千空&龍水 vs スタンリー
「よう! とうとう来たぜ!」
「いよいよ始まるのですね…科学対決の決戦が」
ペルセウス号が空母に生まれ変わった同日。遂に、それがやって来た。ボート襲撃や母船・ペルセウス号位置特定での偵察機ではない、攻撃機が。
青空に、その姿が浮かび上がった。厚みのある胴体と短い翼が、空の巨獣のように堂々と舞う。
灰色の機体は、太陽の光を受けてわずかに輝きながら、滑空している。コックピットの丸みを帯びたキャノピーは、まるで目を細めてこちらを見ているかのように静かに前方を見据えている。翼のハードポイントには兵装や装備が控えめに吊るされ、戦闘の気配を漂わせている。確実に、自分たちの方へ近づいて来る。
遠くから見れば、ただの一機の攻撃機。だが、その存在感は圧倒的だ。青空のキャンバスに溶け込みながらも、確かな存在感を放ち、自分たちの心に静かに迫ってくる。間違いない、あれは──
「ハッハー!! 待っていたぞ!! スタンリー・スナイダー!!!」
第二次世界大戦後より運用されてるA-1スカイレーダーですね! どうも、ありがとうございます! 眼福でございまする。へへ。
皆さんどうもごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス! 統括ともゼロワンとも呼ばれる、創造主であ〜る! 汚れも知らぬ、純粋な女の子でもあるぞ。
A-1スカイレーダー、イイですよね〜。
A-1スカイレーダーは、戦場の空を静かに支配する重厚な姿をしていた。短く太めの胴体は、まるで戦闘のために鍛えられた巨獣のように堂々と佇む。翼はやや後退し、厚みのある形状が安定性を誇示している。丸みを帯びたコックピットのキャノピーは、光を反射しながら前方を見据え、パイロットの視界を確保している。
エンジンは胴体の中央に据えられ、排気口からは静かに熱を放つ。迷彩塗装の灰色の機体は、戦闘の荒波に溶け込むように巧みに彩られ、兵装を吊るすハードポイントが翼や胴体に配されている。全体の佇まいは、堅牢さと機動性を兼ね備え、まるで空の戦士のように威厳を漂わせていた。
Dr.ゼノはそれを、見事に復活させてみせた。感嘆に値する。
「これは千空のリベンジ! 弔い決戦!」
「『アレックスのリベンジ! 弔い決戦!』が正解だがナァ? クッフフ!」
「そうだったな!」
「「ハハハハハ!!!」」
千空と龍水がわたしを故人してるのは、いただけないが……当の本人は生きてるからな!?
ゴホン。その2人は、だ。鹵獲したA-1スカイレーダーを修理&改修した機体にパイロットとして乗り込み、そして空母化したペルセウス号から発艦した。
始まる。ドッグファイトが。いやぁ、唆りますなァ。
■□■□■□
サクラメント川は真下。牙を剥く蛇のように、青い帯をのたくり流れていた。空は晴天。だが、今そこには「青」という名の静寂はなかった。
鉄の猛禽、二機。
A-1スカイレーダー。旧時代の重装攻撃機。だが今、その古き巨体が、石の世界の空に目を覚まし咆哮する。千空は眉をひとつも動かさず、コックピットでゴーグルを微調整しながら、前方に浮かぶ黒点を睨んでいた。
「あの高度…クッフフ! スタンリーの奴、こっちが先に出るのを待ってやがるな」
操縦桿を握る龍水の唇が、八重歯ごと吊り上がる。
「ナメてるが油断は一切ない…フゥン! 流石は本職というところか」
「クククッ、唆りまくりじゃねぇか。そんなもん、科学でねじ伏せてこそって話だ」
金属の唸りと共に、機体が若干傾き、空を切るように蛇行する。機体下部に収容されていた「科学アイテム」がわずかに揺れる。まだ使われていない「科学アイテム」は、その存在を沈黙で主張していた。今はまだ秘密兵器。切り札ではない。
その時だった。
「来るぞ、千空。11時方向から、バレルロール突入!」
龍水の勘は、科学とは別の戦術センスで空を嗅ぎ取る。鋭い本能。言葉の直後、眼前の青空を引き裂くように一発の高速徹甲弾が掠めた。千空たちの機体の右側、フラップをかすめて風を切る音が続く。スタンリーの機体が、機銃を放ちつつバンクしながら横を抜けていく。
