クラフトは不滅である   作:最高司祭アドミニストレータ

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発進!


汎用ヒト型決戦兵器 ゼノゲリオン初号機

 円筒形の狭い空間で、コハクは静かに呼吸を整えていた。身に纏うのは、純白のプラグスーツ。自身の肌のように身体にぴったりとフィットし、女性特有のしなやかなラインを惜しげもなく浮かび上がらせている。胸の豊満な膨らみや、引き締まった腰の曲線。

 

 平時であれば羞恥を感じたかもしれないその姿も、今はただ、これから対峙する巨大な脅威と一体になるための、機能的な戦闘服としか認識できなかった。

 

 

『聞こえるかコハク! 神経接続を開始する! 一瞬だけ脳に電気が走ったみてえな衝撃が来るが、気合で耐えやがれ!』

 

 

 管制室にいる千空からの通信が、ヘルメット内に響く。コハクは短く「ああ」と応じ、操縦桿を握る手に力を込めた。その直後プラグスーツに接続されたケーブルから、冷たい感覚が首筋を駆け上ってきた。刹那、視界が真っ白に弾け、脳の奥で無数の火花が散るような激しい衝撃が全身を貫く。思わず歯を食いしばり、短い呻きを漏らした。

 

 だが、嵐のような衝撃は、ほんの数秒で過ぎ去った。そして、その後に訪れたのは、経験したことのない、圧倒的な全能感だった。

 

 

『ふふ、おめでとう、Dr.コハク。君は今、ボクらの巨人と一つになった。その感覚、最高にエレガントだろう?』

 

 

 ゼノの穏やかな声と共に、コハクの五感が無限に拡張されていく。閉じていたはずの瞼の裏に、鮮明な光景が流れ込んできた。地下ドックの薄暗い天井、慌ただしく動き回る仲間たちの姿。そして何より自分自身の「身体」である、紫色の巨大な拳。それはまるで生まれながらに持っていた手足のように、何の違和感もなく認識できた。

 

 

「すごい…これが…巨人…力が、流れ込んでくる…」

 

 

 自分の声が巨人のスピーカーを通して、わずかに遅れて地下空間に響き渡る。その圧倒的なパワーに、コハクの全身が武者震いした。

 

 

『機体名、汎用ヒト型決戦兵器 ゼノゲリオン初号機。リフトオフ!』

 

 

 ゼノの宣言を合図に、コハクが座る球形のシートユニットが、強力な電磁力によって機体の背骨へと射出され、ガコン、と重い音を立てて接続される。同時に、巨人の両眼に、鮮やかな緑色の光が灯った。

 

 ドックを固定していたアンカーが全て解除され、機体を乗せたリフトが、電磁カタパルトによって地上へと射出される。凄まじいGがコハクを襲うが、球形のコクピットユニットが巧みに回転し、衝撃を完璧に吸収していた。視界だけが、凄まじい速度で上昇していく。

 

 そして、光。昼の太陽が、視界いっぱいに広がった。

 

 城塞の射出口から、一筋の閃光となって巨大な人型のシルエットが撃ち出される。紫と緑を基調とした、有機的で獰猛なデザインの巨人──ゼノゲリオン初号機が、空中でしなやかに姿勢を制御し、眼前に佇む黒い巨魁──デストロイヤーへと向かっていく。

 

 

(あれが…!)

 

 

 コハクは自慢の眼で、その異形の要塞の全てを捉えていた。八本の機械脚、不気味に光る八つの赤い光源、そして全身を覆う絶望的なまでに分厚い装甲。戦略自衛隊が全滅させられた、理不尽の塊。

 

 だが、今のコハクに恐怖はなかった。この新しい身体が、あの巨人を遥かに凌駕する力を持っていること。それを本能で、理解していたからだ。

 

 

 ズウウウウンッ! 

 

 

 ゼノゲリオンは、デストロイヤーの眼前に完璧な着地を決める。その衝撃で大地が放射状に砕け、砂塵が舞い上がった。コハクは、砂塵の中からゆっくりと「顔」を上げる。緑色の双眸が、確かな意志を持って、目の前の黒い脅威を睨みつけた。

 

 そして、咆哮した。それはコハク自身の魂の叫びであり、鋼鉄の巨人が上げた初めての産声だった。

 

 デストロイヤーが、即座に反応した。その全身から、無数のミサイルが発射され、同時に八つの眼から極太のレーザーが放たれる。戦略自衛隊を蹂躙した、必殺の弾幕。だが今のコハクには、その全てがスローモーションのように「視えて」いた。

 

 

(遅い!)

