クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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きゃっきゃ。


オリジナル飛行機

 どうも皆さんごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス。創造主、とも呼ばれているぞ! 自分で言うのもなんだが、美少女である。

 

 自信満々? 当然だとも。可愛さと知性と創造力が三位一体となった存在、それがこのアレックス様だ! この完璧なるパーソナリティが、今この瞬間も世界を面白おかしく形作っているのである! なーんて自己紹介を決めている暇があるのか、というと、正直ない。

 

 事態は慌ただしく、混沌とし、そして……最高にエキサイティングな方向へ向かっていたからだ! 

 

 

「つまり地球の裏側にもう1人千空みたいな科学使いがいて、自力復活してたってことか?」

「クッフフ! んなもん俺の専売特許でも何でもねえだろが。科学知識なんぞ世界中に垂れ流しだぞ? 好きで呼んでりゃ済む話だ」

 

 

 ハァーイ、千空くん。今日もド直球な反応で、話が進む進む。科学使い? いやいや、もはや異端の錬金術師のようなあんたが言うと説得力が段違いだよ! たしかに、科学知識なんて誰でも扱える……が、その精度と応用力で一歩、二歩、三歩と抜きん出てる奴が目の前にいるという事実には変わりない。

 

 でもまぁ、千空の言うとおり、世界は広い。自力で復活している科学者が他にもいても、驚きはしない。されど、こんな絶妙なタイミングで介入してくるとは…! 

 

 いやぁ、困った。まさかこの創造主たるわたしが寝ている時に、マシンガンでの乱射事件が発生していたとは。流石は母なるアメ〜リカ! 挨拶してくるとは! そこに痺れる憧れるン!! 殺意マシマシなのもグッドポイントだ。

 

 

「おいこら」

 

 

 千空に叩かれた。しかも普通のツッコミじゃない。頬をビシィ! と打ち抜いたのは、なんと見事なハリセンボン(物理)。どこで手に入れた。いつクラフトした。やはりこの科学少年、常にボケと戦う用意がある。

 

 

「エンジン音!? 後ろからだ、皆!」

 

 

 その瞬間、空気が張り詰めた。

 

 エンジン音? 追っ手だろうか。しかし、コハクの異常な視力で警戒しているのだ。敵の気配も彼女なら直ぐさま察知する。朝まで走っているし、多分きっと気の所為であろう。羽音デカいか大型の虫か、追従してる戦闘員オールスターのボートのどっちかだろうと、統括のアレックスはそう考えますよ。ハイ。

 

 

「マジかよ…!!?」

 

 

 でも変だな。なら何で、皆して空を見上げているんだ? そう疑問していたわたしは笑って空を…ワオ。

 

 四枚の翼が交差するように配された独特のシルエット、それが最大の特徴である。空を裂いて突き進むその姿は、まるで原始と未来を繋ぐ矢。漆黒と鉄錆の混じったような色合いの機体は、ただの乗り物ではない。科学の復興を掲げる千空たちから見ても、ゼロから創り上げた執念の結晶。

 

 機首は流線型でありながら、どこか素朴な手作り感が滲んでいる。丸みを帯びたコクピットの窓は二つ、まるで瞳のように空を睨み、下部に鋭く突き出た補助脚が猛禽の鉤爪を思わせる。金属板を何層にも重ねてリベットで固定した外殻には、粗削りな凹凸が残っており、これが逆に無骨な美しさを放つ。

 

 翼は上下二対のバイプレーン構造で、黒く包帯のように巻かれた補強材が空力を支える。その末端はやや裂け、戦闘で裂けた羽のような荒々しさを帯びている。

 

 上部には双発のプロペラエンジンが剥き出しで搭載されており、回転する刃が青空に銀の弧を描く。金属製の支柱と、木製にも見える補助構造が入り混じることで、機械と自然の狭間に生まれたような存在感を纏っている。その姿は“空を喰らう獣”そのもの。

 

 機体下部にはスキー型の無骨な着陸装置が覗いており、まるで過去の記憶を抱えたまま未来へ翔ぶタイムマシンのようだ。人工的でありながら有機的、近代的でありながら原始的。その矛盾を全て飲み込み空を支配するこの飛行物体は、まさに…まさに──

 

 

「白旗しちゃうしかないんじゃいの? これ」

「残念だけど! 攻撃する気が無ければ、あんな低空飛行はしないよ!」

「ハッハー! 飛ばすぞ! 船員諸君、掴まれ! 全速前進…!!」

 

 

 飛行機ですねどうもありがとうございます。しかもオリジナル…こんなもん興奮しちゃうじゃないの!! くぅ、魅了状態が付与されてしまった! だが今はこれでイイ! もっとだ、もっと見せておくれ!! 

