クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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女忍者と軍服のアレックス

 黒曜石の門をくぐり、このストーンワールドの土を踏んだ瞬間から、我々創造主たちの本能は疼き始めていた。

 目の前に広がるのは、原始的な素材で組まれた、味のある、しかし構造的にはあまりにも脆く、非効率的な建築物の群れ。

 石神村。その風景を目にした瞬間、後続の創造主たちの目の色が、「サバイバルモード」から「クリエイティブモード(建築勢)」の色へと変わったのを、わたしは肌で感じ取った。

 

 あっ、どうも皆さんごきげんよう。わたしは、軍服のアレックス。通称「軍事部」。現在わたしは、小高い丘の上に陣取り、優雅にワイングラスを傾けながら、眼下で繰り広げられる光景を見学している。

 もう一人のわたし──「統括」であるアレックス01が、同志である創造主たちを指揮し、驚異的な速度で村のリフォームを行っている様をだ。

 

 赤ワインが実に美味でございますね。戦勝祝いの前祝いだ。もう一度、心の中でかんぱーい! う〜ん、デリシャス。五臓六腑に染み渡る。

 

 

「わ、わ、儂の…儂の育った村が…! 儂らが何世代もかけて守ってきた家々が…!!」

 

 

 眼下では、小柄な老人──カセキという名の職人が、頭を抱えて絶叫していた。彼の目の前で、古びた藁葺きの家が「シュンッ」という音と共に消滅し、更地になったかと思えば、次の瞬間には製材された木材が「ポンポンポンッ!」とリズミカルな音を立てて積み上がっていくのだから無理もない。

 

 

「壊されていく! …のではなく、一瞬で生まれ変わっておる!? なんじゃこの技術はぁぁぁ!?」

「か、科学少年サマの村が…秒速で改修されていくってのか! クククッ、笑いが止まらねぇなこりゃ!」

 

 

 千空が腹を抱えて笑っている。彼の合理的な脳みそは、センチメンタリズムよりも効率の良さを歓迎しているようだ。

 

 

「マインクラフターが沢山…グッフフフ! これだけの労働力、唆るなんてもんじゃねぇぞ!」

「旧き長は嘆き悲しみ、新たな長はゲス顔だネェ? カオスすぎて頭痛くなってきたよぉ〜」

 

 あさぎりゲンが、ひきつった笑みを浮かべている。彼らの混乱をよそに、わたしはグラスを揺らしながら、少しだけ感傷に浸る。わたしも、下で指揮を執っているもうひとりのわたし(アレックス01)と、根源は同じ存在だ。

 

 前世の記憶。あの日、タンスの角に小指をぶつけ、あまりの痛みに悶絶していた最中に、棚の上から落下して来た伝統工芸品《有田焼》の壺。それが脳天にクリティカルヒットした瞬間の、鈍い衝撃と暗転。

 

 それが、わたしの死因だ。正直転生してこの身体になるまで、そして01と出会うまで、多次元宇宙論(マルチバース)なんぞ鼻で笑っていた。「もう一人の自分」なんて、SF映画の中だけの話だと思っていた。

 まさか、マルチバースは実在し、同じ死に方をして、同じ能力を持って転生した「アレックス01」が存在するなんて。初めて彼女と念話が繋がった時のわたしの反応は、まさに宇宙猫状態だったと言えるだろう。

 

 まあ、回想はあとにしよう。今は目の前のスペクタクルを楽しむ時だ。

 

 流石はマインクラフターたちだ。彼らは一言も言葉を交わしていないのに、意思の疎通が完璧にとれている。わたしと同じ気持ちだったのだろう──『不完全ですね。非効率ですね。湧き潰しも甘いですね。改修せねばなりませんね』っと。いわゆる「整地厨」や「建築勢」の血が騒いでしまったのだ。

 

 いや、誤解しないで欲しいのだが、彼らも石神村の村人が長い年月をかけて維持してきた建築物には、一定の敬意を表明しているのだ。

 既存の建造物の風合い、歴史の重み、そういったものは成るべくあるがまま愛でたいという「保護派」の気持ちも、確かに存在する。

 

 それはそれとして、「これは違う」と本能が告げるのだ。豆腐建築でもいいから、もっと機能的で安全で、快適な住環境を提供したい。その衝動が抑えきれず、気がづいた時にはツルハシと斧を握りしめ、作業に取り掛かっていた…という訳で。

 

 とどのつまり何が言いたいのかと言うと…これはもう、習性だから仕方ないよねってやつなのよ! ごめんーね? 

