クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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深淵(闇の女神)を覗くとき、深淵(闇の女神)もまたこちらを覗いているのだ。


PROLOGUE OF Dr.STONE
勝利、そして──


 霊長類最強──獅子王 司には科学を否定し、科学王国と戦った理由があったようだ。

 

 聞くに司には、何よりも大切な存在がいたそうだ。名前は獅子王 未来。

 彼は自ら『溺愛している』と公言した。シスコンか? あっ、シスコンだって…いや別に悪いことではないのだけれども。

 それでイイ。彼にとって未来はただの妹ではなく、唯一の家族であり、何よりも守るべき宝なのだから。これからもどうぞ、溺愛してください。

 

 …だが、その未来は齢6歳の時、不慮の事故に遭ってしまう。医師から告げられた言葉は、あまりにも残酷だった。

 

 

『この先、未来ちゃんの意識が回復する可能性は…ありません』

 

 

『もう二度と、目を覚ますことはないかもしれない』…その言葉に司は、自身の胸が鋭くえぐられたと自覚したそうだ。

 

 彼女はまだ六歳だった。眠るように静かに横たわるその姿は、まるで深い眠りに就いているだけの──お姫様のように見えた。

 しかし、どれだけ呼びかけても、どれだけ願っても、未来が応えることは無かった。おいたわしや兄上。

 

 司は絶望した…けれどそれでも、諦めることは出来なかった。

 

 未来がまだ元気だった頃、彼女はおとぎ話が大好きだったようで、特に人魚姫の物語が大のお気に入り。人魚姫の物語読んで読んでよと、よく司にせがんでいたそうだ。

『お兄ちゃん! 未来ね、人魚姫みたいになりたいんだ!』っと、あの時の未来の笑顔が今でも忘れられないそう。

 

 だからこそ、当時の司は考えた。せめて彼女が好きだったものを形にしてやりたい、っと。未来のために海辺で貝殻を拾い、それをつなげて首飾りを作ってやろう…っと。

 

 小さな手で一生懸命に貝殻を集めていたその時、突然、見知らぬ男が彼の前に立ちはだかった。

 

 男は漁業権を盾に、司を泥棒呼ばわりした。司は何も悪いことをしていない。ただ妹のために貝殻を集めていただけなのに、だ。

 男は司を突き飛ばすと、一方的に暴力を振るい始めた。幼い子どもに対して、大の大人が容赦なく拳を振り下ろしたのだ。その男、わたしは絶許である。

 

 司は痛かったが、痛みより…何よりも悔しかったのだ。

 

 大人は力を持っている。それを振るうことが正義であるかのように、強き者は弱き者を踏みにじる。司が必死に拾い集めた貝殻は砕け散り、白い砂浜に無惨な破片を晒していたそうだ。

 

 この世界は弱者にとってあまりにも残酷なのだと、儚い笑みを浮かべた。

 

 力なき者は、何も守れない。

 

 あの日の出来事が、彼の心に深い傷を残した。司が『大人』を忌み嫌い、この世界の仕組みに反発するようになった理由は、まさにこの瞬間に刻み込まれたのだ。

 

 わたしは誓った…その男、もし石化から復活したら倍返ししてやると。初めに牛乳飲ませるだけなんて…なんて善良なマインクラフターなのだろうか。自分が誇らしい。

 

 それでも、司は立ち止まることは無かった。進み続けた。

 

 未来の命を繋ぐためには、莫大な費用が必要だったからだ。生命維持装置の維持費は、普通の家庭が払えるような額では無かったらしい。母親は若くして他界し、妻より一回り年上の父は酒に溺れるばかりの日々。

 

 頼れる者など誰もいなかった司は、ならば自分が稼ぐしかないと決意した。

 自分こそが、未来の命を繋ぎ止める唯一の存在だから…。

 

 そうして司は、戦いの道を選んだ。

 

 格闘技の世界へと足を踏み入れた彼は、戦い、戦い、戦い続けた。血と汗にまみれ、時には敗北を味わうこともあった。

 

 しかし、それでも彼は立ち上がった。戦わければ、妹のために戦わければ…っと。

 

 そして、高校生に上がった頃——彼は『霊長類最強の高校生』と称されるまでに成長した。わたしが知る、ふつくしい体を獲得したのだ。子どもの頃の写真も撮りたいこの頃です。

 

 司は勝ち続けた。勝利こそが唯一の道であるから。敗北は許されない。負けることは、すなわち未来の命を諦めることと同義だった。

 

 賞金を手にする度に、必ず医師のもとへ足を運んだ。『どうか未来を、お願いします…!!』っと、彼は何度も頭を下げた。何度でも、何度でもだ。

 

 どんな手を使ってでも未来の命を繋ぎ止める——その一心で、彼は戦い続けた。戦い続けることが、唯一の救いだったから。

 

