励みになります。
第一話よりアレックス視点ですが、本話より三人称もありますのでよろしくお願いします。—記入日11/23
夜空には星が、無限に散らばっている。
星には様々な名前がある。
星は様々な輝きがある。
永い時間をかけて、星に名前がつけられた。
星は数えきれないほど、無数にある。
星には、色々な種類がある。
種類によっては、様々な色がある。
だからとても明るいし、だから色々なイメージが生まれてくる。
そう、世界は生きているのだ。生きて、生きて──。
(…フッ。自分はこんな詩的なことを言えるのか)
安全地帯である拠点。ツリーハウスのバルコニーで木製フェンスに手を掛けながら、アレックスは密かにそう思った。自分の内側から湧き出た言葉の連なりに、少しだけ気恥ずかしくなり口元がニヤニヤと緩む。
日が完全に沈み、深く濃い闇が世界を包み込む。3700年ぶりに訪れた、人工の光が一切存在しない本物の夜が。
「綺麗だなぁ」
「クククッ、当然じゃねぇか」
思わず漏れた感嘆の声に、隣から低い声が応えた。アレックスは星空を眺めている。隣にはいつの間にか千空が立っていた。彼もまた、同じように夜空を見上げていた。
空を見上げれば、そこは黒いベルベットに無数のダイヤモンドを散りばめたような絶景だった。街の灯りも飛行機の航跡もなく、天の川はその輪郭をはっきりと浮かび上がらせ、一つ一つの星が持つ本来の輝きを惜しみなく放っている。それは、アレックスが知るどの夜空よりも圧倒的に美しく、そして荘厳だった。
「本当に、文明が滅んじまったんだなァ……」
千空の呟きが、静寂に溶けていく。
「全くだ。3700年、か」
その途方もない時間の重みを、アレックスは改めて実感する。そして、ふと自身の記憶の断片を辿り始めた。自分は《くらふたーのせかい》から帰還したわけだが、そもそも《くらふたーのせかい》に『いつ』行っていたのだろうか。
確か、学校が終わった放課後だった。あの日、クラスメイトたちがやたらと空を見上げて騒いでいたような気がする。別に気にも留めず、『どうせUFOだと騒いでいたんだろ』と、頭の片隅に追いやっていた。
そして、気まぐれに帰還したら、文明が滅んでいた。
Minecraftしたいよ体調不良があまりに長引くのはどうかと思って、己は帰ってきたというのに。今思えば、《くらふたーのせかい》にカレンダーでも置いておくべきだったかもしれない。
そういえば、女神アインドラがこんなことを言っていたようなと、アレックスは唐突に思い出していた。
『《くらふたーのせかい》は地球と同じ時間が流れてるから、そこのところよろしくねぇ〜』
その言葉を思い出した瞬間、アレックスの脳天を『ピシャーンッ!!』と鋭く大きな稲妻が貫いた。全身を雷に打たれたような衝撃。思考が真っ白になる。
(ということは、だ。今が西暦5700年代だというのなら、今自分の実年齢は…3700歳ってこと!?)
「なっ、なぁ千空」
「?」
「わたし、人間ヤメてるかもしれん。いやだって、わたしの年齢って三千七百歳だからさ」
「なるほどなァ。つまり、テメーが石化現象を引き起こした黒幕つーことか…」
「待って?!?!」
アレックスは全力で否定した。かつて悪ふざけで現世にウィザーを召喚してしまい、それを必死で処理した時のように、全身全霊で首を横に振る。
「からかってるだけだろうが。そこまで焦ると余計に怪しいぜ? まっ、テメーが黒幕じゃねぇのは100億%わかるわ」
千空の言葉に、アレックスはようやく安堵の息を吐いた。しかし、安堵も束の間、千空の視線がねっとりと彼女の肌を舐めるように動く。
「しかし、石化してねぇテメーがピチピチ肌ってのはどういったこった?」
知らん。マインクラフターだから、としか答えようがない。そう返すと、千空は何も言わなくなった。
「…」
「やめてくれ。そんな分析するような目で見ないでくれ。アレックスは得体の知れない者ではない」