 

 あっ、撃って来た。

 

 

「痛〜!!? 痛いよ〜!! 死んじゃうよ〜!!」

 

 

 ああもう、銀狼の叫びが最高にマヌケだ。空気は殺気で満ちているのに、彼の声だけは場違い。だがそれもまた、戦闘集団の中にあるコメディリリーフの存在証明というもの。

 

 

「銀狼殿! これを! アレックス様がお作りになられた回復ポーションです! 口を大きく開けてください…では、失礼させていただきます!」

「アリガトウ、マツカゼ。モウ治ッタヨ」

「銃弾でも何でもない、本当にただのかすり傷なのだがな。回復のポーションすら、必要もないレベルの」

 

 

 ボートが、グラッと大きく揺れた。マシンガンの銃弾が水面を蹴り飛ばす度、戦闘員オールスターの誰かが叫び、飛び跳ね、そして──

 

 

 ザッパァァアアァアアアン!!! 

 

 

 戦闘員オールスターのボートが転覆してもうたわ。スッゲーな。マシンガンでよくぞここまで…褒めてつかわす! 

 

 

「褒めるなバカかテメーは!? 俺らを『殺しちゃうぜ♡』満々なんだぞ!」

「何度でも撃ち殺すつもりだからね、アレックスちゃん!!?」

「太陽に入ったぞ!!」

 

 

 叱られた。何故。敵だからって褒めてはいけないルールは無い筈だ。彼らは何を言っているんだろうか。ボートを転覆させたんだぞ? 映画でしか見れない景色が、こうして見れているのだ。ったくもう、これだから男は〜。

 

 しかしわたしは「見学者」である。飛行機の設計、材質、塗装、プロペラの角度にまで目を配る。そう、わたしは今、戦争ではなく「構造美」と「技術の結晶」に酔いしれているのだ。

 

 

「アレックスちゃんがやれやれしてるけどどうするの!?」

「創造主サマは使いモンにならねえ! あの飛行機に熱中してるからな! 俺らが何とかするしかねえ…キリサメ! テメーの投擲術頼みなんだ! 必要なモン言え!!」

「安定した足場! そしてロープを…!!!」

 

 

 見物を続行する。これでも、わたしは「ふざけてない」部類なのだ。真面目。

 

 

「テメーの好きなタイミングで投擲しろ!」

「なら、今が絶好の機会です…ハァ!!」

 

 

 キリサメの投擲術は、まさに芸術だ。彼女の手から飛び出したのは、千空がクラフトしたばかりの、何やらよく分からない小道具。袋? ロープ? 瓶?? カクテルでも投げる気かい? 

 

 彼女は人間ピラミッドの上に乗り、標的を見極め、完璧な角度とタイミングで投げつけた。

 

 それは──上空で──爆発した。

 

 光と音が、周囲の空気を震わせた。だが、直接の火力というよりは、もっと違う作用…。

 

 あの反応。まさか、とは思うが──

 

 機体が、一瞬バタついた。制御を失い、ぐらついた。ノッキング音が不規則に響き始め、プロペラの回転数が乱れる。黒煙が尾を引き、敵機はそのまま高度を落とし──

 

 森の奥へと姿を消した。

 

 あれって…アセチレンガスだよな? 

 

 アセチレンガスは、カルシウムカーバイドと水を反応させて生成されるガス状の燃料。主に溶接や金属加工の際に使用されることがあるが、人体には無害とされる。ただし、取り扱いには十分な注意が必要だ。何故ならアセチレンガスがエンジン内部に入り込むと、燃焼や点火の妨げとなりエンストを引き起こす可能性があるからだ。

 

 ガスの漏れや誤った使用方法は、火災や爆発の危険性も伴う。そのため専門的な知識と、適切な安全対策を講じて取り扱うことが重要。特に作業現場では換気や防護具の着用を徹底し、ガスの管理を厳重に行う必要がある。安全第一を心掛け、正しい方法で使用することが求められる──で、あの? 

