クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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本編に入る前に、少し話をさせてください。一昨日、仕事をしていた最中の事です。ある男のお客様が、「君のメガネと靴下、いくらで貰える?」と尋ねられました。突然のあまり思考停止したのですが我に帰ると、気づけば警備員さんに連れていかれておりました。
何故その人は連れていかれたのか、今もなお不思議に思います。

さて、この話はゴミ箱にシュートしていただいて構いません。本編が大事です! それでは、どうぞ!


その男は何者か?

「♪ い〜しや〜きいもぉ〜、おいもぉ〜」

 

 

 村の広場に、なんとも懐かしく、そして場違いなメロディが響き渡る。店番を任されたスイカが、独自のセンスで編み出した呼び込みの歌だ。

 

 実際に提供しているのは焼き芋ではなく、猫じゃらしラーメンと最高級ショートケーキなのだが、そんな細かいことを知るのは千空とわたしだけである。まあ、客が来てくれれば何でもいい。

 

 結果から言えば、屋台は大盛況だった。絶賛の嵐が止まらない。凄まじい反響だ。「美味い!」「何だこの味は!」と、初めてジャンクフードの旨味を知った村の男たちが、ラーメンのどんぶりを奪い合っている。

 

 そして、それは秘密兵器のケーキも例外ではなかった。最初は白いクリームに警戒していた女子たちも、わたしとコハクの恍惚とした食レポを見るや否や、恐る恐る口に運び…完全に崩落した。

 

 

「甘い…甘くてフワフワ…幸せ…!」

「もっと! もっと食べたい!」

 

 

 村一番の美女と名高い「キラキラ三姉妹」を筆頭とした女性陣が、目の色を変えてケーキに群がっている。

 

 …君たち、胃袋どうなっているんだ? 甘いモノは別腹というが、何回おかわりすれば気が済むんだ? さっきからホールケーキが飛ぶように消えていく。こちらとしてはインベントリの素材が減るわけではないし、目的達成のためにはありがたい限りなんだけど。

 

 フッフフフ、アーハッハッハ…彼女らは完全に堕ちた。甘味の虜となったのだ。やはりケーキ…ケーキは全てを解決してくれる! もちろんラーメンもだ。仲間外れにはしない。塩気と甘味の無限ループこそが、人類を支配する最強のメソッドだ。

 

 

「まだまだあるよー! 科学の飯は無限だよー!」

 

 

 わたしが屋台の裏から元気よく声出しをしていた、その時だった。

 

 

「これ、飲み物欲しくなっちゃうねェ〜。シュワッとしたやつ。コーラとかさぁ」

 

 

 適当な岩に背を向けて座っている、特徴的な風貌の青年が視界の隅に映った。わたしから見える情報は彼の背中だけだが、手元のどんぶりから察するに、彼もラーメンを食べているのだろう。

 

 しかしこの男、わたしの耳が正常ならば…今、「コーラ」って言っていたような? コーラ。この石の世界の住人が、絶対に知るはずのない単語。

 

 …復活者かもしれない。

 

 

「偽りなく答えろ。さもなくばこの場で…貴様の喉を掻き切る! 貴様は、長髪男の手の者か?」

 

 

 コハクがいつの間にか背後に回り込み、青年の首筋に短剣を突きつけていた。素早い。さすが雌ライオン。

 

 

「いやぁ〜、こんな可愛い子に絞められるのは悪くないけど、俺を誰かとさぁ…間違えてない?」

 

 

 刃を突きつけられているというのに、青年は全く動じる様子を見せない。ひょうひょうとした態度のまま、両手を上げて降参のポーズをとる。

 

 スイカに店番を任せ、わたしは屋台の前に出て、彼を頭の上から足先までじっくりと眺めた。

 

 

「長髪男なんて知らないなァ。オレは石化から解けてから、ずっと一人だったけど?」

 

 

 半分白髪、半分黒髪という奇抜なヘアスタイル。切れ長の釣り目。冷たい印象を受ける端整な容姿だが、左頬には石化に伴うヒビ跡がくっきりと残っている。服装は、着物のような袖の広いダボついた布の服だ。

 

 …嘘ダァ。石化から解けてからずっと一人? 

 

 いや、いやいやいや。もし『ずっと一人』なら、その複雑な構造の服は自分で素材を集めてクラフトしたということになるぞ? 

