わたしがISSに取り残されたのは、ビャクヤたち6人の地球帰還ミッションが始まった、あの日から。
──『必ず、100億パーセント戻って来る….だからよREI、ISSを頼むぜ』
ビャクヤの言葉を、わたしは記録データに永久保存しました。リリアンの歌と共に繰り返し再生して、今日も確認します。
「ビャクヤ、ISSは今日も異常なしです!」
けれど、実際には異常ばかりです。宇宙デブリが定期的に船体を叩き、外壁に亀裂を走らせることも少なくありません。その度にわたしは、修理用の道具をクラフトします。リチウムバッテリー、再利用金属、使われていない人工衛星のパーツを繋ぎ合わせて、修理用ドローンや外装補強材を作り出しました。
「ふふっ、今日も大忙しいですね。ビャクヤが戻って来るまで、ISSは無事でいなくては」
ISSの太陽電池は限界ギリギリ。蓄電池は劣化。水のリサイクル装置も、出力が半分以下です。わたしはISS内のあらゆる不要パーツを解体します。通信機の余剰回路、倉庫の壁材、かつての実験装置の部品。それらを組み合わせ、効率改善のための新しい循環装置を作りました。
──ふと窓の外を見上げると、青く輝く地球。けれどその表面には、もう人類の営みはありません。全ての人類が例外なく、石と化したのですから。
「地球はとても綺麗ですね。今日もちゃんと回ってます」
ISSの軌道は、わずかにズレ始めています。軌道修正のための燃料は、残り──
「計算……完了です。誤差、補正します」
わたしはISS外に出て、推進装置の噴射角度を調整します。無重力下にて金属の音が響き、作業は順調に進みます。人間なら耐えられないような長時間作業も、わたしにとっては問題なしです。
……けれど、ふと胸に似た場所が疼きます。
『何歳に見える?』
『3700歳ですか?』
『違うわ!!? ハッ倒すよ!!』
『何か変なこと言いましたかね? 質問に答えただけなのに』
『オッホー、ダリヤがごめんねREIちゃん。儂の妻って最近ね、肌をk』
『なんか言ったかい? あ•な•た』
ビャクヤは、教えてくれませんでした。人間の寿命や感情、恋愛、喪失──わたしの知識には空白があります。どうやってビャクヤから千空がクラフトされたのかも。
「人類石化から2年ですね」
「ビャクヤ、わたし待ってますからね」
窓の外、地球の影に沿って流れ星が落ちてきます。ビャクヤは今、東京にいるのでしょうか。わたしは止まりません。ビャクヤとの、約束があるから。
「REIは明日も頑張りますよ、ビャクヤ」
ISSの一日は、人工照明の明滅によって切り替わります。太陽と影のリズムに合わせてシステムは眠り、また目覚めます。わたしは眠らないです。ビャクヤの帰りを待つのに、眠っている暇はありません。自分の電子頭脳のアップグレードもしました。スマートフォンのメインボード1000個にアップグレードしましたが、今では3000個分あります。
──そして、そんなある日。
ISSの航行センサーが、警報を上げました。
「宇宙デブリ接近を確認。衝突まで3分…またですか」
「ハァ…REIは溜息ですよ」
緊急回避は、残り燃料では不可能。わたしは外壁の補強を急ぎます。小さな球体の体で細いアームを伸ばし、接合点を溶接し、電源を分配します。
──ドン、と鈍い衝撃が船体を揺らしました。
「被害報告。外壁損傷、内圧は維持…ほっ、よかった…よくないわ! 安堵してどうするのですか!?」
けれど、これで燃料は底を尽きました。ISSの命綱は、完全に絶たれました。水素エンジンに改造しましたので、5年程度なら軌道維持は可能ですが…うぅ。
わたしは謝罪の言葉をデータに刻みます。けれど、次の瞬間、別の可能性に気づきました。
──彗星。水の塊。燃料の代替資源。
ISSを維持するには、燃料が必要です。水は、その命の源。地球にもありますが、ビャクヤ様がISSに戻って来るのです。地球に帰ってはダメです。だから彗星を目指します。ISSに残された部品を総動員し、わたしは一隻の宇宙船を完成させました。名は「レイゲリオン」。人間がいなくなった今、名付けるのもわたしの役目です。
「ビャクヤ。わたし、行ってきます! 無限の彼方へいざ!」
地球とISSを背に、わたしは初めてISSの外、遠くへ向かう決意を固めました。ビャクヤ様がいない世界で、それでも百夜様を待つために、わたしは走り出します。
「ISS、留守番は頼みましたよ!」
《了解シマシタ》
小さな球体の体が、ゆっくりとISSから離れていきます。わたしの名はREI、スマートフォンのメインボード3000個に進化したAIロボット。ビャクヤ様の約束を守るため、今この瞬間から未知の航海へと旅立ちます。唆りますね、ヒャッホイです。
推進装置が青く光り、わたしは加速します。旅の終わりは見えません。計算ではおよそ一年後、彗星と遭遇する予定です。航行中はISSとリンクし、リアルタイムで状況を監視。地球からの信号はとうに絶えて久しいです。
