クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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上手く出来てる…はず!


グルグル刀

 巨大な作業台の前に、老人は静かに立っていた。その両の手は今なお力強く、だが動きには一点の無駄もない。指先が並ぶ素材を撫で、鉄の冷たさを掌に受けながら、時間をかけて一つひとつを見定めていく。

 

 

「オッホー! 曲がらない! 揺らがない! 芯があるよん!」

 

 

 老人の眼光は素材を超えて、まだ見ぬ完成形を貫いていた。彼は見る。鉄の内部を。原子の配列、鋼の気性、冷却の軌跡。それが職人の目だとでも言うように。

 

 老人とは、カセキである。興奮のあまり服を弾けさせて筋肉ムキムキになった、石神村のクラフター。

 

 皆さんどうもごきげんよう。わたしは、軍事部のアレックス。ゼロツー、とも呼んでくれてもよいぞ。この度、私はクラフト様子を観察するという大変重要な仕事に従事しております。ネザーゲートを通って、ロシアから遊びnゲフンゲフン! 出張に来た次第だ。

 

 私はカセキの背中を、作業台の隅で黙って見守っていた。私は、すでに何百何千ものクラフトを目にしてきた経験がある…しかし! カセキの作業だけは、決して飽きることがなかった。何故なら…う〜ん、語彙力が無いのが悔しい。なんかこう、あれなのよ、そう、あれ。

 

 

「グルグル刀を作る時に大事なのは、“芯”じゃな。どれだけ刃を立てても、芯がぶれれば穴は歪む」

 

 

 カセキがクラフトしてるのは、ドリルだ。どうやら特殊部隊によると、岩盤を掘るためには必要なのだそうだ。秘密のトンネルを作るらしい…クリエイティブでしか破壊出来ない岩盤層を破壊しようとしているのか!? 

 

 

【なに言ってるのよ…あんたバカ〜?】

 

 

 違ったらしい。ぴえん。あっ、そっか。秘密のトンネルだから、真下には掘らないのか。いやぁ、よかった。この世界がオーバーワールドだったら、クリエイティブであろうと死ぬからな…岩盤を掘れるというパワーワードよ。

 

 おっと、カセキのクラフトを見届けなくては。

 

 

「オッホー!! 唆っちゃうじゃないの!」

 

 

 手にしたのは長尺の鋼棒だった。一本の線のように真っ直ぐそれを握り込む。片方の端を軽く叩き、響きを確かめた。カンカン、と乾いた音。だがその音の高低差、余韻の幅、内部共振──そのすべてを読み取るのは、私にとってはまだ魔法のように感じられた。一瞬で作業台で鉄剣クラフト出来るのも、ある意味魔法かもしれない。

 

 

「よく冷えておる証拠! 芯に使うには申し分なし!」

 

 

 突然、カセキの声が一段と強くなった。その瞬間、彼の身体が変わる。筋繊維が盛り上がり、指が獣のようにうねり、背筋は山脈のように隆起する。彼の中の“職人”が覚醒する音が、工房全体に響き渡った気がした。まだムキムキになるというのか!? 

 

 

 疑似シン化形態を超えるというの!? 

 そんな、あり得ないわ。

 この肉体美…至高の領域に達している! 

 

 

【ぜ、ゼロツーよ。この、統括のわたしに…か、回復のポーションを…っ】

 

 

 ちょっとゼロワンは黙ってもろて。

 

 

【言い方が悪かったかな? うん…嗚呼! ゼロツー様。どうか、この哀れな子羊をお救いください…おいこら助けろや!? わたしはもう絶対安静なんてしとうない!! 困ってるんだぞ!? ヒトを捨てたか…っ、ゼロt】

 

 

 念話遮断しよっと。留守番に設定、っと。邪魔が入った…ったく、こんなのが統括か。感性を疑わずを得ない。

 

 思い返せば『地球の人類が全員石化したみたい…ヤバくねw』の知らせがあった時も、私はちゃんとしていたと自負している。ちゃんと非常事態だと危機感があった。ちょっと軍事部の活動キリよくなかったし、ちょっと村人石像を彫刻するのキリよくなかったし。

 

 結局3700年間《くらふたーのせかい》から離れることは出来なかったが、人類を救おうとちゃんと努力していたのだ。

 

 では、仕事を続けよう。

 

 鉄槌を握るカセキの手には、余分な力がない。それでいて、叩かれる金属は抗う間もなく、ほんの数度の打撃で意思を宿す。

 

 

 カーン、カーンッ…!! 