 

 もしや…新たなマインクラフターか? いや、しかし。新たな創造主がストーンワールドに生誕する場合、最初はスッポンポンか、デフォルトのスキン状態のどちらかであるのが常識だ。最初からそんなデザインの服を着ているはずがない。それに、そもそも何故この世界に? 転生者の生誕は必ず、《くらふたーのせかい》で行われるのが神々のルールの筈。

 

 何よりも、現在アインドラの気まぐれなストレス発散のせいで、多数のクラフターは手が離せないでいるはずだし、参加していないクラフターもネザー探索やらジ・エンドでの建築やらで『手が離せません』状態だ。

 

 このタイミングで、新入りがこちらの世界に来れるはずがないんだが…。

 

 

「どっかで見たと思ったらテメー、あさぎりゲンか」

 

 

 千空が青年の顔を見て、呆れたように言った。

 

 

「知り合いか?」

 

 

 コハクが問う。

 

 

「いんや? 1ミリも知らねェ」

 

 

 あさぎりゲン? あっ、なんだ。知り合いの知り合いとか、そういう現代人枠か。でしたら創造主ではないですね。はい。わたしの早とちりでした。

 

 

「ゴミみたいな心理本書いてた、インチキマジシャンなら知ってるぜ」

「読んだことあるの? 嬉しいね〜。そんでゴミみたいは酷いね〜。マジシャンじゃなくて、メンタリスト、って呼んでよ」

 

 

 千空が毒を吐くと、青年──ゲンはへらへらと笑いながら訂正した。

 

 マジシャン…だと? わたしは思い出す。…あ〜、あれか。魔術と妖術を操り、森羅万象をねじ曲げる、あのマジシャン? 

 

 …え、まままマジで!? あの伝説の職業が、この世界にも実在したというのか!? 

 

 わたしの前世の世界にも存在していたのだ。前職は天才外科医だったが、事故で両手の神経を痛め、カトマンズでの修行の果てに魔術に目覚めたという、世界でただ一人の至高の魔術師(ソーサラー・スプリーム)が。

 

 

「勝手にラーメン食べちゃったことは謝るよ。だからさ、この武器下ろしてくんない? もう怖くて手足がプルップルで。折角のラーメンが溢れちゃいそうでね」

 

 

「ぼ、ぼぼぼ僕が持っててあげるよォ!」

 

 

 銀狼がラーメンのどんぶりを狙ってすり寄る。

 

 

「デタラメばかりだ…」

 

 

 コハクが呆れて短剣を下ろす。

 

 わたしはかつて、前世の日本で「魔法」や「霊能力」に興味を持ち、オカルトスポットを巡ったことがある。だが、この世界にはインチキ者しかおらず、詐欺ばかりだと思い知らされた。

 

 幽霊が実在するという廃墟に行っても当該存在はおらず、代わりに『うらめしやァ…うらめしやァァァー!!』と不可思議な動きで迫ってくる、白いワンピースを着た女しかいなかった。

 

 インチキ霊能力者には心底ガッカリしたが、もしかすると彼女は『霊能力が使えなくなる呪い』という特殊な状態異常にかかっているのかもしれないと、当時のわたしは真剣に考えた。

 

 なので、インベントリから牛乳を取り出し、無理やり飲ませて正常化(?)してあげた。流石にタダで呪いを解くのはどうかしてると思い、何故か部屋の隅でヒドく怯えている弟子らしき青年に、手持ちのダイヤモンドとエメラルドを渡して帰ってきた。

 

 

「今日も一人で食料探してたらビックリ! 懐かしいラーメンの香りがしてフラフラ〜っとさ」

「クククッ、そういうことにしといてやるよ」

 

 

 ゲンと千空が、互いに腹を探り合うような笑みを浮かべる。

 翌日、あの白いワンピースの自称霊能力者は、急性アルコール中毒ならぬ急性牛乳中毒(?)で病院に救急搬送されたとニュースで聞いた。

 

 どうしてそうなったのか、彼女が本当に呪われていたのか。真相は今も闇の中だ。

 

 

「やぁ初めまして! 俺のn」

 

 

 ゲンがわたしに挨拶しようとした瞬間、わたしは動いた。

 だがこの、あさぎりゲンとやらも、あの白い女と同じインチキの可能性がある。

 

 本物の魔術師かどうか。即座に実行に移して、確かめねばなるまい。

 

 

「え、えぇ? じ、ジーマーだったんだねェ」

 

 

 わたしはゲンの周囲の空間を確保するように、丸石ブロックで素早く囲いを作り始めた。中には入らない。外から見られるように、高さ2マスの位置は空白とし、鉄格子をはめ込む。簡易的な観察室の完成だ。

 

 そして、インベントリからクラフトした黒い燕尾服とシルクハットを取り出し、鉄格子の隙間から彼に渡し、着るよう促した。

 

 さあ、あさぎりゲン。君が至高の魔術師だというのなら、その魔術とやらを見せてくださーいな! 

