クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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アレックスvs司、スタート!


また会えるさ、きっとね/アレックス、久しぶりだね

 司は動かない。その静寂は、嵐の前の静けさよりも重く、わたしの肌を刺すような緊張感を孕んでいる。

 

 彼がじっとこちらを見据えているのが分かる。わたしを、そしてわたしが持つ未知の武器を、冷静に分析しているのだ。もちろん、コチラも負けてはいない。

 

 相手は金製防具どころか、最低ランクの革製防具すら装備していない。武器は手製の石槍一本。見た目のステータスだけで言えば、圧倒的にわたしが有利だ。

 

 対して、わたしの装備は鉄製防具一式。多少耐久値は減っているが、生身の人間の攻撃を防ぐには十分すぎる性能を誇る。

 

 インベントリには弓矢、雪玉、そして緊急回避用のエンダーパールといった飛び道具が満載だ。さらに足場を作るための土ブロック、即席の壁となる丸石、そして最終兵器となり得る水バケツや溶岩バケツ等。マインクラフターとしての叡智の結晶が詰まっている。

 

 しかし、一抹の不安がよぎる。現在装備している鉄の剣も防具も、エンチャントが付与されていないバニラ状態のものだ。くそっ、こんなことなら夜なべしてでもブランチマイニングして、ダイヤモンド装備を揃えておくべきだった。せめて、エンチャントテーブルだけでも作っておけば…! 

 

 後悔先に立たずとは、まさにこのことだ。

 

「俺から行くよ!」

 

 司が動いた。速い! まるでスピードのポーションを飲んだかのような神速で、距離を一瞬にして詰めてくる。わたしは反射的にジャンプしながら足元に土ブロックを設置し、垂直に積み上げて上空へと逃れる。いわゆる「直下積み」による緊急回避だ。

 

「土の固まりか。だけどね、土柱の根本さえ破壊すれば…なんだって? 破壊しても空中に留まれている?」

 

 司が驚愕に目を見開く。フフッ、驚いただろう。この世界の物理法則では、ブロックは重力の影響を受けずに浮遊できるのだよ。砂と砂利以外はな! 

 

 このまま高所からの爆撃に移行するか。水責めか、いや溶岩流によるヒートショックか。どれも捨てがたいが、ここは派手にいこう。

 

 わたしはインベントリから、対デカブツ用に温存していたとっておきのアイテムを取り出した。TNTだ。

 

「千空、なんてものを作ったんだ…ッ」

 

「いや100億%クラフトしてねぇよ? 俺に問われてもなァ」

 

 ごめん千空、濡れ衣を着せた。わたしは火打ち石でTNTに着火した。シュゥゥ…という音と共に点滅を始め、フューっと自由落下を開始する。地面に到達した瞬間、『ドオォォン!!』という轟音と共に爆発し、地面にクレーターを穿った。

 

「アレックスも殺さなければ…ッ」

 

 爆煙の中から、無傷の司が飛び出してくる。案の定、というべきか。爆発の瞬間にバックステップで回避したらしい。そう簡単にはいかないか。

 

 …ん? 今、サラッと「殺す」って言わなかったか? さっきまで「君にはもう危険は訪れない」とか言ってたくせに、話が違うじゃないか。

 

 ゴホン。それはそうと…や〜いや〜い、ここまでおいで〜。わたしは土柱の上から高みの見物を決め込む。この高さまで来るにはエリトラで飛ぶか、跳躍のポーションの手助けが必要だ。あいや、跳躍のポーションでもこの高さは無理だな。これるもんなら来てみやがれ〜。

 

 ニヤニヤが止まらない。エリトラも持たない原始人が、ここまで来られるはずがないのだ! アーハッハッハッ! これが文明の利器というものだ! 

 

 …おやおや、司の姿が無いぞ? 何処だ、何処に消えた? 

 まさかエンダーマンのように、テレポートしたわけでもあるまいし。

 

 わたしは念のために金リンゴを齧り、衝撃吸収と再生能力のバフをかける。さらに移動速度上昇のポーションも飲んで万全を期す。よし、準備完了。だが、肝心の敵が見当たらない。

 

「アレックス、後ろだ!」

 

 千空の悲鳴のような警告が聞こえた。後ろ? ハッ、何をバカな。ここは空中だぞ? 背後には何もないはず…。

 

「うん、そうだね。今日はイイ天気だね」

 

 耳元で、穏やかな声がした。ワオ。振り返ると、そこには空中に浮いているはずの土柱にしがみつき、涼しい顔をしている司がいた。

 

 ば、バカな!? 生身で此処まで登ってきただと!? 垂直な土の壁を、道具なしで!? …そういえばこの男、霊長類最強だったな。わたしの常識で測ってはいけない相手だった。

 

「顔が赤いね、風邪かい?」

 

 至近距離で見る司の顔は、不当なまでに整っていた。しかもこの男…顔も最強であった! なんだ、なんなんだ! なんと、イケメンなのであろうか! 逆光を浴びて輝く黒髪、意志の強さを感じさせる瞳、そして野性味あふれる筋肉美。

 

「あ、あの…!」

 

「うん、なんだい? 遺言なr」

 

「獅子王司さん! わたしは貴方に一目惚れしました! 