 

 

 センサーからの警告音が鳴り響くよりも早く、コハクは右足に力を込める。その意志に完璧に呼応し、ゼノゲリオンが大地を蹴った。巨体が信じられないほどの瞬発力で横っ飛びに跳躍する。先ほどまで立っていた場所にレーザーとミサイルの嵐が降り注ぎ、巨大なクレーターを作り出した。

 

 

「ハ! その程度か!」

 

 

 コハクは、着地と同時に再び大地を蹴る。ジグザグの軌道を描きながら、デストロイヤーへと肉薄していく。放たれる第二、第三の弾幕。その全てをコハクは驚異的な視力で予測し、回避していく。ミサイルの軌道、レーザーの照射角。その全てが、彼女の網膜の上で未来予測の線となって描かれていた。

 

 まるで、巨大な獣が、無粋な猟師の罠を嘲笑うかのように、軽やかに舞う。

 

 

『すげえ…アイツ、センサー使ってやがらねえ! 全部、自分の目で見てやがる!』

 

 

 千空の驚愕の声が聞こえる。だが、コハクにそれに構っている暇はなかった。デストロイヤーの懐に潜り込むとその巨大な機械脚の一本が、薙ぎ払うように迫ってきた。戦略自衛隊の戦車を木の葉のように吹き飛ばした、圧倒的な質量攻撃。

 

 

(そこだ!)

 

 

 コハクは脚が動き出すコンマ数秒前、その関節部のシリンダーが僅かに収縮するのを「視て」いた。攻撃の起点を完全に見切っていたのだ。彼女は上半身を屈め、ゼノゲリオンもまた、その巨体をしなやかに沈み込ませる。頭上を、轟音と共に鋼鉄の脚が通り過ぎていく。最小限の動きで、最大級の攻撃を回避したのだ。

 

 がら空きになった胴体。コハクは、その好機を逃さない。右腕に力を込める。ゼノゲリオンの右拳が、デストロイヤーの装甲の、僅かな継ぎ目を狙って叩き込まれた。ゴッ! と、鈍い衝撃音が響き渡る。有効打には程遠い。だが、デストロイヤーの巨体が、初めて明確に揺らいだ。

 

 

『ふふ、エレガントだ。最高にエレガントだよ、Dr.コハク』

 

 

 ゼノの満足げな声が、コハクの闘争心に火をつけた。ここからは、一方的な狩りの時間だ。デストロイヤーの攻撃の全てを「視て」回避し、その度に反撃の拳を叩き込んでいく。それはまるで熟練の格闘家が、動きの鈍い巨人を翻弄しているかのようだった。

 

 デストロイヤーは、明らかに苛立ち始めていた。攻撃パターンが単調になり、動きが大振りになっていく。これまで、論理と計算で全ての敵を蹂躙してきた絶対者が、初めて予測不能な「生命の躍動」を前に、その冷静さを失いつつあった。

 

 コハクは、その変化すらも見逃さない。

 

 

(いける。このまま、押し切れる!)

 

 

 確かな勝利への手応えを感じ、コハクはさらに攻勢を強めようとした。ゼノゲリオンの右腕に格納された、高周波ブレードを展開させ、とどめの一撃を狙う。その勝利を確信した、一瞬の油断。それが絶対者が仕掛けた巧妙な罠の始まりであることに、気づいていなかった。

 

 勝利への手応えは、確かなものだった。コハクは、自らの手足となったゼノゲリオンを駆り、デストロイヤーを圧倒していた。全ての攻撃は「視えて」いたし、こちらの反撃は確実に相手の体勢を崩していた。このまま攻め続ければ、いずれ好機が訪れる。その確信があった。

 

 

「これで、終わりだ!」

 

 

 コハクは、ゼノゲリオンの右腕に格納されていた高周波ブレードを展開させる。キィィン、と甲高い音を立てて現れた白刃が、太陽の光を浴びて鋭く輝いた。狙うは、これまで何度も殴りつけてきた、胸部装甲の継ぎ目。あの部分の強度が他に比べて脆いことは、これまでの攻防で既に「視て」いる。

 

 ゼノゲリオンが、最後の一撃を叩き込むべく大地を蹴る。だがその瞬間、コハクは今まで感じたことのない強烈な違和感に襲われた。

 

 デストロイヤーの動きが、あまりにも単調すぎる。苛立ち、大振りになっているように見えたが、それはあまりにも不自然な「演技」のようにも感じられた。まるでわざと隙を見せ、コハクを誘い込んでいるかのように。

 

 

(罠か…!)

