クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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ショートかセミロングか、皆様はどの杠がタイプですか? 作者は両方です。先の話よりそうですが、司が今後彼女をショートヘアにする予定はありませんのでよろしくお願いします。


石の世界の二つの国
創造主の生とリスポーン


「クククッ、ゴミみてぇな小せぇヒントからよ〜く気づきやがったな。テメーらに100億万点やるよ!」

 

 千空の不敵な笑い声が青空に響く。やっぱりか。こいつはそう簡単にくたばるタマじゃないと信じてはいたが、実際にあの憎たらしい笑顔を見ると安心感が半端ない。

 

「うわァァア、千空だー!!」

 

 大樹が泣き叫びながら千空に飛びつく。感動の抱擁、かと思いきやだ。

 

「痛てぇぞゴラ! 全身砕けたらどうすんだ、殺さねぇけど殺すぞオ!」

 

 千空が悲鳴を上げる。治りたての首を締め上げられたらたまったもんじゃないだろう。

 

 しかし、殺された千空が生き返ったのは本当に喜ばしい事なんだけれども。状況を整理すると、衝撃的というか何というか…死んでリスポーンしたはずのマインクラフターであるわたしより、科学的に蘇生した彼の方が注目を浴びているのが少しだけ悔しい。いや、創造主として目立ちすぎるのも考えものだが。

 

「わかってと思うがな、感謝の気持ち垂れ流すんじゃねぇぞ? オレも言わねェ」

 

 千空が照れくさそうに釘を刺す。素直じゃない男だ。

 

「うん!」

 

「喜ばしいことじゃな。ま、儂の一番はアレックスじゃがな!」

 

 シルファ先生が胸を張って宣言する。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。

 

 さて、感動の再会も一段落したことだし、仕事に戻るとしよう。わたしはシャベルを取り出し、皆を隠していた即席の土ハウスを撤去し始める。サクサクと小気味良い音と共に土の塊が消えていく。案外直ぐに終わるものである。

 

「…なんですとォ?」

 

 背後で不穏な声がした。振り返ると、杠が満面の笑みでシルファ先生ににじり寄っていた。

 

「痛い痛い痛い痛い!?!?」

 

 先生の悲鳴が上がる。スゲー光景を目撃してしまった。杠が先生の頬をつねり上げている。可憐な少女の指先から繰り出される容赦ない攻撃。杠スゲー、シルファ先生可哀想だなぁ。でも何があったんだ? 

 

「アレックス、ワシを助けて! ワシをt…もうゆるじてくれ」

 

 先生が必死に助けを求めてくるが、わたしは知らんぷりを決め込むことにした。これは殺しし合いじゃない。女子同士のキャッキャウフフなじゃれ合いだ。そうだ、そうに違いない。片方は本物の乙女で、もう片方は永遠の17歳を自称する──中身はともかく外見は若い──乙女である。

 

 そこに割って入る勇気は、マインクラフターのわたしにもない。

 

「…死ぬかと思ったのじゃ」

 

 乙女同士のじゃれ合い、終了。先生の顔が死んでいる。フフ…ウケる。よろよろと立ち上がった先生は、そのままわたしのほうへフラフラと歩いてきた。

 

「アレックス、アレックスゥゥゥ!!」

 

 ガバッと、思いっきり抱きつかれた。わたしの胸に顔を埋めて、先生が泣き崩れる。ギャンギャン泣かないで欲しい。服が濡れちゃうだろうが。

 

 まあ、マインクラフターの能力を以ってすれば、ゲームと同様に水濡れ判定なんてないから平気なんだけど。現世だと何となく頭の中でイメージしてオンオフする感じだ。感覚的ともいう。今はオフにしておこう。

 

「よかったよォ、アレックスちゃん!」

 

「クククッ、だな」

 

 杠も嬉し泣きしながら抱きついてくる。千空だけは泣かずにニヤニヤしている。人の心が無いのかコイツ。それはさておき、今、杠から『アレックスちゃん』と呼ばれてしまった気がする。ちゃん付け? このわたしが?