 どうかわたしと、結婚を前提に付き合って下さい!!」

 

 口をついて出たのは、命乞いでも挑発でもなく、まさかの愛の告白だった。

 

「…うん、なるほど…うん? え、け、結婚? ぼ、僕と結婚だって? 君、今の状況わかっての発言かい?」

 

 司が珍しく動揺している。クールな仮面が崩れ、素の反応を見せている。

 

「獅子王司さん! わたしは貴方に一目惚れしました! どうかわたしと、結婚を前提に付き合って下さい!!」

 

 わたしはもう一度、心を込めて叫んだ。

 

「繰り返し…うん、僕の耳は正常だね」

 

「ナニ惚れてやがるんだテメー!!?」

 

 下から千空の罵声が飛んでくる。うるさいぞ外野! これは運命の出会いなのだ! 困惑して一人称が「僕」になっちゃってるのも可愛い。練り上げられた筋肉、風に舞う黒髪、滑らかな肌、射抜くような瞳! 

 

「嗚呼、全てが愛おしい! わたしと添い遂げて欲しい、ストーンワールドの王子様よ!!」

 

「ごめん、無理かな」

 

 即答だった。しかも、その返事と共に強烈な一撃が放たれた。

 

「ガハ!?」

 

「アレックスー!!」

「アレックスさん!!」

「大丈夫か!?」

 

 わたしは土柱から叩き落とされ、地面に激突した。受け身を取る暇もなかった。土煙の中から、司が軽やかに着地する。いつの間にか、避難していたはずのシルファ先生たちが戻ってきていた。

 

 クッ! 物理攻撃だけでなく、わたしの精神にまで干渉してくるとは…! 流石というべきか、霊長類最強!! マインクラフターのアレックスを惚れさせるとは…やりおるわ!! 

 

「惚れさせたっとどういうことなのじゃ?」

 

 先生が困惑している。

 

「勝手に一目惚れしたんだよ、唐突にな。女の顔だったぜ、アレは」

 

 千空が呆れ顔で解説する。

 

「あぁ〜、わかるかも」

 

 杠が妙に納得している。やめて、そんな目で見ないで。

 

「こう告ってやがったぜ。『獅子王司さん! わたしは貴方に一目惚れしました! どうかわたしと、結婚を前提に付き合って下さい!!』…ってな」

 

 千空、お前ってやつは…。

 

「うむ、アレックスは撃沈したんだな!」

 

 大樹、事実はそうだがハッキリ言うな。傷つく。

 

 わたしは痛む体を起こし、治癒のポーションを一気飲みしてハートを回復させる。次いでに牛乳も飲む。これは失恋のヤケ酒ではない。異常状態を正常にするためだ。『ヤベェレベルで相手に惚れているアレックス』というデバフを解除しなくてはならない。

 

 冷静さを取り戻したわたしは、エンダーパールを司の背後に投げつけた。

 

 

 シュン! 

 

 

 ワープ成功。瞬時に振り返り、鉄の剣を横薙ぎに振るう。 死ねェ! 愛の裏返しだ! 

 

「…」

 

 避けられた。それどころか、流れるような動作で反撃が来る。速い、重い。なんか凄そう。

 

 …盾が無いのが、ヤベェほど悔やまれる。チラッとガラ空きの左手を見てみる。木の板と鉄インゴットだけで作れる、あの頼もしい盾がここにあれば。クリーパーの至近距離自爆すら無効化できる最強の防具が。

 

 …あっ、そうだ! 忘れてた! かつてのアプデ前の仕様、剣で即座に実行可能な防御動作があったじゃないか! 

 

 思い出したわたしは、直ぐに構えを変えた! 剣を横に構え、相手の攻撃を受け流す。これこそ、古のテクニック「剣ガード」である! 

 

 

 ガキンッ! 

 

 

 重い衝撃が走る。だが、ダメージは通っていない。防ぎ切った! 

 

「片手で防いだぞ!? 勝てるんじゃないか?!」

 

 大樹が歓声を上げる。

 

「クククッ!」

 

「負けないで、アレックスさん!」

 

「そうじゃぞ、勝つんじゃ!」

 

 仲間たちの声援を背に、わたしは踏み込む。鉄剣を振るい、攻撃が来れば剣ガード、あるいはバックステップで距離を取る。時には跳躍し、全体重を乗せたクリティカル攻撃を狙う。隙を見て雪玉を投げつけ、視界を奪う。

 

 無限のエンチャントが付与された弓で、矢継ぎ早に射撃を加える。

 

 攻防は一進一退。睨み合い、互いに隙を窺う。

 

 隙だ。今だ! わたしはインベントリから毒のスプラッシュポーションを取り出し、司の足元に叩きつけた。紫色の飛沫が弾け、毒の霧が彼を包み込む。

 

「クッ…!」

 

 司が顔をしかめる。よし、効いているぞ! フフフッ、霊長類最強といえども所詮は人間。毒には勝てまい。このままジワジワと体力を削り取って…何!? 

