろうがァァァ!!」

 

 

 スティーブが吠えたからだ。言葉よりも速く、彼はエンダーマンのようなテレポートでモノリスの眼前に、瞬時に移動していた。振り上げられたダイヤモンドのツルハシが、稲妻の閃光と共に振り下ろされる。

 

 轟音だった。ホワイマンの言葉を強制的に遮断するように、漆黒のモノリスは一撃で真っ二つに両断され、火花を散らして爆散した。破片が月面の低重力の中を、ゆっくりと舞い散っていく。スティーブは肩で息をしながら、残骸を冷酷な瞳で見下ろしていた。わたしたちは、歩みを再開した。

 

 しばらく進むと、再び前方の床が開き、二つ目のモノリスが出現した。だが、今度のモノリスは様子がおかしかった。なんと漆黒の石板の頂点から、棒の先についた「白い布」が飛び出し、パタパタと左右に振られているのだ。

 

 マインクラフトのバナー機能で作ったのか!? どう見ても物理的な白旗だ! オーバーテクノロジーの塊であるモノリスから、わざわざアナログな白旗が出ているというシュールな光景に、わたしは思わず目を疑った。

 

 

『待つのだ。話をしようじゃないk──』

 

 

 モノリスから響くホワイマンの声は、先程までの高圧的な態度が嘘のように、どこか焦っているような響きを含んでいた。だが、スティーブの怒りの炎に、白旗などというチャチな水が通用するはずもなかった。

 

 

「貴様の戯言に耳を貸すと思うか! 妻の命を塵芥のように扱った悪魔が、今更どの口で語るというのだ!!」

 

 

 ズガァァァァァン!! 

 

 

 再びの落雷。スティーブの手から放たれた極太の稲妻が、白旗ごとモノリスを消し炭に変えた。容赦がない。交渉の余地など1ミリも存在しない。彼の怒りは、対象を完全に消滅させるまで決して止まることはないのだ。

 

 さらに通路の奥へ進む。わたしは歩きながら、ふと疑問に思っていた。

 

 ホワイマンの事だ。あの地球全土を一瞬にして石化させ、巨大戦艦を操り、スティーブを顎で使っていた絶対的な黒幕。その威厳がここに来て、急に崩れ去っているように見えるのは、気のせいだろうか? 白旗を振る? 話をしよう? 

 

 もしかして、アイツ、ビビっているのか? いや待て。相手はホワイマン、未知の存在だ。あんな情けない声を出しているのも、全ては我々を油断させるための高度な演技かもしれない。

 

 三度、モノリスが出現した。今度のモノリスは、白旗だけでなく、なぜか表面の『SOUND ONLY』の文字まで小刻みに震えているように見えた。

 

 

『ふっ、恐れているのだな。貴様らにとっても、ヘロブラインにとっても、悪い話ではないのd──』

「俺の恐怖は、とうに枯れ果てた! 貴様を地獄の底へ引きずり下ろすまで、俺の怒りは決して消えはしないッ!!」

 

 

 ドゴォォォォォン!!! 

 

 

 三度目の粉砕。もはやスティーブは、ホワイマンが何を提案しようとしているのかすら聞く気がなかった。「悪い話ではないのだ」の「だ」の前に、モノリスは跡形もなく吹き飛ばされた。あまりのテンポの良さに、千空すらも「クククッ、流石に可哀想になってきたな」と零す始末である。

 

 それにしても、本当にもしかして、ホワイマンは降伏しようとしている説あるんじゃないか? 

 

 いやいや、騙されてはいけない。ホワイマンのことだ。きっと何か恐ろしい罠があるに違いない。あえて情けない声を出し、白旗を振り、我々の警戒心を解いたところで、一気に全方位から石化光線を放つ…そんな外道な作戦を企てている可能性は非常に高い。

 

 わたしはインベントリの中にある「復活液」のストックを確認し、いつでも投げられるように準備を整えた。油断大敵。マインクラフターの鉄則だ。

 

 やがて、長かった通路の終点に辿り着いた。そこにあったのは、これまで見てきたどの扉よりも巨大で、重厚な装飾が施された両開きの扉だった。アトランティス神殿の最奥部を思わせる、威圧感のあるデザイン。間違いなく、この奥がボスの部屋だ。

 

 

「扉…この先に、ホワイマンが」

 

 

 不良騎士のアレックスが、スティーブの娘を庇うように一歩前に出て、鋭い剣を構えながら緊張した声で告げた。コハクもスタンリーも全員が武器を構え、千空とゼノは冷静に周囲のエネルギー反応を測っている。

 

 スティーブは無言のまま、ツルハシを強く握りしめ、扉の前に立った。彼が手をかざすと、扉はまるで彼の怒りに怯えるかのように、重々しい地響きを立てながら、ゆっくりと左右に開いていった。

 

 扉が開く。わたしたちは、ラスボスの強烈な先制攻撃に備えて身構えた。が、視界に飛び込んできた光景は、わたしたちの予想を──いや、あらゆる人間の想像を、斜め上に裏切るものだった。

 

 広大な部屋の内部。壁や床は、外の通路と同じくアトランティスを思わせる、青白い発光鉱石と流線型のデザインで統一されている。その部屋の中央付近の様子が、決定的におかしかった。オーバーテクノロジーの遺跡の中に、なんと『地球の文明物』が乱雑に散らかっていたのだ。

 

 木製のちゃぶ台。使い古されたようなフカフカのソファ。旧世界のテレビ。さらに、床には漫画の単行本らしきものや、ゲーム機、そして空になったスナック菓子の袋のようなものまで転がっている。ボスの玉座というよりは、完全に『休日のオタクの部屋』であった。

 

 そして、その部屋の最奥。部屋の隅っこに、ひときわ異質な存在がいた。それは、キャスター付きの事務用オフィスチェアを自らの盾にするようにして身を隠していた。その後ろでガタガタと目に見えて分かるほど、激しくビクビクして震えている「何か」だった。

 

 姿は、はっきりとは見えない。空間そのものがモザイクのような、あるいはテレビの砂嵐のようなノイズに覆われており、性別はおろか有機物なのか機械なのか、その輪郭すら曖昧なミステリアスな存在。けれど、そのノイズの奥から伝わってくる感情だけは、痛いほどにはっきりと理解できた。

 

 怯えているのだ。圧倒的な暴力のスティーブと創造主の襲来に、本気で震え上がっているのだ。

 

 

「…は?」

 

 

 緊迫しきっていたのだろう。誰かが、間の抜けた声を漏らした。スティーブですら、振り上げたツルハシを下ろすタイミングを見失い、ポカーンと立ち尽くしていた。

 

 人類を石化させた黒幕。その正体はちゃぶ台とソファに囲まれ、事務椅子を盾にして震える、正体不明の引き籠もりだった。

 

 

 …ど、どういうことなの?




次回はホワイマンがどのような姿をしているのか、明かしていきます。
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