クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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Minecraft THE Movie、観て参りました。起承転結がしっかりと出来ていて、どのシーンも観てて飽きません。満足度100億パーセントだったので、また見てみたいなと思うこの頃です。


戦姫は空に歌い、戦士は地に吼える

 空は澄み渡るほど青く、陽光は万物を照らしていた。だがその天に、ひとつだけ異質な影が浮かんでいる。三つの頭部を持つ黒き怪物──ウィザー。

 

 その威容は空に在りながら、まるで地上に絶望をもたらす死神の如く不吉な存在感を放っていた。

 

 ウィザーの身体に纏いし蒼きオーラは、第二段階へと移行した証。既に飛び道具は通用せず、突進攻撃を主とする破壊の化身となっていた。

 

 その怪物に対峙するのは、二人の戦姫。

 

 金髪碧眼の少女──コハク。視力11.0という驚異的な眼力とアンデッド特効のダイヤ剣二刀流を武器に、戦場を翔ける通称メスライオン。

 そして、もうひとり。黒髪の若い女性──戦士キリサメ。優雅な所作と緻密な間合いで、空中の戦を舞踏のように制していた。

 

 彼女たちはエリトラを背に、この天空の戦場へと挑み、ダイヤ剣を頼りにウィザーと渡り合っていた。

 

 

「キリサメ、行くぞ」

 

 

 コハクが鋭く叫ぶ。翼のように展開したエリトラを翻し、一直線に怪物の懐へと飛び込む。

 

 

「ええ、もちろんよ、コハク」

 

 

 キリサメの返答は柔らかく、しかしその眼差しには静かな闘志が灯っていた。

 

 ウィザーが突進の構えを取った。蒼いオーラが一層激しく揺らぎ、三つの頭部すべてが標的を見据える。空気が裂ける。次の瞬間、ウィザーの巨体が一直線に突撃してきた。

 

 

「突っ込んで来るぞ、下がれ!」

 

 

 コハクは刹那の判断で翼を傾け、右へ旋回。空中で身を捻りながら上昇し、辛うじてその鋭い突進を回避する。ウィザーのすぐ脇をすり抜けると、彼女は双剣を交差させるように構え直し、反転攻撃の体勢に入った。

 

 一方、キリサメはそのしなやかな身体を滑るように動かし、死角から舞い込む。鋭く閃くダイヤの刃が、怪物の側面を斬り裂いた。

 

 

「この動き、面白いわ…流石ねアレックス様は。よくもこんな剣を作れるものね」

 

 

 キリサメが微笑を浮かべ、手にした剣を軽く見やる。アンデット特効のエンチャントがなされたその剣はマインクラフターの少女、自分より遥か永い時を生きるアレックスから託されたものだ。

 

 

「ハ! 全く、とんでもないものを渡してきたものだ」

 

 

 コハクは肩越しに応じると、すぐさま再接近の軌道を取った。ふたりは左右に分かれ、空中でウィザーを挟み込むように動く。

 

 キリサメは滑るように、コハクは風を裂くように。正反対の動きが、美しいまでの呼吸を生み出していた。

 

 

「左頭部を潰す。キリサメ、合図したら飛び込め」

「了解。貴女の目、頼りにしてるわ」

「コハクだ。君にとって私はコハクだ」

「あら、そうね。コハクだったわね? ふふっ」

 

 

 戦場の只中でも、キリサメは小さく苦笑した。だが、その瞳からは決してウィザーを逸らさない。彼女が再び空中を滑るように前進した、その刹那──三つの頭部が一斉に口を開いた。

 

 黒い頭蓋──ウィザースカルが空を裂いて飛来する。だが、コハクの眼力が輝く。視力という次元を超えた“視る”という力が、そのわずかな軌道の歪みを捉えた。

 

 

「そこだ!」

 

 

 瞬時に右肩を捻り、コハクは狙い澄ました一撃を放った。ウィザーの中心に向けて斬り込んだ双剣が、蒼く硬質な皮膚を斬り裂く。火花が散り、咆哮が天を震わせた。

 

 

