クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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諸先輩方はスゴイですね。
5000文字以上、時には一万文字も書けるんですから。
ここで訂正が入ります。
コハクが告げた「40人」を「50人」とします。
訂正は以上です。それでは、本編をどうぞ。


仮面とカボチャの戦士

 サルファ剤のクラフトは、千空の狂気的な執念と、クロムの底なしの体力、そしてわたしの理不尽な生産力によって、大幅に進展していた。

 

 工程は複雑怪奇を極めたが、一つ一つクリアしていくのは嫌いじゃない。

 

 まずは、洞窟から汲んで来た硝酸を土器で煮込み、そこへ海まで走ってゲットしてきた塩を少々ブレンドする。さらに、あのおっかない女神りゅーさんの泉から死ぬ思いで汲んできた硫酸に、同じく塩を混ぜる。

 

 そこで発生した有毒なガスを、神腕の職人カセキが精魂込めてクラフトしたガラス製の『水ポタポタマシーン(冷却器)』でキャッチして冷やす。

 

 この一連のケミカルクッキングを経ることで、我々は『塩酸』をゲットした。塩酸。無色、もしくはスーパー薄い黄色味を帯びた、塩化水素の水溶液だ。揮発性物質であるため、『水ポタポタマシーン』で加熱すれば塩化水素ガスが発生し、この現象を利用して高純度の塩酸をゲット出来たというわけだ。

 

 なお、この塩酸という液体、崩壊前の世界では『劇物』に指定されていたヤバい代物だったりする。

 

 ちなみに、崩壊前の世界でまだわたしが普通の(?)女子高生として学校の授業に出ていた時のこと。理科の実験中、わたしはその塩酸をあろうことか『目薬』だと思い込み、目に直接命中させてしまったことがある。

 

「本当に劇物なの〜? ちょっと試してみよっと」という軽いノリだった。結果は、ちょっとピリッとしただけだった。マインクラフターの肉体は、失明なぞせぬ。デバフすらつかなかった。

 

 …もし普通の村人(人間)だったら、確実に目が溶けて大惨事になっていただろう。絶対に真似してはいけない。

 

 次なる工程。硫酸の泉で採って来た温泉土産の湯の花、硫酸ナトリウム。当該土産を、先ほど煮込んで作ったばかりの塩酸に『ドン!』、とどのつまり豪快にブチ込む。

 

 すると、刺激臭と共に化学反応が起き、『クロロ硫酸』をゲッツ。訂正、ゲッツでなくゲットした。

 

 これも実は、前世の授業の時に試したことがある。「皮膚に掛けたら肉が溶けてゾンビみたいになるぞ」と理科の先生が脅してきたので、好奇心から自分の腕にバシャッと掛けて試してみたのだが…ならなかった。ちょっと熱かっただけだ。

 

 あの先生、わたしに嘘をついたな…許せない!! 彼がもし石化から復活したら、問答無用で牛乳バケツの刑に処してやる!! 

 

 さらに、別のラインでは『水酸化ナトリウム』もゲットした。塩水を電気分解するという、これまた地道な作業の果てに生み出された白い結晶。これは有機物をドロドロに溶かす性質があり、死体を処理、とどのつまり跡形もなく溶かして消し去ることが出来る劇薬だ。

 

 千空の言葉を借りると、ウルトラヤベー薬。映画の中でヤクザが死体処理に使ってるらしい。ストーンワールドでそんな物騒な使い道はないと信じたいが。

 

 一方で、『アンモニア』の採取は拍子抜けするほど簡単だった。カセキ製特大ガラス瓶に、千空とクロムが自分たちの排泄物(おしっこ)を溜めただけで手に入ったのだ。男って便利だな。その作業中、あまりの臭いとデリカシーの無さに、コハクがものすごい顔芸をしてガチギレするところも見れた。あれは一見の価値ありだ。

 

 排泄物の描写で虹色のモザイクがかかるとか…アニメの演出だけかと思っていたが、この世界では現実の視覚効果として実装されているらしい。不思議だ。

 

 そして、酒。これも順調だ。千空の話では、本来なら明日の御前試合で優勝すれば、村から祝いの酒が飲みきれない程振る舞われるらしい。カセキがそう言っていた。

 

 が、わたしアレックスは待てなかった。待つくらいなら自分で作る! インベントリの素材と記憶を総動員し…ついに『醸造台』で酒をクラフトすることに成功したのだ! 

