クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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今話は短めのため改行しております、ご了承ください。

例:

間違いなく、


「石神千空はイケメン!」


だ!

例:以上

PS: 2026年3月10日から邂逅しているため、この回では長めでも上記通りの改稿です。ご了承ください。


復活者子孫の村/その頃

「君達はあの時の…ってなんだと!?」

 

 

 目の前で金髪の少女が叫んでいる。OK、OK。まずは落ち着こう。そして状況を整理しよう。

 

 つい先程、わたしはTNTによる自爆──という名の緊急離脱──を敢行し、リスポーンした。その後、拠点に残っていた千空と合流し、森の奥で盛大に上がった砂煙と『ドコーン!!!』という衝撃音の元へ駆けつけたのだ。

 

 現場に到着してみると、そこには予想外の光景が広がっていた。一人の若い女が、巨大な樹木の下敷きになっていたのだ。

 

 う〜む。なんで下敷きになっているんだろう…。このストーンワールドでは、樹木を背負ってスクワットするようなハードな筋トレが流行っているのだろうか? にしては苦しそうだ。

 

 

「な、何故生きているんだ? 殺された筈ではなかったのか!?」

 

 

 少女が目を剥いて、わたしを凝視している。彼女は見ていたのだ。わたしが司と対峙し、爆発四散したあの瞬間を。

 

 

「生きてるのがダメだったのかよ?」

 

 

 千空が呆れたように返す。

 

 

「ダメじゃない! 喜ばしいことだ! だが…死んで綺麗サッパリ消えるとはどういうことなのだ!? 普通は消えないだろう!? 肉体も、血痕も残さずに!」

 

 

 めちゃくちゃ驚かれている。え、死んだら遺体がシュンッて消えて、アイテムばら撒くのって普通のことでは? 

 

 わたしは可愛らしく小首を傾げてみる。これで相手が落ち着くとよいのだが…前世の頑固な祖父には、効果覿面だったテクニックだ。しかし、目の前の少女には逆効果だったらしく、混乱に拍車をかけてしまったようだ。

 

 

「それだけでない。あの寝床? …っから突然として現れた…どうなっている!? 瞬間移動か、それとも幻覚か!?」

 

「『魂は逝かず肉体が再生して復活』っだな。科学じゃねぇが、事実だ」

 

 

 千空が適当に解説する。

 

 

「意味が分からんぞ!?」

 

 

 少女の混乱はピークに達している。全然落ち着かない。何故だ。まあ、説明しても理解されないのはいつものことだ。

 

 わたしはインベントリから石の斧を取り出す。一先ずは、彼女を圧迫しているこの邪魔な樹木を伐採しないと話が進まない。千空からも『ソイツ助けてやれ』という無言の視線をいただいていることだし。

 

 

「どこから取り出した? 瞬時に手から現れたように見えたのだが…まさか殺す気か!?」

 

 

 少女が身構える。動けない体で、必死に警戒心を露わにする。

 

 

「ぬな訳ねぇだろうが。アレックスは今、テメーを助けてるんだよ」

 

「助ける? その武器でか? …いや待て、お前は土柱を高く積み上げては、その土柱を崩されても空中に留まっていた…ハッ、君はあの男以上の妖術使いだな!」

 

「100億%妖術使いでも出来ねぇよ…ある意味そうだがな」

 

 

 妖術使い…か。悪くない響きだ。わたしは彼女を助けるため、覆いかぶさっている巨木の幹に斧を振り下ろした。

 

 

「助けてくれるのはありがたいのだが、そう簡単には…なに!?」

 

 

 ガッ! ガッ! ガッ! ポンッ! 

 

 

 斧を数回振るった瞬間、巨木は物理法則を無視して根本から消失し、手のひらサイズの可愛らしい原木ブロックへと変化して、わたしのインベントリに吸い込まれた。

 

 するとあら不思議、彼女を押し潰していた重量物は、綺麗サッパリ無くなったではありませんか。

 

 

「クククッ、アレックスがいてよかったぜ。滑車クラフトするまでじゃあなかったなァ」

 

 

 千空が感心したように言う。重圧から解放された少女は、信じられないものを見る目でわたしを見つめながら、ゆっくりと起き上がった。

 

 乱れた髪を直す彼女を、わたしは観察する。歳は杠と同じくらいだろうか。服装は青いワンピースのような布を纏い、足には石で作られたサンダルを履いている。髪は美しい金色で、瞳は澄んだ青色。

 

 この世界で服を青く染める技術があるのか、それとも元々そういう素材なのか。興味深い。

 

 

「私の名はコハク! 君の名は何と言うんだ?」

 

 