「当たった……! でも、まだ浅いわ」

「構わない、次で仕留める!」

 

 

 だがウィザーも黙ってはいない。旋回しながら再び身構え、黒き巨体が鋭く跳ねる。突進。今度は先ほどよりも明らかに速く、重い。

 

 第二形態特有の加速──それは黒曜石すら破壊する力。今の一撃を食らえば、エリトラごと吹き飛ぶだろう。いや、死ぬかもしれない。

 

 

「キリサメ、上昇だ! ウィザーを抜けて、上から狙う!」

「了解、任せて」

 

 

 二人は左右から翼を翻すように弧を描き、空中で一度交差する。その動きはまるで、ひとつの舞のよう。風を切る音、剣が擦れる音すら音楽のように重なっていった。

 

 ウィザーの突進が外れ、コハクたちはその背後に回り込んだ。

 

 

「コハク、奴の動きが鈍ってきてるわ」

「ああ、今だ。決めるぞ、キリサメ」

 

 

 視線を交差させただけで、二人は理解し合った。次が、勝負の時。

 

 再び、ウィザーが動く。三つの頭部が、それぞれコハクとキリサメを見据え、空間全体に緊張が走る。

 

 しかし、恐れるものは何もなかった。この空を、ふたりは共に翔けた。突風を裂き、死と隣り合う距離で幾度も剣を振るった。

 

 コハクが構えを取り直し、双剣を交差させる。キリサメもまた、刃を閃かせて応じた。空の真ん中でふたりの視線が交わる。

 

 

「いくぞ!」

「ええ、コハク!」

 

 

 ──彼女たちは再び、空を裂いて駆けた。

 

 この瞬間が、決戦の幕開けだった。雲の切れ間から降り注ぐ陽光の中、二人の戦姫はエリトラの翼を翻し、死の使者へと最後の一撃を放つべく突き進んだ。

 

 ウィザーは三つの頭を狂ったように振り、迫り来る刺客を迎え撃つ準備を整えていた。すでに青いオーラは不安定にゆらめき、ウィザースカルの発射頻度も鈍っている。明らかに、命脈を削られつつある証だ。

 

 先に飛び込んだのはコハクだった。彼女の瞳は鋭く、まるで時間が止まったかのように敵の動きの隙間を見極める。そして──視た。左頭部の軌道の一瞬の遅れ、そこに剣を差し込むべき決定的な機会を。

 

 

「今だッ!」

 

 

 鋭く叫ぶと、コハクの右手のダイヤ剣が青いオーラを切り裂き、左頭部を真横から斬り払った。皮膚が裂け、黒煙が噴き出す。

 

 直後、反対側からキリサメが舞い降りた。その動きはまるで疾風。長くしなやかな足をたたんで急降下しつつ、右手の剣を高く掲げ、右頭部の眼窩を狙って刺突を放つ。剣先は正確に、眉間を裂いた。

 

 

「コハク、中央よ!」

「ああ、分かってる!」

 

 

 残る一つ──ウィザーの中央の頭部が怒り狂いながら、鋭く二人を睨みつける。体勢を崩した二つの頭が無力化された今、残された最後の砦こそが奴の本体だった。

 

 だが、コハクとキリサメは恐れなかった。互いの呼吸を合わせ、互いの間合いを信じ、二人は同時に空中で身を翻した。

 

 旋回し、剣を交差するように構えると、まるで鏡合わせのように、二筋の流星が中央の頭部へ向かって収束する。コハクの一刀、キリサメの一撃、それぞれが反対方向から放たれ、剣の軌跡は空中で交差した。

 

 

 ザクリ──

 

 

 鉄を裂く音とともに、ウィザーの中央頭部に二本のダイヤ剣が深々と突き立った。断末魔のような咆哮が空に響きわたり、怪物の身体がぐらりと揺れる。

 

 青いオーラが激しく明滅し、黒い肉体に亀裂が走ったかと思えば──

 

 爆音。

 

 空が光に染まり、あらゆる色が白に呑まれた。一瞬、時間が止まったような錯覚すら覚えるほどの閃光の中、ウィザーの身体が爆散し、青黒い欠片が空中に舞い散っていく。

 

