本作は「神話になァァれ!」の作品ではありません。また「個体生命の形を維持出来ません!」の計画でもありませんので「始まりと終局の扉が、遂に開いてしまうか」を見たい方はブラウザバックをどうぞ。
作者「短い•••短いけどキリがイイしこれで投稿しよっと•••ね、姉さん!? 今日は仕事じゃなかったの•••って急に妹に抱きついてどうしt」
科学王国補完計画、始動
ルリとやらを救うために作る、科学の万能薬──抗生物質サルファ剤。この壮大なロードマップを前にして、ひょっとしたら不思議に思う者がいるかもしれない。『なんでマインクラフターの特権である、クラフターの牛乳でサクッと救わないの?』…と。
ここで一つ、クラフターの牛乳とはいかなるものか、その異常性についておさらいしていこうと思う。
クラフターの牛乳を一口でも飲めば、自身に付与された様々な状態異常が瞬時に解除される。毒蜘蛛に噛まれた猛毒だろうが。海底神殿に潜むエルダーガーディアンによる、理不尽な採掘速度低下の呪いだろうが。あまつさえあの恐ろしいウィザーの攻撃による死の宣告たる衰弱効果であろうが。とにかく、例外はない。
現代医療を凌駕するどころか、世界の理すら超越しているであろう、クラフターの牛乳。これほどまでにチートじみた効能を持つ秘薬となれば、さぞかし特別な入手方法があるのか、あるいは複雑怪奇な加工方法が必要なのかと、疑問に思われることだろう。
いや、無いんです。特別も何も…全くもって、無いのです!
ただその辺にいる牛に向かって、鉄のバケツを持って右クリック──というかアクション──するだけ。たったそれだけで手に入り、それをゴクゴクと飲み干すだけで、いかなる死の淵からでも状態異常が完全に解除される。
それが、クラフターの牛乳なのである。千空や他の面々から疑われようが、訝しげな視線をいただこうが、100%詐欺ではないので何も怪しくないのです。はい。
ルリの病が具体的にどういったものかは不明だが、おそらく…いや十中八九、この牛乳を飲ませれば、どんな不治の病を治すことだって可能だと思われる。
しかし、わたしはあえて『科学で救う』という千空の方針に賛同した。牛乳で一瞬にして救う、のではなく、だ。もちろん、ルリを助けて『創造主様ありがとう計画』の一環として崇められたい気持ちはある。
だが、我々の最終目的は単なる人命救助ではない。この何もないストーンワールドに、科学の王国を興すことなのだ。
『嗚呼、お労しやルリ様…』
『ルリ様の咳が日に日に酷くなっている。心配だわ…』
村人たちが日々抱える不安と絶望。それを、わたしの一瞬の魔法のような力で解決してしまえば、彼らはわたしを神として崇めるかもしれないが、科学の力に気づくことはない。
だが、千空が泥臭く作り上げたサルファ剤で治療すれば、村人たちの反応はこうなるはずだ。
『不治の病が治った!?』
『科学の力ってすげええ! 科学万歳!』
『オレも科学王国に入ろう!』
「クククッ…この科学の万能薬で、村の連中全員を科学の虜にしてやる。村ごと乗っ取るための、最強の武器だ」
そう言って、千空はこれ以上ないほどワッッルい顔で告げたのだ。その悪党顔に、わたしも思わず深く頷いてしまった。
どんな病にも効く特効薬の牛乳は、いざという時の最終手段としてインベントリの奥底にしまっておく。無いとは思うが、もしも千空のサルファ剤が効かなかったら…その時はわたしが牛乳での治療を行う。
改めて考えると、牛乳ってとんでもない特効薬だったんだなァ。
そんな訳で、『科学王国補完計画』の最初のフェーズは、既に勢いよく始まっている。
その名も──サルファ剤のロードマップ! 別名、ストーンルートともいう。
サルファ剤を作るための工程は、気が遠くなるほど複雑で多岐にわたる。その根幹を成す超重要アイテムである鉄インゴットは、わたしがインベントリからポンと取り出して用意してあげた。
「ヤベェ! なんだこの綺麗に整った鉄の塊は!? アレックス、お前ホントにマジモンの妖術使いだな!」
クロムが純度の高い鉄インゴットを見て、目をひん剥いて驚愕していた。
「クククッ、アレックス様々だなァ。テメーがいなきゃ、川で砂鉄を集めるとこから始めて、オレとクロムで三日三晩、血反吐吐きながらふいごを踏み続けるハメになってたぜ」
創造主サマがいてありがてェ、と科学少年に素直に感謝された。その時のわたしは、まんざらでもなく照れた。フフ、もっと褒めていいぞ。