 

 わたしは顔を顰める。馴れ馴れしいぞ、今すぐやめろ。わたしは創造主だぞ。

 

「だめ、だったの…?」

 

 杠が上目遣いで、こちらを見上げてくる。瞳がウルウルしている。

 

「イイじゃないかアレックス! それくらいは許してやってくれ!」

 

 大樹が横から口を出す。わたしが悪いのか、大樹。わたしに非があるような言い方はやめてくれ。悪いところは何一つ見当たらない筈だが。

 

 …どうしよう。シルファ先生ほどじゃないが、杠も今にもギャン泣きしそうだ。そのウルウルの瞳で見つめるな。無条件で降伏して撫でたくなっちゃうじゃないか。

 

 ハァ、わたしは盛大に溜息を吐く。仕方ない。今回だけだぞ。いいだろう。アレックスちゃんと、好きなだけ呼べ。ただ時々だけだ、これ絶対。

 

「えへへ〜」

 

 杠が花が咲いたように笑う。わたしはパッと顔を逸らす。フッ、バカな女だ。そんな事で喜ぶとはなァ…可愛いにも程があるだろうがァァ! 

 

 不覚にもドキッとしてしまった。

 

「あ、あああアレックスさん!? だだ大丈夫? もの凄いスピードで頭を木にぶつけましたけど!?」

 

 激しい音がして、視界が揺れる。

 

 ああ、嗚呼そうだな。この胸の高鳴りがそうだと言うんなら、そうなんだろうな。動揺して、自ら木に頭突きをかましてしまったようだ。可愛んだろうな、わたしは。えへへ〜、状態の杠が! クソ、どんだけ魅了状態になるんだよわたしは!? 司といい杠といい、この世界の住人は精神干渉スキル持ちが多すぎる。

 

 とりあえず牛乳で沈静化…ゴクゴク。

 

 ふぅ、正常になった。だが魅了状態されまくりは困る。今後のためにも、杠の天然魅了スキルには耐性をつけておきたい。このレベルでいちいち動揺していたら身が持たない。頑張れアレックス、負けるなアレックス! 

 

「血が出てないか確認するね! …あ、あれぇ、怪我なんて無いですぞォ?」

 

 杠が心配そうにわたしの額を覗き込む。その距離が近くてまたドキッとする。うん、負けてもイイかもしれません! 

 

 …なに負けてんだよわたし。もう一杯牛乳飲もう。

 

「アレックス、聞きてェことがある」

 

 千空の声で我に返る。

 

「どうしたの千空くん?」

 

「テメーら忘れたのか? アレックスが死んだと思えば、こうして生きて目の前にいる事がよ」

 

 千空が真剣な眼差しを向けてくる。いつになく真面目な顔だ。

 

「首ントコの石化が解かれる時、周辺諸共修復された。なんとも御親切な科学現象で、オレは戻ってきた。クククッ、まさか生き返るとは思ってもみなかったがなァ。…だがよ、テメーのは科学現象じゃねェ。もう一度聞くぞアレックス…テメーはどうやって生き返った?」

 

 場の空気が一変する。

 

「確かに! アレックスは石化していない、唯一の人間だ!」

 

 大樹がハッとする。

 

「石化とか生き返りとか、非現実的なことが起こったし…わたし気になるよ!」

 

 杠も興味津々だ。

 

「うむ、命は軽くないしの。いいかのアレックス、命とはな──」

 

 先生が説教モードに入りかける。

 

 え、普通なことでは? リスポーンなんて、別に珍しいものではない筈だが…。

 

 嗚呼、そうか。彼らは普通の人間だった。マインクラフターのような、死んでもベッドに戻るだけの生き返りが出来ないのか。常識のズレを失念していた。

 

 言葉で説明するより、見せたほうが早いか。わたしは顎を撫でながら考え…『ハッ!?』と閃いた。

 

 そうだ。いっぺん死んでみよう! 実演販売ならぬ、実演自殺だ。

 

「離れて離れて」

 

 わたしは手でシッシッと皆を促す。

 

「そ、それは確か!?」

 

 大樹が後ずさる。

 

「あの時と同じTNTだよね? デカいね」

 

 杠が目を丸くする。

 

「初めから火薬出してもらうべきだったな…まさか」

 

 千空が嫌な予感を察知する。正解。ゼロ距離でTNT設置して、着火します! ポチッとな! 

