クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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千空研究所

 千空が走ったのは、土器を取りに行くためだった。それに硝酸を溜め、大樹を復活させるらしい。

 

 硝酸で満たされた土器を手に、大樹の石像の元へ向かう。洞窟で硝酸が溜まるのを待つ時間は、もどかしかった。一滴また一滴と滴るごとに、焦りが募る。

 

「待ってろデカブツ!」

 

 満タンになった瞬間、千空は土器をひったくった。彼の苛立ちは、わたし以上だろう。丸一日待ったのだから仕方ない。一直線に大樹のもとへ駆けると、千空は硝酸をぶっかけた。

 

 これでデカブツ君こと大樹は復活する! 

 

『うおおおおー!! 破ったぞォー!!』

 

 …かに思われた。

 

「あ"? う〜ん?」

 

 どうだと笑みを浮かべたのも束の間、千空の顔から表情が消えた。次いでに変顔になったが、それは他人から見ないとわからないだろう。

 

 しかし起きない。変化がない。なんの変哲もない石のままで、復活の兆しが見えない。うむ、何故だろう。わたしには全くわからない。

 

 ひとまず我々は拠点へ帰還した。千空研究所、本格始動である。

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

《1日目》

 

 

 研究所は豆腐ハウスをベースとした、木製の建築物だ。土台は丸石ブロックで、屋根は階段ブロックを使用。内部は八畳の広さを確保。実験に使う実験体や土器などは、壁面に位置する5段式の棚に置いてある。入口上部の側面を見ると、『研究室』と書かれた看板が設置されている。

 

 研究所っていっても部屋は一つだけだからね、うん。わたしは研究室にいるが、千空は『硝酸たくさん溜められる土器』を絶賛クラフトしている最中。

 

「これも3700年前、石化したのか」

 

 さて実験体だが、対象は石化しているツバメである。いやしかし、よく出来ている。石化現象とやらが無かったら、作り物の彫刻だと信じてしまう程に。

 

 おっと、そうだった。仕事をしなくては。え〜と、その辺の石で擦って擦って…。

 

 

《2日目》

 

 

 駄目みたいでした。石で擦って擦って、じゃ復活しないようだ。

 

 千空のほうはというと、『硝酸たくさん溜められる土器』ドンドンクラフトしてってる。おや、外から千空の声。わたしは、千空のもとへ駆け寄る。

 

「わたしもクラフトする?」

 

「ああ、一緒にな」

 

 相分かった。わたしは頷く。…土器って、どうやってクラフトするんだ? 先生、ワタシワカリマセン! 

 

 

《3日目》

 

 

 千空、《奇跡の洞窟》に出張中。

 

 土器の作り方がわかれば、後は問題ない。わたし、絶賛クラフト! わたし、土器クラフト好き! マインクラフターアレックス、24時間クラフトする! 

 

 あ、千空が帰ってきた。

 

「ちゃんと寝ろよ?」

 

 フッ、問題ない。わたしはな、2週間寝ていない時もあったんだ。平気、へっちゃらさ。

 

「その時、計算は出来たか? 1+1は?」

 

 わたしを甘く見すぎだ。3に決まってるだろうが。

 

「ダメじぇねぇか」

 

 フッ、冗談さ。

 

「あ??」

 

 …すみませんでした。

 

 

《4日目》

 

 

 予定数に達した。これより、実験に取り掛かる。

 

 

《5日目》

 

 

 千空によるとだ。千空が復活出来たのは、意識を飛ばしていなかったからとのこと。それにより、石の何かとやらで消費。その何かさえ削れれば、千空のように復活する。

 

「これが、アインシュタインのオッサンが導き出した科学の基礎だ!」

 

 怒涛の勢いで話す千空よ、両肩を揺さぶるのはやめてくれ。あっ、頭が揺れる…。

 

 

《6日目》

 

 

 見ろ、ツバメの石像が燃えているぞ! だが、今のところ効果が無い。業火に包まれているというのだぞ? 何故…? 

 

 

《7日目》

 

 

 

 明日ならば、石化から…。

 

 

 

《8日目》

 

 

 火での実験は中止。我らが所長──石神千空のご指示である。ちくせう。ツバメの石像、石で擦りまくってやる! 

 

 

《9日目》

 

 

 千空が嘆いている。悔しい、が正しいか。なんでも、工業用腐食液の定番──ナイタール液が無いからだと。

 

 

《10日目》

 

 

 わたしは千空の指示により、アルコール作れそうな実を採取せんと出掛けている。悩む。アルコール作れそうな実とは、いったい…? 

 

 

《11日目》

 

 

 お〜い、アルコール作れそうな実ー! どこなんだァー! 

 

 

《12日目》

 

 

 どうやら千空、満足する結果が出ていないようだ。無意味に机、人差し指の指先でトントンしてる。

 

 千空、大丈夫。まだ始まったばかり。結果は出るさ。

 

 

《13日目》

 

 

 どうしましょう。未だにアルコール作れそうな実、見つけられていない。

 

 

《15日目》

 

 

 アルコールではないが、人を見つけた。クスノキという大層ご立派な樹木にしがみついている村人。案の定、石化中の人間ではあるが。

 

 …あヤベ、誤って石化している少女を村人認定してしまった。マイクラの村人じゃないというのに。

 

 この石像の少女、千空と同年代だろうか。ん、なんだこれは? ……ヘッドホンか? 

