クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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せいあつ、たのしいね! by 創造主


海賊部の制圧の時間

 ──発見ー!!! ゴーゴー!!! 

 ──あれが潜水艦かぁ…ニヤリ。

 ──もっとだ…もったクラフターを楽しませろォォォ!!! 

 

 

「ソナーに複数の生体反応あり! 急速接近中!」

「停止中の本艦にまっすぐ向かってきます!」

「正体不明! ですが、敵意があると判断! 総員、艦内迎撃用意!」

 

 

 潜水艦を制圧するために集められた、部門のひとつ。その名も、海賊部。彼らは興奮していた。何故なら、いずれこの潜水艦は「海賊部のモノ」となるからである。

 

 

「なんだあの集団は? ふざけてるのか!?」

「艦内各員、小火器で応戦準備! 絶対に内部へ入れるな!」

「ありゃポーションか何かか? 装備も無しに川を泳ぎ回るなんて聞いたことねェぞ!!?」

 

 

 クラフターは褒め称えた。素晴らしい鉄の塊だ。巨大な構造物である。名も知らぬ者たちが、よくぞここまでのものを造り上げるとは。その点、初期の沈没船はしょぼかった。自分たちが住まう、元オーバーワールド現〈くらふたーのせかい〉と同等…いや、それ以下かもしれない。

 

 

「泡にトライデント、そして奇妙なカボチャ頭…原始的なのかそうじゃないのかハッキリさせろよ!」

「ふっ、河童ごっこか…ナめやがって!」

「外殻に張り付いたぞ! 衝撃に備え…って、なんだこの音は!?」

 

 

 海賊部は、停止してる船体に取り付いた。抵抗がないので、やりたい放題である。まず始めたのは、ツルハシによる解体作業。艦内には、「カン、カンカンカン!」という不気味な音が鳴り響いた。

 

 

「バカ正直に掘り進めてきやがって! 浸水で溺れ死ぬだけだ!」

「某区画より侵入ありとの報告が!?」

「隔壁閉鎖急げ! 浸水区画を隔離しろ!」

「バカな!? もう突破されただと!」

 

 

 正確な採掘作業に、クラフターはニッコリした。この硬さ、黒曜石よりはマシ。だから、とても良かったと笑顔を浮かべた。ありがとう、名も知らぬ潜水艦よ。だが、すぐに水が流れ込んできた。これには流石のクラフターも驚き…することはなく、新しい遊び場にピョンピョンする。天真爛漫で何よりである。

 

 

「来るな来るなー!!!」

「機関室に侵入されたぞ!」

 

 

 気付いたことがある。武装村人が騒がしいのだ。クラフターとしてはもっと静かに見学したいと考えていたが、この様子だと無理っぽいなと判断すると、あれを設置した。

 

 ──うるさいな〜、武装村人…ほいっと。

 

 

「なんだ、あのブロックは…? あ、アハハハ! そんなもので、俺たちの動きを…」

「報告! 司令室にも敵が! 隔壁が斧で…」

「投げた…って、え!?」

 

 

 蜘蛛の巣ブロックを投げた。スパイダーからドロップする、あの糸で出来たブロックである。蜘蛛の巣は触れた者の動きを著しく鈍らせるという、便利ブロックであるのだ。

 

 

「そ、そんな…体が…動か、な…」

「司令室の計器が、ツルハシで…やめろ、やめてくr…ギャァァァ!!!」

 

 

 それを使ったクラフターは、艦内を闊歩する。えいやささほいやささ、そんな声と一緒に。するとあら不思議、『なんということでしょう〜』が発生した。珍しいものを目撃することとなったクラフターは、観察することにした。観察しないと損だよね、という気持ちで。

 

 

「機関が、俺たちの心臓がァァァー!!?」

「やめろ、そのレバーは…」

 

 

 なんと武装村人の拠点である機関室や司令室が、めちゃくちゃにされていたのだ。原因はもちろん分かってる。我々クラフターの仕業である。まさかこんなに面白い音がするとは思わなんだ。〈くらふたーのせかい〉での場合、レッドストーン回路はただ機能するものだが、この世界では違うらしい。火花や煙がブシャーと出てる。これは凄いと興奮せずにはいられなかった。

 

 

「生きるのを諦めるな! 最後の弾倉だ! こいつで…こいつで…っ」

「ひゅー…もう…だめ…だ…」

 

 

 うっかり武装村人の腕を、バサリと切ってしまったことも。

 

 

「くっ…お前ら、こいつだけは見逃してくれ! 頼む! 殺すなら、俺を…」

 

