クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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これが読みやすいかな? っと試行錯誤してる作者でございます。

「今日の夜ご飯は?」
「カレー」

今話はこのようにしてますがもし読みやすいようでしたら、今後は本文が短くともそのようにしようかと思います。変だなと思われましたら、お気軽に指摘していただけると幸いです。


200万年の在処
門番兄弟と妖術使い


「狼藉を止めるんだ金狼、銀狼! わたしを救った恩人達なのだぞ!」

 

 ごきげんよう皆の衆。わたしは、マインクラフターのアレックス。今しがた、初対面の男二人にいきなり攻撃を受けたところである。いや、挨拶もなしに槍を突き出してくるとか…どんな教育受けてるんだ? この村の門番は。

 

 もちろん、マインクラフターであるわたしには、そんな物理攻撃は通用しない。反射的にインベントリから盾を取り出し、ガキンッという小気味良い音と共に完全防御。二撃目はコハクが素早い動きで割って入り、華麗に去なしてくれた。頼もしい限りだ。

 

「いやァ、ダメでしょコハクちゃん。そりゃあダメだ。よそ者はダメってのは、村の決まりだからねェ。村長に怒られちゃうよ〜」

「シンプルな話をしている。ルールはルールだ」

 

 目の前に立ち塞がるのは、二人の青年。一人は金髪で、どこか軽薄そうな優男。もう一人は黒髪で、真面目一徹といった風情の堅物。どちらも同じ『狼』の名を持つ彼らの歳は、千空やわたしとあまり変わらないだろう。

 

 なるほど。兄弟で門番をしているのか。この小さな集落にしては、随分としっかりとした防衛体制だ。

 

「『村の外に人間はいない。よそ者は過去に追放された罪人』…ごめんよ〜」

「よって、この村に入れる訳にはいかない。恩人とか何とか、個人事情は考慮されない」

 

 金狼と呼ばれた真面目そうな方が、冷徹に言い放つ。ふむふむ、なるほど。彼らの理屈を整理しよう。

 

 1.村の外に人間はいない(という前提)。

 2.よって、外から来た人間は、過去に村を追放された罪人である(という論理)。

 3.罪人は村に入れてはならない(というルール)。

 

 完璧な三段論法だ。だが、そこには致命的な穴がある。わたし達は、そもそもこの村の出身ではない。創造主と旧文明の復活者なのだ。つまり、「追放された罪人」という前提そのものが間違っている。

 

 恩人だから罪人ではない! 

 とどのつまり、このルールは我々には適用されない! 

 ということは、自由に村をブラブラしても良いということ! 物色も可! チェストの中身を拝見しても文句は言われないはず! 

 

 フッ、流石はわたし。頭がイイ。完璧な論破だ。

 

「テメー、まさか…」

 

 千空が呆れたようにこちらを見ているが、気にしない。では行って来まーす! わたしは満面の笑みで、吊り橋へと足を踏み出した。

 

 どうもどうも。よそ者ではないアレックスです。ただいま! 帰って来たよ! 

 

「行かせないよ。嘘はダメだよ嘘は」

「ルールはルールだ。よく通れると思ったな…」

 

 二本の槍が交差し、わたしの進路を完全に塞いだ。ダメだった。クソゥ…いったい何がいけなかったんだ! 挨拶も完璧だったはずなのに! 

 

「ドコが頭イイんだよ、バカの間違えじゃねぇか」

 

 千空が溜息をつく。誰がバカだゴラァ。わたしの偏差値を知らないのか。…あ、論点はそこじゃない? 