 

 

《20日目》

 

 

 なんの、なんの成果も••••••得られませんでしたァァアー!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 あれから三週間が経過したが、大樹は未だ目覚めない。

 

 結果だが、それはもう出ないは出ない。出るは出るはの逆だな。

 

 そもそも、硝酸が溜まるのが遅いのなんの。1日1瓶。中々、実験が進められない。結果が出ない現状に、千空の溜息は増える一方。今日だけでも、何回出たことか…。

 

 挙げ句の果てに千空。舌打ちするだけに留まらず、壁を殴るとキタ。ちょっとヤメて欲しい。人為的にシないと破壊出来ない、とはいえ。

 

「ッ!!」

 

 あっ、千空。今、親指の腹を噛みちぎった。

 

 …は、え、いや、千空!? どうした!? 何してるんだ、千空…!? この科学少年、本当に何してる…?! 

 

 ま、まさか…状態異常か!? ば、バカな…。い、いったいどうして……? 

 

 こうなれば、牛乳を飲ますしかない。マインクラフターの牛乳は特別だ。安心しろ、千空。これで以って、状態異常を解除させる! 

 

「アレックス」

 

 そう意気込んだものの、ピタリとわたしは静止した。これは、これは状態異常なのか? 親指から流れる血で、何かを書き始めているぞ…? 

 

 わたしは、千空の服を見つめる。なんて書いてあるんだ。何々……E=mc²、か? 

 

 E=mc²って、なんだ? 

 わからないぞ…? 

 

「どんなに石化がファンタジーでもなァ……」

 

 冷静だ。状態異常ではないな。

 

「科学の基礎だけは、絶対に揺らがねェ……!!」

 

 なぁ〜んだ、ビックリした。ホっと安堵の息を漏らしたわたしは、牛乳をインベントリに戻した。

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 千空が遅い。アレックスはツリーハウスの窓から雨に煙る森を見つめ、落ち着かない気持ちでいた。

 

 拠点を出た千空は、《奇跡の洞窟》へ向かった。自然発生する硝酸を。大樹の石像に直接当て続けるためだ。合理的な彼にしては根性論めいたその行動に、一抹の不安を覚える。

 

 千空を送り出したものの、やはり心配だった。降りしきる雨が体温を奪うだろう。そう思った彼女は、雨音に紛れてそっと拠点を出た。今は木の陰から、彼の様子をこっそりと伺っている。

 

 …それにしてもずいぶん長い。硝酸の瓶を置いてくるだけにしては、時間がかかりすぎている。何か別の調査でもしているのだろうか。好奇心に負け、アレックスは木の幹からそっと顔を覗かせた。

 

 目に飛び込んできたのは、雨に打たれながら石像に向かって、何かを叫ぶ千空の姿だった。

 

「──とっとと硝酸くらって目ぇ覚ましやがれ雑頭!」

 

 調査ではないようだ。では一体何をしているのだろう。アレックスは不思議そうに首を傾げる。

 

 

「起きてんだろテメーも! 3700年間ずっと! テメーだけはオレと同じで諦めの悪い奴だ!」

 

 その声は雨音にも負けないほど、強く張り詰めていた。まるで石像の中に眠る魂に、直接語りかけるように。アレックスは息を呑んだ。

 

 

「大樹」

(おや?)

 

 アレックスは少し驚いた。彼が幼馴染をあだ名ではなく名前で呼ぶのを、初めて聞いたからだ。

 

 

「テメーがテメーがいなきゃダメなんだ!」

 

 その叫びは懇願に近かった。科学という鎧を脱ぎ捨てた一人の少年としての剥き出しの心が、そこにあった。これはもしかして…。

 

 

「だからよ──戻ってきやがれ大樹!!」

 

 ああと、アレックスは完全に理解した。これはいわゆる、男同士の友情というやつだ。普段は見せない彼の熱い想いに、胸がじんわりと温かくなる。そうに違いないと!心の底から思った。

 

(いやぁ青春だなぁ)

 

 見ているこちらが少し照れくさくなるほどの光景に、アレックスは頬を緩ませる。

 

 ふと、自分自身のことを考える。友人、友達…。そういえば、わたしにはそんな存在がいなかった。こんな風に心をぶつけ合える相手も、喧嘩する相手もいなかった。

 

 …どうしてだろう。なぜわたしにはいないのだろう。胸の奥がチクリと痛む。さっきまでの温かい気持ちは急速に冷えていき、寂しさが心を覆った。

 

(ナゼ? ドウシテ)

 

 アレックスは俯き雨でぬかるんだ地面を見つめたまま、重い足取りでツリーハウスへと引き返していった。

 

「さぁーて戻るとするか」

 

 一方その頃。千空は独り言を呟き、いつもの不敵な笑みを浮かべていた。心なしか、その表情は晴れやかだった。彼は軽い足取りで、ツリーハウスに戻るのだった。アレックスがその場を去ったことには、気づかずに。




作者、最高司祭アドミニストレータでございます。

原作が完結した今でも、ドクターストーンは愛されております。アニメ四期の制作がされているのも、その証拠です。
わたしはこの原作の二次創作を執筆し、本日投稿させていただきました。これからもお付き合いいただけると、幸いです。

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