 

 とはいえ彼ら武装村人はアイアンゴーレムと同様、あくまでも防衛しているだけに過ぎない。荒らしではあらず、なのだ。なんか死にそうだし助けてやろう。

 

 何もクラフターは別に、一方的な殺しを愉しみたい訳じゃないのだ。頭を斧でカチ割りたい気持ちなんぞ捨ててしまえ、だ。そんなことしたら、本当に絶命してしまう。クラフターは自制することが出来る存在なのだ。

 

 

「なんだそれは…回復のポーションか? …まさか、投げるつもりか?! させる…しまった!?」

「…あ、れ…? 生きて、る…?」

「ぇ…傷が、元通りだって!? それに、俺の気力も回復してる…助けてくれたのか?」

 

 

 概ね片付いた。治療のスプラッシュポーションを投げ終えたクラフター。あとは…おっ? 最後の武装村人が司令室の隅で震えている。

 

 

「さあ降伏しろ! …とは言わん。もう好きにしてくれ…」

「先輩…」

 

 

 銃も捨て、項垂れる武装村人。つまらんな、と落ち込むクラフターはエンダーパールを取り出した。ワープして、目の前に現れるために。

 

 

「フッフフ…! どうせ殺すなら一思いに……は??」

「な、目の前に、な、なんで…っ」

 

 

 おっと、驚かせてしまった。さて、目的は達成した…この潜水艦を自分のモノにするんだォォォォ!!! クラフターは高ぶり、最後の武装村人の目の前で作業台を設置した。

 

 

 ──やあ、どうも。今日からこの潜水艦は我々のモノとなる。

 ──移動拠点として使いたかったんだ。ありがとう。

 ──早速、チェストを置いてもイイかな? 邪魔なら剣のサビにする。

 

 

 クラフターからすればちゃんと伝えてはいるが、潜水艦の乗組員からすると『ウォウォ! ウォウォウォ』と言語されず認識される。しかし──

 

 

「「「ひぃー!!?」」」

 

 

 そんなものは関係なく、最後の者も戦意を喪失し、隅で泣き崩れた。彼ら潜水艦の乗組員からすると、それは悪魔の凱旋に他ならない。当の創造主は、完璧な拠点をゲットしたぜやったぜと喜んでいた。実に呑気なものである。

 

 

「なんで生身で銃弾を受け止められる!? 『痛いのは最初だけですよ』ってか? …やかましいわ!」

 

 

 一方で艦内では、クラフターによるリフォームが始まっていた。司令室には色とりどりの羊毛ブロックが敷き詰められ、機関室のエンジンは巨大なカボチャランタンに置き換えられ、魚雷発射管だった場所には絵画が飾られ──だ。

 

 …乗組員にとっては悪夢以外の何者でもないものであることなど、創造主には気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 乗組員たちにとってそれは、悪夢以外の何者でもないものである。

 

 自分たちが誇りとしてきた鋼鉄の城は、意味不明なオブジェクトで飾り付けられたおもちゃ箱へと姿を変え、その中で得体の知れない侵略者たちが、まるで我が家のように振る舞い、楽しげな唸り声を上げている。もはや抵抗する気力も、恐怖で叫ぶ力さえも残されてはいなかった。

 

 ただ、この非現実的な光景が早く終わることだけを、誰もが虚ろな目で願っていた。

 

 

 その、悪夢の真っ只中に──

 

 

「ゴボゴボゴボッ…!」

 

 

 派手な泡の音と共に、こじ開けられたハッチから少女がひらりと舞い降りた。

 

 燃えるようなオレンジ色の長い髪が、艦内に残る水気を含んでしっとりと揺れる。右目を覆う黒い眼帯とは対照的に、左目の輝くような緑の瞳が好奇心を宿して周囲をきょろきょろと見回した。ドクロの飾りがついた黒い海賊帽に、金色の肩章が輝く豪奢な船長服。

 

 その出で立ちこの混沌とした状況において、あまりにも場違いなほど威厳と気品に満ちていた。

 

 彼女こそ、この海賊部を統括する少女──アレックス05。部下であるクラフターたちが『ウォウォ!』としか意思疎通できないのに対し、彼女だけが流暢な村人語──すなわち人間の言葉を解する、唯一無二の存在であった。

 

 

 ──同志隊長! 

 ──アレックス隊長だ! 

 ──お待ちしておりました! 