しかし、彼の探るような視線は、まるで解剖台に乗せられたカエルの気分にさせ、じわじわと効いてくる。居心地の悪さに耐えきれず、アレックスは叫ぶように話題を変えた。
「あっ、ああ! あの星座ってなんて呼ばれるんだ!」
「急だな、アレックス」
「うっ、うるさい! はっ、話に付き合えってんだい!」
羞恥で顔を赤くしながら、アレックスは幾千にも輝く星空の一角を指さした。
「どれだ? …ああ、アレか」
「そうそう」
「土星だな」
「え、アレがそうなのか。肉眼で見えるんだな」
アレックスがその事実に素直に驚いていると、ふと疑問が浮かんだ。
「じゃあ、ISSは見える?」
アレックスはISSについて記憶を辿る。国際宇宙ステーション。地球を周回する巨大な実験施設。確か明るい光の点として、地上からも見えたはずだ。一度だけだが、文明が滅ぶ前に見た記憶がある。
「クククッ、バカ」
「え?」
「フューフュー」
「口笛が下手で草」
「初めてバカって言われた。少しだけ、心がへこむ」
「よく考えてみやがれ。燃料切れで墜落して、とっくの昔に大気圏で燃え尽きてるに決まってるだろうが。100億%、今も宇宙にあるはずがねぇ」
「ふむふむ、なるほどなるほど。考えればそうか、うむ」
千空の科学的な説明に納得する。だが、彼の横顔に一瞬、遠い場所へと思いを馳せるような、寂しげな色がよぎったのをアレックスは見逃さなかった。誰かを、思い出しているのだろうか。
「あ、そういえば千空」
「?」
その時、全く別の記憶が蘇った。
(そうだ、報告しなければ。クスノキにしがみついていた、もう一人の少女のことだ。彼女が身に着けていた、特徴的なカチューシャのことも話しておこう)
「──なんだと」
報告を聞いた千空の反応は、アレックスの予想を遥かに超えていた。
「よくやったアレックス!!」
「うわビックリした」
千空はアレックスの両肩をガシッと掴むと、激しく揺さぶった。その瞳には、今までに見たことのない切迫した光が宿っている。彼は矢継ぎ早に語った。その少女が、二人目の幼馴染であること。ヘッドホンではなく、カチューシャであること。
「明日の朝クスノキに行くぞ、ソッコーでな! オレは寝る!!」
それだけを言い残すと、千空は今までに見たこともないほどのスピードで部屋に駆け込み、ベッドに倒れ込むと同時に──深い眠りに就いた。
「眠るの速い。まるで、誰かさんみたいだ」
そのあまりの速さに呆れつつ、アレックスは静かに眠る科学少年の横顔を一瞥する。そして彼女もまた、自分のベッドへと向かった。アレックスは服を脱ぎ捨て、いつものように解放感に身を委ね、目を閉じたのだった。
■□■□■□
朝になった。夜の闇を溶かした朝日が、木々の隙間から差し込み、森の地面に光の斑点を描く。ひんやりとした朝の空気が肌を撫でる中、アレックスは千空を案内し、目的の場所へと到着した。そこには、天を突くほど巨大なクスノキが荘厳な姿で佇んでいた。悠久の時を生き抜いてきたその幹には苔が生し、生命の力強さを物語っている。
「…ッ」
千空が息を呑む音が聞こえた。次の瞬間、彼はアレックスを置き去りにして、クスノキの根元へと駆け寄っていた。その視線の先には、一人の少女がいた。まるで木に抱きつくようにして石化した少女。それが千空の二人目の幼馴染、小川杠だった。
「クッフフ…。見飽きた顔だがな…三千七百年ぶりじゃねぇかよぉ──杠」
その声は微かに震えていた。ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、彼の横顔には親友との再会を噛みしめる、深い情が滲んでいる。大樹の時と同じだ。これは感動の再会シーンに違いない。
アレックスは二人の時間を邪魔しないよう、少し離れた場所から静かに頷いた。もしこの世界にカメラがあったなら、間違いなくシャッターを切っていたであろう、一枚の絵のような光景だった。
(ん?)