 

 

 鉄と鉄が打ち合わされる音は、ただの騒音ではない。律動であり、旋律であり、精密な意志の発露だ。一本の芯軸がまるで鉛筆の芯のように削られ、磨かれ、必要な剛性と柔軟性のバランスを獲得していく。

 

 

「芯は“走り”を決める。だが“削り”を決めるのは、刃じゃ。刃の角度、重なり、厚み、そして先端角──すべてが噛み合わなければ、グルグル刀は…これヒトに刺さない? 儂、心配になっちゃうよん」

 

 

 彼は複数の鋼板を手に取る。それぞれ厚みも形も微妙に違うが、どれも鏡面仕上げで、目にしただけで高温精錬されたことがわかる品だ。

 

 カセキは刃の断面角を設計するように、プレートを切り出す。真っすぐな切断ではない。ねじれを意識し、進行方向に応じた「右巻き」の旋回形状を意図的に描いている。ドリルが回転しながら進む方向──その「渦」を、刃そのものに刻む作業。

 

 

「削る刃は“噛む”のが命。噛んで、吐き出す道がなければ詰まる。だから“捨て刃”も必要じゃ。噛む刃と捨てる刃、この二枚で一対。まるで上下の牙のように」

 

 

 やがて、鋼板が火花を散らしながらグラインダーで削られていく。刃先は鋭く、しかし丸みすら感じる緻密さで成形される。先端は60度、滑らかに研ぎ澄まされ、中心から外周に向かって螺旋状に刃が流れている。

 

 

「刃の角度は60度。鉄には丁度いい。“スパイラル”の巻きも浅すぎず、深すぎず…削って、流して、逃がす。この3つを同時にする! オッホー! 職人の腕の見せどころよん!」

 

 

 刃と芯軸が、それぞれ完成へ向かって進んでいく。だが、それだけではドリルはまだ生まれない。回転する力を刃に伝え、同時に刃が暴れぬよう支える構造──つまり、仕上げが鍵となる。

 

 カセキは両部品を仮止めし、軽く回転させながら、芯と刃のバランスを目視で調整する。その様子を私は瞬きもせずに見ていた。微細なずれすら、彼には「呼吸」でわかるらしい。コキュウだけに! …自分で言っておいて寒くなってしまった。

 

 

「おおおっ、よし……噛み合った。この角度じゃ、回せば削れ、押せば進む。抵抗が削りに変わる、“働く力”じゃ…!」

 

 

 最後に、カセキは芯と刃を高温の銀ロウで接合する。ロウ付けのタイミングは一秒を狂わせぬ。火の熱、銀の溶け具合、鋼の色、それらを瞬時に読み取り、彼は手を下す。

 

 

 パシッ…ジュウウウ…!! 

 

 

 焼けた銀が芯を抱き込み、刃と一体化した。

 

 

「グルグル刀はただの金属の塊じゃあないの…だからね…魂を込めちゃうぞ!」

 

 

 彼の両手が、再び動き始める。次は強度を高めるための焼き入れ工程。赤く熱した刃先を冷却槽に沈める。ジュウッと音を立て、蒸気が一気に立ち昇る。

 

 

「ふぅむ、いい音じゃわい」

 

 

 取り出されたそれは、もう“工具”だった。凶悪なまでに研がれた螺旋刃は、何物をも拒まぬような威圧感すら放っていた。

 

 次にカセキは、螺旋の角度と対称性を細かく調整する。これが狂えば、どれだけの馬力があっても掘削は進まない。素材にかかる応力を均一に分散し、負荷を抑えつつ効率的に削る。そのための計算が、すべて彼の頭の中にあった。

 

 

「さあて…いよいよ最後の仕上げじゃ!」

 

 

 仕上げは研磨だった。火を使わず、砥石と精製砂を用いた丹念な手作業。螺旋の一本一本を、丁寧に、丁寧に磨いていく。

 

 汗が額を伝い落ちる。筋肉が軋む。だがカセキの目は、まるで青年のように輝いていた。やがて、仕上がった一本のドリルが、作業台の上に置かれた。それはどこまでも無骨で、どこまでも美しかった。

 

 

「オッホー! 見て見て、儂のグルグル刀! 最高の出来じゃあないの!!」

 

 

 視線の先には、磨き上げられた銀の螺旋があった。装飾などない。だが、そこには確かに“作り手の魂”が宿っていた。

 

 そしてドリルの刃は今、静かに光を宿していた。何よりも確かに、「完成」の証として。

 

 よし! 仕事完了! ふっ、達成感があるな。

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 ご、ごきげんよう。皆の衆。わ、わたしは、マインクラフターのアレックス。統括でも、あ、る…ぞ。無事、マインクラフターに…戻れた…。ドリルの完成で、地下トンネルを作れるのは良いこと…だ。よ、よかったな、クロ…ム。

 

 わ、わたしは、その、大変危機的な状況に陥っている。例える、なら、ウィザーに囲まれたくらい。

 

 

「ねえ、アレックスさん。NTRはダメなんだよ? 大樹くんはね…私のなんだよ? ちょっとしたイタズラだったとしても、ダメなの…覚悟、出来てるよね?」

「ふぇん」

 

 

 おかしいな。ウィザーより、杠の方が怖いや。果たして、この状況を打開することは出来るのか…? マグマブロックの上で正座させられているわたしは、そう願わずにはいられなかった。 




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