 

 

「アレックスちゃんもゲス顔だったネェ。やっぱり同じ顔してるわ」

 

 

 ゲンが遠くからこちらを見て呟いた気がしたが、聞こえないふりをしておく。

 

 広場では、地面の凹凸が一瞬で均され、美しい平地が出現していた。そしていよいよとばかりに、本格的な建築が開始される。

 

 

「えっ、もう!? 基礎が出来てる!?」

「しかも! 柱が! 壁が!?」

「あっという間に立ち並んでいるぞ?! 妖術か!? これは妖術なのか!?」

 

 

 村人たちが腰を抜かす中、建材は次々と設置されていく。統一感のないバラバラな素材ではなく、『オークの木材』と『丸石』を使用した、温かみのあるデザインで統一されている。木造建築の陳列だ。

 デザインも統一され、どれもこれも無駄な遊びが無い実用的な作り。

 

 しかし、ただの豆腐ではない。屋根には階段ブロックを使って勾配をつけ、窓にはガラス板をはめ込み、各家には石レンガで作られた暖炉まで完備されている。そして、足腰の弱った年配の村人を考慮してか、全てバリアフリーを意識した1階建てのみ。

 

 本来、マインクラフターという存在(今やわたしも創造主だけど)は、村人に対してそこまで優しくないのが相場だ。

 

 自分の利益のためなら、平気で狭い個室に閉じ込めて実験するし。

 取引内容が気に入らなければ、平気でマグマの海に突き落とすし。

 アイアンゴーレムトラップを作るために強制連行して、ゾンビの恐怖に晒し続けるブラック労働を強いることだってある。

 

 しかし、この世界の村人は、プログラムされたNPCではない。心を持った人間だ。

 だからこそ、その非道な「効率厨」の側面は鳴りを潜め、今回は良心的な「保護者」としての側面が強く出ているようだ。何よりである。

 

 ぶっちゃけるとわたしも軍事部として、試作銃の的に彼らを動員したことはありました。でも安心して欲しい、ちゃんと防具を着せて、死なせてはいないわよ。ギリギリ生きてるわ。

 

 

「家に続き、橋もあっという間に!?」

 

 

 居住区の改築が一段落すると、今度は村と本土を繋ぐ吊り橋の改修が始まった。ボロボロで隙間だらけだった吊り橋が、解体されていく。代わりに、インベントリから取り出された大量の石材が空中に固定される。

 

 石レンガブロックと、滑らかに加工された石レンガの階段で、堅牢な橋脚を製作し。その上に、松の木材で厚みのある床板を敷き詰め。転落防止のために、オークのフェンスで頑丈な防護柵を設置し。最後に、ランタンやグロウストーンで橋全体を美しく装飾した。

 

 ものの数十分。カップラーメンが出来上がるのを待つ間に、村一つが丸ごとリニューアルされてしまった。創造主たちは満足げに頷き、石神村の広場に再集結する。

 

 いやはや、イイ出来前だ。匠の技に乾杯。

 

 

「な、なんと…!? こんな立派に…!? 雨風も凌げる、隙間風もない家が…!」

「感謝致します、アレックス様! 創造主様!」

 

 

 年配の村人たちとルリが、涙を流して地面に跪く。その視線の先には、この大改修の指揮を執っていたもうひとりのわたし(アレックス01)が立っていた。

 

 

「「「ハハァー!!」」」

 

 

 村人たちが一斉に頭を垂れる。見れば、いつの間にスキンを変更したのか、もうひとりのわたし(アレックス01)の姿が変わっていた。

 

 いつものTシャツ姿ではない。純白の布を優雅に纏い、金色の装飾品を身につけた、ローマ帝国の貴族か、あるいは神話を思わせる伝統的な白いチュニックとサンダル姿となっていた。

