励みになります。
「千空…お前ゼロからこれを!?」
復活した大樹が驚愕の声を上げる。彼が見ているのは、アレックスたちが築き上げた文明の拠点そのものだった。
「まっ、つっても大部分はそこの女だがなァ」
千空はツリーハウスを顎でしゃくりながら答えた。今日は記念すべき日となる。何故ならば3700年という永い時を経て、大樹が復活したのだから。
アレックスは空を見上げる。雲一つない青空がどこまでも広がっていた。まるで、二人の再会を祝福しているかのようだ。
「おいアレックス、コッチに来い」
千空に呼ばれ、アレックスは大樹のもとへ向かう。目の前に立つ筋肉質な少年は、太陽のような笑顔で彼女に手を差し出した。
「初めましてだな! オレの名前は大樹だ! よろしくな!」
そのあまりにも真っ直ぐな自己紹介に、アレックスも自然と笑みがこぼれる。
「マインクラフターのアレックスだ。よろしく大樹」
二人は固く握手を交わした。ゴツゴツとした大きな手だったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
「千空、それにアレックス…大変なんだ! 杠の姿がないんだ! 石化する前、クスノキにしがみついていた筈なんだが!」
頭を抱え、どうしようどうしようと狼狽える大樹。
「もう忘れたのかよ? 100億%書いていた筈だぞ? 『川下れデカブツ杠も一緒だぞ』ってな」
「そうだったァァアー!!」
元気がいい男だ。アレックスは思わず、鬼にならないかと誘われた某炎柱を彷彿とさせた。
「アレックス、大樹を杠のトコへ案内してやれ」
「頼む!」
アレックスは頷くと、大樹を研究室へと案内した。千空も後ろからついてくる。案内したのは研究室だった。その中央には、一体の石像が静かに佇んでいる。それが小川杠だった。
「…ッ」
杠の姿を認めた瞬間、大樹は彼女の元へ駆け寄り、その前に正座した。転倒して『あ、破片になっちゃった♪ (*ノω・*)テヘ』なんてことにならないよう、杠の石像はアレックスが縄でしっかりと固定してある。
「おし! やっとやっと言えるぞ!」
アレックスは困惑したその時、千空がちょんちょんとアレックスの肩を突いた。そして、彼女の耳元で小さな声で囁いた。
「お子ちゃまだなァ、アレックス。これは杠への告白だぜ」
告白。アレックスはその言葉の意味を反芻する。自分の好意を相手に伝える行為。テレビや漫画でしか見たことのないそれが、今目の前で始まろうとしていた。
「聞いてくれ杠! あの日の続きを! もう遥か遠い昔の…あの日の続きを!」
大樹の声が研究室に響き渡る。その声は決して揺らぐことのない、一途な想いに満ちていた。
「大好きでした。何百年も何千年も…!!」
大樹の瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。アレックスは初めて目撃した。純粋でひたむきな愛の告白を。
「アレックス、テメー…」
「目から笹が!」
「何言ってんだコイツ??」
気づけばアレックスの目からも、涙がこぼれ落ちていた。彼女はその光景に、深い憧憬の念を抱いた。これは、ただの恋愛ではない。肉体だけの関係でもなく、見返りも求めない──純粋なる愛情。これこそが、一切の汚れのない聖域。人はそれをこう呼ぶ──純愛と。
翌日、アレックスたちはワイン作りに取り掛かった。
■□■□■□
(まさか何気ない散歩の途中で、ワインの元である野生のブドウを見つけるとは。しかも鈴なりに実ったものが大量に)アレックスはその幸運に感謝した。
『ワインはブドウでも作れるぞ』
ふと、そんな言葉が脳裏をよぎる。思えば遠い昔、学校の授業で習ったような気もすると、アレックスは記憶の引き出しを探った。その知識が今、このストーンワールドで、とてつもない価値を持つことになる。
「ワイン作るぞテメーら!」
千空の高らかな宣言を合図に、かくして初めてのワイン作りが始まった。
千空曰く、ワインの作り方は至って簡単だそうだ。ブドウを潰して、容器に入れあとは毎日ただ混ぜておけばいい。しかしその単純な工程の裏には地道で丁寧な作業が隠されていた。
まず、収穫したブドウの山から熟していない青い実や腐ってしまった実を、一粒一粒手作業で取り除いていく。この選果作業が、ワインの味を左右する最初の重要なステップだった。
それが終わればいよいよ、『ブドウを潰して容器に入れて毎日混ぜる』という本工程に入る。潰すためのタライ型の容器も、発酵させるための壺型の容器も、全てアレックスがこの日のためにクラフトした特製の土器だ。
ブドウを潰すのは、手ではなく素足で行う。アレックスと大樹がタライに入り、音楽に合わせて踊るようにブドウを踏みつけていく。最初は少し抵抗があったアレックスだが、ぷちぷちと弾ける果実の感触と甘酸っぱい香りに包まれるうちに次第に楽しくなっていった。