 

「ほう? ならやむを得ない」

 

 コハクが低い声で呟く。なんだろう、穏便な解決策でも思いついたのかな? そう思って彼女の方を見ると、コハクは門番兄弟に対して、この世のものとは思えないほどワッッルい顔を浮かべていた。

 

 あ、これアカンやつだ。

 

「今ここで私と闘うか? おお困った、ああ困った! か弱い乙女は屈強な門番には勝てない! 相手は男だ…有利過ぎる!」

 

 コハクが、大げさな身振り手振りで嘆いてみせる。その目は、完全に獲物を狙う肉食獣のそれだ。

 

「か弱い乙女って嘘だよォ」

「同意する。弱い訳ないだろう…」

 

 門番兄弟の顔が引きつっている。彼らは知っているのだ。この「か弱い乙女」の実力を。わたしも知っている。か弱い乙女を自称する女ほど、実際はとんでもなく強いということを。

 

 前世の母は、アイアンゴーレムが可愛く見えるほど強かった。いつも口うるさいクソ父親は、彼女の前では借りてきた猫のように大人しくなり、時にはコテンパンにされていた。理由が理由──大抵は父の悪ふざけ──なのだから、流石に同情はしなかったが。

 

 コハクの武力度も、願わくばアイアンゴーレム級であって欲しい。流石に獅子王司クラスではない筈…そうだよね? もしそうだったら、この村は魔境だぞ。

 

「クククッ、一触即発じゃねえか。ワッッルい顔すんなテメーはよ」

 

 千空が楽しそうに笑う。ふと見ると、彼は手元で何かをコネコネしていた。コハクが汲んできた温泉水に、あのドクターストーン──石鹸を混ぜて泡立てている。手際よく石鹸水を準備すると、彼は指を使って輪っかを作った。その輪には、薄い膜が張っている。

 

 もしや…。

 

「フ〜」

 

 千空が息を吹き込むと、輪っかから無数の球体が飛び出した。虹色に輝き、風に乗ってふわふわと舞う、透明な球体。視覚的に美しく、幼い子供の好奇心を刺激し、天気や光の当たり方によっては様々な表情を見せてくれる、あの遊具。

 

 シャボン玉でございますね。正解してました。

 

「これはいったい何なのだ…?」

 

 コハクが目を丸くして、空を漂う泡を見つめる。

 

「ハ! …ふ、増えただと!?」

 

 金狼が警戒心も露わに、槍を構え直す。

 

「な、何なの? この怪しげな空飛ぶ勾玉は!?」

 

 銀狼が悲鳴を上げる。弟の銀狼は恐怖と好奇心がないまぜになった様子で、泡を追いかけ回し。兄の金狼は未知の脅威だと判断したのか、真剣な顔で槍で突きにかかる。

 

 そしてわたしは…。

 

 

 シュッ! 

 

 

 インベントリから弓を取り出し、飛んでくるシャボン玉を射抜く。

 

 

 パチン! 

 

 

 割れた。楽しい。気がつけば、門番兄弟とわたしは、たかがシャボン玉に完全に翻弄されていた。

 

「アレックスも翻弄されてるじゃないか…流石に弓でするのはどうかと思うが??」

 

 コハクの呆れた声が聞こえる。いや、だって動く的があったら撃ちたくなるのがシューターの性でしょう? 

 

「はーん? そのレベルねェ」

 

 疑ってはいないつもりだったが、彼らの反応を見る限り、本当に科学の『か』の字も知らない村人のようだ。シャボン玉一つでここまで動揺するとは。

 

 一方で、『フォーティ』とか『ルール』といった英語由来の言葉は、まるで母国語のように自然に使いこなしている。

 不思議な文化だ。文明が一度滅んで再構築される過程で、言語だけが奇妙な形で継承されたのだろうか。

 

「クククッ、なら丸ごと頂けるなァ? 科学とマインクラフターの力で、50人全員仲間にゲットしてやるよ! クッフフッ、唆るぜこれは…!!」

 

 千空の目が怪しく光る。完全に悪巧みをしている顔だ。村を丸ごと攻略対象にするとは、大きく出たな。だが、それこそが我々の生存戦略。労働力確保のため、そして科学王国建国のためには、彼らの協力が不可欠だ。

 

「自分で言うのもおかしいが、私以上にワッッルい顔するな? 君は」

 