 

 そうならば…ハァ、レアな飛行機はゲット出来ないのか。残念だ。

 

 

「仲間連れて戻ってくるかもしれないよ!? 今すぐ逃げようよ〜!!」

「逃げる?」

「何言ってやがる〜? 逆だ逆。見てただろ? 飛行機の墜落地点…ゲットしに行くんだよ!!」

 

 

 千空のその言葉が、まるで狼煙のように空へ上がった。誰の胸にも火が点いた。燃えろ好奇心。走れ探究心。止まるな科学! 

 

 

「うぉぉぉおおおおおおおお!!」

「やったあああああああ!!」

「え、え? なんでそうなるの!?」

 

 

 既に風は、進軍の鼓動を打っていた。森の奥、墜落した機体の残骸へと向かって。アレックスたる私はと言えば、脳内で再構成を始めていた。

 

 機体素材、エンジン系統、搭載兵器、可能性としての通信装備。回収できるパーツと改造プラン、応用技術を走らせるだけで脳が喜びに痙攣する。あぁ、これだよ、これが「科学」ってやつだよ…! 

 

 森に着いた頃には、既に日差しは梢に遮られ薄暗かった。だが、空気には確かな異変があった。焦げた油の匂い。引き裂かれた植物の断末魔。ひとつの生命体が空から落ち、土に接吻した証。

 

 

「こっちだ! 煙が見える!」

「待て、警戒しろ。敵が残ってる可能性もある」

 

 

 木々の間を抜けると、そこにはあった──機体。

 

 しかし、完璧な残骸ではない。ボディは無事だ。完全停止ではあるが、爆発もなく燃えてもいない。着陸ではないが、墜落とも言い切れない絶妙な状態。敵パイロットの技量の高さを物語っていた。

 

 

「こいつ…凄えな。アセチレンガス喰らって制御不能になったのに、こんな軟着陸を…」

「ある意味、化け物ね。この状況で撃たれなかったのが奇跡…いえ、わざと?」

 

 

 キリサメの言葉に、皆の背筋がピンと伸びる。そうだ、まだ終わっちゃいない。敵は…生きている。それは喜ばしいことだが。

 

 

「くくっ…じゃあ、こっからは…」

 

 

 千空は、にやりと笑う。ポケットから出したのは、火打石と鉱石粉末、そして針金とナイフ。無人機だろうが有人だろうが関係ない。ここでやるべきことはひとつ。解体、だ。

 

 

「アレックス! 前に言ってたろ? 銅と錫の合金、あれ使えそうか?」

 

 

 当たり前だ!! そのフレーム、たぶんジュラルミン混合の旧式だよ! 接続部の応力点、ナットの摩耗具合、それに…クランク軸のラグ見て! 手作業の鍛造痕だよ!! これ、コピーじゃない、完全なオリジナルのハンドメイド機だ!! 

 

 叫びながらもう、わたしは工具を取り出していた。ああ、触れたい。あのペダルに、あのスイッチに、あの計器に!! そして──あの座席に。

 

 

「中には誰もいないぞ。既に逃げたあとか…残っていれば、色々聞き出せたのだが」

 

 

 …逃げた、だと? 誰があんな飛行機を捨てて走って逃げるもんか! ウソだ、ウソだウソだウソだ!! 

 

 思わずその場で地団駄を踏む。精神年齢がマイナス5歳になった気分。だってこの感動が!! このロマンが!! なぜ置いて逃げられるの!? 何を優先したらコレを捨てられるの!?!? 

 

 

「落ち着けよ、アレックス」

 

 

 うるせぇ! 心を熱く燃やすのが創造主だ! 科学とロマンの融合こそ、我が身を通す剣である!!! 

 

 わたしは拳を天に突き上げた。すると、天は答えるように、風を吹かせた。機体のプロペラがわずかに回る。機械のため息のような音が、森に響いた。

 

 

「さあ諸君! この機体を分解し尽くすぞ! 科学王国の未来のため、我々の発展のため、そしてこのわたしの『知識欲』のために!!」

 

 

 敵から奪った戦果は、我々にとって知の財宝。戦って奪って学ぶ。これぞ、サバイバルモードだ…!!! 