もしもわたしがいなかったら、ちと大変かもと言っていたが、確かに大変そうだ。1500度に達するまで、人力で3日間休みなく空気を送り続けるなんて、正気の沙汰ではない。
あっ、ちなみにクラフターであるわたしは肉体的な疲労とは無縁の日々なので、全然3日間くらい徹夜で労働しても問題ありません。《くらふたーのせかい》ではブランチマイニングのために、ニ週間ぶっ続けで地下労働してた時期がありましたので。あれはあれで楽しかったなァ。
鉄が手に入れば、次は電気。とどのつまり発電機のクラフトに移る…のだが、それは一旦停止となった。我らがリーダー、千空先生のお達しだ。
「サルファ剤だけでも村人たちの心はゲット出来るだろうが、万が一ってこともある。念には念を入れ、確実に落とすための布石を打つぞ」
発電機のクラフトに入る前、強烈な『食』の力で村人たちの胃袋と心を物理的にゲットする。
事の発端は、スイカと名乗る幼い少女からの報告だった。
「村のみんな、お魚やお肉をただ焼いただけのご飯ばっかりで、飽きちゃってるんだよ! もっと何か、美味しいものが食べたいって言ってたんだよ!」
流石は村の情報屋、名探偵スイカ。小さな体と、すっぽりと被っている本物の果物・スイカの皮を活かして、見事に隠密行動で村の不満を拾い上げてくれた。おかげ様で、村人を科学の餌で釣り上げる絶好のチャンスが到来したというものだ。
…それにしても、あの子。スイカの皮を被ったまま、ボールのようにコロコロと地面を転がって移動しているのに、中の体が全く痛む様子がない。やはりこのストーンワールドは、物理法則を無視した人間ヤメてる奴らがゴロゴロいるのだろうか。
雌ライオンであらせられるコハクの驚異的な身体能力だってそうだし…マインクラフターのわたしでも、ちょっと怖くなってしまうよ。
名探偵スイカからの報告を受けてから、我々はすぐさま行動を開始し、神の食を手に入れた。今日この日、美味いものに飢えきっている村の衆に振る舞うのだ。全ての旧文明人が愛してやまない、ジャンクフードの王様…ラーメンを。
もちろん振る舞う前日に、我々だけで実食させていただきました。試食メンバーは千空、クロム、コハク、スイカ、そしてわたしの五人。
いやはや、美味しゅうございました。かん水に見立てた灰汁を使い、そこら中に生えている雑草の猫じゃらしから麺を打ち出すとは。千空の科学知識には恐れ入る。とても猫じゃらしから出来たモノとは思えない程に、しっかりとした麺の食感があった。
「これが…猫じゃらしから作った麺だと!? 信じられん、こんな美味いものがこの世にあったとは!」
コハクが目を輝かせて麺をすすり、クロムも「ヤベェ! ヤベェ!」と語彙力を失ってどんぶりを抱え込んでいた。
が、発案者の千空の様子がおかしかった。
「ッ! こ、これが…科学のラーメン…!」
何故だか知らないが、千空は一口食べた途端、地面に四つん這いになって打ち震えていたのだ。ふむ。よほど自分の作ったラーメンが美味くて、感動のあまり膝から崩れ落ちたのだろう。さぞ美味かったに違いない。
マインクラフターであるわたしの味覚は、ゾンビの腐肉すら咀嚼できる仕様なので、猫じゃらし特有の青臭さやエグみなんて、野趣あふれる風味として美味しくいただける。もしこれが美味しくないと言うのなら、科学少年の舌はどうかしてる、とわたしは肩を竦めただろう。
そして…実は今回村人に振る舞うのは、ラーメンだけではない。秘密兵器のデザート…ショートケーキも振る舞うのだ。ただし、これは女子限定である。
ケーキの作り方はこうだ。小麦3つ砂糖2つ卵1つそしてミルク入りバケツ3つ。これらを作業台の3×3のマス目に決められたレシピ通りに正確に並べるだけでいい。
かまどもオーブンも使わずに、たったの一瞬で完璧なデコレーションが施されたホールケーキが完成するのだ。この物理法則や調理の工程を完全に無視した圧倒的な理不尽クラフトこそマインクラフターであるわたしの真骨頂だ。
ポンという小気味良いシステム音と共に、作業台の上に純白のホールケーキが出現した。雪のように真っ白で滑らかな生クリームがたっぷりと塗られ、その頂点には宝石のように輝く真っ赤なイチゴが、規則正しく美しく飾られている。
完成した瞬間から、周囲に甘ったるいバニラと砂糖の濃厚な香りが、ふわりと広がった。文明が滅びたこのストーンワールドにおいて、絶対にあるはずのない究極の嗜好品。それが今、ここにあるのだ。