 

「すまないね。僕、毒が効かない体質なんだよ」

 

 司は何事もなかったかのように霧の中から歩み出てきた。毒が効かない、だと!? 状態異常無効化スキル持ちかよ! そんなの聞いてないぞ!? 

 

 フッと不敵に笑うと、司は恐ろしい速度でわたしに肉薄してきた。は、速い!

 

 即座に剣ガードの態勢を取る。だが、目にも留まらぬ速さで繰り出される連撃に、防戦一方となる。剣ガードだけでは捌ききれない。やはり盾でないとダメだったか。

 

 反撃の隙が見つからない。このままではジリ貧だ。削り切られてしまう。わたしは左手のエンダーパールを遠くへ投げ、強制的に間合いを開けた。

 

「やぁアレックス、ここで倒れてくれ」

 

 …その筈だったが、ワープした先に司がいた。え、予知能力? それとも瞬間移動? 速くないですか? 

 

 

 ガハ!? 

 

 

 鳩尾に強烈な一撃を喰らい、わたしは地面に転がった。追撃が来る。背後にはシルファ先生がいる。逃げ場はない。

 

「あ、アレックス!? わ、ワシの為に…ッ」

 

 先生が悲鳴を上げる。違う、勘違いしないでくれ。それと司、殴るな。痛い。痛すぎる。骨がきしむ音がする。

 

 エンダーパールで離脱を図りたい。我が身が一番可愛い。が、今ここで自分だけ逃げれば、今まで築いてきた先生からの好感度がダダ下がりだ。先生は何かと便利なんだ、失うわけにはいかない! 肉盾には絶対しない、わたしはリスポーンできるが先生はできないし。

 

 こ、この野郎…ッ。わたしは必死の思いで、愛用の木剣を司に叩きつけた。ノックバック効果発動! 司の体が大きく弾き飛ばされる。距離は開いた。

 

 今だ! このまま弓で追撃を…って、なにやっているんだわたしは!? 

 

「?」

 

 司が怪訝な顔をする。ですよね〜。焦ったわたしは、弓を構える代わりに、司の目の前にエンダーパールを投げつけてしまったのだ! 

 

 

 シュン! 

 

 

 ワープしちゃったよ!? 

 敵の目の前に、無防備に転がり込んじゃったよ!? 

 

 

「…嫌いじゃなかったよ、アレックス」

 

 

 見上げれば、司が石槍を振り上げていた。悲しい目だ。もうハートは1を切り、残り0.5。

 

 あ、詰みましたね。体が痺れてピクリとも動けない。

 

「や、やめるのじゃ司。どうか、どうか!」

 

 先生が司に縋り付く。

 

「悪いが、それは出来ない。アレックスはTNTを所持しているし…何より勘が、本能が告げているんだ。『またTNTを作れる』『いくらでも作れる』ってね」

 

 鋭いな。正解だよ。無限に作って爆撃してやるつもりだったよ。

 

「わ、ワシの命を差し出す! だから、だから!」

 

 先生が叫ぶ。あ、口は動かせるようだ。最期に、先生に一言言っておこうっと。ちょうど、わたしの瞳は彼女の涙に濡れた顔を捉えているし。

 

 差し出すなよ。バカだろ、シルファ先生。理解しているのだろうか。この世界にはリスポーンなんて便利なものはない。命は一つきりってこと。あんたが死んだら終わりなんだぞ。

 

「じゃ、じゃがそれは…ッ、それは…また会える保証はあるというのか?!」

 

 先生が泣き叫ぶ。会えるだろ、何を言っているのか。わたしはマインクラフターだぞ? 死んだってベッドに戻るだけだ。

 

 内心で呆れつつ、わたしは精一杯の演技をする。優しく、落ち着いた態度で。穏やかな、聖母のような微笑みを作って。

 

 大丈夫だよ、シルファ先生。また会えるさ、きっとね。

 

「さようならだ」

 

 司が槍を振り下ろす。

 

「あ、アレ…アレックスゥゥゥウウー!!!」

 

 先生の絶叫が遠のいていく。わたしは満足げに瞳を閉じ、満面の笑みを浮かべたまま、この現世で死を迎えた。視界が真っ赤に染まり、体が光の粒子となって崩れ落ちていく。散らばるインベントリの中身。

 

 最期に目にしたのは──泣き崩れる先生の姿だった。

 

 シルファ先生…心配させて、死んでごめんーね♪ すぐに戻ってくるから待っててね! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレックス、久しぶりだね」

 

 不意に、懐かしい声がした。そして気づけば、わたしは見知らぬ場所に立っていた。現世ではない、どこか。

 

「いやぁ〜、死んじゃったねェ?」

 

【挿絵表示】

 

 

 目の前には、愉快そうに笑う女神アインドラがいた。その笑顔を見て、わたしは首を傾げた。

 

 ……あれ、現世でリスポーンじゃないの??




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