クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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原作改変、とどのつまり…。


創造主とは
ゼノの独白


 科学は、素晴らしいものだ。

 

 再現性があり、法則に従い、いかなる時も嘘をつかない。観測し、理論化し、実験し、証明する。曖昧さや情緒とは無縁の、精緻で冷徹な真理。それは神話や祈りとは決定的に異なる「人類の叡智の証明」であり、文明の核そのものだ。

 

 だが、それを真に理解している者は、あまりにも少ない。

 

 ボクは数えきれないほどの論文を書き、数多のプロジェクトに関わってきた。衛星軌道の制御、無人探査機の運用、生体工学と量子演算の接続…。そのどれもが未来を切り開く一歩となるはずだった。だが同時に、そのすべてが“妨害”された。

 

 倫理という名の情緒、政治という名の支配欲、そして「人類愛」とやらを掲げた、いかにも正義面をした愚者たち。

 

 彼らはこう言う──

 

 

『それは人道的でない』

『規範に反する』

『悪用されるリスクがある』

 

 

 ──なんと聞き飽きた文句だろう。だが実のところ、その本質は極めて単純だ。理解できないものが怖いだけ、なのだ。

 

 自分の脳で扱えない領域の科学技術を、彼らは“魔法”と呼ぶ。だからそれを封じようとする。まるで、自らの限界が世界の限界であるかのように振る舞う。滑稽で無様で、なんと愚かしいことか。

 

 だがボクは違う。ボクは知っている。

 

 科学は、すべての扉を開く鍵だということを。

 

 ボクが愛したのは、誰かに称賛されるための成果などではなかった。誰かの役に立つ「いい人」になるためでもなかった。科学の追求は、快感だ。

 

 時に人を傷つけるとしても? 時に規範から外れるとしても? 何の問題がある。

 

 倫理は科学の敵だ。政治は科学の重しだ。人類愛は、時に進化の足を引っ張る毒になる。

 

 何百年も前の話だ。天才たちがどれだけ宗教に殺されてきたことか。ガリレオは裁判で沈黙を強いられ、ダーウィンは罵倒され、フランケンシュタインはフィクションに封じ込められた。

 

 その伝統は、今なお続いている。テクノロジーを誹謗しAIを敵視し、遺伝子編集を「禁忌」と呼ぶ。ナノマシンを使えば「不自然」と騒ぎ立て、長寿薬があれば「神に逆らう」と叫ぶ。

 

 ああ、実に嘆かわしい。人間は神になりたがっているくせに、神の目を持つことを拒む。だからボクは、彼らを信じない。どれほど正義を語ろうとも、理解を拒む者は科学にとっての敵でしかない。

 

 かつて、ボクの研究が兵器開発に転用された時も、世間は口をそろえて言った。

 

 

『科学者としての責任を果たせ』

 

 

 滑稽だ。まるで、科学者が世界の道徳の番人であるかのような物言い。技術をどう使うかは、常に人類全体の選択だというのに、矛先だけは開発者へと向けられる。

 

 人類の歴史とは、都合のいい責任転嫁の繰り返しだ。

 

 

 もし誰かが火を使って家を燃やしたら、火を発見した人間を裁くのか? 

 もし誰かがナイフで人を殺したら、刃物を作った鍛冶屋が悪いのか? 

 

 

 違うだろう? 火は、ナイフは、科学は──ただそこにあるだけだ。問題は、それを扱う人間の側にある。

 

 ボクがこの世を離れるその日までも、「歴史の流れが異なるこの地球に転生しても」…信じていることは一つしかない。科学こそが、すべての束縛から人類を解き放つ唯一の道だということ。

 

 それを信じない者は、去ればいい。共に歩けぬ者は、道を譲ればいい。ボクは振り返らない。振り返る意味がない。未来だけが、科学の目的地なのだから。

 

 そう、科学は素晴らしいものだ。その美しさを理解できる者だけが、このエレガントな真理の庭園を歩む資格を持つ。

 

 だってそうだろう? 