 その姿は、まさに降臨した『創造主』そのものだ。事実そうだが、演出が細かいな。形から入るタイプか。

 

 

「創造主、最高かよ。文明レベルが一気に中世まで飛びやがった」

「ゲス顔やめなさい千空ちゃん?? ありがたいけど、怖いのよそのスピード感が」

 

 

 日が傾き始め、空が茜色に染まっていく。そろそろ夜だ。マインクラフターにとって、夜は活動時間であり、同時に警戒すべき時間でもある。

 この世界にはゾンビやスケルトンといった敵性モブは湧かないらしいが、それでも暗闇を放置するのは生理的に気持ちが悪い。

 湧き潰ししよう。地面や屋根の上に松明を等間隔で配置し、明るさレベルを確保する。これはもう、習性よ習性。

 

 わたしは手元のワインボトルを傾け、二杯目をなみなみと注いだ。

 

 その時、広場の中心にいるアレックス01が、ふとこちらを見上げた気がした。視線が合う。同じ顔、同じ思考を持つ者同士の、無言の通信。

 

 

【軍事部のわたし、ちょっと頼みたいことがある】

 

 

 脳内に直接、彼女の声が響く。おっ、どうやら見学は終わりのようだ。わたしの出番、すなわち「軍事部」としての仕事の時間のようだね。

 

 ふむふむ…なるほど。捕虜の尋問、及び懐柔か。

 お安い御用だ。飴と鞭、あるいは圧倒的な武力と甘美な誘惑。その辺の駆け引きは、わたしの得意分野だ。

 

 わたしはワインを一気に飲み干し、グラスをインベントリに収納した。マントを翻し、優雅に立ち上がる。

 

 さあ、仕事にかかるとしようか。お楽しみはこれからだ。

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 朗報である…! 我らが科学王国に、ついに動力の時代が到来した! 

 とどのつまり、あの日々歯を食いしばりながらハンドルを回し続けた、金狼・銀狼による人力発電の時代は終わりを告げたのだ。

 

 あっ、どうも皆さんごきげんよう。先程ぶりでございますね。わたしは、軍服のアレックス。通称「軍事部」。

 

 いやはや、素晴らしいの一言に尽きる。カセキとクロムの二人だけで、川のせせらぎを利用する巨大な水車を見事にクラフトしてみせたのだから。

 

『クククッ、基礎知識ゼロの原始人がよくここまで構造を理解して形にできたな。テメーら、マジで凄ぇぜ』と、あの合理主義の塊である千空が、珍しく手放しで褒め称えていたほどだ。

 その水車の回転運動を、緻密に計算されたギアと組み合わせることで、完全自動の『水力発電機』が爆誕した。

 

 この光景には、わたしと共にこの世界に降り立った一般創造主たちも大いに刺激を受けていた。

 

 

「ウォウォ! (オレたちもあんなのクラフトしてぇ!)」と意気込んでいたが、マインクラフトの基本仕様である「ブロックは固定され、現実のような滑らかな回転運動はしない(※MODを除く)」という物理法則の壁にぶち当たり、「ウォォォン…(グルグル回るギミック作れないよォ…)」と嘆いていた。

 

 不憫な奴らだ。vs司帝国との全面戦争が無事に終わったら、レッドストーン回路やピストンを駆使する『技術開発部』の連中を招待して、彼らに回転ギミックの真髄を教えてもらおう。

 

 さて、村が文明の進歩に沸き立つ中、わたしは己の任務を遂行すべく、薄暗い地下へと足を踏み入れていた。

 

 

「女忍者、強がらずに正直に話すことだ」

「…何度も言ってる。お前たちに話すことなんて、何もない」

 

 わたしは現在、村の片隅に設えられた地下牢の一室にいる。石レンガで囲まれた冷たい牢の中に居るのは、厳重に拘束されている紅葉ホムラと、鉄格子の外からニヤニヤ顔で尋問しているこのわたしだ。

 

 

