「なんだこれ、なんかあったのか?」
「スリートップ揃い踏みじゃねえか!? 羽京! 氷月! 司!」
「でも誰だあいつ? …って背広姿!? このストーンワールドで!?」
ニッコリと微笑むマインクラフター。
自分がこんな状況に陥った理由は単純明快──弓を手にした黄色の村人に捕まったからだ。
いやはや、なんというエイム力であろうか。感嘆してしまう。まさか村人にここまで正確に射抜かれるとは、思ってもみなかった。わたしじゃなけれな見逃しちゃうね、である。
そもそも、村人が弓を持つなんて聞いたことがなかった。彼らは普段、ハァンハァン鳴らして交易しているだけの存在ではなかったのか?
しかし、この村人は違ったらしい。迷いなく弦を引き、こちらの動きを正確に捉えていた。まるで熟練のスナイパーのようであった。村人ながらあっぱれ、称賛に値する。
「君は…千空の仲間、なのかな? マインクラフターなのかな?」
「なぁなぁ、あいつって…アメリカ人…だよな?」
「そうだな…科学王国って背広姿が普通なの、か…?」
黄色の村人だけではない。この世界にいる全ての村人が、何故か武器を扱えるようなのだ。弓や剣を巧みに操り、まるで戦士のように立ち回る。
村人といえば交易をするだけの存在だと思っていた。外敵が来ても、彼らはただ逃げるしか出来ない存在。この世界、《くらふたーのせかい》とは大違いである。
更に驚くべきことに、彼らは自分たちで村を建築する力まであると、同志アレックスが言っていた。資材を集め、計画的に建物を配置し、まるで我々創造主のように村を発展させていく。
そんな話はこれまで聞いたことがなかったし、そのようなことはこれまで見たことすらなかった。
確かあの村の名前は石神村だったかと、創造主は思い出した。ネームドの村が存在するというのも、自分達にとっては初耳だった。通常、村は無名のまま存在し、村人達は生活を送るものだ。
だが、石神村の村人は違った。組織的に動き、統率が取れている。まるでひとつの国家のような村──その存在は、創造主の常識を大きく覆すものであった。《くらふたーのせかい》に国家は無いけど。
あっ、村は改修しました…とてもイイと思う、出来前でした。
「答えてくれると…うん、嬉しいな」
「でもよ、科学王国って俺達とあんま変わらない衣類着てるんだろ?」
「う〜ん…わかんねぇ!」
創造主は頭を抱えたい思いでいっぱいだった。いやまぁ、ハァンハァンと鳴いているのは世界共通のようだから、その点は安心した。
だが、それ以外の要素がどうにも納得できない。まず、村人のスキンが統一されていない。村人といえば、つるんとした頭に特徴的な長い鼻、茶色いローブを着たシンプルな姿のはずだ。
目の前にいる村人たちはどうだろうか。肌の色や服装はバラバラで、まるで種族そのものが違うかのようだった。
いやそもそも本当に村人なのか、の疑問は尽きてやまない。知識にある村人像とはあまりにも異なりすぎている。中には、胸元が牛のように膨らんでいる者までいるとキタ。そんな村人がいた覚えはない。
むしろ、これは別の生き物なのではないか…? いや、しかし、彼らは確かにハァンハァンと鳴いている。
「もしかしてさぁ…アメリカ政府の人間、だったりして!」
「あいつがアメリカ合衆国の? …ハッ! まっさか〜、それだったらもう復興してることになるんだぞ〜?」
……ハァンハァンしか鳴いてないんだから、村人なんだろうけど。
そう考える他ない状況に、創造主は困惑を隠せなかった。
「…言葉が通じないのかな? …羽京」
「容貌から察するに日本人ではないようだから、公用語の英語で話しかけてみたんだけど…『ウォ! ウォ!』しか言わなくてね…」
「……初めて聞く言語だね」
創造主は腕を組み、目の前の村人を見つめた。先ほどからどうも自分は、長髪の村人に問われるばかり。かくいう自分も、まるで魅了されているかのように夢中で見つめてしまう。何故だろう。
その村人は、じっとこちらを見つめていた。睨まれている…というわけではなさそうだ。なんだろうかと創造主は考えた…もしかすると、自己紹介を求めているのではなかろうか?
「手話はどうだったかな?」
「試してみたんだけど、ダメだったよ……あっ、バカにされた気がしたから射抜きたかったのは内緒だよ?」
「………そうか」
「羽京クンって、そんな顔デキたんですねェ」
しかし、どう名乗ればよいのか。マインクラフターと名乗るのは少し気が引ける。そもそも、村人に創造主という概念が通じるのかも怪しい。仮に通じたとして、もしも鼻で笑われたら…牛乳を飲まさねばなるまい。
それなら、もっと普通の名乗り方をすべきか? しかし、何が『普通』なのかすら分からない。何せ目の前の村人が本当に村人なのかどうかすら、確信が持てていないのだから。
創造主は小さく息を吐いた。悩むなぁ。自己紹介ひとつでここまで考え込むことになるとは、思ってもみなかった。
…あっ、そうだ…あれがあったんだ!
創造主はポケットに手を突っ込み、いそいそと手帳を取り出した。 表紙には、大きくこう書かれている。
『〜ハァンハァン語翻訳手帳〜』
創造主は思わず涙を流してしまった。これはありがたい。同志アレックスから渡された時、正直なところ意味が分からなかった自分は、それを捨てることすら考えていた。しかし、焼かずに収納してたのは正解だったらしい。まさか本当にこの手帳の役立つ日が来ようとは!