 やがて、風に流されるように、それらは崩れ、雲の隙間へと溶けて消えた。

 

 

 沈黙──。

 

 

 次の瞬間、戦場に祝福のような光球が現れた。

 

 宙に浮かぶいくつもの経験値オーブが、宝石のような光をたたえて、空中を漂っていた。その色合いは深い翠、温かな琥珀、そして淡く揺らめく金。まるで風に踊る火の粉のように、二人の勝利を祝っていた。

 

 それらの中央に、ひとつの星が浮かんでいた。

 

 ネザースター。ウィザーの心臓に等しい存在。それは、かの怪物が存在した証であり、打ち倒した者に与えられる、唯一の報酬であった。

 

 コハクは無言で宙返りしながら高度を落とし、爆散の中心へと舞い降りる。そして、残骸のひとつ──ウィザーの左頭部の残骸に近づき、静かに剣を振るった。

 

 斬撃の風が舞い、頭部が切り落とされる。その黒き面は既に死しており、もはや威を放ってはいない。それでも持ち帰るべき証として、コハクはそれを片腕で抱えた。

 

 

「……やったな、キリサメ」

 

 

 高度を下げながら、キリサメがコハクの隣に並ぶ。風は穏やかに流れ、戦いの後の静けさが空を満たしていた。

 

 

「ええ、コハクのおかげよ」

「ハハ、そうだろう!」

 

 

 二人は笑った。戦いの中にこそ絆が深まるというなら、彼女たちの絆は今、空より高く、風より強い。

 

 やがてコハクは空に浮かぶネザースターを手に取り、エリトラを広げる。ロケット花火が使用され、加速される。勝利の余韻が、彼女たちの背を押した。

 

 眼下には、遥か遠くに見える地平線。そして二人が守った空が静かに、確かに広がっていた。

 

 命を削る戦いの末に二人の戦姫はただ静かに、晴れ渡る空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 黒煙が立ちこめる前線に、黒い骨の軍勢が現れる。空虚な眼窩に赤い光を宿し、デカい石剣を構えて前進するウィザースケルトンの群れ。普通のスケルトンとは比べ物にならない彼らは、敵性モブの中では上位に君臨した。

 

 

「数、ハンパじゃないね〜」

 

 

 モズが眉一つ動かさず呟いた。手にするのは鋭く研がれた長槍。ただの殺戮者ではなく、静かな色気と狂気を滲ませるその男は、不敵に笑う。

 

 アレックスは、鉄剣を握り直した。手の中に伝わる硬質な重みは希望であり、責任でもある。自分がクラフターである限り、仲間の武器はすべて自分の手で整えた。

 

 

「無理に数を減らすな。まずは位置取りを意識しろ。司、氷月。左右から分断しろ! …ふっ、指揮官も出来るなんて、流石はわたし

「うん、わかった」

「ちゃんと戦線を維持しながらいきましょうか。崩れたら、一気に飲まれますからね」

 

 

 前線に立つ二人の猛者が同時に跳躍する。司は漆黒の黒曜石槍を構えたまま、鉄壁の前衛として敵を押し潰す。黒い火花が散り、骨が砕ける音がこだまする。

 

 

「ウィザースケルトンに同情しちゃうってばよ」

 

 

 アレックスは思わずそう呟いた。司の拳が一振りされるたび、ウィザースケルトンの骨格が音を立てて砕け散る。まるで粉砂糖のように。

 

 

「左、薄いよ! …薄い、薄いよな? 多分そうだなきっと間違いない

 

 

 アレックスの叫びに応じたのは、金狼。手にしたエンチャント金槍をしならせて、飛びかかる敵を一突きで穿つ。

 

 

「問題ない!」

 

 

 その隣では銀狼が、やや腰が引けながらも鉄槍を必死に操っていた。

 

 

「ひ、ひぃ…! アレックスちゃん、もう少し遠くから援護してくれた方がよくない!?」

「それは貴方が近すぎだからでは?」

 

 