 

 科学とは世界を理で解き明かし理解し、そして支配するための知の結晶だ。

 

 それは人類に与えられた唯一にして、最高の手段。思想でもなく、宗教でもない。ましてや感情や倫理などという不確かな揺らぎでは到底辿り着けない場所へ、ボクらを運んでくれる真理の羅針盤。

 

 なのに、どうしてだろうか。

 

 それを実践しようとする度にまるで罪人のように糾弾され、排除され、打ち捨てられてしまう。科学は素晴らしいものだ。それなのに倫理だの政治だの、人類の進歩を阻害するゴミのような御旗をかざす愚者たちが、いつだってその最前線に立ちはだかってくる。

 

 安全性がどうの、生命倫理がどうの、社会影響がどうの……。

 

 そういう輩に限って、正確な知識もなければ代替案も持たず、ただ怯えたように「進歩」を拒絶する。

 

 そんな無知蒙昧どもに付き合うほど、ボクの人生は長くない。あくまでボクは「科学の進歩」そのものに忠誠を誓っている。そしてその忠誠は、裏切られたことがない。ボクが思考し計画し計算し設計したものは、大抵現実になる。実にエレガントに、だ。

 

 そうとも。科学とは、力だ。

 

 この世のすべてを司る、唯一にして絶対の法則。光速の粒子も魂の揺らぎも、結局は数式に還元される。人類が築いた歴史のすべて、文明の栄枯盛衰すら、科学の枝葉に過ぎない。だが人々は、この力の前にひれ伏そうとはしなかった。

 

 むしろ怯え、遠ざけようとした。倫理、道徳、民主主義、政治、宗教、感情──そんな無意味な“御旗”のもとで、科学の進歩に鎖をかけ続けた。愚かだ。滑稽だ。

 

 だからこそ、ボクは思う。科学とは本来、為政の道具であるべきだ。正義ではない。博愛ではない。ましてや万人の幸せなど、無意味な理想論に過ぎない。科学とは命令であり、指令であり、命運そのものなのだ。

 

 ボクの科学で世界を導き、衆愚どもを制御する。誰が生き、誰が死ぬか。その判断を、ボクが下す。思想や信条ではない。計算と効率によって。エレガントな支配とは、混乱なき均衡である。民衆が幸福を錯覚し、支配者が黙して操る構図。

 

 生殺与奪の権利を、ボクが持つ。それは神にも似た責任を伴う決定権だが、恐れるには値しない。ボクはそれを担うに足る頭脳を持っている。少なくとも、歴史上のあらゆる独裁者よりも、はるかに論理的で公正だ。

 

 そう、独裁。

 

 かつてそれは悪とされた言葉だ。だが思考を巡らせれば結局のところ、あらゆる“最も効率的な政治体制”は独裁に行き着く。民主主義は時間がかかる。合議は妥協を生み、妥協は不完全な結果を導く。一人で決める方が早く、正確で、徹底できる。

 

 だが、それだけではない。ボクが独裁者になりたいと願う理由は、もっと単純で、もっと根源的なところにある。

 

 それは──ロマンだ。世界のすべてをひとつの知性で統べるという、かつてのSFに描かれた夢。計算機仕掛けの神。人類の未来を、ボクの白い指先で形作るという快楽。その構造の…嗚呼、なんとエレガントなことか。

 

 力とは使われるものではなく、使うものだ。科学を使い、命を使い、言葉すら使う。

 

 支配とは、科学を正しく適用する“形式”に過ぎないのだ。

 

 そもそも、人間という種は自由を使いこなせていない。感情に支配され短絡的に怒り、叫び、投票し、暴力に走る。あれを“選ばれた民”と呼ぶこと自体が、科学的に不合理だ。秩序を維持するには、機能と規律を前提とした管理体制が必要だ。

 