 

 

 コハクがそう直感し、突撃の勢いを殺そうとした刹那、デストロイヤーが行動を開始した。それは、これまでのような直接的な攻撃ではなかった。デストロイヤーの全身、無数のハッチが一斉に開く。そこから、黒い粒子と濃密なスモークが爆発的に噴出されたのだ。

 

 

「なっ…!?」

 

 

 一瞬にして、視界が奪われた。ただの煙幕ではない。噴出された黒い粒子──チャフが、レーダーや各種センサーを無力化し、濃密なスモークが、コハクの自慢の視界を完全に遮断する。眼前に広がるのは、光の一切を吸収する、絶対的な暗闇。これまで頼りにしてきた「眼」が、初めてその意味を失った。

 

 

『どうしたコハク! 視界を失ったのか!』

『Dr.千空、落ちつきたまえ。デストロイヤーは視覚情報を遮断し、コハクの最大の武器を封じ込めるらしい』

 

 

 ゼノの冷静な分析が、管制室からの通信で届く。だが今のコハクにとって、それは何の助けにもならなかった。暗闇の中、ゼノゲリオンは完全に孤立していた。敵がどこにいるのか、次は何をしてくるのか、全く分からない。五感が奪われたような閉塞感が、じわじわとコハクの精神を蝕んでいく。

 

 その時だった。音もなく、背後から凄まじい衝撃が襲った。

 

 

「ぐっ…ぁっ!」

 

 

 ゼノゲリオンが、まるで子供が蹴飛ばした玩具のように吹き飛ばされる。コクピット内の高性能サスペンションが悲鳴を上げ、吸収しきれなかった鈍い衝撃が、プラグスーツ越しにコハクの全身を強打した。内臓が揺さぶられるような感覚に、思わず呻き声が漏れる。

 

 

(後ろ…!? いつの間に…!)

 

 

 デストロイヤーはその8本の脚を巧みに使い、巨大な質量を持ちながらほとんど音を立てずに移動していたのだ。視覚も聴覚も、そしてセンサーすらも役に立たないこの暗闇の中では、それは最強のステルス能力だった。

 

 

『左腕、機能不全! 装甲に亀裂発生!』

 

 

 機体のダメージレポートが、無情にもコハクの脳内に響く。ゼノゲリオンの左腕が、だらりと垂れ下がり、スパークを散らしているのが、拡張された身体感覚を通して伝わってくる。コハクは、必死に残された右腕で体勢を立て直し、高周波ブレードを構えた。だが、構えたところで、振るうべき相手の姿が見えない。

 

 

(落ち着け…落ち着くんだ、私…)

 

 

 自らに言い聞かせる。こういう時こそ、冷静にならなければならない。だが暗闇の中から、いつまた攻撃が来るか分からないという恐怖が呼吸を浅くさせた。プラグスーツの中が、じっとりと汗で湿っていく。

 

 再び、衝撃。今度は側面からだった。ゼノゲリオンが横殴りにされ、大地に倒れ込む。瓦礫の山に叩きつけられ、視界の端で、右肩の装甲が砕け散るのが見えた。デストロイヤーは、楽しんでいるかのようだった。圧倒的な有利な状況で、獲物を嬲り、少しずつ弱らせていく捕食者のように。

 

 

『コハク! 一度退け!!』

 

 

 千空の焦った声が響く。だが退くにも、どこへ退けばいいのか分からない。この暗闇は、戦場全体を覆い尽くしている。その時、管制室のモニターに、無慈悲な警告が表示された。そのアラート音が、コハクのヘルメット内にも鳴り響く。

 

 

『警告。活動限界まで、あと60秒』

 

 

(嘘だろ…!?)

 

 

 激しい戦闘で、ゼノゲリオンの内部コアは、想定を遥かに超える速度でエネルギーを消費していたのだ。もはや、反撃の余力すら残されていない。絶望が、初めてコハクの心を支配しかけた。自慢の眼を封じられ初号機は半壊し、エネルギーも尽きかけようとしている。打つ手が、ない。

 

 

「くっ…どこだ! どこにいる!」

 

 

 コハクは、虚空に向かって叫んだ。その声は、暗闇に虚しく吸い込まれていく。その叫びに応えるかのように、目の前の暗闇が、ゆっくりと割れた。音もなく、デストロイヤーがその巨体を現したのだ。その八つの赤い眼がまるで瀕死の獲物を見下すかのように、冷たくコハクを捉えている。

 

 とどめを刺しに来たのだ。

 

 

『活動限界まで、30秒』

 

 

 コハクは、最後の力を振り絞り、ゼノゲリオンを立ち上がらせようとする。だが、ダメージを負った機体は、鈍く軋むだけで、思うように動かない。デストロイヤーが、その巨大な脚の一本を、ゆっくりと、しかし確実に振り上げる。あの、戦車すらも玩具のように吹き飛ばした、必殺の踏みつけ攻撃。