 そう吐き捨てたのは、氷月。華麗な旋回動作から繰り出された管槍が、まるで舞のような動きで敵の首を刎ねる。そして頭部を粉砕した。

 

 

「ちゃんと観察して、間合いを見ましょう。無駄な動きばかりじゃ死にますよ、銀狼クン?」

「お、脅さないでよぉ…!」

 

 

 笑いながらも、銀狼の槍が次第に的確に敵を貫いていく。恐怖と戦いながらも、彼なりに成長しているのは明らかだった。

 

 その上空、鋭い風切り音が鳴った。

 

 

「次、右側の個体」

 

 

 静かな声と共に、羽京の弓が唸る。矢は風を切り裂き、敵の骨に深く突き刺さると、衝撃波を起こして数体を吹き飛ばした。

 

 

「っ、狙撃支援、助かる!」

 

 

 アレックスは小さく呟いた。あれだけの距離と混戦で、正確に敵を狙う羽京の技量には敬服せざるを得ない。

 

 

「クロスボウに切り替えた方がいいかな…でも、まだいけるか」

 

 

 弓を引く羽京の表情には、いつもの柔和さが浮かんでいた。だがその目の奥には、確かに射抜く意志の光がある。

 

 そして、影のように跳ねる二つの人影。

 

 

「師匠、こっちは片付いたっス!」

「油断しない。まだ奥に三体いる」

「は、はいっス!」

 

 

 師匠の少女ホムラの声に、弟子の少女アオイが頷く。クナイと鉄剣を使い分け、機敏に動く忍びの師弟は、敵陣を切り裂く暗殺者のように動いていた。

 

 

「アレックス、そっちに回るわ。わたしたちは別ルートから背後を突く!」

「了解。こっちも押さえ込んでおく!」

 

 

 再び鉄剣を構え、アレックスは馬にまたがった。サドル付きの鉄鎧を身にまとう駿馬が、ひづめで大地を叩く。

 

 

「突っ込むぞ、付き合え…ジャパンエンペラー万歳ー!! ヒャッdrfふじこちゃん!!?」

 

 

 黒剣が振るわれた。空気を裂くような唸りが周囲を包み、地を滑るように襲い来る黒き骸骨──ウィザースケルトン。その剣筋は、単純でありながら重く速い。僅かな油断も許さない一撃に、金狼の身体が瞬時に反応する。

 

 

「この程度の攻撃で、俺が退くと思うなッ!」

 

 

 金狼が前へ出る。槍先に宿る金の煌きは、ウィザースケルトンを容赦なく穿つ。金槍は既に幾度も血と硝煙に濡れ、戦場の空気を馴染ませている。それでも彼の一突きには、今なお鋭さが宿っていた。

 

 

「金狼クン、背後から来てます。ちゃんと周囲の確認をしましょうね」

 

 

 氷月の冷笑が背後から飛ぶ。指摘と同時に彼の管槍が音もなく空を裂き、飛びかかろうとした別のウィザースケルトンの首を断つ。

 

 

「……フン、礼は言わんぞ」

「感謝の意は言葉ではなく、行動で示していただければ充分ですよ」

 

 

 氷月の声音に揶揄の色が滲むが、そこに悪意はない。ただ、理に適っていない振る舞いに対する当然の嗜め──それだけだ。

 

 一方、銀狼は顔面蒼白のまま鉄槍を握りしめていた。迫る黒い骸骨の群れ。それでも一歩引かずに耐え──

 

 

「わ、わあああっ! うおおおおおおおお!!」

 

 

 振り絞った絶叫と共に、彼は一撃目の突きを繰り出す。狙いは外れていたが、勢いで骨の腕をへし折るには充分だった。

 

 

「僕…やれば出来る男だったんだぁ…!」

「調子に乗るな銀狼!!」

 

 

 背後から、アレックスが叫ぶ。地面を蹴って走り抜けながら、彼女は鉄剣を振り抜いた。黒剣と正面から激突し、弾き返される衝撃が腕に響く。硬い──が、それでも耐えきれる。

 

 

「っ…! そう来るなら──こっちもっ!」

 

 