 霊長類最強の男、獅子王 司の戦いはこれから続くことだろう。

 未来が目を覚ます、その日まで──。

 

 あっ、遅ばせながら…皆さんごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス。

 えっ、気づいていたって? …そっかァ…。

 

 気を取り直してだ…今日この日、大変めでたい事が起きた。

 

 

『にい、さん…?』

『あ、嗚呼…ッ、そんな、ありえない…でも、でも今…目を開けて…う、うぅ…ッ』

『イシシシ! 兄さん、よう老けてもたね。でもシュッとしてるわ。私、何年寝とったんかな?』

『6年…いや、3700年間だよ…未来…!!』

 

 

 獅子王 司の妹、獅子王 未来が目覚めたのだ。流石は復活液。石化から復活させるだけでなく、未来の全身の中身すらも快復させるとは…これが科学か! 

 

 さて…皆様方は「vs司帝国」の行方について、気になられていることだろう。

 

 結論から言おう──勝ちました。やったね。

 

 やはりアメリカ軍、アメリカ軍が全てを解決する! …終戦後、遂に正体を明かした。軍事部であることも、創造主であることも。

 彼らはビックリしていた。建築物を築いたことに対する驚きか? それとも…マインクラフターという存在そのものの驚きなのか? たぶん異常ではない筈。

 リリアンが故人となったことも明かした…彼らは泣いていたよ。レコードを聞かせることで、残りの司帝国民は科学王国民となった。文明復興させるという目標に、心を動かせられたのだ。

 

 無血開城で終わって何よりであるが…ぶっちゃけドンパチする可能性だってあった。たまたま銃に戦車、そしてマインクラフターがいたからイイものを…いなかったら『科学王国が敗北』も十分にあり得た。

 

 救出作戦も奇跡の洞窟制圧作戦も、誰一人の血も流さず済んだのは幸いだった。

 わたしとしても、ドンパチしとうないし…銃と戦車あっても壊滅してしまう可能性は大いにあり得た。

 その「IF世界」がどうも頭から離れない。司もそうだが氷月という男もまた、ヤベーさがビシビシと伝わってきた。ちなみに二人は奇跡の洞窟にいました。

 

 かの二人なら弾丸を避けるのは勿論、戦車すら持ち上げられるかもしれない。実際、とある創造主がうっかり放ってしまった弾丸を避けたし。その男共やっぱり人間ヤメてるな間違いない。

 

 つまるところ、科学王国と同王国に寝返った司帝国民、そしてマインクラフターがいたからこそ勝利した戦いだった。

 

 

『終わったのだな…全てが』

『クククッ、なに言ってやがる…逆だぜ? ようやく始まんだろうが』

 

 

 司帝国との戦いは終結したが、まだ我々の戦いは終わっていない。

 

 3700年前のある日、人類は突如として石化した。もしも何者かの攻撃だったのなら…償わせてやる。黒幕許さん慈悲は無い。そして人類は再び、この地球に科学文明を築くのだ。

 

 科学王国は石化の謎を解き明かすべく、石化の発生源たる南米を目指す。遂に進む──人類の未来を懸けたロードマップを。ここからが本番、いよいよ石化現象の謎に手をブチ込もう。

 

 

「「フフフ…唆るぜ、これは…!!」」

 

 

 さぁ、ストーンワールド大航海時代のスタートと行こうじゃないか。

 

 では諸君──クラフトの時間の時間だ。

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 天界 転生の間

 

 

 転生の間は、白黒の市松模様が敷き詰められた虚無の空間。まるでアイスボックスクッキーを思わせるようなその床は、秩序と無秩序の狭間に存在しているかのようだ。

 周囲は果てしない暗闇に包まれ、どこまで続いているのかすらわからない。

 

 ここは、アレックスを初めとする数多もの死者が転生を迎える場所。空間の中央には椅子が置かれ、闇の女神がゆったりと背もたれに身を預けている。

 

 彼女の前には一台の古いテレビがあり、その画面にはマインクラフトのクラフト能力を手にした少女──アレックスの姿が映し出されていた。

 自身が観測されていることなど知る由もなく、ストーンワールドで今日もクラフトを謳歌している。

 

 

「これからも楽しませてもらうよ」

 

 

 闇の女神アインドラは微笑を浮かべながら、画面の向こうの少女を見つめる。創造主となったアレックスの運命が、ハッピーエンドへと向かうのか、それともバッドエンドへと堕ちるのか──。

 彼女はただ、それを見届けたかった。オリジナル世界線とは違う、このIF世界線での結末を。

 

 

「ね? アレックス」

 

 

 アインドラの唇がゆるりと歪む。その行く末を見届けることが、彼女にとって最高な娯楽だった。

 転生の間に響く笑い声が、虚無の闇に溶けていった。




次回、第三期に突入します。
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