 

 それは苦労の連続であった。そもそも、マイクラの醸造台で現実の『酒』をクラフトすることなど、前代未聞の試みだ。ポーションのレシピは熟知しているが、アルコール発酵となると勝手が違う。

 

 転生前の知識と、3700年前の記憶を頼りに、水、砂糖、小麦、そして発酵のトリガーとなる素材を様々な組み合わせで試しては失敗する…泥臭いトライアンドエラーの日々。

 

 だが、遂に最適な配合と発酵時間のキッカケを得て、醸造台での酒のクラフトに成功したのだ。

 

 完成した蒸留酒は、アルコール度数が高く、ガツンとくる美味さだった。この原理を応用すれば、ブドウからワインも作れるかもしれない。ついでに炭酸水もゲット出来た。

 

 イケる、イケるぞ。醸造台での酒作り開拓は、不滅である。

 

 そうである。アルコールができれば、酢のクラフトも出来たのだった。そこから連鎖的に、無水酢酸のクラフトも成功した。炭酸で重曹を作り、無水酢酸を合成する作業は千空らと一緒に行った。

 

 アニリンの精製も、千空達と共に行った。コールタールを塩酸で洗い、酒と酢で作った酢酸エチルをぶっかけるとアニリンに変化する。この辺りの化学式はもう呪文にしか聞こえないが、言われた通りに作業するのは得意だ。

 

 とどのつまり…サルファ剤作りは、超絶順調なのである! 

 

 完成は近い…。それはつまり…ルリを救い、この村を手に入れる「科学王国補完計画」の完遂が近いということ。

 

 フッ、明日の御前試合が楽しみである! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。御前試合の朝。

 

 出場選手が、予定より二人増えた。千空と、このわたしだ。

 

 未婚であること。

 14歳以上であること。

 

 御前試合の出場条件は、この二つだけだと聞いていたが…それにしてもだ。

 

 優勝者が村長となり、巫女の夫となる神聖な御前試合に、どこの馬の骨ともわからない『よそ者』を出場させる? 村人たちからすれば、大ざわざわ案件である。いくらなんでも、規定がガバガバ過ぎやしないか? 

 

 しかも優勝すれば自動的に、巫女ルリの夫になるシステムらしいが…そもそも、わたしは女だが?? 同性婚が認められているのか、この村は。進んでるな。

 

 我々を勝手に申し込んだのは、門番の弟。おいこら銀狼、余計なことを。彼は千空の戦闘力の無さを分かっているのだろうか。スライムより弱いぞあいつ。

 

 だが千空本人は『相手を疲れさせれば儲けモンだ』と、自信たっぷりに不敵な笑みを浮かべている。まあ、彼がそう言うなら…心配いらないか。悪巧みに関しては天才だからな。

 

 あっ、申し遅れました。どうも皆さんごきげんよう、わたしはマインクラフターのアレックス。そして今日のわたしは、頭にジャック・オー・ランタンを被った『カボチャの戦士』でもあります。視界は狭いが防御力は高いぞ。

 

 今日がいよいよ、御前試合が行われる日。現在、わたしと千空は、村へと続く一本の吊り橋を堂々と渡っているところだ。

 

 視界には、既に活気に満ちている御前試合の広場と、集まった村人たちの姿が映る。入り口で門番をしている金狼と銀狼の姿も見える。

 

 

「村に初めて降り立つ一歩目だ。クククッ!」

 

 

 広場に足を踏み入れた直後、千空が満面の笑みで、さも感慨深げに告げた。

 

 村に初めて降り立つ、ね。千空は知らない。わたしが透明化ポーションを使って、既に何度も村に不法侵入して降り立っている事など…言わないでおこう。

 

 

「あの者達か。御前試合に出るという、よそ者は」

 

 

 厳格そうな顔つきの大柄な男──村長コクヨウが、我々を睨みつける。

 

 

「はい。千空という者と、アレックスという者です」

「!?」

 

 

 村長の隣に控えるジャスパーが答え、ターコイズがわたしのカボチャ頭を見て目を丸くしている。やはりよそ者、それも一人は変な被り物をしているだけあって、注目の的だな。わたしと千空は。

 

 しかし…先程から、広場が妙に騒がしい。視線が我々ではなく、村長家の方へ向けられている。

 

 

「いやひょっとすると、もっと悠久の──遥かの昔から」

 

 

 凛とした、しかしどこか儚げな声。わたしの予想は正解していたようだ。皆の視線を追って、声の主を見る。

 