 彼女は凛とした声で名乗った。コハク。漢字に変換すると『琥珀』で合っている筈だ。美しい名前だ。

 

 

「名乗れてんぞ、自己紹介しやがれ。テメーが最後だ」

 

 

 千空に促される。いつの間に自己紹介を済ませていたんだ、この科学少年は。では、ゴホンと咳払いをしてっと。わたしは胸を張り、堂々と名乗りを上げる。

 

 

「わたしの名はアレックス。マインクラフターである」

 

「ま、まいん? すまない、よくわからないのだが…」

 

 

 コハクが困惑している。分かれよ。そこは察してくれよ。さぁコハクよ! マインクラフターを略すと、なァん〜だ? 「クラフター」でもいいし、「創造主」でもいいぞ? 

 

 

「すまない、アレックス。分からないのだ」

 

 

 彼女は真剣な顔で首を振った。えぇ…。なんで伝わらないんだ。世界共通言語だと思っていたのに。わたしがショックを受けていると、千空が背後からわたしの肩をチョンチョンと突っついてきた。

 

 どうやら内緒話があるようだ。耳を傾けるようにジェスチャーされたので、わたしはその通りにする。千空が顔を寄せ、ボソボソと囁きかけてくる。うわ近い…吐息がかかる距離だ。けど、嫌じゃないので続けてください。ウェルカムです。

 

 

『おいアレックス、よく聞け。このコハクって女、石化からの復活者じゃねぇ。復活者の子孫の可能性が特大だ』

 

『子孫?』

 

『ああ。1代とかのレベルじゃなく、何世代も重ねているかもしれねぇ。科学の知識も、現代の常識もねぇ純粋な原始の人類の一人だ。おそらく、この近くに何処か村がある筈だ』

 

 

 なるほど。言われてみれば、彼女の言葉遣いや服装、そして「妖術」という表現。全てが腑に落ちる。彼女はマイクラで言うところの「村人」に近い存在なのかもしれない。いや、鼻はデカくないし「ハァン」とも言わないが、この世界のネイティブという意味では同じだ。

 

 

「クククッ、余計に仲間にしたくなった。コイツを科学王国第一号にすっぞ! 村もゲットだ!」

 

 

 千空が悪い顔で笑う。わたしも無言で頷く。心に決めた。彼女を「女」ではなく、親しみを込めて「村人」と呼ぼう。ただし『ハァンしない村人』と認識しておけば、マイクラの村人と区別出来る。せっかく名前を知ったのに内心で「女、女」と連呼しては失礼だろうということで。

 

 千空は一歩、前に進み出た。これからコハクに対して、何か重要なアクションを起こすつもりのようだ。勧誘か? それとも交渉か? 

 

 

「礼を述べていなかったな。アレックス、千空! 助けてくれて感謝するぞ! ところで一つ聞きたいのだが、千空はどうしてそんなにニヤニヤしているのだ?」

 

 

 コハクが怪訝そうに眉をひそめる。確かに、千空の今の顔は完全に獲物を見つけた狩人のそれだ。

 

 

「恋愛しようぜ」

 

 

 千空が唐突に言い放った。

 

 

「!?!?」

 

 

 コハクの顔が、湯気がでるほど真っ赤に染まる。そして次の瞬間、彼女は腰の短剣を抜き放ち、千空に突きつけた。

 

 あらまぁ〜。これは求愛のダンスか何かかな? それとも即お断りのサインかな? まあ、千空のデリカシーのなさは今に始まったことではない。ドンマイだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誤解──主に千空のゲスな発言によるもの──が解けた後、わたし達はコハクの案内で彼女の村へと向かうことになった。雌ライオン──あ、これはわたしが勝手につけたコハクのあだ名です──の後ろに付いて、獣道を歩く。

 

 道中、コハクの事情を聞いた。彼女が危険な場所に来ていた真の目的は、温泉水を汲むことにあったらしい。なんでも、病弱な姉のために、体に良いとされる温泉を毎日運んでいるのだとか。

 

「迷惑千万な姉だ」なんて悪態をついていたが、その表情には隠しきれない愛情が滲んでいた。素直じゃない実はお姉ちゃん子。尊い属性である。

 

 温泉水ゲットという目的は達成したものの、彼女には新たな、そしてより切実な目的が生まれた。コハクから長髪男と称されている、司を倒すことだ。

 

 彼女は司が石像を破壊する現場を目撃し、激しい義憤に駆られていた。

 

 これに対し千空は、『司の人類浄化を阻止する為に、科学王国を作る!』という壮大な目的を告げた。利害の一致。コハクは深く共感し、協力を約束してくれた。

 