創造主はページをめくった。書かれているのは、ハァンハァン語の基本単語やフレーズの一覧だ。彼女による手書きのメモまで添えられている。
『発音には個体差があるため、練習を重ねること』
一応練習はしてきたし、大丈夫だろう。自分の発音が正しいかどうかは分からないが、やるしかない。やらねばなるまいて。涙を拭った創造主は覚悟を決め、深呼吸をした。何気に呼吸、初めてしたかも。
『音を使って話す』が村人との会話で普通らしいので、念話は無しとする。そうして創造主は目の前の長髪の村人に向かって、ゆっくりと言葉を発した。
「ハッ! 科学を嫌う愚かなり村人どもめが。司帝国はクソくらえ! 所詮は…フッ、すまないナァ」
創造主は満足気に微笑んだ。完璧なイントネーションで、堂々とした発声である。雰囲気的にも、これもう100億パーセント正解ではなかろうか。友好ルート待ったなし。長髪の村人も、きっと感銘を受けているに違いない。いやァ、自分が誇らしい。
「うん、なるほどね」
「ホォ?」
「翻訳ミスかな?」
……だが、何かがおかしい。視線を上げれば、目の前の長髪の村人がこちらを鋭く睨んでいた。他の村人達も、ざわざわと小声で囁き合っている。
不思議とこの場の空気が張り詰めている、ように感じた。あれおかしいな? このフレーズ、手帳には『最も友好的な挨拶!』 って書いてあったはず。なのにどうして、こんな空気になっているのだろう?
いや、待てよ? もしかして、っと創造主は急いで手帳を見直した。
『司帝国は…フッ、科学王国に敗北する運命だと定められているのだよ?』
「俺は、科学文明そのものを否定しているわけじゃない。実際、ここでも炎を灯し、道具を使って生活しているしね。便利さを享受すること自体は悪くない。だが、歯止めが必要なんだ。 かつての世界を思い出してほしい。既得権益者たちがすべてを牛耳り、科学の名の下に武器を作り続けた旧世界が、どれほど汚れ切っていたか…」
なるほど、こっちのフレーズのほうが良かったのかもしれない。村人語、マジで分からん。創造主はただただ混乱しながら、再び長髪の村人と向き合った。
「君たちは、それを再び蘇らせようとしている。この、美しく浄化された世界を。何者かの意思によってリセットされたこの新世界を、再び汚そうとしている。それは──うん、どう考えても、いただけないね」
ハァンハァンと鳴らし終えた瞬間、混乱中の創造主は強引に地面へ押さえつけられた。その衝撃で地味にハートが削られる。何が起きたのか理解する間もなく、気づけば手足を押さえつけられ、身動きが取れなくなっていた。
周囲を見回すと、司帝国の村人たちが無言で取り囲んでいる。彼らの目は冷たく、容赦のない意志を感じさせた。あれ友好ルートはどこに??
「彼を牢に」
「はい!」
彼らは問答無用とばかりに縄を取り出し、創造主の手を縛り上げ始めた。
そして…牢に収容された。
■□■□■□
「嗚呼…なんて、なんて悲しいことなの…!!」
アレックスの声が震えた。遠い場所にいる創造主が『友好ルート無くなった…ナーゼナーゼ??』の報せを受けた瞬間、胸が締めつけられるような思いに襲われた。永い時を共に歩んできた同志が、司帝国に捕まってしまったから…。
この現実を受け入れるしかないという事実が、あまりにも残酷だった。
「こんなこと、あっていいはずがない…!!」
震える手で、ポケットから一冊の手帳を取り出す。それは、当該創造主に託したものと同じ『〜ハァンハァン語翻訳手帳〜』だった。司帝国と意思疎通を図るための唯一の手段。これがあれば敵対せずとも話し合いで解決出来る…はずだった、それなのに…
「まさか、これを渡してもダメだなんて…!!」
司帝国は、言葉を聞き入れなかったのだ。創造主がどれほど誠意を尽くしても、彼らの心を動かすことは出来なかった。『〜ハァンハァン語翻訳手帳〜』を握りしめる…司帝国は、科学を選択しなかった。
和平への願いもこの手帳も、何の意味もなさなかった。
「やっぱり、戦争は避けられないのね…」
アレックスは悔しさに唇を噛んだ。何度も、何度も考えた。どうにかして争いを回避する方法はないかと。だが、その答えはとうに決まっていたのかもしれない。
「嗚呼、涙が止まらないわ…!!」
静かに、涙が頬を伝う。握りしめた手帳がわずかに震えた。悔しさと悲しさ、そして──決意。
もう迷う時間はない…動く時が来たのだ。
「その時が!」
「今まさに!」
「「やって来た!」」
なんて悲しいことであろうか、戦争が避けれないなんて。
「クククッ、科学王国…全軍出撃だ!!」
「
ならば…戦うあるのみ。
「待ってて、今…助けに行くから」
コハクを除く女性は村に留まり、科学王国からバトルチームと
一方、女性や子ども、年配の村人は村に残り、一般創造主が村の防衛にあたる。
vs司帝国本土決戦が今、始まる…!
「いやァ、楽しみだなァ」
なお、アレックスは全然悲しくなんてなかった模様。えっ、さっきの『嗚呼…なんて、なんて悲しいことなの…!!』からは何だったのかって? あっ、それはただ彼女が演技してただけである。
そしてこの一連の出来事は、千空とアレックスsが計画した…マッチポンプなのであった。
アレックスったらもう•••悪い娘なんだから!