 コハクがジト目する。『創造主を神だと崇めさせるのアリか?』などと不謹慎なことを考えていると、不意に銀狼の動きが止まった。

 

 それを見た金狼も『なんだ?』と動きを止め、わたしも弓を下ろす。

 

「仕方ないね…()()を出すしかない!」

 

 銀狼が決死の覚悟を決めたような顔で叫ぶ。

 

「あれって…いつもの()()か?」

 

 コハクが怪訝そうな顔をする。

 

()()ってなんだ? 教えやがれ」

 

 千空が身を乗り出す。まさか、シャボン玉ごときに必死になりすぎて、とんでもない最終兵器を持ち出してくる気か? ()()とは何だ。毒ガスか? 投石機か? それとも村の守り神的なモンスターか? 

 

 未だシャボン玉は健在なり。数は多い。普通の方法で減らすのは! 少々時間が掛かる。いったい何を…! 

 

「ああ、奥義──人任せだな」

 

 コハクがあっさりとネタバラシをした。

 

「?」

 

 千空とわたしは顔を見合わせる。え? それが奥義って本当? 必殺技を披露しそうな、シリアスな雰囲気だったのに?? 

 

 銀狼は両手を口元に当て、大声で叫び始めた。

 

「クロム──!! 助けて──!!」

 

『クロム』という名を呼んでいる。人任せというか、ただの助っ人要請じゃないか。いやはや…危うく、危険人物と判断して牛乳の刑に処すところだった。早まらなくてよかった。

 

「おう! ビビってんじゃねぇぞ銀狼。俺なら駆けつけてるぜ。沿岸から見たぜ…コイツをよ!」

 

 第三者の声が、森の奥から響いた。自信に満ちた、快活な少年の声だ。皆で声のした方を見る。そこには、頭に鉢巻を巻き、何やら怪しげな袋を下げた茶髪の少年が立っていた。

 

「俺はクロム。ヤベェほど頭がキレる、天才妖術使いだぜ!」

 

 少年はビシッと指を突きつけ、堂々と名乗りを上げた。

 

「フン! 探しに行く手間が省けたな、千空」

 

 コハクが鼻を鳴らす。

 

「ふ〜ん、天才妖術使いねェ。俺は千空、科学使いだ」

 

 千空が面白そうに目を細める。この少年がクロムか。妖術使いを名乗るんだ。

 

 …ん? 「妖術」? もしや、彼も復活者なのか? 現代知識を持ちながら、あえて「妖術」という言葉を使って村人たちを煙に巻いているとか? 

 

「こんなのはよ、木炭のアクから幾らでも作れんじゃねぇか」

 

 クロムはシャボン玉を一瞥すると、事も無げに言ってのけた。灰汁(あく)。木炭の灰を水に溶かした上澄み液。それは強いアルカリ性を示し、油脂と反応させることで石鹸の原型となる。

 

 彼は、シャボン玉の正体を見抜いている? 

 

「ビビってなどいない。未知なものを警戒しないようでは、ただのマヌケだ」

 

 金狼が言い訳がましく呟く。

 

「ボクは普通にビビってたけどね、アハハ…」

 

 銀狼が乾いた笑いを漏らす。

 

 …あるっぽいな。復活者の可能性が。

 

 だが、村出身ではないはずの「よそ者」である千空たちに対して、コハクと門番兄弟はあからさまな敵意を向けているのに、このクロムに対しては違う。

 

『奴がクロムだ』『妖術使いには妖術使いを、ってね』『頼らん!』といった、どこか呆れを含んだ、しかし身内に対するような視線だ。

 

 ということは、彼は「よそ者」ではない? 