感動に浸っていたアレックスは、ふと首を傾げた。千空のやつは、何をしているのだろうと。彼は懐から取り出した尖った石で、クスノキの幹を削り始めた。杠の石像のすぐ隣に、何かを彫っている。その真剣な眼差しは、さながら古代の石工のようだ。やがて、作業を終えたようなので、彫られた文字を読んでみる。
『川下れデカブツ。杠も一緒だぞ』
アレックスは全てを察した。大樹への伝言か。だが、木の幹に直接彫るとは、なんとも原始的なやり方だ。もっと効率の良い方法があるというのに。
「そういうこった。一緒に運ぶぞ」
千空は杠を、拠点まで運ぶつもりらしい。その考えには、アレックスも同意だった。
「その前にやっておきたいことがある」
「?」
千空が不思議そうに見つめる中、アレックスはインベントリから木材と棒を取り出し、その場で作業を開始する。トントントンと小気味よい音が響き、あっという間に一枚の看板が完成した。彼女はその看板をクスノキの前に突き立て、先ほど千空が彫ったのと同じメッセージを書き記す。『──川下れデカブツ。杠も一緒だぞ』──っと。
「初めからそうしろよ……」
千空の呆れたような声が聞こえた。すまないと、アレックスは心の中で謝った。自分が書くから、掘らなくていいと言えばよかったかと。この方が合理的でわかりやすいはずだと、彼女は弁明した。
「運ぶぞ」
千空に促され、アレックスは頷く。二人は杠の石像の両脇に立ち、いつでも運べるよう配置についた。
「よいしょっと」
ずしりとした重みが腕にかかる。なかなかの重さだ。マインクラフターとしての身体能力がなければ、持ち上げるのも一苦労だっただろう。干渉していない状態だとこんなにも…うん? その時、アレックスの頭にある可能性が閃光のように走った。
「ちょっと待ってくれ」
「どうした?」
「置いてくれ」
「疲れたのか? イイけどよ」
千空の言葉に頷き、アレックスは杠の石像を、そっと地面に横たわらせた。
(もしかして…)
アレックスはごくりと唾を飲み込み、石化した杠の腕にそっと触れた瞬間、ポンという軽い音と共に、杠の姿が忽然と消えた。
「…は?」
千空の間の抜けた声が森に響く。
(よし。インベントリに入っているな)
アレックスは、視界の端に表示されたウィンドウを確認する。『石化している杠』というアイテム名が、そこにはあった。
(いやまさか、マインクラフターの干渉が、生物の石像にまで効くとは思わなかった。こんな仕様は、オリジナルのマイクラにもなかったぞ?)
「ナニやってんだテメー!?!?」
千空の絶叫が鼓膜を揺らす。
「大丈夫だ。わたしの中にいる」
「!?!?」
「こういうことです。はいご覧あれ!」
アレックスは得意満面にインベントリから杠の石像を取り出し、元の場所に横たわらせた。
(はいどうです? まるでマジシャンのようでしょう? イリュージョン! この驚きと称賛に満ちた顔が見たかったのだ)
「アレックス」
(フッ、これなら、重い石像を手で運ぶ必要はなくなったな!)
アレックスが勝利を確信した、その時だった。千空が静かに、彼女の名前を呼んだ。
「言いたいこと…わかるな?」
ニッコリと千空は笑うが、その目は全く笑っていなかった。瞳の奥に宿るのは、称賛ではない。科学的常識を根底から覆されたことへの、純粋な怒りと呆れ。アレックスの背筋に、冷たい汗が伝った。
「…フッ」
(これはまずい。非常にまずい…仕方ない)
アレックスは覚悟を決めた。マインクラフターとしての尊厳よりも、今は目の前の科学少年の機嫌を取ることが最優先だ。彼女はある行動に出た。この絶体絶命の窮地を脱するための、最終奥義を繰り出すために。その奥義とは何か?
そうそれは──
「すみませんでした」
土下座である。それもただの土下座ではない。地面に額を叩きつけ、アスファルトに頭をこすりつける勢いの、全力土下座だった。
こうして、アレックスは拠点に戻っても三日三晩に渡って、こってりと説教され続けたのだった。
■□■□■□
杠の石像を無事に拠点へ運び終えた、翌日のことだった。千空の機嫌は、これ以上ないほど最高潮に達していた。その顔には昨日までの焦燥の色はなく、純粋な科学少年の好奇心と喜びに満ちた輝きが戻っている。
「やるじゃねぇか! ワインの元をゲットするなんてよ!」
彼はアレックスが差し出したものを手に取り、太陽の光にかざしながら叫んだ。その理由は他でもない。アレックスが、今日の探索で偶然にも野生のブドウの群生地を発見し、その実を大量に持ち帰ったからである。
紫色の宝石のように艶やかな房。それはこの石の世界においてただの果物ではなかった。発酵させればアルコール、つまりワインを生み出すことができる。そしてワインがあれば復活液の最後のピースであるナイタール液が完成するのだ。
おめでとう!
これでワインが作れるぞ!
大樹と杠を、この長い石の眠りから目覚めさせるための道筋が、今確かに拓かれたのだ。
作者、最高司祭アドミニストレータでございます。
原作が完結した今でも、ドクターストーンは愛されております。アニメ四期の制作がされているのも、その証拠です。
わたしはこの原作の二次創作を執筆し、本日投稿させていただきました。これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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