 

「テメーが巫女のルリか。グッフフ、ようやくご対面だなァ」

「どうしても、聞かねばならない事があるのです」

 

 

 高床式の住居から、ゆっくりと階段を降りて来た彼女がそうか。美しい金髪、白い肌。コハクの姉だとは…何故あの時、すぐに気づかなかったのか、わたしは。戦士であるコハクとは雰囲気が全く異なるが、よく見れば顔の造作はそっくりだ。おしとやかで、芯の強そうな性格をしている。

 

 ルリは千空とわたしの前に立つと、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。

 

 

「千空、アレックス。あなた方の名字は何ですか?」

「みょう?」

「じ?」

 

 

 村人たちがざわめく。そのルリが、突如として変なことを聞いてきた。み、みょうじ? 名字だよな? 

 

 

「み、名字とはですね。名前の上に付くもう一つの…」

 

 

 ルリが村人たちに向けて説明しようとするのを、千空が遮る。

 

 

「嗚呼、知ってる知ってる。オレらに向かってご丁寧に解説しなくともイイぜ」

 

 

 千空も、いつもの余裕の笑みを浮かべつつ、内心では驚いているのが分かった。わたしと同じ考えなら、彼の思考はこうだろう。『この村に名字の文化は無いのに、なぜこの巫女はそれを知っている?』と。

 

 この巫女…いったい何者? わたしと同じ、現代からの転生者かな? いや、それにしては…。

 

 

「もしかして…あっ、ゴホゴホッ!!」

 

 

 ルリが何かを言いかけた瞬間、激しく咳き込んだ。

 

 

「ルリ!?」

「ルリ様!」

「巫女様!」

 

 

 ルリがその場に倒れ込む。村長コクヨウと、ジャスパー、ターコイズの二人が慌てて彼女に駆け寄る。わたしも反射的に駆け寄ろうとした。インベントリから牛乳を取り出し、飲ませてリラックスさせてあげよう。

 

 

「よそ者! 巫女様に近づくんじゃないよ!」

 

 

 ターコイズがルリを庇うようにして立ちはだかり、鋭い声で威嚇してきた。

 

 誰がよそ者だゴラ。わたしは村の救世主だぞ。失礼な村人だホント。牛乳で治してやろうという親切心を無下にしおって。

 

 

「歩かせるからだ。直ぐに運べ」

「大丈夫かい?」

「は、はい」

 

 

 担架のように布に乗せられ、運ばれていくルリ。階段を上り、再び村長家の中へと入っていく。一先ずは安静に休ませるのだろう。顔色は最悪だ。やはり、急いでサルファ剤を完成させなければ。

 

 

「こっちも色々聞きてェことが山程あるんだ。御前試合が片付いたら、じっくり聞き込みタイムとイこうじゃねえか」

 

 

 千空が、ルリの消えた扉を見据えて呟く。

 

 

「ムハハハ!! こりゃあイイザマだぜ!」

 

 

 空気を読まない下品な笑い声が響いた。見れば、筋肉だるまで金髪の男──打倒目標であるマグマが、倒れたルリを見て下劣な笑いを浮かべていた。

 

 巫女ルリの謎、か。千空の言う通り、わたしも聞きたいことは山ほどある。

 

 あっ、その前に。あのマグマとかいう男は、試合でボコボコにして後で説教部屋行きです。ムカついたからね。仕方ないね。カボチャの戦士の恐ろしさを、その身に刻んでやろう。

 

 

「八百長出来る組み合わせ! フフゥ!」

 

 

 千空が悪党そのものの顔で笑う。

 

 

「ああ、正々堂々クソくらえだ。知恵と工夫で戦う科学王国らしく、謀略だらけの御前試合とイこうじゃねえか」

「ハ! 初戦でマグマを倒せれば一番話は簡単。決勝でわたしかアレックス、そのどちらかが勝てば仕切り直しなのだからな」

 

 

 コハクも乗り気だ。確かに、ルール上はそうなる。優勝者がルリと結婚して村長になる。わたしやコハクが優勝すれば、少なくともマグマに村を乗っ取られる最悪の事態は防げる。

 

 ただ、一つ疑問がある。女同士での結婚は出来ないからな。…いや出来るかも? このストーンワールドにおいて、百合の、同性愛の結婚は制度として認められているのだろうか? 