 

 わたしの脳内で、情報がカチリと組み合わさる。とどのつまり、この説を提唱したい。

 

『村出身のクロムは、独自に科学(妖術)を研究している変わり者』

 

 あつま、これですね。最有力説。彼は復活者ではなく、このストーンワールドで生まれ育ちながら、自力で世界の理を解き明かそうとしている探求者なのだ。

 

「妖術なら負けねェ! お前らは手出すんじゃねぇぞ! 此処で戦っちゃあ村の連中巻き込んで…あの世行きだかんな」

 

 クロムが挑発的に手招きをする。場所を変えるようだ。村の入り口ではなく、彼のテリトリーで勝負するということか。

 

 科学使い・千空 VS 天才妖術使い・クロム。これは見物だ。マインクラフターとして、この異種格闘技戦を見逃すわけにはいかない。

 

 クロムの実力、とくと見せてもらうぞ! わたしは弓をインベントリにしまい、ワクワクしながら彼らの後を追った。

 

「妖術対決って何すんの? 周り全部黒焦げになっちゃうんじゃないのォ?!」

 

 銀狼の不安そうな声が響く。ここは村外れ。丸太を組み上げて作った、どこか天文台を彷彿とさせる奇妙な小屋の近く。どうやらここが自称・天才妖術使いクロムの自宅兼研究所らしい。うむ、悪くない立地だ。いずれは、わたしの手でモダンにリフォームしてやろう。

 

 それにしてもだ。観客はコハク、千空、わたし、そして最後に門番兄弟。

 

 おい、金狼と銀狼。君たちの仕事はどうした仕事は? 門番が揃って持ち場を離れてどうする。通りすがりのマインクラフターが『お邪魔しま〜す』って、村に侵入して来たらどうするつもりだ? 

 

 あっ、わたしは既にこの後、透明化のポーション飲んで『お邪魔しま〜す』して村を物色する予定であります。セキュリティの甘さに感謝。

 

「見とけ、オレのヤベェ妖術…七色炎橋(レインボーブリッジ)! オレは炎を自在に操る!」

 

 クロムが得意げに叫び、焚き火の前に立つ。今は妖術対決の観戦だ。大人しく見よう。先行はクロムから。彼が手にした何かを炎の中に投げ込むと、たった今、燃えていただけの赤い炎が一瞬にして鮮やかな黄色に変化した。

 

 おおっ! 次に彼が別の粉末を投げ込むと、今度は美しい青緑色に。更に次は、妖艶な紫色へと変化していく。次々と色を変える炎。それはまるで、生きているかのようだ。

 

「ナンデェー!? 凄い、凄いよ!」

「凄まじいな、これは」

「こ、これが妖術…!」

 

 銀狼、金狼、そしてコハクが目を輝かせて驚愕の声を上げる。彼らにとっては、まさに魔法のような光景なのだろう。

 でも、その、クロムには本当に申し訳ないのですが。ごめんなさい。

 

「何が七色炎橋(レインボーブリッジ)だァ? フツーの炎色反応じゃねぇか」

 

 千空が鼻で笑って一刀両断する。うん、わたしもそう思う。

 それ、現代日本では花火とか理科の実験で見慣れてる、極めて普通の現象です。

 

「塩、銅、硫黄の順で入れてるだけだろ。銅は何だ、硫酸銅とかかァ? テメーに分かりやすくすると…洞窟とかでゲットした青い結晶だろ?」

 

 千空の解説が容赦なく続く。

 

 炎の色が黄色になったのは、塩を入れたから。

 炎が青緑色になったのは、銅を入れたから。

 炎が紫色になったのは、カリウム…いや、この場合は硫黄か? 

 

 とどのつまり、彼がドヤ顔で披露してみせた該当現象は、各金属元素特有の色を示す化学反応なのであ〜る。わたしも補習で習いました。遺憾ながら授業はサボって…じゃなくて、クラフト病という重篤な体調不良で休んでいたので、補習で叩き込まれた知識だ。懐かしい。

 

「」

 

 クロムが絶句している。口をパクパクさせ、顔色がどんどん悪くなっていく。

 

「スッゴイ顔だぞクロム」

「千空からすれば、珍しくない妖術なのかな?」

「クロムだけの専売特許。これで無くなったな」

 