 マインクラフトのロールプレイのように。

 

 そこで、ボクの科学が登場する。農業、医療、エネルギー供給、教育、治安、全てをアルゴリズムで最適化。人間の心すら、科学的に導いてやればいい。正解のない問いを、ボクが定義してやればいい。それを世界が、ストーンワールドが求めている。

 

 ボクは、“自由”を否定しない。ただし、それは制御された自由であるべきだ。迷走するより導かれた方が、人間にとっても幸福なのだから。

 

 それでも、「独裁は悪だ」と叫ぶ者がいるだろう。

 

 だが、ボクの“独裁”には、愛がある。理性と設計によって導かれる統治は、血塗られた歴史の独裁者どもとは違う。何故なら、ボクには科学があるからだ。

 

 

『科学は素晴らしいものだ』

 

 

 それがすべての原点であり、結論である。

 

 それでも、孤独だった。知性の高さが前世においても今世においても、NASAの科学者たるボクを孤立させた。ボクの言葉を“狂気”と呼ぶ者もいた。科学で人間の境界を超えるたび、称賛よりも拒絶が返ってきた。進化を望んだのに、ボク自身が置き去りにされていく感覚。

 

 けれど、今はそんなことどうでもいい。

 

 彼女が、現れたのだから。

 

 架空の存在に過ぎないはずの彼女。しかしある種の“概念”というのは、いつしか人格すら獲得し、人々の脳内に共通言語のように定着する。そうして虚構が、現実に形を持つ瞬間がある。

 

 今日、まさにそれが起きた。今日、まさにボクは彼女と出会った。

 

 黒いスーツに身を包み、漆黒のサングラスをかけ、指先に綿の黒手袋をはめた少女。彼女はまるで、視線というものの存在自体を否定するように、他者を見ない。だがボクは、その姿を見た瞬間に理解した。いや、認識した。

 

 アレックスだ。すべてのクラフターの象徴。想像と創造を体現し、整然たる秩序の中に無限の自由を宿す存在。創造主であり破壊者でもある彼女の姿が今、眼前にある。服装こそ違うが、自分が知るアレックスそのもの。彼女はこの地球ではなく、前世の地球世界でしかいなかった。ボクの愛する世界の、ただの映像の中にだけいた人物。

 

 理性はあり得ないと、言っている。だが科学者にとって「今この目で観測できる現象」こそが唯一絶対の証明だ。

 

 ボクは……ボクという人間は、こういう時、理性などに身を任せる性質ではない。素直な衝動のままに、ボクはその一歩を踏み出した。

 

 足が震えた? いや、震えてなどいない。これは感動による静電気的な身体反応だ。そう、ボクは冷静だ。そう思い込もうとした。映画やゲーム、仮想世界の中でしか語られなかった存在を現実に。それが、いま、目の前にいる。ああ、なんという幸福だろうか。

 

 そして、ボクは彼女の名を口にせずにはいられなかった。口元が勝手に緩み、唇からはこぼれそうな言葉が舞い上がった。

 

 

「おお! マインクラフトや映画でしか見たことがない、マインクラフターのアレックスに会えるとは! 実にエレガントだ!」

 

 

 ボクの声は震えていなかった。むしろ心地よいほどに張りがあった。これまで数々の論文発表会でも見せたことのない、最大出力のプレゼンテーションボイスだ。

 

 ……だが、彼女の反応はと言えば。

 

 

「抱きつくな抱きつくな目キラキラさせるなさせるな」

 

 

 なんという…その表情、その声、その語彙の選び方にすら、圧倒的なリアリティがあった。ボクは確信した。アレックスは今、現実に存在している。もう何も要らない。ボクはこの事実だけで20杯分の白米が食べられる、

 

 この瞬間のために、ボクはすべてを注いできたのだ。科学の名のもとに、あらゆる無駄を省き、あらゆる命を賭して、それでも到達したこの奇跡。

 

