例:
間違いなく、
「霊長類最強の高校生は顔も最強!」
イケメンだ!
例:以上
また実在する国がちらっと登場しますので、よろしくお願いします。
風が止まった。鳥の声も、虫の羽音も消え、世界が静寂に包まれたようだった。この場に残っているのは、千空とわたし、そして"彼"──獅子王司の3人のみ。
シルファ先生、大樹、杠の姿は無い。わたしの指示と千空の計画に従い、彼らは遠くへ退避している。もちろん死んでなどいない。わたしが空に"合図"を送れば、即座に駆けつけられる距離を保ちながら、息を潜めて待機しているはずだ。
「科学の武器が登場したらあれか? 『最強の僕が最強に無くなっちゃう』…ってか? クククッ、随分と可愛らしい心配事じゃねぇか」
千空の声が静寂を切り裂く。挑発的なその言葉の裏に隠された焦燥を、わたしだけが感じ取っていた。
さて、皆の衆。わたしが今、一体どんな状況に置かれているのか。気になることだろう。実のところ、当事者であるわたし自身も「なんでこうなった?」と首を傾げたくなる状況だ。
「そうだろ? 司」
「うん、そう捉えて貰って構わないよ」
司の声は不気味なほど穏やかだったが、その行動は言葉とは裏腹に全く穏やかではない。
わたし、マインクラフターのアレックス。今ね、あろうことか霊長類最強の男の人質になっているの。
司の左腕はわたしの体を背後からガッチリと拘束し、右手に握られた鋭い石槍の切っ先が、容赦なくわたしの首筋に食い込んでいる。冷たい石の感触と、皮膚が粟立つような鋭利な殺気。少しでも動けば、間違いなく頸動脈とお友達になれる距離だ。
「タ、タスケテ〜」
わたしは無表情のまま、抑揚のない棒読みで助けを乞うてみた。助けてほしいのは山々だが、それ以上に言いたいことがある。
グイグイ槍の切っ先が首に当たっているんだよ、痛いんだよ。仕方ないよね、人質だもんね。でもね、一つ言わせて欲しいの。
…もう少し、女性に優しくしろよ!!
何の恨みがあるんだ! わたし、何かしたか? 君の理想郷とやらに何か不都合でも? してないよな!?
レディへの扱いが雑すぎるぞ、霊長類最強!!
「もしも科学の武器を作り旧文明を蘇らせれば、既得権益を求めて争い出し、たちまち汚れた世界へと逆戻りだ」
司の低い声が、わたしの頭上から降ってくる。汚れた、世界…?
ふと、前世の記憶がよぎる。もしや、バング○デシュ国の事を指しているのか? あの国、大気汚染が深刻な問題となっていたからな。
「それを阻止するためなら、俺自身が力で統べることも厭わない」
司の言葉に、わたしは内心でツッコミを入れる。いやいや、既に無い国だぞ。麻痺しているどころか全ての建造物は無くなり、全てのバング○デシュ人は石化してしまっている。大気汚染は、皮肉なことに完全に解消されたな!
しかし、そのような滅びた国を司が力で統べると…? この男、何を言っているんだ…?? 霊長類最強の男といえども、所詮は人間。マインクラフターじゃあないんだ。生身で国一つを、それも海を越えて統治するなんて、そう簡単に行ける訳が無い。
そんなに統べたいのなら、この旧日本で帝国でも築いたほうが現実的じゃないか? そうだな、『司帝国』とでも命名して。
司よ。力で統べるならこの地、旧日本でお願いします。その時は、相手してやる。マインクラフターvs司帝国。うん、悪くない響きだ。楽しみですらある。
もし千空たちがその司帝国に対抗するなら、なんと命名するだろうか。司が武力なら、千空は科学で対抗するはずだ。…『科学王国』、か?