「おっと、このふわふわな物体は何だろう? 真っ白で雪みたいに柔らかくて、それに…たまらなくイイ匂いだな? ペロリ…う〜ん、これはこれは美味! 砂糖の甘さが舌の上で溶けて、骨の髄までトロケそう〜♡」

「くっ、見せつけるな、近づけるな──!」

 

 

 司帝国に属する氷月直属の部下、女忍者ホムラには明確な罪状がある。

 あの日、氷月の襲撃と共に石神村の家々に火を放った罪、すなわち『放火罪』だ。本来なら極刑モノだが、そのホムラがこうして生け捕りにされ、拘束されているのは、ひとえに千空が作り出した『綿飴(わたあめ)』のおかげである。

 

 

『あいつら、甘いモンに飢えてるはずだ。監視の合間に綿飴食わせてる隙を突いて、一気に拘束しよう作戦』

 

 

 千空が考案したこのふざけた、しかし極めて合理的な作戦が、まさかこうもあっさりと劇的に成功するとは、予想外だった。あんなに警戒心の強い忍者が、甘い匂いに釣られてフラフラと罠にかかるなんて。

 

 

「──この、悪魔! アメリカ軍!」

 

 

 ん? アメリカ軍? わたしはアメリカ軍じゃないんですけど? 

 確かに、わたしの着ているこの軍服は、前世の記憶を頼りに米軍の士官服をベースにデザインしたものだけどさァ。なんでそんなに憎々しげに睨むんだよ…ハッ!? 

 

 これはもしや、わたしの仕立てた軍服のクオリティを褒めてくれているのでは!? 本物のアメリカ軍人にしか見えないほど、完璧なコスプレだと! 

 

 嬉しい! …フッ、これが本場のツンデレというやつか。悪くない。

 

 事実、そう見られても仕方がない。このわたし、こう見えて軍事部のトップなのだからな。別名『軍隊ごっこ大好き同好会』の会長ともいう。

 

 

「フフフッ、日本人の女は我々よりも甘党だと聞くが? そう睨むな。わたしはただ、君と甘味を分かち合う友達になりたいだけなのだよ?」

 

 

 わたしは余裕の笑みを崩さず、さらに綿飴を一口かじる。

 

 

「話すことなんて、ない! わたしは情報を売るような真似はしない!」

 

 

 ホムラは頑なだ。いつからかは定かではないが、彼女はずっと単独で石神村の動向を監視していたようだ。

 彼女を捕らえたことで、石神村の監視役がいなくなったら司帝国はどう動くか、だって? 

 

 そこはご安心なされ。手は打ってある。千空の指示により、『ゲンを使った偽の情報を流しつつ、監視役をもう一人炙り出して、あわよくば科学王国民に引き抜かないか作戦』が、現在進行形で行われている。

 

 少々骨が折れる、綱渡りのような作戦だけどな。

 

 

「私は決して、氷月様を裏切らない! あの人のためなら、命だって惜しくない!」

 

 

 ホムラの目に、狂信的とも言える強い光が宿る。…ホォ、言ったネェ? 強情なのは嫌いじゃない。だが、果たしてその忠誠心、いつまで耐えられるかな? 

 

 

「それは残念だ…おっと、コレハナンダァ?」

 

 

 わたしはインベントリから「それ」を取り出した。

 

 

「!?」

 

 

 ホムラが息を呑む音が聞こえた。

 

 

「そう…完璧なデコレーションが施された、イチゴのショートケーキだ」

 

 

 先ほどまでの綿飴など比較にならない、圧倒的な破壊力を持つ神の甘味。女子は甘いお菓子に弱い。それは前世の日本でも、この石の世界でも変わらない絶対の真理だ。

『あっ、ダイエットしなきゃ!』と固く決意していても、目の前に出されればどうしても食してしまう。それが、女子という生き物なのだ。

 

 司帝国では肉や魚は食べられても、このような繊細な甘味を食べる機会など絶対に叶わない。それを今、これ見よがしに一切れ食べてみせる。

 もちろん、野蛮に地面置きで食べるような真似はしない。ホムラの目の前で、インベントリから木材を取り出し、瞬時に立派なオークの机と椅子をクラフトする。

 優雅に椅子に座り、瞬時にケーキを白い陶器の皿に乗せ、銀のフォークで一口切り分け、そして食べる。

 