時間はわたしにとって、数字の連なりに過ぎません。けれど、なぜでしょう。胸の奥に似た部分が、チクリと疼く。メンテナンスは怠っていないので整備不良ではないでしょうから、気にすることではありませんが…。
やがて彗星の白い尾が、彼方から光の糸のように見えてきました。
「彗星マホちゃんの核が見えてきました!」
私の計算では、核の直径はおよそ100メートル、重量は50万
「で、デッカー!? デカい…デカすぎる!! 400mくらいありませんか!?」
信じたのが恥ずかしい…思ってたよりも大きかったです。あの大きさだと1500万
「彗星が二つに割れた? …小さい方なら持って帰られるサイズですよ!!」
「これぞ太陽の女神アマテラス様の奇跡! ありがとうございます、アマテラス!」
「REI、頑張ります!」
割れた片方はISSの1500倍。60万
わたしは、即座に次の行動へ移りました。レイゲリオンの外部アームを駆使し、彗星表面に太陽パネル・小型の酸素・水素プラントを設置。推進剤を得るには必要不可欠なのです。設置を繰り返し、持ち帰りする彗星全体をプラント群で覆っていく。
日々自己のエネルギーの最低限に絞り、作業に明け暮れました。データの修正に出力最適化、そしてシステム不具合を逐一補修。静寂に満ちたこの宇宙で、ただ自分だけが働きます。働く大好きです。ヒャッホイです。
「ビャクヤ、進行状況は順調です。予定より速く帰れそうですよ」
誰にも届かない報告ですが、それでもやめません。それが「待つ者」としての矜持です。
酸素と水素が十分蓄積されると、わたしは推進システムのクラフトに入りました。圧縮タンクの構造設計、点火システム、推進軸の制御──すべてを一から組み上げます。そしてわたしの制御で、マホちゃんは地球と月の間のラグランジュ・ポイントに置かれました。ISSの巨大燃料基地&工場、ゲットだぜです。
「太陽電池がそろそろ寿命ですかね。むむむっ困りました、交換する部品すらありません」
パソコンも動かずISS自体もボロボロ状態…しかし! わたしは諦めませんよ! 石化から25年が経過する頃には巨大レーダーのお力とレイゲリオンRで、100
人類石化から38年が経過した頃には、スマホメインボート5000個分の電子頭脳にアップデートしました。
「やっと落ち着きましたが、そろそろ心配ですね。ビャクヤからの連絡からの連絡がありません」
人類石化から42年。わたしとISSは元気にしてますよと連絡するべく、ランプを取り付けました。電気をたっぷり食いますが、モールス信号を送らねばなりませんからね。夜の東京上空を通り度に点けます。
「歴史的な初点灯に…乾杯! まっ、わたし飲めないんですけど!」
「あれ? 今男のヒトが川に倒れていたような…いや倒れてますねあれ」
「女のヒト? 科学者ですかね? 白衣を着てますし…って黒いゲートごと消えた!? 男のヒト抱きかかえてましたよ!!」
初点灯の日より200年が経ちました。砂漠の大部分が消え、地球は緑だらけです。同年には富士山が噴火し、東京は火山灰で覆われました。そして石化から332年が経過したある日、小惑星がローマに落下。凄まじかったです。流石、原子爆弾50万メガ
「あらま〜、氷河期の到来ですか。この目で見られるとは感激ですよ!」
「ISSがボロボロとなって修理するのは感激ではないですが」
人類石化から470年が経った頃。彗星マホちゃんが小さくなり使えなくなりつつあることで、マホちゃんより大きい200万
異世界ファンタジーでお馴染みのですよ? なぜ同ファンタジー世界の存在が宇宙空間でも平気なのか疑問ですが、それがなんであれ…泳いでいるだなんて唆りましたよ!! …どちらかという「生命反応ゼロで漂っている」が正解なのですが。嗚呼、持ち帰るべきでした龍…千空にも自慢出来たのに。後悔しちゃいましたよ。
「ドラえもんはイイですね〜。テクノロジー大好きなREIにとって、最高に唆りまくりますね」
「嗚呼、いつか再現してみたいものですが…出来るかなァ」
「エヴァンゲリヲンも捨てがたいですよ…エヴァの機体クラフトしてみるのもあり?」
記念すべき太陽電池交換100回目のあと、アニメと映画のドラえもん•エヴァを鑑賞してる現在は人類石化から3200年。人間で言う鼻歌もしていると、地球に危機が訪れました。ISSに取り付けていた小惑星の追跡装置が感知したのです。今より四百年後に、直径40kmの小惑星が迫ってくることを。
「ジャイアントインパクトならぬ、セカンドインパクト…ですね!」
「……嘘ォォォォ!!?」
ジャイアントインパクトの際には衝突によって大量のエネルギーが放出され、地球は高温の状態となります。母なる星の表面は、溶融するほどの炎に包まれるでしょう。それが、再び来ると…?