 再び距離を詰めたアレックスが愛馬に跨がり、一気にウィザースケルトンの群れに突撃する。鉄の脚、鉄の鎧。疾走するその姿は、正面から邪悪なる群れを蹴散らす女騎士のようだった。

 

 

「我こそは聖王国 聖騎士アレックス! いずれ聖騎士団長になる女だ! キリッ!!」

「ゼロワン、じゃなかったアレックスちゃんやるね〜」

 

 

 モズの声が背後から聞こえた。いつの間にか傍らに立っていたその男は、まるで戦場に興味がないかのように気怠げに、多数のウィザースケルトンをほぼ同時に倒す。

 

 

「ま、俺も…負けてらんないっしょ」

 

 

 そう呟く彼の背後から、音もなく迫る影──だが、そこには既に一本の矢が突き刺さっていた。

 

 

「モズ。後ろ、僕が援護に回るよ」

 

 

 羽京の声だ。高所から放たれた矢は見事に敵の頭部を貫き、スケルトンを即座に沈黙させる。その眼差しは穏やかだが、その腕は確実な殺意を帯びていた。

 

 

「羽京、だっけ? 悪いね」

「気にしなくていいよ。仲間を守るのは当然のことだから」

「嬉しいこと言ってくれるねェ」

 

 

 そして次の矢が放たれた。矢筒は空になるが、羽京の手元には既にアレックスから託されたクロスボウがあった。引き金を引く。鋼の音と共に放たれた矢が次の敵を貫く。装填あれど無限に尽きぬその矢に、羽京自身が苦笑いした。

 

 

「…あはは、本当に矢が尽きないの? 流石にこれは、説明が苦しいかな」

「矢に困らないエンチャントしてるからな、無限だ」

「へぇ〜、そうなんだ〜…えっ、無限!!?」

 

 

 前線では、ホムラとアオイが華麗な連携で骸骨を撃破していた。

 

 

「アオイっ、今!」

「了解っス、師匠っ!」

 

 

 身軽な女忍者二人が跳ね、舞い、鉄剣を振るい、そしてクナイを突き立てる。その動きは舞踏のようで、だが致命的だった。

 

 

「へっへー! このクナイ、骨にもガッチリ効くっスね!」

「アレックスのおかげよ。あの子、戦士としても職人としても優秀だわ」

「マインクラフターですから。キリッ!」

「「うわビックリした」」

 

 

 ホムラが微笑んだ刹那、巨大な影が彼女たちの背後に立ち塞がる。……が、それは彼によって粉砕された。

 

 

「うん、間に合ったね」

「「これもビックリした」」

 

 

 圧倒的な質量がスケルトンの胴を吹き飛ばす。司の拳だ。黒曜石の槍を携えながらも、彼は時に槍を捨て、拳で戦場をねじ伏せる。

 

 

「やっぱり俺は、拳が一番かもしれない」

「…やはり司、君は人間やめている」

「?」

「『何を言ってるんだい?』じゃないんだよ!?」

 

 

 アレックスのツッコミが、戦場の喧騒に紛れてかき消えた。

 

 

「頭首様に続けーッ!!」

 

 

 声と共に、石化王国の戦士たちが戦列に加わる。石槍と盾を構え、ウィザースケルトン軍団に突撃するその様は、まさに地を割る奔流のごとし。先陣を切る男が、堂々たる声で吼える。

 

 

「奴らはただの骸にあらず! 闇の業火に染まった亡霊と知れッ!」

「戦士の力、思い知らせてやる!」

「この戦いが終わったら、俺は結婚するんだァァァ!!」

 

 

 戦士たちは一糸乱れず突撃し、槍を突き立て、盾で受け流し、次々に敵を打ち砕いていく。それは、科学王国の戦闘員と変わらぬ勇猛果敢な動きだった。

 

 

「ムハハハハ! 最高じゃねえか!」

 

 

 咆哮とも歓喜ともつかぬ声を上げて、石神村のマグマが吼えた。手にはショットガン、レミントンM870。短く刹那に火を吐く轟音と共に、骨の黒き巨兵を二体まとめて吹き飛ばす。

 