「上昇角+20度、これは…ハッハー! 回り込むぞ!」
「スタンリーの野郎、本気で撃墜するようだな…クククッ!」
操縦桿が急に引かれ、機体は真上へ跳ね上がる。重量のある科学王国スカイレーダーがその重さを感じさせず、蛇のように天へ昇る。千空の前髪が吹き乱れる。Gがのしかかる…だが彼の口元には、皮肉げな笑みを浮かべていた。
「イヤらしい動きしやがるもんだ」
雲一つない空で、二機のA-1が交錯する。
旋回。
下降。
再上昇。
ノーズを下げたスタンリーの機体が下から迫り、数十メートル下方から銃撃を浴びせる。機体後部に火花。だがまだ…中枢には至らない。安堵する龍水。千空が身を乗り出し、光学照準器を覗く。スタンリーの回避軌道は極端に細い。科学的に割り切ったリスクを負って、最短距離を縫ってくる戦法か。
「真っ向から削りにくる…クッフフ、ナメんじゃねえぞ?」
千空はEスイッチに手をかけかけて──しかし、押さない。
まだだ。まだ使うには早い。
「──龍水、上空の雲影を利用するぞ。乱流を誘発して機体バランスを取らせない。機銃は引き続き封印、フェイント優先だ」
「フゥン? …つまり空そのものを乱す作戦か! 科学と航海術の合わせ技ってやつだな? ハッハー、気に入った!」
科学王国スカイレーダーが一気に上昇。わざとエンジン出力を過剰に吹かし、空気を乱す。スタンリーの照準が僅かに逸れる。数ミリのズレが、百メートル先では致命的な空間に変わる。
空が裂けた。鋼が叫んだ。サクラメント川の上空で、二機のA-1スカイレーダーが交錯し、プロペラの唸りが空を断つ。機銃音が連続し、風切り音に混じって尾翼を裂く悲鳴が響く。
スタンリーの機体はループを描いて背面から突入する千空たちの機体を追い切れず、ほんの一瞬だけ照準が外れた。咄嗟の修正。だが、その遅れは1秒未満──致命には至らないが、優位でもない。
「当たるぜ、船乗りの勘は…!」
「今はパイロットだがなァ」
「それはそうだ!」
「「ハハハハハ!!」」
龍水が機体を逆反転させ、尾翼から弧を描いて裏手へと滑り込む。まるで海の嵐に帆を委ねるような、柔らかいが緻密な操縦。鉄の怪鳥が風を斬り、スタンリーの側面へ回り込む。
「悪くねぇ、龍水。けど、問題はこっからだ。奴の思考回路はゼノが認めるほどヤベー。次の三手、読んでやるよ」
「ゼノが認めるほど…千空は知っていたのか? ゼノという男を」
「いんや全く?」
「ぇ!!?」
千空は、スタンリーの機体が吐き出す排気の揺れを読んだ。
「行動予測…90度バレルロールからの左下急降下。理由は機首下に抱えてる機銃の死角を──」
「──消すためだな! その動きは逆手に取れるやもしれん! 実行しようじゃあないか!!」
龍水が操縦桿を傾ける。機体が一気に下へ旋回、スタンリーの前方へ一瞬だけ機体の腹を晒す。危険な賭けだった。胴体を撃ち抜かれれば一撃で終わる。だが千空は既に、そのタイミングを逆算済み。
「ソッコーでブラインド角に潜り込む! スタンリーには、真正面だけが火線ってわけでもねえ」
擦れ違うたび、プロペラの軸が痙攣したように鳴る。スタンリーの弾が科学王国スカイレイダーにかすめたはしたものの、命中こそしていない。弾道計算のわずかなブレ…それすら、読んでいた。
「唆るだろ? このギリギリを繋いで成立する“技術と知略の空中チェス”ってやつはよォ…!!」
スタンリーのスカイレーダーが一気にスロットルを上げ、ブーストを加速させた。大気を蹴飛ばしながら、千空たちの上空を取って回り込み始める。エネルギーループ。視界外からの急襲。
龍水が舌打ちする。
「あれは迎撃困難だぞ…下手をすれば正面衝突だ!」
千空の脳内では、すでに数式が暴れていた。
「奴の突入速度はおよそ600km/h、突入角度30度、俺らの現在高度との差は……約800フィート。ソッコーで揚力抜いて落ちるしかねえ…!!!」
「任せろ。重力に身を投げるのは俺の十八番だ! ゲームで鍛えた、だがな!」