 そして我々は今森を抜け、開けた場所に到着した。

 

 

「アレックス、千空! ようこそ──私の村へ!」

 

 

 コハクが誇らしげに腕を広げる。眼下に広がる光景に、わたしは思わず息を呑んだ。

 

 湖の中に浮かぶ二つの小さな島。それらは一本の長い吊り橋で繋がれ、天然の要塞のようになっている。島の上には、藁葺き屋根の住居が密集して立ち並び、人々の生活の匂いが漂ってくる。

 

 それは、わたしが想像していた「村」よりも遥かにしっかりとした、文明の息吹を感じさせる集落だった。

 

 

「何人いるんだ此処に?」

 

 

 千空が冷静に人口規模を測ろうとする。

 

 

「隠居と子供の数は忘れたが、それ以外だと確か…フォーティー!」

 

「40人か。全っ然いねぇな」

 

 

 千空が毒づくが、その目は笑っている。労働力としては十分だ。

 

 此処から始まるのだ。何もないストーンワールドに、科学の光を灯すための拠点。科学王国を作る第一歩が、この村から踏み出される。

 

 フフ、これからが楽しみである。建築、クラフト、そして村人との交流。やるべきことは山積みだ。

 

 マインクラフターのアレックス、腕が鳴るぜ。頑張るゾイ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレックスと千空がコハクに導かれ、ストーンワールドにおける最初の人類の集落へ足を踏み入れていた、まさにその頃。次元の狭間に存在するもう一つの世界──《くらふたーのせかい》では、常識を逸脱した激闘が繰り広げられていた。

 

 そこは、ブロックで構成された牧歌的な草原バイオームであるはずだった。しかし今、その平穏は轟音と爆発、そして狂気的な笑い声によって粉々に粉砕されていた。

 

 創造主と、闇の女神アインドラ。この二つの超越的存在による、仁義なき戦いが勃発していたのだ。

 

 戦いの理由は、特段深くも高尚なものではない。ただ単に、女神アインドラが「最近ちょっとムシャクシャするから」という極めて個人的かつ理不尽な理由で、ストレス発散のサンドバッグを求めたに過ぎない。そして、運悪くその相手に選ばれたのが、この世界に常駐する一人の創造主だった。

 

 

「ハハッ! 見ろ、創造主がゴミのようだ! バタバタと死んでいくねェ!」

 

 

 アインドラの高笑いが空に響く。彼女が指を鳴らすたびに、空間が歪み、理不尽な即死攻撃が創造主を襲う。ある時は頭上から巨大な金床の雨が降り注ぎ、ある時は地面が突如として奈落へと変わり、またある時は不可視の衝撃波が肉体を弾き飛ばす。

 

 

 ぐっ…!? 

 

 

 創造主は為す術もなく絶命し、身体が赤く点滅して霧散する。そして次の瞬間、リスポーン地点であるベッドの上で目を覚まし、再び戦場へと舞い戻る。

 

 リスキル。それはゲーマーにとって最も屈辱的で、理不尽な行為だ。

 

 創造主は混乱していた。ストレス発散に付き合うとは言った。模擬戦だとも聞いていた。だが、なぜここまで一方的に殺されなければならないのか。話が違う。聞いていない。

 

 

 …ふざ、けるなよ。

 

 

 何度目かのリスポーンの後、創造主の中で何かがプツリと切れた。遊びは終わりだ。女神だろうが何だろうが、売られた喧嘩は買うのがクラフターの流儀。

 

 彼女はインベントリを開き、秘蔵の装備を換装する。カシャン、カシャン、という硬質な音が響く。全身を包み込むのは、この世界で最強の硬度を誇る鉱石から作られた、輝く水色の鎧──ダイヤモンド・フルアーマー。

 

 さらにその表面には、紫色の光沢が怪しく揺らめいている。ダメージ軽減、火炎耐性、爆発耐性、落下耐性。考えうる限りの全てのエンチャントを最高レベルで付与した、正真正銘の決戦装備だ。

 

 相手は腐っても闇の女神。出し惜しみをして勝てる相手ではない。それに、創造主には戦うべき理由があった。脳裏に蘇るのは、かつての苦い記憶。

 

 あれは、彼女が丹精込めて作り上げた村を物色していた時のことだ。

 

 

『おや、綺麗に整列しているねェ』

 

 

 そんな軽い一言と共に、アインドラはこの創造主ごと、村一つを跡形もなく消し飛ばしたのだ。苦労して連れてきた村人も、育てたアイアンゴーレムも、自動収穫機も、全てが一瞬で無に帰したあの日の絶望。

 

 

 あ、そうでした。あの時はよくもやってくれまァァしたね! 私の村を! 私の努力を! 村ごとヤリやがって! 