「いいか? 女子どもにはこう言え。『この猫じゃらしで作った科学のラーメンを、スープの一滴まで残さず完食しました!』という確固たる証拠をわたしに見せてくれれば、ご褒美としてこの神の甘味にありつけることができるとな」
千空がケーキを見つめながら、悪魔のような邪悪な笑みを浮かべて指示を出す。
「なぜ女子限定なのだ? 男だって、こんなにも良い匂いのする甘いものは食べたいはずだぞ」
コハクが不思議そうに首を傾げる。わたしも少し疑問に思ったが千、空の狙いは極めて論理的で明確だった。
「クククッ、男どもには、ラーメンの強烈な塩気と油の旨味だけで十分に落とせる。単純だからな。だが女子どもは警戒心が強い生き物だ。見慣れねぇ茶色いラーメンだけじゃ、食いつかねぇ可能性もある。だからこそ、この絶対的に可愛らしいビジュアルと破壊的な甘さを持つ、ケーキで逃げ道を完全に塞ぐんだよ。いいか? 甘味ってのはな、原始の村において脳を直接揺さぶる最強の麻薬なんだよ。これでこの村の胃袋と心を、骨の髄まで完全に制圧してやる。唆るぜ、これは…!!」
千空の目は完全に世界征服を企む、悪の総統のそれだった。手段を選ばないその冷徹なまでの合理性には、惚れ惚れする。
「悪役の顔だな最早。だがこの甘い匂いには確かに抗えん…! さっきから唾液が全く止まらないぞ!」
コハクが千空に鋭いツッコミを入れつつも、わたしの手にあるケーキから一秒たりとも目を離せずにいる。村で一番強いはずの雌ライオンも、スイーツの圧倒的な魔力の前には、ただのか弱い乙女に成り下がるらしい。
「あまーい! こんなフワフワで、とびっきり甘い匂いの食べ物、スイカ生まれて初めて見たんだよ! お腹がグーって鳴っちゃうんだよ!」
スイカも被り物を上下に激しく揺らしながら、ケーキの魅力に完全にノックアウトされていた。試しに石のナイフで少しだけ切り分けて、二人に味見させてみることにした。
「こっこれは…!? 口に入れた瞬間に溶けたぞ!? 甘さが頭のてっぺんまで一直線に突き抜ける…! 美味い美味すぎる! もっとだもっと食べたい!」
「ワオ! ほっぺたがとろけて落ちちゃうんだよ! 甘くて甘くてすっごく幸せなんだよ!」
二人の反応は、わたしの予想を遥かに超えていた。コハクは目を輝かせて、木の皿を舐め回さんばかりの勢いだし。スイカは全身で飛び跳ねて、喜びを表現している。
とはいえ、村の女子からすればラーメン以上に得体が知れないのが、このケーキという未知の物体だろう。見た目が美しすぎるゆえに、逆に警戒されるかもしれない。毒でも入っているのではないかと。
が、その心配は無用だ。わたし自らが彼女たちの目の前で、最高に美味しそうに食レポしてみせればいいのだ。
フォークで一口大に切り分け生クリームとスポンジをたっぷりと口に運ぶ。そして、とろけるような至福の笑顔で『ん〜! 甘くてフワフワで最高〜!』と、恍惚の表情を浮かべる。それを見せつけられれば、どんなに警戒心の強い村の女子でも、コハクとスイカのように一瞬で甘味の虜となり完全に陥落するはずだ。
そして、ここからが千空の考えた作戦の、真に恐ろしいところだ。
『こんなに美味しくて幸せになれる食べ物が口にできるのは、今回のお祭りだけ』という期間限定の絶望を、彼女たちに突きつける。一度この究極の甘さを知ってしまった舌は、二度と元の淡白な食生活には戻れない。
そうなればどうなるか。自ずと美味しい食を約束してくれる我らが科学王国に、入るしかなくなるのだ。科学王国に入国しさえすれば、いくらでもこの幸せなケーキが食べられるという、最強の甘い餌をぶら下げて。
「自分で言いながら、アレックスにも言えることだがな? その悪役顔は」
わたしの完璧な計画を察知したのか、コハクがジト目でこちらを見てきたが、そんなことは全く気にしない。目的のためには手段を選ばないのが、我々科学とクラフトのタッグなのだ。ルリを救うという大義名分があるのだから、少々の強引さは許されるはずだ。
さぁ始めよう。科学王国補完計画を。まずは食という人間の最も根源的な欲求から、この村を絡め捕っていく。
来たれ。我らが科学王国に。さすれば飢えることもなく、病に怯えることもない。心も体も完全なる文明の恩恵を、永遠に受けられるぞ。
フッフフフ……アーハッハッハァァァ!!
クッククク…アーッハッハッハッ!!
わたしと千空の野望と企みに満ちた高笑いが、夜のクロムの小屋に高らかに響き渡った。
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