 それは、どんな方程式よりも、どんな論文よりも、どんな実験結果よりも──

 

 美しい。おっふ。

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 皆さんごきげんよう! わたしは、マインクラフターのアレックス! 統括のアレックス01とも、呼ばれているぞ! 皆様方には、しばしこのアレックス01の回想に付き合っていただきたい。

 

 ゼノ率いるアメリカ科学王国との戦争は、遂に終結した。遂にとは言っても、たかだか約一月でだが。ともかく、誰一人の命が失うことがなく終われたことは実に喜ばしい限りである。人質の引き渡しも、無事完了したしな。

 

 マインクラフターが村人の特殊部隊──わたしアレックス”sからすれば村人ではない──を人質にしたケース、稀ではなかろうか。

 

 我々マインクラフターと科学王国の目的は、全人類70億を救い科学文明を再興するため。断じて、我ら創造主が唆る殺し合いではないのだ。超例外的だが、ホワイマンのみは別である。

 

 かの黒幕だけは『月に代わってお仕置きよ!』ならぬ、『地球に代わってお仕置きよ♡』だ。楽しみにしていただきたい。宇宙船のクラフト──まだ先だが──も、是非とも楽しみに待っていて欲しい。

 

 そうだ。ゼノについて話すべきことがあったな。今思い出したぞ。なんと驚くべきことに、NASAの天才科学者たる彼は我らアレックス”sと同じ転生者であったのだ。

 

 こりゃあ凄い。道理で、『おお! マインクラフトや映画でしか見たことがない、マインクラフターのアレックスに会えるとは! 実にエレガントだ!』のセリフが出る訳だ。

 

 そんなゼノは独裁者を自称していた訳だが、何も別に本気で独裁したいなんて気持ちは無かったそうな。千空が復活液というレシピを開示した時も、これで救えるぞと舞い上がっていた。

 

 ここで疑問に思ったことだろう。『えっ、じゃあファーストコンタクト襲来も千空暗殺も潜水艦での急襲は何だったの?』…っと。ごもっともなツッコミだ。

 

 これはディスコミュニケーションだったゼノが悪い。石化前の世界より彼の振る舞いは『科学で独裁だ!』のそれであったことから、自称独裁者の幼馴染であるスタンリーは気づかなかったと告げていた。

 

 これにはゼノ、幼馴染らアメリカ科学王国の者から正座を強要され、永遠に続くのでは錯覚する程の説教をされていた。抜粋すると『命令には従うことは軍人の務めだが、いくら何でもロマンだからという理由でナァ…しばいたろか?』だ。怖い顔だったなァ。しゅんと落ち込んだゼノの顔がジワったものよ…おっふ、だ。

 

 ちなみに彼、千空のことが超好きらしい。部屋中に写真やらフィギュアやら、またベッドには「千空の抱き枕」があったことから本当のことだと伺えた。

 

 これには科学少年はニッコリと──目は笑っていないが──「お・は・な・し」した…ゼノの『やめてくれェェェ!!!』悲鳴がしたことから、ただの「お・は・な・し」でないことは察せられる。嗚呼、おいたわしや…。

 

 

 ゴホン! これにて、回想は終了とする。付き合ってくれて、ありがとう。

 

 

「なんだなんだ? 何が始まるんだ」

「おお、スタン! ふふ、何。これから演劇が始まるのさ」

「へぇ…で、なんていうタイトルなんだい? あれ日本語だから、俺には分からんねえ」

 

「えぇ〜と、『謎の光』『創造主(マインクラフター)について学ぼう』って書いてあるよ」

「そうかい…は? 創造主(マインクラフター)??」

「落ちついてくれたまえよ、スタン…おっ、時間のようだね。楽しみだ…う〜ん、やはりキャラメル味のポップコーンは格別だね」

 

 

 では…演劇を始めようか! とくと見よ! この時のために新設された、演劇部の活躍を!!




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