 

 

 彼女の姿を認めたクラフターたちはそれまでの作業をぴたりと止め、一斉に駆け寄ってきた。まるで遠足先で珍しいものを見つけた子供が、母親に報告しに来るかのような純粋な喜びように。

 

 アレックス05の後ろには自身の護衛である、89式5.56mm小銃を携帯する2名の護衛兵の姿が。彼らは駆け寄る同志に照準を合わせたものの、彼女の合図で銃を下ろした。

 

 

「誰か、状況報告を。鹵獲から現在までの、正確なタイムラインを」

 

 

 アレックス05のその問いに一人のクラフターが胸を張り、誇らしげに腕を広げてみせた。

 

 

 ──最高の移動拠点です! 

 

 

 その言葉が指し示す先を──司令室だった場所の、変わり果てた光景を見て、アレックス05の笑顔は完璧に固まった。

 

 床には、赤と白の羊毛ブロックが市松模様に敷き詰められている。壁には、本来あるはずの配管や配線が剥き出しになった上から、なぜか額縁に入った鱈の絵が等間隔に飾られていた。天井からは、松明の明かりがシャンデリアのように吊り下げられ、チカチカと不規則に点滅するレッドストーンランプが、さながら場末のダンスホールのような雰囲気を醸し出している。

 

 そして、極めつけは司令官が座るべき艦長席。そこには、ピンク色の羊毛でできたフカフカの玉座が鎮座していた。

 

 隅の方では、潜水艦の元乗組員たちが、ガタガタと震えながら抱き合っている。

 

 アレックス05は緑の瞳をこれ以上ないほどに見開いて、ゆっくりと瞬きを繰り返した。ぱち、ぱち、と。目の前の情報が彼女の脳内で処理されるのを、時間が待ってくれているかのようだった。やがてその形のよい唇から、か細い声が漏れた。

 

 

「ナァーニコレェ」

 

 

 たっぷり三十秒はあっただろうか。長い沈黙の後、彼女はこめかみを押さえて深々とハァンした。

 

 

「…だ、誰か説明してくれる?」

 

 

 もはや怒りを通り越して、純粋な疑問に満ちていた。一人のクラフターが、待ってましたとばかりにアレックス05の袖を引っ張り、機関室だった場所へと案内する。

 

 機関室は、もはや厨房と化していた。巨大で複雑なエンジンは半分ほど解体され、その残骸の上に、ずらりとかまどが並べられている。かまどの上ではジュージューと音を立ててステーキが焼かれ、別の場所では醸造台が怪しげな色のポーションをグツグツと煮込んでいた。

 

 その隣では、作業台の上で別のクラフターがダイヤのクワをせっせとクラフトしている。川の潜水艦の中で、需要なんて100億パーセントないダイヤのクワ。謎は深まるばかりだった。

 

 

 ──この鉄の塊、凄く燃費がいいぞ! ステーキが8枚も焼けた! 

 ──このパイプ、ポーションの材料を流すのにちょうどいい! 見てくれ、ネザーウォートが!! 

 

 

 自慢げに報告する部下たちに、アレックス05はもう相槌を打つ気力もなかった。

 

 

「これだから、生粋のマインクラフターは…」

 

 

 ただ、力なく呟くだけである。彼女の視線は、機関室の隅で気絶している機関員たちに向けられていた。彼らの周りには回復のスプラッシュポーションが砕けたらしき跡があり、キラキラとしたパーティクルが舞っている。こんな仕様知らん。善意と狂気がごちゃ混ぜになった、クラフターらしい光景だった。

 

 次に案内されたのは、居住区だった。ここでは捕虜となった乗組員たちが、比較的丁重に──クラフター基準で──扱われていた。一人一人にベッドが割り当てられ──もちろん、色とりどりの羊毛ベッドだ──チェストの中には焼きたてのパンやクッキーが詰め込まれている。しかし、乗組員たちはそれに手をつけるどころか、恐怖で顔面蒼白だった。

 

 何故なら部屋の中央に置かれたジュークボックスから、陽気なメロディが大音量で流れ、その周りを色鮮やかなオウムたちが楽しげに踊り狂っているからだ。クラフターたちはそれを手拍子しながら眺め、時折、捕虜たちに『さあ、君たちも!』と言わんばかりに肩を叩く。乗組員たちがビクッと飛び上がるたびに、クラフターたちは不思議そうに首を傾げるのだった。

 

 

「……もう、いいわ」

 

 

 アレックス05はついに根負けし、視察を打ち切った。彼女は司令室──だった場所──に戻ると、捕虜たちの中から、かろうじて正気を保っていそうな、階級の高そうな男に歩み寄った。男は長いオレンジ髪の少女が近づいてくるのを見て、ビクッと体をこわばらせた。だが、逃げ出す力は残っていなかった。