 

「んん〜っ! 美味! 生クリームも、甘酸っぱいイチゴも、贅沢に使われている! スポンジのフワフワ感がたまらないなァ!」

 

 

 わたしは至福の表情で食レポを展開する。

 

 

「ど、どれだけ誘惑しても無駄!」

 

 

 ホムラの声が震えている。

 

 

「ふむ、そうか。だが言っておくが、これは我々創造主にしかクラフト出来ない代物だぞ? 千空の科学でも、ここまで完璧な形にするには、相当な手間がかかる」

「わ、わたしは! け、決ッシテェェ!」

 

 

 どうした? 口では拒絶しながら、口元からタラーリと涎が出ているぞ。ケーキの断面から、ギラギラとした欲望の目線を隠せてないぞ? 食いたいのか…そうかそうか! 

 

 

「そういえば、このケーキ、材料が貴重でね。次いつクラフト出来るか分からないんだ。なんていったて、『綿飴より遥かに手間がかかる超高級品!』だからナ。この一切れが、この世界で最後のケーキになるかもしれないなァ」

「!?!?」

 

 

 ホムラの瞳孔が開く。

 

 

「まっ、科学王国の国民になれば話は別だがな。科学の力とわたしのクラフトがあれば、庶民でも手が届く。旧世界では超高級品だったお菓子が、今では毎日食べ放題、だ」

 

 

 わたしはゆっくりと立ち上がり、鉄格子越しにホムラの元へ顔を近づける。そして、悪魔のように優しく囁いた。

 

 ──今、わたし達の仲間になれば、この甘〜い洋菓子が一生食べ放題だぞと。

 

 彼女の目に映っているのは、もはや敬愛する主・氷月の姿ではなく、純白の生クリームと真っ赤なイチゴが乗ったケーキだけだった。

 

 

「ァァァァ!!」

 

 

 ホムラが獣のような叫び声を上げた。よし、落ちたな。そう確信し、わたしは「ほら、お食べ」と女忍者の拘束を解こう…としたが、その必要はなかった。

 

 

 バツンっ!! 

 

 

 既に拘束用の縄は、彼女自身の力で引きちぎられ、解かれていた。どうやら、食欲が限界を突破し、自力で縄を解いた模様…流石は女忍者なのね! 

 次の瞬間、ホムラは目にも止まらぬ速さで鉄格子を怪力で曲げて、わたしの前に突進してきた。

 

 

「ぐわっ!?」

 

 

 わたしは凄まじい勢いでノックバックされ、背後の石壁に激突した。

 

 

 ドゴォッ! 

 

 

 ハートが5つも減った。だが、彼女はわたしに追撃を加えることはなく、元気いっぱいに机の前に移動すると、

 

 

「ひぐっ、おいしい…! あまくて、フワフワで…おいしいよ〜! く、悔しい…ッ、でも止まらない…!」

 

 

 ボロボロと大粒の涙を溢しながら、フォークを握りしめ、猛烈な勢いでケーキを口に運び始めた。泣きながらケーキを頬張る、餌付けされてる女忍者、もといチョロいメスガキ…。

 いったい誰が泣かしたっていうの?! あっ、わたしか。

 

 

「あ、嗚呼…も、申し訳ありません、氷月様。でも、これだけは…!」

 

 

 ホムラは涙と生クリームで顔をぐしゃぐしゃにしながら、氷月に心の中で謝罪している。

 

 まっ、何はともあれだ。完全に胃袋を掌握した。

 

 

「フッ、素晴らしい食べっぷりだ。それでは、改めて素晴らしい提案をしよう──お前も、今日から科学王国民にならないか?」

 

 

 完全に堕ちたな。ホムラ。わたしはインベントリを開く。新たなホールケーキに加え、《くらふたーのせかい》で試行錯誤してようやくクラフトレシピを完成させた、バターと蜂蜜たっぷりの『フレンチトースト』や、色鮮やかな『マカロン』など。

 

 それらをこれでもかと机の上に並べて、わたしは微笑んでそう言った。




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