 

 

 創造主の咆哮にアインドラは小首を傾げ、悪びれる様子もなく微笑んだ。

 

 

「ごめん〜ね?」

 

 

 その軽薄な謝罪が、創造主の怒りに油を注ぐ。

 

 

 絶対に許さねェェー!! 

 

 

 もはや女神への敬意など欠片もない。あるのは、破壊されたブロックの数だけ積み重なった恨みのみ。

 

 

 召喚された魔物とやら諸共、死にさらせェェー!! 

 

 

 創造主は「鋭さV」と「ノックバックII」が付与されたダイヤモンドの剣を抜き放ち、金リンゴ(エンチャント)を齧り付く。

 

 衝撃吸収の黄金のハートが視界に追加される。全ステータス上昇。無敵に近い万能感。

 

 

「嗚呼、イイよ! もっともっと、ボクを楽しませてよ!」

 

 

 アインドラが歓喜の声を上げる。彼女の周囲の空間が裂け、そこから異形の影が無数に溢れ出した。強化されたゾンビ、武装したスケルトン、そして宙を舞うガスト。女神の力によって強化されたモブの軍勢が、津波のように押し寄せる。

 

 

 同志諸君…とっつ撃ィィー!! 前進せよォォー!! 

 

 

 創造主は号令をかけると、雄叫びを上げて敵軍の只中へと突撃した。

 

 剣閃一閃。群がるゾンビが吹き飛び、スケルトンの矢を盾で弾き返す。爆発するガストの火の玉を打ち返し、アインドラ本体へと肉薄する。

 

 さぁ、勝つのはどっちだ。神の理不尽か、創造主の意地か。《くらふたーのせかい》の物理法則が悲鳴を上げる中、史上最大規模の“ごっこ遊び”は激化の一途をたどっていた。

 

 

「「おお」」

 

 

 そんな地獄絵図と化した戦場から、少し離れた安全地帯。高台の観覧席に、二人の少女の姿があった。

 

 

「えげつねぇけど手が止まらない…う〜ん、デリシャス。もう一人のわたしもどうよ?」

 

 

 軍服のような意匠の服を着崩した、オレンジ髪の創造主が、口元についたソースを拭いながら言った。

 

 彼女の視線は、眼下で繰り広げられる血湧き肉躍る殺戮劇に釘付けになっている。爆発で吹き飛ぶゾンビの手足を見ては「ヒューッ!」と口笛を吹き、創造主がアインドラの魔法で吹き飛ばされると「惜しい!」と膝を叩く。その手には、焼きたてのステーキが握られていた。戦場の硝煙をスパイスに、肉を食らう。これぞ軍事部の嗜みと言わんばかりの豪快さだ。

 

 

「よく食べれるね、もう一人のわたし? …まあ、わたしもそうだけど」

 

 

 その隣で、白衣を纏ったオレンジ髪の創造主が、呆れたように、しかし同じく口を動かしながら応じた。彼女の手元には、ポップコーンが入ったバケツがある。爆発の閃光が弾けるたびに、彼女はポップコーンを口に放り込む。まるで映画館でB級アクション映画を見ているかのようなリラックスぶりだ。

 

 

「あ、これ美味しいから食べてみてよ。キャラメル味だよ」

 

 

 白衣の創造主がポップコーンを差し出す。

 

 

「お、気が利くな。じゃあお返しにこの焼き鳥をやるよ。さっきアインドラの雷で焼死したニワトリだ。焼き加減が絶妙だぞ」

 

「…リサイクル精神が凄いね」

 

 

 二人は呑気に食事を交換し合いながら、眼下の惨劇を肴に盛り上がっている。

 

 彼女たちにとって、死は日常であり、リスポーンはただの帰宅だ。だからこそ、仲間が何度死のうとも、悲壮感など微塵もない。むしろ、その死に様をエンターテインメントとして消費する逞しさを持っていた。

 

 

「おっと、あそこでTNTキャノンを展開したぞ! やるなぁ」

 

「計算が雑だね。あれじゃあ暴発して自爆するよ…あ、ほら言わんこっちゃない」

 

 

 ドカーン!! 

 

 

 盛大な爆発音と共に、戦っている創造主が空高く打ち上げられる。

 

 

「あーあ、派手に散ったな」

 

「綺麗な放物線だね。物理演算の勝利だ」

 

 

 その様子を安全エリアで観測していた、二人のオレンジ髪の創造主はドン引きするどころか、ゲラゲラと笑いながらハイタッチを交わしていた。

 

 常識など、この場所には最初から存在しないのである。




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