 

 もし認められていたとして、子どもはどうするのだろうか? マイクラの村人のように、お互いにパンを渡し合えばポンッとハートマークが出てデキるのかな。それならそれで平和でいいが。

 

 

「トーナメント表を書き始めたぞ!」

「金狼とマグマは絶対あたらない金狼とマグマは絶対あたらない金狼とマグマは絶対あたらない…」

「早口言葉みたいになっとるぞ? スイカ」

 

 

 カセキが突っ込む横で、スイカが呪文のように祈っている。広場の中央では、トーナメント表を書く係の子どもの村人が、木炭か何かで布に書き込んでいる。

 

 対戦相手が誰なのか、文字ではなく顔の絵で分かるシステム…って、あの絵、似顔絵上手過ぎるだろ。達人かな。あの子、実は身長詐欺だろ。中身は大人、間違いない。わたしのインベントリにあるエメラルド64個全部賭けてもイイ。

 

 

「御前試合1回戦、第一試合は──銀狼 対 マグマ!」

「「「ぬ〜ん…」」」

 

 

 審判のターコイズの声が響いた瞬間、わたし達科学王国チームは一斉に項垂れた。スイカが必死に祈っていた内容も、わたしがエメラルドを賭けようとしていた予想も、見事に外れてしまった。

 

 しゃあない。運がなかった。それだけである。とはいえ、銀狼ならば勝てる…とは思えない。いや、ワンチャンあるか? 

 

 さて…っと。試合開始前に、やっておくことがある。わたしは視線を巡らせ、お目当ての人物を見つけた。

 

 …おい、腰巾着。

 

 

「あ、アイィ…ひっ」

 

 

 マグマの腰巾着であるマントルが、わたしの視線に気づいてカエルのように縮み上がった。わたしはカボチャの被り物の奥から、極めて冷めた目を向ける。

 

 忘れてないからな? 先日、勝手に我が家に入りやがって。勝手に醸造台で作ったブドウ酒飲みやがって。飯もだ。夜、優雅にステーキを食べる予定だったんだぞ? 『フッ…デリシャス』って一人で悦に入るのを楽しみにしていたのに。

 何で全部食べてんだよ。大食い選手かよスゴイな。褒めてないぞ。

 

 

「も、もうしませんヨ。だから、そのカボチャで見つめるのはやめてくだせぇ…」

 

 

 ならイイ。もし次やったら…フッ、分かっているな? マグマダイブの刑だ。

 

 

「ヒィィィ!? お助けェェェ!!」

 

 

 マントルが情けない悲鳴を上げる。

 

 

「ま、マントル。オメー何を怯えてやがる……」

 

 マグマが訝しげに近寄ってくる。まぁ待てよ。わたしの対戦相手は君なんだ、マグマ。ほら? とりあえず、牛乳でも飲んで落ちついて落ちついて。

 

 

「ゴポッ! ボボボボッ!?」

「あ…嗚呼…嗚呼…」

 

 

 わたしは有無を言わさず、マントルの口にインベントリから取り出した牛乳バケツをねじ込んだ。ほらほら、遠慮すんなって。

 ニッコリ顔のわたしは無理矢理にでも口をこじ開け、どんどん飲ました。状態異常を治してあげているのだから感謝してほしい。

 

 

「…」

 

 

 千空がドン引きしている。

 

 

「あ、あの女はオレ様のモノにはしねーと決めたぜ…ゲホゲホ」

 

 

 マグマが青ざめて後ずさる。

 

 

「こればかりは同情してしまう」

 

 

 クロムが憐れみの目を向ける。

 

 

「マグマが咳?」

 

 コハクが不思議そうにしている。あら? 嬉しさのあまり気絶しちゃったかな、マントル君。わたしは空になったバケツをインベントリに仕舞った。

 

 

「それでは第一試合…始め!」

「貴様の薄汚れた我欲とは…違うのだァァァ!!」

「!?」

 

 

 ターコイズの合図と共に、金狼がマグマに向かって猛烈な勢いで突進した。銀狼の代打として出場した金狼。その気迫は本物だ。わたしは固唾を飲んで試合を観戦する。

 

 

「ハアアアア!!」

「金狼、貴様いつからこんなァァ…!」

「オォ! 思ったよか100億倍イケてんじゃねえか」

 

 

 千空が感心したように声を上げる。マグマが金狼の槍のラッシュに押され、距離を確保した。金狼は、目を細めてマグマの動きを追っている。

 

 