何も、足でブドウを潰すのは不思議なことではない。古代から行われていた伝統的な製法であることは、歴史が証明している。この作業を『破砕』というのだと、千空は教えてくれた。
ブドウを潰し終え、果汁と果皮果肉が混ざり合った液体が出来上がると、次は発酵の段階に入る。これを壺に移し、毎日混ぜる作業が三週間続く。混ぜている間も終わった後も、酵母が呼吸できるよう完全に蓋はしない。ただ布を被せておくだけ。これでワインは完成するのだ。
ワイン作りが進む中、千空がその原型について語ってくれた。
『ワインの原型だが、有史以前から自生していたブドウが自然に潰れて、その果汁が野生酵母の力で発酵して、アルコールを含む液体となったものだ。授業で習ったろ? アレックス』
『授業か。懐かしいな。授業サボっ…いや体調不良が酷くてよく補習を受けていたなぁ』
『コイツ全く誤魔化せてねェ…!』
補習と千空から色々学ばされたなと、アレックスは思った。文明が栄えていた時代であれば、自分たちの行為は酒税法違反、つまり密造酒となり逮捕されること間違いなしだ。
しかし、ここは文明が崩壊したストーンワールド。法も警察も存在しない、自由な世界なのだ。
そして運命の日がやってきた。
「三週間が経ったな」
「嗚呼、そろそろだ」
千空とアレックスは壺を前にして、ゴクリと喉を鳴らす。遂にその時が来たのだ。
初めての試飲。元の世界では未成年飲酒となる行為だ。だが、3700歳を超えているアレックスには、何の問題もない。地球と《くらふたーのせかい》で過ごした年数を合わせれば3716歳である。
「う〜ん、これはこれは…」
壺の口に鼻を近づけると、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。間違いない。これは父と祖父がしょっちゅう飲んでいたアルコールの匂いだ。懐かしい。アレックスは試しに、一口飲んでみることにした。このためにわざわざクラフトしたワイングラス風の土器に琥珀色の液体が注がれる。
(楽しみだ。では早速…いただきます!)
「…ふむ」
アレックスは液体を口に含み、舌の上で転がすようにして、よ〜く味わった後、ちょっとだけ顔を顰めた。渋みと酸味が想像以上に強く、舌を刺す。
(こっ、これを大人は美味いと言って飲んでいたのか…)
「…ッ!?!?」
「クククッ。思ったよりイケるじゃねぇーか。市販品のより100億倍ヒデェがな」
隣では千空が、ケロリとした顔で飲んでいる。まあ千空の言う通り、意外と平気で飲める。大樹は一口含んだ途端、『ブー!?!?』っと盛大に吹いていたが。
次第に舌が慣れてくると、顔の顰めが消えていく。身体の芯がぽかぽかと温かくなり、なんだかもう少し飲みたくなったがやめておく。しかしと、改めて思う。こんなにも簡単にブドウでワインが作れるんだなと。
「地道に一歩一歩だかんな。この先はちぃーっと、骨が折れるぞ」
千空は不敵な笑みを浮かべる。その目は次なる科学のステップを見据えていた。
「始めんぞ。ワインの蒸留──ブランデーの作り方をよ」
(アレ? それも確か犯罪だったような…? まあそもそも文明が崩壊しているのだ。警察も法律もない。だからあれである。犯罪なんてないんだよォォオ!!)
「千空!」
「なんだ? デカブ-ツ」
「ワインの市販品飲んだことあるのか?」
「白夜のワインをちょっとな」
白夜白夜…千空の父親だろう。しかし、蒸留とはなんだったか。アレックスは確認のため千空に聞いてみる。
「熱して冷まして垂らしてアルコール度数を高くするって合ってるか?」
「クククッ。100億満点やるよアレックス。やろうとしてんのは紀元前三千年──メソポタミア文明もやってた方法だ」
(そんなに昔から。思えば授業でも習ったような気がする。それなら自分たちでもできるかもしれない。案外一回目で成功したりして…!!)
「もう一度言うぜ。紀元前三千年──メソポタミア文明の連中も土器で蒸留してたんだ。やってやれねぇことはねぇ」
千空は自分に言い聞かせるように呟いた。
「唆るぜ! これは…あ」
加熱を始めた、その時だった。ピシッという嫌な音と共に、土器に亀裂が走る。次の瞬間、それはあっけなく崩壊し、中のワインが音を立てて地面に吸い込まれていった。強度不足によるご臨終だった。
「ああ…」
千空はその場にがっくりと膝をついた。その背中はあまりにも小さく見えた。アレックスと大樹は顔を見合わせると、力なく笑いながら科学少年の肩を叩いて励ましたのだった。まだまだ先は長い。
作者、最高司祭アドミニストレータでございます。
原作が完結した今でも、ドクターストーンは愛されております。アニメ四期の制作がされているのも、その証拠です。
わたしはこの原作の二次創作を執筆し、本日投稿させていただきました。これからもお付き合いいただけると、幸いです。
感想やお気に入り登録、高評価などをいただけますと、作者のモチベーションとなりますので是非よろしくお願いします。