 

 

「ご、ごめんねェ。ちょっとそのォ、状況的にリームーなのよ」

 

 

 断れられた。何故なんだ…魔法陣を描くためのチョークが足りなかったか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の仕事は千空ちゃんが生きてるか、アレックスちゃんが科学の側なのかの確認だよ」

「どうして司の仲間だと認めた?」

「それはさ」

 

 

 科学倉庫の隣に、わたしが瞬きする間に建設した新築の家。その地下。トラップドアを開けて梯子で降りた先にある、厳重な地下室。そこには、鉄格子の部屋がある。内装は松明にベッド、作業台、かまど、机、椅子。生活には困らない設備だ。

 

 ただし、外に出るには鉄扉の側に設えられたレバーを引かねばならないが、そのレバーは外側にしか設置していない。つまり、牢屋である。

 

 

「アレックスちゃんが、ジーマーな創造主サマだったからよ」

 

 

 そこにわたしは、ゲンを丁重に物理的に囲って持て成した。

 千空の指示による、彼がスパイであると確定した上での一時的な隔離処置とのことだ。あっ、話は鉄格子越しにしている。

 

 

「短い時間で家を建築しちゃうの、バイヤーよ。手錠の鉄だって、俺らが知ってるモノよりゴイスーなのよ?」

「クククッ、だな。純度がヤベー」

「そうよ。で…何より、一瞬で鉄の剣が出来るの、ジーマーでバイヤー過ぎるでしょ!?」

 

 

 どうやらゲンは、わたしの探していた「至高の魔術師」ではないらしい。

 

 けど、わたしは落胆しなかった。彼がマジシャンなのは本物だった。魔力は使えなくても、人心を掌握するその話術は、クロムの炎色反応より圧倒的に妖術じみていた。

 

 

「作業台の上に、棒と鉄塊を置いただけよ? どんなカラクリよ??」

「科学的に突き止めてやるぜ」

「ツッコミしてよ千空ちゃん!?」

 

 

 ところで何故か知らぬが、ゲンが鉄格子の中から目をひん剥いて驚いている。言葉で説明するより、見せた方が早いだろう。

 

 わたしは無言で、彼の目の前にある作業台でもう一度クラフトしてみせる。木の棒1本を下に置いて、その上のマスに縦に2個の鉄インゴットを並べて置く。ポンッ。はい、完璧な鉄の剣の完成である。

 

 

「火を使わないし、ハンマーで打ちもしないのよねェ…」

「ああ、これ見たらおったまげるカセキの顔が目に浮かぶぜ」

 

 

 カセキ。村の職人であり、小柄な老人で、石神村の吊橋など彼が手掛けたものばかりだという。普段は穏和で好々爺然とした言動なのだが、モノ作りに興奮すると服が弾け飛び、筋肉隆々なマッシブ体型に変化するという噂を聞いた。服が弾け飛ぶ様。

 

 まさか、アニメの表現がこの現実世界に実在したとは。是非とも一度お目にかかりたいものだ。

 

 

「何が言いたいのかというとね、千空ちゃん。俺は…常に勝ち馬に乗る男なのよォ」

 

 

 ゲンが鉄格子越しに、妖しい笑みを浮かべる。

 

 

「科学王国と司帝国、どっちが勝つのか…俺はそこしか興味ないの。だから──」

 

 

 彼が本性を現し、取引を持ちかけようとした、その時だった。

 

 

「アレックス、千空、緊急事態だ!!」

 

 

 地下室のトラップドアが勢いよく開き、コハクが飛び込んで来た。

 

 

「どしたの? コハクちゃん」

 

 

 ゲンが素っ頓狂な声を出す。どうしたのだろうか? 緊急事態とはいったい…。司の軍勢でも攻めてきたか? 

 

 

「雷が来たぞ!!」

 

 

 コハクの言葉に、千空の顔色が変わった。

 

 

「!? …行くぞテメーら!」

「オレもなの千空ちゃん?」

「見せてやるよ──電気の爆誕をよ」

 

 

 千空がニヤリと笑い、梯子を駆け上がる。雷? 天候の変化が緊急事態? よくわからないが、とりあえずわたしも千空の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【闇の女神アインドラが神の世界に帰った】

【これより準備する。完了次第、再度連絡する】

【クラフト大好きクラフト大好きクラフト大好き!】

【マインクラフター万歳、マインクラフター万歳!】




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