「金狼の目はきっとボヤボヤ病なんだよ!」

「あ?」

「スイカがそうだったから分かるんだよ!」

 

 

 スイカの言葉に、わたしも合点がいった。そうか、金狼はスイカと同じ近視なのだ。だから普段から目を細め、しかめっ面をしているのか。

 

 

「ハッ!」

「ヌハハハハ! なんだその突きは? 浅すぎるぞ」

 

 

 事実、金狼の攻撃は当たらない。彼の突きは、威力が足りないわけではなく、そもそも届いていないのだ。距離感が掴めていない証拠である。

 

 

「ムハハハハ!」

「がはっ!」

「金狼ォォォォ!?」

 

 

 おっと? 視界のブレを突かれ、金狼がマグマの重い一撃をモロに食らって吹き飛ばされた。金狼が起きようともがくが、ダメージが深く体が動かないようだ。おっとと? これはピンチかな。

 

 …おや? 

 

 

「あっ、スイカ!?」

「何だ、どこから入った?」

「スイカが遂にお役に立つ時が来たんだよ!」

 

 

 試合会場の端で、スイカが村長コクヨウとルリの前でクルクルと踊っている。いつの間にそこへ…流石はスイカ。隠密の達人だ。あの小ささとすばしっこさ、後で透明化のポーションをプレゼントして、本格的なスパイに育て上げよう。

 

 

「助走の階段、お借りするんだよォォ!」

 

 

 スイカが自分の被っているスイカの仮面の中にすっぽりと体を入れ込み、階段をボールのように転がり落ちていく。自分の体全部入れるとは…改めてスゴイ柔軟性だと思う。

 

 

「ヌハハハ! まだ粘るか金狼。ますます気に入った」

 

 

 俺様の手下になれと言い放ったマグマは、背後の異変に気づいていない。階段を転がり降りきったスイカが、中から飛び出す勢いを利用して、自分の仮面を空高く投げたのを。

 

 

「科学の目だよ! 金狼ー!」

 

 

 スイカが己の仮面を投げた意図を、金狼は瞬時に理解したのだろう。金狼は『とう!』とジャンプし、手を使うことなく、空中で見事にその仮面を被った。さながらそれは、まるで新しい顔を装着したアンパ◯マンのようだった。元気百倍である。

 

 しかし、ふむ。冷静に見ると、不審者かな?? 真面目な顔立ちの金狼が、スイカの皮を被って真剣に槍を構えている…ギャグ度が高すぎる。

 

 

「この視界…ボヤボヤが無い!?」

「フンッ! フンッ! フンッ!」

「なるほど。これが科学か」

 

 

 不審者と称される金狼。だが彼、マグマの猛攻を全て紙一重で避けている。

 

 

「ぬあああ!」

「ふ!」

「な!?」

「感謝するぞ…科学に!」

 

 

 マグマの攻撃が、今の金狼にはスローモーションさながらに見えるのだろう。予期しているが如く、冷静に、かつ的確に避けてみせた。

 

 

「うおおおお!」

「うわァァァァ!!」

「ハアッ!」

 

 ドゴォッ! 

 

 

 マグマ、顔に槍の柄をモロに受ける。試合中に油断して、金狼に「オレの足を舐めろ」などと変な要求をして隙を作ったからだ。

 

 

「教えてやるマグマ。科学で目さえ克服すれば、オレはとうに…お前の力を越えていたのだ!」

 

 

 ちょ、超カッコイイ。訂正しよう。彼は不審者ではない。彼は…科学の目を得た戦士、スイカマンだ! 

 

 

「勝者…マグマ!」

「金狼ォ! 金狼〜!」

 

 

 スイカマンが勝つ…はずだったのだが、結果は非情なものだった。油断大敵、というやつか。いや、これに関して金狼に非は無い。

 

 何が「動けない」だ。

 何が「声が出ない」だ。

 何が「潔く負けを認める」だ。

 

 マグマめ、爽やかな改心の顔をして見せやがって。油断して背中を向けた金狼に対し、背後から卑劣な一撃を加え、仮面を破壊した挙げ句に倒すとは。ホントマグマは、あの時イケメンでわたし惚r…何を言っているんだわたしは!? また謎の魅了状態にかかるところだった。いかんいかん。

 

 

「すまん」

 

 

 担ぎ出された金狼が、悔しそうに千空に謝る。とりあえず、わたしは治癒のスプラッシュポーションを彼に投げつけた。パリンッ! と瞬時に怪我は治り、金狼は元気な姿へ戻った。

 

 

「フッ、まあしゃあェ。これはチーム戦だからな。誰かがマグマ倒しゃ勝ちなんだよ」

 

 

 千空はダメージゼロといった様子で切り替える。

 

 

「第二試合…アレックス 対 マントル! 双方、前へ!」

 

 

 呼ばれた。ので、さっきから気絶しているわたしの対戦相手、腰巾着のマントルを叩き起こす。おい起きろ…起きないとまた牛乳飲ませんぞ? アアン? 