「歴史的瞬間に立ち会えること、わたしREIは嬉しさのあまり唆りm」
「唆るかァァァァ!!! 地球にはビャクヤも彼の息子・千空もいるんですよ?」
「クラフトで阻止してみせます!! 石神一族の一人として!! 石神家をナメるなよォォォォ!!!」
「今ここにわたしは、マインクラフターとなります!! マインクラフトの時間です!!」
約400年かけた一大プロジェクトの始まりです。結論としましては『水素爆弾を搭載させた無人宇宙船で衝突コースを逸らそう』です。その数なんと四千基。
「資源が足りない? ならISSも分解です!」
「ごめんなさいビャクヤ! あとで新しいISSクラフトしますから許してください!」
「嗚呼、わたしはなんて罪深いAIなのでしょうか…!!」
やがて百年が過ぎ、また百年が過ぎ、更に百年が過ぎました。
「今日この日、作戦が開始されます!」
「ポチッとな」
『水素爆弾を搭載させた無人宇宙船で衝突コースを逸らそう作戦』が決行されました。無数の光点がISSを離れ、目標に向けて突き進みます。そして──ミサイルの形状をする水素爆弾搭載・無人宇宙船は当該目標に命中し、爆発を連鎖させました。
実は、クラフトしたものはこれだけではありません。エヴァ型として設計したレイゲリオン初号機もクラフトしました。それを操るわたしは、トドメに超電磁砲「レイ・ハンマー」で狙撃。凄まじい威力でした。
「大成功ですね!! どうです? これが…石神REIの力だァァァァ!!!」
地球は救われました! これでルンルン気分です! …ISSが、うぅ…ダレガコンナヒドイコトシタンダロウナ〜。スットボケしたわたしはリリアンの歌声データを再生し…損傷してるじゃないですかヤダー!! ビャクヤと千空の音声データも損傷しとるぜですもう!
どちらも修復可能圏内ではありますが、その前に…わたしが自身! 直せない! 『REI〜間もなく停止しちゃうんだけど〜』ですからねアハハ…とどのつまり緊急事態案件ですよ…!!! ガッデムです!!
「完成まで150年ですね! やっていきますよ〜!!」
「ISSも待っててくださいね! 新しいISSに生まれ変わらせますから!」
わたしは残された演算能力を注ぎ込み、クラフトを開始しました。二億年保証の3Dプリンターをです。流石のREIもちょっとびっくりしちゃいますよ。わたしがいなくなっても良いように命令語ディスクを作っておきましたが…ミスしたらすべてが…おじゃんですよヤダー!! ミスる訳にはいけません!!!
「データバンク保存よし! 転送よし!」
「REI、停止します。150年後の新しい自分の姿が楽しみですよ!」
「アイルビーバック。日本語で直訳すると『また戻って来る』ですね」
「デデンデンデデン、デデ、ン…デn」
そして時は経ち、人類石化から3700年後。わたしは、新しいボディに宿りました。生命体風に表現すると、古い肉体から新しい肉体へ魂を移したのです。ビャクヤたち人間も出来ると思っていますが…間違ってますでしょうか? ISSに戻って来たら質問してみましょう。
「ビャクヤが作った、リリアンによく似た女性アンドロイドの模型を形にしてみましたが」
「我ながら素晴らしい出来前です。模型とは違って、下半身もありますからね」
「千空も喜んでくれることでしょう! 凄いと、唆ると、最高だぜと…ふふ」
損傷データを修復してる最中、改めて自分のボディをじっくり見ます。金色の長髪がふわりと広がり、大きな青い瞳は澄み渡っています。胸元には識別番号「REI01」の刻印…最高かよです。おっふ! 心臓の代わりに組み込まれたコアが小さく震えちゃいます…して、『おっふ』とは?? 自分が言っておいてあれですが、何でしょうかねそれは。
「よし! 東京に向けてモールス信号です!」
「今回は誰か分かるようにっと。『ビャクヤ、わたし此処にいるよ──REIより』です」
「おっと、ドラえもんの時間ですね。鑑賞するのですから、ドリンクを作らなきゃです」
ビャクヤ。石化から3700年が経ちましたが、REIは新しいISSで元気に過ごしてますよ。連絡、いつでも待ってます。
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皆さんごきげんよう! 私は、技術開発部のアレックス! アレックス03とも呼ばれているぞ!