 コハクたちの容赦ないコメントが追い打ちをかける。自信満々だったクロム、中破判定。いや大破か? 地味に精神的ダメージを食らってる。ヤベェよヤベェよの顔してる彼は、突然脱兎のごとくダッシュで自宅に戻っていった。

 

 は、速い! スピードのポーション飲んでない筈なのに! や、ヤベェ…!! 思わず、クロムの口癖が移ってしまった。

 

「今度はマジでヤベェからな! …ふんぬゥゥゥー!!」

 

 すぐに戻ってきたクロムの手には、謎の黄色い球体が握られていた。彼はそれを必死の形相で、手でゴシゴシと擦り始めた。手で擦る…その動作、もしや静電気? 

 

「ハァハァハァ…ッ」

 

 息を切らしながら擦り続けたクロムが、銀狼に指を突き出す。

 

「い、痛い! 何なのこのビリっとした攻撃?!」

 

 銀狼が悲鳴を上げて飛び上がる。

 

「硫黄のボールかァ?」

 

 千空が興味深そうに呟く。

 

「!?」

 

 クロムがビクリと反応する。またしても図星か。先ほど火にもブチ込んでた硫黄を土器に詰めて、火で溶かして固める。固まったら外側の土器を割って中身を取り出せば、硫黄ボールの完成だ。

 

 当該ボールは擦ると静電気が発生しやすい性質を持つ。また、素手よりも革などで擦れば、何倍もの強力な静電気が起きる。千空はそう説明した。

 

 やはり静電気でしたか、正解してましたね。ふむ。今こうしてコハクと銀狼の髪の毛が逆立っていたり、電気の『で』の字すら知らない村人からすれば…なるほど。目に見えない力で攻撃されたように、感じるだろう。確かに、「妖術」と呼ばれるだけのインパクトはある。

 

「妖術ってのは、こういう事を指すんだよ」

 

 千空がニヤリと笑う。その言葉に、クロムが青ざめる。自分の切り札が全て、科学的に解明されてしまったのだから無理もない。

 

「そ、ソイツも千空と同じなのか?」

 

 クロムが震える指でわたしを指差す。そう言って、千空はわたしに近寄って来た。わたしは妖術使いではないのですが…え、やって欲しい事がある? 

 

 …ほうほう、なるほどなるほど。

 

 千空の目配せで意図を理解する。要するに、こいつらに「本物の規格外」を見せてやれってことね? 相分かった。見せればいいんだな。マインクラフターの真髄を。

 

 わたしはインベントリを開き、ネザーラックと火打ち石を取り出した。

 

「な!? どこから出した!?」

 

 コハクが目を剥く。

 

「先の弓もそうだが、どこからともなく現れたぞ!」

 

 金狼も動揺を隠せない。

 

「持ち変えたにしては速すぎない!?」

 

 銀狼がパニックになっている。フフフ、驚くのはまだ早いぞ。わたしはネザーラックを地面に設置し、火打ち石でカチリと着火した。

 

 

 ボウッ! 

 

 

 赤いブロックの上で、炎が燃え上がる。

 

「燃えたよ!」

「色は変わってないが、クロムと同じだな」

「ま、まだ負けて、ねぇかんな!」

 

 クロムが強がりを言う。よし、ここからが本番だ。わたしは燃え盛る炎に向かって、ツルハシを振り下ろした。一撃。炎ごとネザーラックがアイテム化して消失し、わたしのインベントリに吸い込まれる。

 

「炎が消えたよ!」

「ねざーらっく、とやらもな。気の所為であればよいのだが…吸い込むようにしてアレックスに消えたぞ? どうなっているのだ??」

 

 コハクが自分の目を疑っている。物理法則を無視した収納術。これぞ、インベントリの神秘。

 

「ま、まだ、だぜ」

 

 クロムの声が震えている。まだ足りないか。では、とっておきのを見せてやろう。わたしは水バケツを取り出した。無限水源を作りたいと思います。

 

 無限水源には二種類ある。三マス型のI型と、四マス型のL型。前者は場所を取らないので、狭い拠点などで主流となっている実用的な無限水源。後者は4マスの正方形型だ。わたしの場合、見た目にも美しくシンメトリーな水源を作りたいので、いつもこれだ。

 

 地面を4マス掘り下げる。そこに、対角線上に水を流し込む。

 

 

 バシャッ! バシャッ! 