 その直後、陽のMIROKUリボルバーが火を噴いた。両手に握られた二丁拳銃が、寸分の迷いもなく敵の頭部を狙い撃つ。

 

 

「ウェェェイ! 撃てば倒れる! 倒れれば俺の踏み台ッ!」

 

 

 唇の端を吊り上げて不敵に笑う、旧現代人の陽。かつては警官であった彼のその横で、マグマが叫んだ。

 

 

「邪魔すんな陽! このマグマ様が全部ぶっ飛ばすんだからよッ!!」

「は? それこっちのセリフなんだけど?!」

 

 

 互いに譲らぬ視線をぶつけ合いながらも、その手は寸分の狂いもなく、次なる敵を迎え撃つ──。

 

 

「こっち来ないでェェェ!!」

「ビビるな銀狼! 槍の先が鈍ってるぞッ!」

 

 

 隣で叫ぶ金狼の槍が、横合いから迫ったウィザースケルトンの剣を防ぎ、切っ先で反撃を加える。

 

 その死闘の只中で、黒い炎を纏う骸骨が、アレックスの目前へと跳躍した。デカい黒剣が振り下ろされる──! 

 

 

「甘いわ! …なんかケーキ食べたくなってきたぞ」

 

 

 アレックスが鉄剣で受け止めた瞬間、鈍い衝撃が腕を痺れさせる。だが、歯を食いしばり、膝をつかずに持ちこたえた。

 

 

「ウィザスケよ! わたしは退かんぞ! ドカンだけに!」

「…」

「ウィザスケまで絶対零度の眼差し…これもアップデートか」

 

 

 振るった剣が火花を散らす。その隙に、司が黒曜石の槍で横合いから突きを入れ、骸骨を粉砕する。

 

 

「下がって、アレックス。君の負担が大きすぎる。……これは、俺の出番だろう?」

 

 

 司が柔らかく言い放ち、黒曜石の槍を背に回す。素手の拳が唸りを上げて骸骨の頭蓋を砕き、残骸を吹き飛ばす。

 

 

「っは、なんつー人外っぷり…!」

 

 

 アレックスが小さく呟いたその時、羽京の放ったクロスボウの矢が、別方向から迫っていた敵を撃ち抜く。

 

 

「…もう、矢の数も気にせず撃てるからね。まだまだ行くよ」

 

 

 笑みを浮かべた羽京の背後、モズが槍を構えて駆ける。鉄槍にエンチャントが脈動し、骸骨の胸骨を貫通する。

 

 

「気を抜かないで。数が減ったからって油断すると、痛い目を見ることになる」

「わ、わかってるッスよ師匠ーッ!」

 

 

 アオイが叫びながらクナイを飛ばし、ホムラがすかさず跳躍して剣で追撃。連携の妙が火を吹き、敵の連鎖が崩れていく。

 

 

「氷月様、まだまだ出てくるようですッ!」

 

 

 ホムラの声が跳ねるように響いた。黒き炎を纏った骸骨たちは、なお地の底から湧き出すが如く姿を見せていた。剣を翻したホムラは、跳躍とともに斬撃を浴びせかけ、着地と同時に氷月のもとへ駆け寄った。

 

 

「落ち着いてください、ホムラクン。こちらの陣形が崩れなければ、向こうの勢いも削げてきます。……それに、もう少しで終わる気がしてますよ」

 

 

 氷月は、血の気の多い彼女をたしなめながらも、視線を前線へ向けた。その言葉通り、戦場には着実な“変化”が芽生え始めていた。石化王国の戦士たちは槍を振るい、科学王国の面々と交差しながら、互いの陣形を補完し合っている。誰かが退けば誰かが補い、空白が生まれぬよう戦列は整えられていた。

 

 不気味に燃える黒剣が振り下ろされる。銀狼が咄嗟に盾を構え、ぎりぎりでその一撃を受け止めた。

 

 

「こ、腰抜かすとこだったよぉ!!」

「真面目にしろ!」

 

 

 だが、その背後を支えたのは金狼の槍だ。彼は無言で弟をかばい、槍先で反撃を加える。彼らの背後では、羽京のクロスボウが正確無比に矢を放ち、空からの奇襲を防いでいた。

 