 

 

「アイ! 起きました! アレックスの姉貴!」

「ナニ鞍替えしてんだゴラー!!」

「すいやせん! 元兄貴!」

「元!? 元だとt…ゴホゴホッ」

 

 

 …姉貴と呼ばれた。何故だろう。さっきの牛乳責めで恐怖の対象としてインプットされたか。一先ずはだ…マントル。試合だ、行くぞ。真面目に勝負しよう、な? 

 

 

「あ、あああアイ!」

 

 

 うんうん。元気ある声で大変よろしい。わたしが闘技場の中央に進み出ると、観客席の村人たちがざわめき始めた。

 

 

「女が被ってるあれ…かぼちゃ? だよな」

「ああ。あの女の佇まい、あの雰囲気、そして、かぼちゃ…こう呼ぶしかねェ!」

「ああ! あれは桃太郎に登場する…」

「「かぼちゃの戦士…!!」」

 

 

 して、かぼちゃの戦士か。わたしが頭にかぼちゃを被ってる理由は特段、特別なものは無い。被りたかった、それだけである。防御力もそこそこあるし。

 

 

「「あの女、もしかして追放者か!?」」

 

 

 違うわ観戦者。で、桃太郎ね…この村に当該物語は無いですよね?? なんであるのですか?? どうなってるんだ? 白夜たちの百物語の影響か? あと、一つ言わせて欲しい…そもそもオリジナルの桃太郎に、かぼちゃ戦士なんて登場しないわ! 

 

 

「第二試合…始め!」

「か、覚悟してくだせいィィィ!!」

 

 

 ターコイズの声と共に、腰巾着が奇声を上げながら突っ込んで来た。初めて実戦で使うからな、コレ。そいや。わたしは軽く身をかわし、インベントリから取り出した木の棒で、彼の足元を払った。

 

 

「がはっ! ま、参りましたです! アイ!」

「勝者…アレックス!」

 

 

 マントル、大げさに倒れる。…え? 弱っ。石神村の住人は基礎体力が高いから、もっと手強い筈だろ? 

 

 というかコイツ…さっきの金狼と比べ、ダメージは遥かに小さい。ほとんど当たってないぞ。…真面目に勝負、はどこに行った? 

 

 

「ナニやってんだテメー!!」

「そうだそうだ! かぼちゃの戦士の活躍ぶりを見たかったのに…わざと負けやがって…!!」

 

 

 観客から大ブーイングが起こる。

 

 

「ひ、ヒィィィ! 助けてください兄貴ィィィ!!」

「オレ様はいったい、どんな反応すりゃイイんだよ…」

 

 

 マグマが頭を抱えている。さらば、マントル。君のことは…フッ、3秒で忘れておくよ。

 

 その後、試合は異様なスピードで進行した。

 

 第三試合、千空 対 コハク。

 たまたまコハクが体調不良だった結果、勝者は千空。

 第四試合、銀狼 対 アルゴ。

 銀狼がたまたまポーションを飲んでいた結果、超人的な動きを見せて勝者は銀狼。

 第五試合、クロム 対 アイアン。

 どうやらクロムもたまたまポーションを飲んでいた結果、勝者はクロム。

 

 ドーピングなんてしていない。ただ、竹の水筒から、疲労回復に効くスポーツドリンク的な水分補給をしていただけだ。とどのつまり、ルール違反はしてないのである。マインクラフターのアイテムは規約外だからな。

 

 あっ、第六試合は両名とも謎の腹痛のため失格となった。

 

 

「これより準決勝を行う。マグマ、アレックス! 双方、前へ!」

「ヌハハハハ! 子分が世話なったからな…たっぷり礼をしねえとなァ?」

 

 

 マグマが闘志を剥き出しにして、わたしを睨みつける。

 

 さて、行きますかね。カボチャの戦士の真の力、見せてやろう。




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