 

「やめろバカ!」

 

 千空が飛んでくる。

 

「言った側から…ッ」

 

 先生が青ざめる。全員から止められた。何故…? あ、TNTでの自殺は派手すぎて、周囲に被害が出るからダメだったか。配慮が足りなかった。

 

 ならばもっと、静かな方法でいこう。ネザーラックに火を点けよう。これならエコだ。

 

「火を点けた?」

 

 杠が不思議そうに見ている。邪魔が入らないように、わたし自身を隔離する。丸石で囲いを作り、壁も天井も塞いで、完全密室を作成。実行開始! 

 

 あっ、広さは1マス分で高さ2マス分、私一人がすっぽり入る棺桶サイズでございます。

 

「自殺する気だぞ!」

 

「なんだと!?」

 

「命は軽くないのじゃぞ!?」

 

 外から悲鳴が聞こえる。ごめんね、でも、これが一番早いんだ。メラメラと燃え盛る炎の中に身を投じる。

 

 

《アレックスは炎に巻かれた》

 

 

 視界が赤く染まり、熱さが全身を包む。…死にました。ちょっと熱かったですなぁ〜。

 

「なんとかしない…とー!?!?」

 

 外の喧騒が一瞬で遠のく。そして次の瞬間、わたしは拠点に設置していたベッドの上で目を覚ました。

 

「ベッドにいるぞ!? さっきまではいなかったのに!?」

 

 大樹の驚愕の声。

 

「あさぎりゲンくんみたいなマジシャンの登場、だったね…」

 

 杠が目をぱちくりさせている。わたしはベッドから起き上がり、悠々と歩いて彼らの元へ戻る。さっきまで自分が燃えていた場所のブロックをツルハシでサクサクと回収した後、彼らに振り向いて満面の笑顔で告げる。

 

 簡単に説明しよう! 死んだらベッドで覚醒めるのであ〜る! どう、わかりやすいでしょう〜? 

 

 

「な、なんと」

 

 先生が絶句する。

 

「不老不死…いや死ぬのか?」

 

 大樹が混乱している。

 

「そんな…」

 

 杠が信じられないといった顔をする。

 

「魂は逝かず肉体が再生して復活? …ククク、こりゃ凄い!」

 

 千空だけが、興味深そうにニヤリと笑っている。何やら驚かれている。どうしてだろう? 死んだらリスポーン地点に戻る、世界の理じゃないか。

 

「わかったのか千空!」

 

「1ミリもわかんねぇよ?」

 

 千空が即答する。わからんのかい。死んでも良い事なんてない。わたしは真顔で首を横に振った。

 

 リスポーンできるからといって、死ぬのが楽しいわけではない。むしろ、何らかの失敗を意味するからだ。《くらふたーのせかい》でリスキルされる理不尽な事案もあるが、大抵は自分の不注意による事故死だ。それらは猛省すべき点だ。

 

 高層建築物の建設中に足を踏み外して落下死。直下掘りして『あ、ダイヤ…だー!?!?』と喜んだ瞬間のマグマダイブ。全ロス確定の絶望感。

 洞窟でゾンビやスパイダー、スケルトンに囲まれて『そうだった、後ろに逃げ道があるんだった!』と安易に振り向いた瞬間、音もなく忍び寄っていたクリーパーが降って来てドカーン。

 

 迫る絶望は何度も味わった。走馬灯のように蘇る死の記憶。沢山あってキリが無い。皆様にお伝えします。死ぬのは大変良くない事です。痛いし、アイテムばら撒くし、経験値減るし。

 

「当然じゃ。命は軽うないわ」

 

 先生が呆れたように、しかし安堵したように言う。

 

「その通りであります!」

 

「常人なら発狂モノだな!」

 

 大樹が頷く。

 

「…」

 

 千空だけが黙っている。発狂しないだろうに。慣れだよ慣れ。ところで…千空? 

 

「あ”?」

 

 だんまりだったが、体調でも悪いのか? 生き返ったばかりだし。

 

「心配してくれてありがてェが、どこも悪くねぇよ」

 

 では、何か考え事を? 