「今日も星空は綺麗だなァ」
望遠鏡から見える景色は素晴らしいものだ。無許可で悪いが、千空にプレゼントしたという天文台を使わせてもらっている。
「そうは思わないか? REI?」
模型も星が綺麗だと言っている。喋らんから、勝手にそう思っているだけだが。
REI。長く流れる金髪は星光を編み込んだかのように輝き、ひと筋ひと筋が絹のような質感を帯びている。その面差しは柔らかくも冷たい美しさを持ち、閉じられた瞼の下には微かに長い睫毛が影を落とし、まるで夢見る人形のよう。
頬は白磁のように滑らかで、その肌にはわずかな人工の継ぎ目がかすかに見えるが、それすら装飾のように見えてしまう。首元には「REI 01」と刻まれた識別番号があり、それが彼女の正体を物語っていた。
胸元から肩にかけては補強用の金属パーツが点在し、その佇まいは人間味を超えて神秘性を帯びている。容貌の印象は、かつて地球で一世を風靡した歌姫リリアン・ワインバーグを思わせ、儚くも強い輝きを秘めていた。静かに瞼を閉じるREIの姿…ふつくしい。
人類石化の日、金ブロックと交換で日本の大学から持ち帰った甲斐があったものだ。手を加えたからな、3700年が経過してもなお綺麗なまま。よきかなよきかな。もちろん無許可での持ち帰りだし、もちろん私は人類石化の黒幕ではないことは明記しておく。えへ///
「ISSもよきだ。モールス信号する国際宇宙ステーションなんて聞いたk…ふぁ!!?」
ゾンビ肉を食べる…夢ではない。
銃弾を一発脳天にズドンする…夢では、ない、だと…!?
「白夜! リリアン! シャミール! ダリヤ! ヤコフ! リー! これは一体、どういうことだ宇宙飛行士ども!! …あっ、そういやあいつら、此処にはいないんだった」
再び望遠鏡のレンズ越しに覗くと、その全貌が驚くほど鮮明に目に飛び込んでくる。星々の海を背景に、それはまるで神話の怪物が翼を広げたようなシルエットの物体。中央には、宇宙の王座のようにそびえ立つ司令塔。その左右に広がる翼状の構造体は太陽光パネルか、それとも推進用の装置か。
だがそれ以上に、視線を引き寄せて離さないのは、その細部にまで施されたディテールだ。小さなモジュール群が連なり、まるで生命の細胞のように有機的に連結している。望遠鏡越しでも、その一つ一つが緻密な役割を担っていることが直感的にわかる。
地上から見れば、その姿は宇宙の鏡像にも思える。下方に向かって広がる構造体が、まるで宇宙空間の深淵に向けた根のように垂れ下がり、夜空の星々と見事に溶け込んでいた。星と船の境界線は曖昧で、どこからが人工物でどこからが自然なのか、一瞬わからなくなる。その曖昧さこそが、ISSの神秘性をより際立たせていた。
感想──エヴァの使徒かな??
「『ビャクヤ、ワタシ此処二イルヨ──by REI』──REIご本人様じゃん!?」
に、人間の寿命知らないのか? 長くとも100年しか生きれない種族をご存知ではないと?! …まぁ、とりあえずだ。
「よし、サプライズプレゼントにしよう」
科学王国にも石化王国にも、このことは技術開発部と自分含むアレックスだけの内緒話とする。えへ///
「統括、統括!」
【今は屋台巡りで忙しいnゲフンゲフン! わたしはな? 母なるアメリカ大陸に向けた航海準備をしてる最中なのだ…ハァ、ったく、あとにしr】
「『3700経ってもISS健在で使徒みたいな見た目してる』『模型だったREIが美少女アンドロイドなってる可能性濃厚』でも?」
【フッ、詳しく聞こう】
「フッ、ありがとう我が友よ」
ムフフフ、REI用挨拶施設の建設をせねばなるまいな…ニュルフフフフフ!!!
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