皆さんどうもごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス! 親しみを込めて、どうぞ「完璧美少女のアレックスちゃんでも、理解に苦しむことがある」とでも呼んでくれたまえ!
いや本当、理解に苦しんでいるのだ。ここは月面にある、謎のアトランティス風、オーバーテクノロジー遺跡の最奥部。ボスの玉座があるべき部屋だ。しかしだ。そこにあったのは、生活感あふれるちゃぶ台とソファとテレビ。そして、事務用のキャスター付き椅子を盾にしてガタガタと震えている、ノイズまみれの謎の存在だった。
どういうことだ。緊張感というものが、家出をして帰ってこない。わたしたちは、戦いに来たはずなのだ。それがなんだ…この、休日のだらけきったオタク部屋みたいな空間は。
驚くのは、まだ早かったらしい。スティーブの殺気に当てられたのか、それとも観念したのか。椅子に隠れていた謎の存在を覆っていた、空間のノイズ。チカチカと明滅し、ふっと晴れたのだ。一応今この瞬間ではあるが、ようやくホワイマンの正確な姿を確認することが出来た。
まず驚いたのは、その容貌だ。地球外生命体とかタコ型宇宙人とか純粋な機械の塊とか、色々な予想があった。
けど違った。千空たち人類と全く変わらない有機生命体としての、容貌をしていたのだ。
ホワイマンは、非常に長い髪を持っていた。白銀の髪だ。月の光をそのまま紡いだような、美しくも冷たい色。
瞳の色もまた、同じ白銀だった。
服装も奇妙だ。エヴァンゲリオンで登場するプラグスーツのような身体のラインに、ぴったりと張り付く白と青のぴっちりスーツを着ている。宇宙服のインナースーツのようにも見えるが、それにしては装飾的すぎる。手首。両手首には、何か特殊な金属で出来た輪っかが嵌められている。
その輪っかの中心には、青い宝石のようなものが輝いていた。まるで…そう。あの石化装置メデューサのコアに嵌め込まれていた、ダイヤモンドに酷似している。
そして、最も重要な事実。
性別は女だ。顔立ちは整っており、どこか神秘的な美しさを備えている。歳は…見た感じだと、16歳くらいの少女のようだ。わたしと同じくらいか。だが、彼女がこの月で永い時間を過ごしてきたのだとすれば、見かけより遥かに年上なのは間違いないだろう。
美少女ロリババアというやつか。けど背は低くないし、貧相な胸をしていない。
感想──属性が渋滞している。これに尽きる。
つまりだ。ホワイマンという呼称を、ここで改める必要があるようだ。「マン」というのは通常、男に使われる言葉だからな。その正体は、引き籠もりの美少女だったのだ。ならば、こう呼ぶとしよう。
ホワイマンならぬ──ホワイガールと!
「ふっ…よく来たな。愚かな下等生物ども」
静寂を破り、ホワイガールが口を開いた。その声は鈴を転がすような澄んだ少女の声で、口調はあくまで高圧的だ。事務椅子の背もたれから半分だけ顔を出し、銀色の瞳でわたしたちを睨みつけている。威厳たっぷりな態度で話す。支配者としての威厳を、必死に保とうとしているようだ。
だが悲しいかな。残念なことに、全く様になっていない。何故なら声音が裏返り、気味で体も小刻みにビクビクと震えているからだ! 威圧的なセリフと震える身体。ギャップの差が激しすぎる!