「科学少年サマはちょいと心配になって来たぜ…」
龍水が操縦桿を下へ強く引き、機体は抵抗を振り切って真下へ落ちる。まるで滑空ではなく、“墜落”。だがそれが回避手段。敢えて自由落下を使い、スタンリーの突入角から外れるコースへ滑り込むという算段。
空圧に、機体が軋む。リベットが軋み音を立て、外装が捩れる。だが壊れない。何故なら、カセキ製だからである。
スタンリーもまた冷静だった。狙撃失敗を見て即座に反転させバンク、上昇した。もはやその機体は、空を泳ぐ猛禽。性能など、関係なかった。
「ッハー! 来るかと思ったぞ、スタンリー?」
刹那、風が止んだ。いいや、違う。止まったわけじゃない。沈黙したのは、空そのもの。鼓膜を貫く風圧、機銃音──すべてをかき消して、ただ一つの“科学の鉄槌”が、今この天蓋に置かれた。
「秘密の科学アイテム、起動スタンバイ完了だ」
千空がスイッチレバーに指をかける。同時に下部兵装ベイから、円筒状の投下装置がジリジリと展開し始める。
「ハッハー! 使い所は“今”だ! 敵機の回避性能を粉砕し、機体を無傷で空から落とす──これこそが、貴様の考える“科学の迎撃”! 違うか!」
「クッフフ、100億満点やるよ」
龍水の笑みが閃いた。フィンガースナップが鳴り、青白い雷のように反響する。
その頃、スタンリーの機体は僅かに軌道を変えていた。高度を再び上げ、視覚範囲を掌握しようとする。鋭利な感性が、何かを察知したのだろう。しかし…気づいた時には、もう遅かった。
スタンリーのスカイレーダーが千空たちの後方上空に来た、その瞬間──
「EMPキャニスター、投下!」
「ハッハー! カセキとクロムと、技術開発部に感謝だな!」
「クラフトには俺も関わったんだぜ? 仲間外れはよくねえぞ〜」
A-1スカイレーダーの腹が開く。黒鉛と銅線を巻いた円筒カプセルが、重力に任せて空へ落ちる。散布半径300メートル、初期爆発は起きない。音も光もない。だが、落下後0.6秒、起爆用コンデンサーが限界放電を迎えた瞬間、空間に“音なき轟音”が走った。
ザザッ……
無線のすべてがノイズと化した。スタンリーのコックピットが一瞬でブラックアウトする。パネル、ジャイロ、誘導装置、無線、通信、電子照準──全滅。エンジンすら点火信号を受け取れず、沈黙した。
スタンリーは操縦桿を引く。補助燃焼でかろうじて浮力を維持しつつ、機体をバランス制御で滑空状態へ移行──
しかしそれが、千空の“計算”だった。
「落下速度平均68m/s、EMP有効時間約6.4秒……あの距離、補助推力じゃリカバリー不能。ソッコーで墜ちるぜ」
カプセルは1発だけではない。次の瞬間、第二波、第三波が時間差で投下される。EMPは連鎖的に空間を覆い、スタンリーの逃げ場を削る。スタンリーの機体を見つめていた龍水が呟く。
「スタンリー。貴様は古いルールを知りすぎてた」
「アセチレンガスの絨毯爆撃…いっきま〜す☆」
「いくらなんでもやり過ぎだぞ千空貴様??」
スタンリーの機体は全手動、フラップを展開し腹からの墜落を回避。滑空姿勢を取り、機体は回転しながらも水平を維持する。滑空モードで地面が迫る。そして──
ズザァアアアアアッッッ!!!
不時着した。機体はボロボロになりながらも、胴体は折れていない。千空の狙い通り、『攻撃は物理破壊ゼロしてあげるから、不時着は何とかしてね☆』で敵戦力を空から落とした、完璧な作戦だった。これには科学少年はニッコリである。
「勝ったな、俺たちの科学が」
「クククッ! だなァ」
こうして科学のドッグファイトは、科学王国の勝利で終わった──
「ハッハー! しっかし喜ばしいことだな! 落としたぞ、スタンリーをウオォォォォ!!?」
「吸い込んじゃったね、俺らの飛行機も☆」
「ふざける場合カァァァァ!!!」
「てへ」
自爆し(物理破壊ゼロ)、不時着コースしてしまうが…。
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