 

 アレックス05は、出来るだけ穏やかな声を作って話しかけた。その緑の瞳が、まっすぐに男を見つめる。

 

 

「こんにちは。私はアレックス05。この…ええと、海賊部のリーダーよ。軍事部の派生形のね」

「…っ!」

 

 

 男は息を呑んだ。目の前の可憐な少女があの怪物たちの統率者だという事実に、新たな絶望が彼の心を支配する。

 

 

「まず、私の部下が乱暴したこと深く謝罪させてもらう。見たところ、大きな怪我はなさそうだが…大丈夫か?」

「…な、何が目的なんだ…我々を殺すのか…?」

「殺す? ハハ! まさか〜。逆に聞くが、何故そんなことする必要がある?」

 

 

 アレックス05は、心底不思議そうに言った。彼女にとって殺しは最終手段であり、経験値やレアドロップでも落とさない限り、ほとんど意味のない行為だった。もしも彼らが経験値とアイテムドロップするなら、殺すかもしれないが…。

 

 

「見ての通り、私たちは新しい拠点が欲しかっただけ。だからちょっとだけ、住みやすいように作り変えさせてもらった……想定外ありまくりだが」

「きょ、拠点…? これが…? 作り変えた、だと…?」

「当然だろう? マインクラフターだからな」

 

 

 男は言葉を失った。目の前の少女は、自分たちの常識がまったく通用しない世界の理で動いている。それを悟った瞬間、恐怖よりも先に、奇妙な脱力感が彼を襲った。

 

 

「うるさいな」

 

 

 横から、一人のクラフターが『同志! この村人、さっきからずっと暗い顔だ…もっと楽しい音楽をかけるか? 魔王とか』とアレックス05に話しかけた。彼女はストレス解消のためか、そのクラフターを何の躊躇いもなく射殺した。男はビクッとした。

 

 

「と、いう訳でだ。君たちを害するつもりは少しも無い。よろしくな」

「あ、あ、ああ、あ…」

「ただ私たちを攻撃したり、逃げ出そうとしたりしないよう頼む。どういうわけか彼らの生態上、悪気はないんだが…敵対行動には過剰に反応しちゃうからさァ?」

 

 

 その言葉は穏やかでありながら、絶対的な脅迫──本人的にはただお願いしているだけ──だった。男は、こくりと頷くことしか出来なかった。

 

 アレックス05は話は済んだとばかりに、ピンク色の玉座にどっかりと腰を下ろした。ギシ、と羊毛の塊が奇妙な音を立てる。彼女は天井を仰ぎ、今日一番の、そして最大のハァンを吐き出した。オレンジ髪が、玉座のピンク色と奇妙なコントラストを描いている。

 

 

 ──同志隊長! このキラキラ光るガラス、ビーコンの材料になりそうだ! 

 ──この赤いボタン、押すと変な音がするぞ…楽しい! 

 ──この紙の束、全部地図みたいだぞ! 

 

 

 アレックス05は、もはや何も言うまいと心に決めた。この純粋でそれゆえ手に負えない部下たちを止めることなど、出来やしないのだ。ならばリーダーである自分が、この混沌を受け入れ、導いていくしかない。

 

 

「もう…好きにしていいわ…」

 

 

 諦観と共に呟くと、アレックス05はこれからのことを考える。緑の瞳がふと、司令室の窓──クラフターが勝手に取り付けたガラスブロック──の外に広がる、穏やかな川の流れを捉えた。魚たちがのんびりと泳いでいく。

 

 

「さて、と」

 

 

 アレックス05は気を取り直したように呟き、その唇に、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「名前は知らないし覚えるつもりは毛頭ないが…艦長よ。Dr.ゼノ拠点の潜水艦停泊地まで案内して貰おうか? ああ、安心したまえ。エンジンは既に再構築済みだ」

 

 

 男は──艦長は、顔を上げた。その目には、もはや絶望の色はなかった。恐怖が臨界点を超えたとき、人の心に残るのは、奇妙なほどの静けさだった。彼は、この少女に従う以外の道がないことを。

 

 こうして海賊部による潜水艦制圧は、見事成功を収めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

「潜水艦制圧したぜ。終わりだ。仕事は」

「ゼロワンはツッコむ…『スタンリーの真似するなよ??』っと。もう一つは〜…恐怖させてどうする!? ナニしてんだ!! このわたし01以外ちゃんとしてないな!! ったく…っ」

「テヘペロ」




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