「クククッ。随分と気高いご挨拶じゃねえか。けどよ、テメーのその震えはなんだ? 寒いのか? それとも、俺たちの科学にビビり散らしてんのか?」
千空が、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべて挑発する。
「フフッ、実にエレガントじゃない出迎えだね。君が地球全土を石化させた黒幕かい? 見たところ、ただの怯えた小動物にしか見えないがね」
ゼノもまた、冷たい視線を送る。
「ハッハー! 見かけによらず強欲な奴め! 世界の全てを石に変えて、独り占めしようとはな! だが、その野望も今日で終わりだ!」
龍水が指を鳴らして高笑いする。科学王国の面々は、ホワイガールの正体が少女であろうと全く容赦しない。彼らにとって彼女は、人類の時間を3700年も奪った大罪人に他ならないのだから。
「わ、我を侮るな! 我は地球の支配者であるぞ! 貴様らのような泥にまみれた原始人どもなんぞ、我が気まぐれ一つで再び石のオブジェに変えて──」
ホワイガールが必死に虚勢を張り、言葉を紡ごうとしたその瞬間だった。彼女の背後の空間が、紫色の粒子と共に歪んだ。
「──御託はいい。妻を返せ」
地獄の底から響くような呪怨の声。スティーブだ。彼はエンダーマンのテレポート能力を使い、瞬きする間にホワイガールの真後ろへと移動していた。彼の白目は、怒りで赤黒く発光しているようにすら見える。
「ひぃっ!? お助けー!!」
先程までの威厳はどこへやら。ホワイガールは椅子ごとひっくり返り、カエルのように潰れた悲鳴を上げた。美少女の面影も支配者のプライドも全て投げ捨てた、情けない絶叫だ。
スティーブは逃げようとする彼女のぴっちりスーツの襟首を、無造作に掴み上げた。ゴミ袋でも投げるかのように、わたしたちのいる前方へと力任せに放り投げた。
「きゃああっ!!」
ホワイガールは宙を舞い、不格好に転がり千空たちの足元へと激突した。痛い痛いと涙目で頭を抱えて、うずくまっている。その姿はもはや、可哀想な迷子の子供だ。
わたしは少しだけ同情しそうになった。いくら黒幕とはいえ、こんな少女を寄ってたかってイジメているような構図に、なってしまっているからだ。しかし、ふと横を見て、わたしは背筋が凍るのを感じてしまった。
不良騎士のアレックス。
スティーブの娘。
千空。
ゼノ。
クロム。
スタンリー。
コハク。
REI。
全員の目が。これっぽっちも笑っていなかったのだ。足元でうずくまるホワイガールを見下ろす彼らの視線は、絶対零度を下回っていた。
怒り。
憎悪。
冷徹な計算。
それらが混ざり合った、とてつもなく恐ろしい視線が彼女に突き刺さっている。
「テメーのせいで人類は滅んだ。親父たちも死んだ。その落とし前はキッチリ、100億パーセント払ってもらうぞ」
千空の声には、普段の軽口はない。底冷えのする静かな怒りだけがあった。
「エレガントな尋問の時間だ。君の身体の構造から思考回路に至るまで、全てを解き明かさせてもらうよ」
ゼノの瞳には、メスを握る外科医のような冷酷な光が宿っている。
「動くな。少しでも妙な素振りを見せれば、即座に眉間を撃ち抜く」
スタンリーは既にライフルを構え、安全装置を外していた。
「貴様が万死に値する悪魔であることは明白だ。斬り刻まれる覚悟は…出来ているな?」
コハクが双剣を抜き放ち、殺気を放つ。
「いやあ楽しみですね。ビャクヤも喜びますよ!」
REIが満面の笑みを浮かべる。
怖い! 怖いんだが! 科学王国民のプレッシャーがヤバすぎる! 普段は頼もしい仲間たちだが、敵に回すとこんなにも恐ろしい連中だったのか! マインクラフターのわたしですら、ドン引きするレベルの圧だ。脆弱な有機生命体だなんて言ってごめんなさい!
ホワイガールは完全に包囲されていた。前には怒れる人類の代表たち。後ろには妻を処分された、憎悪の化身スティーブ。
逃げ場はない。
圧倒的な戦力差。
言い逃れのできない状況。
ホワイガールも、ついにそれを悟ったのだろう。彼女はガタガタと震えるのを必死に抑え込み、ゆっくりと床から身を起こして居住まいを正す。その顔にはまだ恐怖が張り付いていたが、それでも最後に残った一握りのプライドをかき集めたような表情だった。
彼女は千空たちを、そしてスティーブを順番に見据え、深く息を吸い込んだ。
「ふっ、話すとしよう。私が生まれ、なぜ貴様らを石化させたのか」
あっ、回想に入る感じ? ならポップコーンを用意しなければ。
次回、ホワイガールの過去。