 

「そうだぜ」

 

 千空は告げる。彼はずっと考えていたようだ。誰が人類を石化したのか、誰の攻撃なのかを。

 

 石化現象の謎。それに対して、わたしは持論を述べる。その誰かさん、うっかり石化現象を発生させてしまったんじゃないか? 実験失敗して『や、ややや…やってしまったー!?!?』ってな感じで、世界規模の大惨事を引き起こしてしまったとか。マインクラフターならあり得る話だ。

 

「クククッ、もし石化が人為的なら、それ相応の責任を取って貰わねぇとなァ…?」

 

 千空の目が据わっている。完全に「落とし前つけさせてやる」という顔だ。その時は是非とも、わたしも参戦させていただきます。わたしは拳を作って、ポンっと自分の胸を叩いた。

 

「っし!」

 

 わたしは力強くそう告げると、不敵な笑みを浮かべた千空はパンと乾いた音を立てて自分の頬を叩き、気合を入れ直した。さあ、反撃の狼煙を上げる時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚無の闇が支配する、死後の世界。白黒の市松模様がどこまでも続く奇妙な空間の中心で、闇の女神アインドラは優雅に背もたれ付きの椅子に腰掛けていた。

 

 彼女の手元には、真紅の葡萄酒で満たされたクリスタルグラス。その表面には、下界で繰り広げられるドラマを映し出す、一台の巨大なテレビモニターの光が反射している。

 

『ククク、いいかテメーら。今の司の認識じゃあ、「科学少年・千空は死んだ」。これが俺たちの唯一にして、最大のアドバンテージだ』

 

 モニターの中では、復活したばかりの石神千空が、合理性の塊のような冷徹な瞳で仲間たちに指示を飛ばしていた。アインドラはその様子を、まるで極上の演劇でも観るかのような、愉悦に満ちた表情で眺めている。

 

 千空の計画は大胆かつ緻密だった。彼は大樹、杠、そしてアレックスの恩師であるシルファの三人を、あえて「敵地」へと送り込むことを決めたのだ。

 

 司は一度殺した相手のことは信じ込む。千空とアレックスが死んだと思い込んでいる司のもとへ、罪のない三人をスパイとして潜入させる。司という男の潔癖な性格を見抜いた上での、非情にして確実な人選。

 

『司の奴は、これから石化復活液を独占し、若者だけを増やして武力で統べる「司帝国」を築き上げる。それに対抗するには、俺とアレックスで別の場所へ向かい、狼煙を上げた未知の生存者を仲間にしなきゃならねぇ』

 

 モニターの中で千空が「科学王国」の建国を宣言する。それと同時に、彼らは二手に別れて行動を開始した。スパイ部隊は東へ、建国部隊は西へ。

 

 かつては平和な日常を謳歌していた少年少女たちが、生き残るために謀略を巡らせ、軍隊を組織しようとする。その歪な成長こそが、アインドラにとって最高の肴だった。

 

「人類を浄化したい帝国と、それを阻止して人類を救う科学王国…。ふふ、オリジナルとは違う『IF』の歴史が、これほどまでに唆るものだなんてねぇ」

 

 アインドラは独り言を呟き、ワインを一口啜った。だが、この空間にいるのは彼女一人ではない。

 

「ワクワクする、ゾクゾクする…!」

 

 アインドラの隣で、身を乗り出すようにして画面を凝視している少女がいた。

 

 十代後半の若々しい姿。アレックスと全く同じ、燃えるようなオレンジ色の髪と鮮やかな緑の瞳。しかし彼女の纏う空気は、下界のアレックスよりもどこか鋭く、軍人のような冷徹さを秘めている。

 

 彼女もまた、マインクラフター──《くらふたーのせかい》で不運な事故死を遂げ、アインドラによってこの「特等席」に強制招待された創造主の一人だった。

 

「霊長類最強の男が、クラフターの精神にまで干渉してくるとは…。フッ、やりおるわ。一目惚れしてしまったぞ。どう責任取ってくれる…獅子王司!」

 

 軍事部の創造主である彼女は、モニターに映る一人の男の姿に、完全に毒されていた。画面が切り替わり、一人の少女と対峙する獅子王司の姿が映し出される。

 

 そこは、先ほどアレックスがTNTで心中紛いの爆発を引き起こした現場のすぐ近くだった。美しい花束を手に持ちながらも、その瞳に鋭い殺気を宿した金髪の少女は、二刀流のナイフを構えて司を睨みつけていた。