 

 

【レシプロ機バージョンアップしたから、届けようか? このアレックス03の世界線で活躍した、第二次世界大戦のアメリカ機を】

 

 

 バッキャロウ!! 現在進行中の作戦に支障が出るじゃないか! 千空が考えた作戦だぞ? 何の為にマインクラフター全世界に散らばせたと思ってるんだ! 

 

 

【ふぇぇ】

 

 

 さて、早いとこ済ませてペルセウス号に帰ろう。

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

《ほう? 原始的な偵察機とはいえ、実にエレガントな方法で撃墜さしてみせるとは…興味深いね》

「回収は?」

《する必要が無い。たかが1機、失っただけだからね。パイロットの生存が最優先。墜落機は、彼らにプレゼントさ》

 

 

 森は騒がしい。湿った枝葉がざわつき、小動物たちがあちこちで跳ね、飛び、地を蹴って駆けていく。木々は鬱蒼としながらも空を遮ってはおらず、5月の太陽が真上から降り注いでいた。影は短く、輪郭はほとんど地に溶けている。息を吐けば、湿気が唇にまとわりついて戻ってくる。

 

 背後の墜落地点は既に遠く、煙の匂いも薄れ始めている。だが、その足取りには緊張の気配はなかった。むしろ、撫でる風が心地良いとすら思っていた。

 

 

「偵察されるかもだぜ? コーン農園とか。ハハ、見たら目ん玉飛び出るだろうよ。5月で収穫出来る、っていう異常さにな」

《偵察すればいい。あちらから接触してくるだろうしね…ところで今、異常と言ったかな? 科学だよ、科学。ボクの科学は、決して異常ではないさ。この新世界の、ストーンワールドでもね》

 

 

 右のポケットを探る。取り出したのは、鉄のケース。その中から、一本の煙草を抜いた。

 

 彼は指先でそれを唇に挟み、顎を少し上げた。左手で風を避けるように壁を作りながら、右手で銀色のジッポをひらりと開き、火花を弾く。擦れる金属音の後に青白い火が立ち上がり、煙草の先に赤が咲いた。吸い込む。じわりと火種が広がる。肺の奥まで流し込み、止めて、ゆっくり吐いた。

 

 灰色の煙が陽光に乗って立ち上り、枝の間を抜け、空に溶けていく。湿った森の匂いに混じるタバコの香り。

 

 

「…あんたの科学は、いつもファンタジーだな??」

 

 

 男は、鼻で笑った。通信相手は、ファンタジーですら数式で再現可能だから。

 

 

《本当に失礼しちゃうね?? そんな君には今吸ってるであろう毒ガス吸引器、そのクラフトを永久的に終了してもいいんだよ?》

 

 

 彼は煙を吐きながら鼻で笑った。毒ガスと煙草、同じ肺に入って何が違う。強いて言うなら、こっちは旨い。

 

 

「ガキの時からそうだが、あんたはいつも手厳しい。そんだけは勘弁して欲しいね」

 

 

 言いながら彼は火種を落とさないよう気をつけ、細い灰を指で弾いた。軽く指先を舌で濡らし、フィルターを少し柔らかくしてから、もう一度深く吸い込む。ニコチンとタール、そして過去の記憶が、肺の隅々まで染み渡った。

 

 

「この味ウマいな」

《嗚呼、それは──》

「オッケー分かった。あとで聞いてやるから今はイイ」

 

 

 端末越しの声が一瞬かき消えた。通信がノイズを吐いたわけではない。ただ、音の向こうで何かが言葉を止めた気がした。風が止まり、木々が静まった。男は立ち止まる。その奥で、動いた気配がした。機械の軋み。生身の足音。まるで、双方向のチェス盤に手が伸びたかのようだった。

 

 

「いんよ、敵にも。キレッキレの、科学屋がさ。あんたと同じだ」

《ふふ。それなら彼 彼女と勝負だね。世界の仕組みを何でもかんでも知りたい科学使いと、独裁者たるボク。どちらがこの原始のストーンワールドで、科学を極めているのか》

「唆るか?」

《唆るとも!! 嗚呼、楽しくなってきたじゃあないか。そもそも科学──》

「そうかい」

 

 

 片目を細めて、男は小さく笑った。──戦争は終わっていない。始まってすらもいない。まだ、ただの“前菜”だ。




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