 

「いい連携だけど、まだ緩めないようにしないとね」

 

 

 モズが低く呟き、槍を旋回させながら二体目の骸骨を一閃に断つ。その動きは研ぎ澄まされ、余計な力を一切排している。まるで闇の亡者すらも一瞬のうちに沈黙させる、静かなる殺気。

 

 

 そして──

 

 

 突如、空気が変わった。風が、戦場を切り裂く。誰よりも早く、それを感じ取ったのはアレックスだった。

 

 

「来るぞ!」

 

 

 遠方から、舞い上がる砂塵を裂いて二つの影が現れた。剣を両手に掲げた少女と、その後方を疾駆するもう一人。

 

 疾走の勢いのまま、コハクが大地を蹴って飛び上がる。その手には──マインクラフター特製の、アンデッド特効ダイヤ剣。刃の切っ先には、黒く焼け焦げた“ウィザーの頭部”が突き刺さっていた。

 

 

「──ウィザー、討ち取ったぞ!!」

 

 コハクが勝鬨のように叫び、空高く剣を掲げる。陽光を浴びて煌めくその剣先と、串刺しとなった黒頭が空に映え、全戦士の視線を惹きつけた。

 

 

「戻りました。ご報告が遅れ申し訳ありません、頭首様。ウィザー(イバラ)討滅任務、完了いたしました」

 

 

 キリサメはそう述べると、剣を地面に伏せ、その場に膝をついた。伏し目がちに、静かに、深く──頭首に対する忠誠の意を、無言のうちに捧げるかのように。

 

 しかし凛とした声音とは裏腹に、キリサメの瞳には深い悔恨の色が浮かぶ。彼女はその場に跪き、静かに頭を垂れた。

 

 

「……そして、謝罪を申し上げます。私は、宰相イバラの言葉を貴方様のご意思だと信じ、疑うことなく従ってしまいました」

「反逆者とされた島の人々を、私は自らの手で石に変え続けてきたのです…」

 

 

 吐き出す言葉の一つひとつが、胸を焼くように苦しかった。

 

 

「洗脳され果ては石となった頭首様の姿にも、私は…私は気づけなかった…」

 

 

 涙が地に落ちる音さえ聞こえそうな静けさの中で、彼女の声が震える。

 

 

「どうか、お許しを。──そして、もう一度だけ……あなたにお仕えする機会を」

「この命、すべてを捧げ…頭首様に忠義を尽くします」

 

 

 長く、沈黙が流れた。やがて頭首は、ゆっくりと視線を落としながら口を開く。

 

 

「キリサメ、顔を上げなさい」

 

 

 その声音はあまりにも穏やかで、温かかった。

 

 

「長い間、苦しかったろう。…だが、今こうして戻ってきてくれた。それだけで、十分だ」

 

 

 キリサメの瞳が、涙で潤みながら見開かれる。

 

 

「過ちは、誰にでもある。だが、自らの誤りを認め、償おうとする心は──それ以上に尊い。誰のために剣を振るうのか、それを見つけたのなら、もう迷うことはない」

 

 

 優しく微笑みながら、頭首は静かに言った。

 

 

「さぁもう一度、共に歩もう。私の元へ帰ってきなさい、キリサメ」

「っ、はい! この命、再び頭首様の御前に捧げます!」

 

 

 そのキリサメと頭首の一部始終を目撃していたアレックスのムカムカを他所に、誰よりも早く金狼が天に槍を突き上げる。

 

 

「全軍、勝鬨を上げろ!! 我々の勝利だ!!」

 

 

 その叫びを合図に科学王国と石化王国、あらゆる者たちが声を合わせる。今しがたまでの死闘が幻であったかのように、空は透き通って晴れ渡り、地には歓喜の雄叫びがこだました。

 

 vsウィザー&ウィザースケルトン軍団の戦いは、人間とマインクラフターの勝利で幕を閉じた。




アレックス「ま、マインクラフターも戦ってるから。に、人間しかちゃんと戦ってる訳じゃないから」
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