 

『すべて見ていたぞ! 女を人質にし、抵抗したその女を殺した! あまつさえ、身代わりとなった紳士な男すら無慈悲に葬った! お前の為したことは、人の道に外れている!』

 

 少女の凛とした糾弾が響く。だが司は、眉一つ動かさず、静かに彼女を見つめ返すだけだ。

 

『殺した、か。否定はしないよ。それは俺の理想のために必要な、避けては通れない犠牲だったんだ。立ち去ってくれないか、君と戦う理由はない』

 

 司の言葉に、コハクは鼻で笑った。

 

『ハッ! 惚けるつもりか? もう忘れたのか! 山の怒りを呼ばれていたじゃないか!』

 

『山の…怒り?』

 

 司はその言葉を咀嚼し、彼の脳裏に数分前の光景が蘇っていることだろう。アレックスが自分を石の牢獄に閉じ込め、白い煙と轟音と共に世界を揺らしたあの瞬間を。

 

 気になったのだろう。アインドラは人物の心情を知るため、字幕として映した。

 

(なるほど…。彼女が引き起こしたあの爆発を、この原始の少女は『火山の噴火』、すなわち山の怒りだと定義しているのか)

 

 司の瞳に、新たな知的好奇心の色が混じる。

 

『うん。ひょっとして君は、石化からの復活者じゃなくて、その子供…。いや、何世代目なんだい?』

 

 司は確信した。目の前の少女は、科学の恩恵も、旧世界の汚れも知らない、この石の世界で生まれた「純粋な人類」なのだと。

 

(彼女たちは、守るべき対象だ。科学という毒に侵されていない、新しい世界の住人。いつでも統べられ、いつでも息の根を止められるほどに脆弱で、そして純粋。ならば今、この場で彼女を攻撃する意味はない)

 

 司の思考は、既に次なる戦略へと移行していた。

 

(今急ぐべきは、アレックスたちが隠していた〈奇跡の洞窟〉に戻り、あの奇跡の水を完全に制圧することだ)

 

『さようなら、だ』

 

 司が動いた。目にも留まらぬ速さで放たれた一撃が、少女の防御を容易く弾き飛ばし、その華奢な体を空中へと跳ね上げた。地面に叩きつけられた少女に追撃はせず、司は傍らに立つ大木へとその豪腕を叩き込む。

 

 

 メリメリ、メキメキッ! 

 

 

 凄まじい破壊音と共に、巨木が根元からへし折れ、倒れ込んだ少女の上へと重なり合う。

 

『くっ…!?』

 

 少女は間一髪で致命傷を避けたが、巨木の重圧に押しつぶされ、身動きを封じられた。司はその惨状を一度も振り返ることなく、風のように森の奥へと去っていった。

 

 死後の世界でその一部始終を見ていた軍事部の創造主は、頬を真っ赤に染め、恍惚とした表情で溜息を漏らした。

 

「練り上げられた筋肉、風に舞う黒髪、滑らかな肌、そして冷徹なまでの瞳! 嗚呼、全てが愛おしい! 抱きしめて、いや、あの拳で力いっぱい殴られたい…!」

 

「いずれストーンワールドに赴く創造主。アレックスから招待されれば、かな。彼女が向かう先は間違いなく、千空たちの科学王国だろうけど…」

 

 アインドラは隣で悶絶する創造主を眺め、可笑しそうに肩を揺らした。

 

「わたしと添い遂げてくれ、王子よ!!」

 

 軍事部の創造主は跪き、画面の中の司に向かって、切実な「結婚してください」のポーズを捧げている。

 

 その滑稽で、しかし狂気的なまでの情熱。科学の王国と武力の帝国。そして、異界から送り込まれた規格外の「創造主」たち。彼らがぶつかり合い、混ざり合うことで生まれる混沌。女神アインドラの瞳は、未来の崩壊と再生を予見し、いっそう深く輝いた。

 

「観測は続く。死すらもただの通過点でしかない、この滑稽な物語の結末をね」

 

 彼女がグラスを掲げると、死後の世界に、静かな、しかし残酷な笑い声が響き渡った。




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