 

 

 端っこのほうに水バケツを撒いては掬うを繰り返せば、ほらこの通り。水流がぶつかり合い、静止した水源が完成する。ここから水を汲んでも、瞬時に水が補充され、決して尽きることはない。

 

 無限水源の出来上がりである。

 

「えぇー!? ど、どどどうなってるの金狼!」

 」オレに聞かれてもな…」

 

 金狼も答えに窮している。

 

「無限に、水が、湧いて、るぜ…?」

 

 クロムが呆然と呟く。ふっふっふ、驚いたか。これぞ、マイクラ物理学の真骨頂。質量保存の法則なんて知ったことか。

 

 仕上げといこう。わたしは空のガラス瓶を取り出し、無限水源から水を掬う。水入り瓶の完成だ。これをクロムに渡して、「どうだ、凄いだろう」とドヤ顔を決める予定だった。

 

 その予定だったのだが…喉が渇いていたのか、無意識のうちに瓶の中身を飲み干してしまっていた。

 

 …あヤベ。味が違う。ただの水じゃない。これ、インベントリの中で隣にあった『透明化のポーション』だ! うっかり切り替えてしまっていた!? 

 

「アレックスの姿が消えた!?」

 

 コハクが悲鳴を上げる。

 

「不思議な容器に入った飲み物を飲んだからか?」

 

「ど、どこに行ったんだろう?」

 

 銀狼がキョロキョロと周囲を見回す。

 

「あの時と同じだったぞ」

 

 金狼が、以前わたしが消えた時のことを思い出している。しまった、完全に失敗だ。本来であれば、水入り瓶にしたそれを渡して「ほら、水も無限だよ」とやる筈だったのに、わたしとした事が。

 

 これではただの神隠しか心霊現象だ。慌ててインベントリから牛乳を取り出し、一気飲みする。ゴクゴクゴク…プハッ! 透明化解除。

 

「うわびっくりした!?」

 

 銀狼が腰を抜かす。

 

「幽霊みたいに現れたな。元に戻った要因は、白い飲み物を飲んだからか? …アレックスは死者だったのか!?」

 

 コハクが真剣な顔で、トンデモ推理を展開する。

 

「死んでねぇよ…ベッドから生き返ったけどなァ」

 

 千空がボソッとツッコむ。ややこしいことを言うな。

 

 気を取り直して、今度こそ正しい水入り瓶を生成し、クロムに差し出す。ほら、受け取りたまえ。これが君の知らない世界の理だ。

 

「…」

 

 …あれ? 相手は受け取らない。理由は、何故だか知らんが固まってしまっているからだ。彫刻のように微動だにしない。

 

「幻覚なのだろうか? 口からクロムの顔をしてる魂が『こんにちは』してるのだが…」

 

 コハクが恐る恐る! クロムの顔を覗き込む。

 

「俺も見えているぞ。奴は…意識が飛んでいる!」

 

 金狼が分析する。

 

「あの世に行きそうだよォ…クロムしっかりしてェェ!」

 

 銀狼がクロムの体を揺するが、反応はない。

 

「クククッ、これが本物の妖術使いだ」

 

 千空が楽しそうに笑う。クロム、撃沈。完全にキャパオーバーを起こしてしまったようだ。すまない、やりすぎたかもしれない。

 

 でも、大丈夫だ。君のその探究心、そして原始的ながらも自力で科学の入り口に辿り着いたその努力、わたしはバカにはしない。むしろ尊敬してる。君ならきっと、この衝撃を乗り越えて、科学の側に来れるはずだ。

 

 だからクロム…カムバァァァァク!!




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