悪くない。むしろ唆る。
「んで、『科学マンの千空はぶち殺すしかねー!』っと。…クククッ、お優しすぎる死刑判決に全米が泣くわな」
千空が鼻で笑う。あいや、そもそもバング○デシュはこの地球に元々無かったな。前世の地球、でしたね。わたしの記憶も大概だな。
「うん。でもその前に、復活液のレシピを教えてくれないか?」
司の要求は、あくまで復活液の独占にあるようだ。でもそうか、司帝国か…。ふと、彼の理想とする帝国の姿を想像してみる。司帝国ならば、既得権益とは無縁かもしれないな。
わたしの脳裏に、かつて《くらふたーのせかい》で見た光景がフラッシュバックする。自分の王国を創造するため、村人に地下労働を強いる強欲なマインクラフターの姿を。金インゴットを愛し、金インゴットに飢えているそのマインクラフターは、哀れな村人たちに奴隷のようにただただツルハシで掘る毎日を強要していた。
その様子を高みの見物で優雅に眺める、自分の王国を創造したいと目論むマインクラフター。
…あれ、それってわたしのことか? いやいや、わたしはもっとホワイトな統治者だったはずだ。多分。
司は、少なくとも金銭欲でそのような事をする男ではないだろう。彼の動機はもっと純粋で、それゆえに厄介だ。
思考が脱線しかけたが、現実は甘くない。その潔癖すぎる未来の帝王は、わたしの首にグイグイ槍を当てて、今まさに千空を脅迫しているのだ。痛い痛い。地味に痛い。
助けてセンクウ・ケノービ! 貴方だけが頼りなのです! わたしは必死に目で訴える。
「悪りーが、俺はテメー程お優しくはねぇ。合理的にしか考えられないタチでなァ。その女どうしようが、一ミリも興味ねぇわ」
千空が冷たく言い放つ。その顔には、一切の慈悲も焦りもない。…救難要請がキャンセルされてしまった。いや、わかってる。わかってるよ千空。これは駆け引きだ。お前がここで動揺を見せれば、司はそこを突いてくる。だからこそ、冷徹を装わなければならない。
わかってるけど、もうちょっとこう、手心というものをだね…!
「メスなら他にいくらでも──」
千空がさらに挑発を重ねる。その瞬間、司の腕に力がこもった。殺気。
「フッ!」
風を切る音。視界の端で、オレンジ色のものが舞った。
フッ? …あ、ああ!?
わ、わたしの髪がー!?!?
司の槍が、わたしの自慢のロングヘアを無慈悲に切り裂いたのだ。一房の髪が、ハラハラと地面に落ちていく。
おいコラ霊長類最強! 人の髪をなんだと思っている!
だが、わたしは叫ばなかった。
…ま、慌てることはないんですが。
「駆け引きは無駄d…え? 一瞬でだと? あり得るのか? いやしかし現実として目の前で…え??」
司の声が裏返る。常に冷静沈着な彼の仮面が、初めて剥がれ落ちた瞬間だった。
無理もない。彼の目の前で、切り落とされたはずのわたしの髪が、一瞬にして再生したのだから。ボブカットになりかけた髪は、瞬きする間に元の艶やかなロングヘアへと戻っていた。
「…そりゃそうなるわ、無理ねぇよその反応」
千空が呆れたように、しかしどこか楽しげに呟く。わたしは司の腕の中で、ニッと笑った。ショートヘアになってしまった髪は、元通りとなりました。ピース。物理法則を無視した再生能力。これがマインクラフターの特権だ。
…というわけで、早速反撃といこうか。わたしは隙だらけになった司の懐に、インベントリから取り出した木剣を叩き込んだ。
「くッ!?」
ドゴォッ!!
鈍い音が響き、司の巨体が信じられない勢いで後方へと弾き飛ばされた。ノックバックのエンチャントが付与された、愛用の木剣。ダメージこそ微々たるものだが、相手との距離を強制的に確保できる素晴らしいエンチャントなのだ。霊長類最強といえども、この世界の理の例外ではなかったようで、安心である。
吹き飛ばされた司が、体勢を立て直してこちらを睨む。その表情には、驚愕と警戒が入り混じっていた。
「アレックス…」
「クククッ!」
千空が喉を鳴らして笑う。わたしは一瞬で装備を切り替える。
カシャン! カシャン!
金属音が響き、わたしの身体は全身を覆う鉄の鎧に包まれた。右手には鋭く輝く鉄の剣。マインクラフター、フル装備モード。剣の切っ先を司に向け、わたしは高らかに宣言する。
──君はここで、倒れる運命となる。
厨二病くさい? いいんだよ、こういうのは雰囲気作りが大事なんだ。
「悪いけれど、倒れる訳にはいかないね!」
司が槍を構え直す。その瞳から迷いが消え、再び戦士の光が宿る。話し合いの時間は終わった。ここからは力と力のぶつかり合いだ。
わたしは空を見上げ、インベントリから花火を取り出した。
シュルルルル…ドンッ!
鮮やかな火花が空に咲く。合図だ。杠、大樹、シルファ先生、集まれ。決戦の狼煙は上がった。
さぁ、始めようか。常識外れのマインクラフター・アレックスと、常識外れの霊長類最強・獅子王司。二つの規格外が激突する、世紀の一戦を。
よ〜い、アクション!
勝つのは、どっちか?
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