 

 もう、回避することはできない。

 

 

(ここまで、か…)

 

 

 コハクの脳裏に、仲間たちの顔が浮かぶ。千空、クロム、スイカ…そして、父であるコクヨウの顔。白いプラグスーツに包まれた身体が、わずかに震えた。死ぬのは、怖くない。だが何もできずに、このまま敗れるのは悔しい。

 

 

『活動限界まで、10秒…9…8…』

 

 

 非情なカウントダウンが、終わりを告げる。デストロイヤーの脚が、振り下ろされる。コハクは、ぎゅっと目を閉じた。衝撃に備えた、その、永遠にも思える一瞬。

 

 突如、戦場に、これまで聞いたことのない、甲高い飛翔音が響き渡った。それはデストロイヤーが振り下ろした脚でも、ゼノゲリオンの軋む音でもない。遥か彼方から何かとてつもなく速いものが、一直線にこちらへ向かってくる音だった。

 

 戦場の静寂を切り裂いて、甲高い飛翔音が鼓膜を打った。それは、風切り音に似ていたが、もっと鋭くもっと速い。まるで空そのものが一本の矢となって放たれたかのような、異質な音。

 

 次の瞬間デストロイヤーの巨体に、ありえない変化が起きた。コハクにとどめを刺そうと振り下ろされつつあった機械脚が、ピタリと動きを止めたのだ。それだけではない。デストロイヤーの全身から、これまでとは明らかに質の違う、不規則な火花が散り始めた。

 

 

「…?」

 

 

 何が起きたのか分からず、コハクは恐る恐る目を開ける。信じられない光景が、そこに広がっていた。デストロイヤーを包んでいたあの忌々しい青いバリアが、まるで古い映像のように激しくノイズを発し明滅を繰り返している。そして戦場を覆っていた濃密なスモークとチャフが、まるで電源を切られたかのように急速に霧散していく。

 

 晴れていく視界の中、コハクは「視た」。デストロイヤーの肩部、チャフを噴出していた直径数センチの小さな噴射口。そこに、何かが、深く突き刺さっているのを。それはタングステンの杭のような、見慣れない形状の弾丸だった。

 

 

(あれは…狙撃…?)

 

 

 思考が追いつかない。一体誰が、どこから? この距離で、あの小さな一点を正確に撃ち抜くなど、人間の業ではない。だが一人だけ、心当たりがあった。

 

 

(スタンリーか!)

 

 

 その名を脳内で叫んだ瞬間、デストロイヤーの青いバリアが、パリン、とガラスが砕け散るような音を立てて、完全に消滅した。絶対的な守りを失い、無防備な巨体を白日の下に晒したデストロイヤーが、苦しむかのようにギシギシと軋む。

 

 好機。これ以上ない、千載一遇の好機。

 

 

『活動限界まで、あと5秒』

 

 

 だが、時間は残されていなかった。千空の悲痛な叫びが、現実を突きつける。コハクは、迷わなかった。絶望の淵で仲間が繋いでくれた、たった3秒という希望。それを無駄にするわけにはいかない。

 

 

「この好機、逃すものか!」

 

 

 コハクは、残された最後の意志を、壊れかけた巨人に注ぎ込んだ。ゼノゲリオンの内部コアが、限界を超えて最後のエネルギーを燃焼させる。半壊していた機体が、再び生命の光を取り戻した。

 

 

『3秒』

 

 

 右腕に、全ての力を。高周波ブレードが、最後の輝きを放つ。コハクは、大地を蹴った。もはや回避も防御も考えない。ただ、前へ。デストロイヤーの胸部中央、かつて戦略自衛隊が執拗に狙い、そしてスタンリーがこじ開けてくれた、勝利への一点を目指して。

 

 

『2秒』

 

 

 デストロイヤーもまた、残された武装で最後の抵抗を試みる。無数の小型レーザーが、ゼノゲリオンへと照射される。だがバリアを失った今、その威力は大幅に減衰していた。ゼノゲリオンの分厚い装甲がレーザーを受け止め、溶融しながらも、その突撃の勢いを殺すには至らない。

 

 

『1秒』

 

 

 届く。コハクは、デストロイヤーの懐に飛び込み、その無防備な胸部装甲に、右腕のブレードを突き立てた。ズブリ、と。熱したナイフがバターを切り裂くような、生々しい感触が、神経接続を通してコハクの全身に伝わった。

 

 

『活動限界です』

 

 

 機械的なアナウンスと共に、ゼノゲリオンの全身から力が抜けていく。緑色に輝いていた双眸の光が、ゆっくりと消えていく。だがその役目は、確かに果たされた。

 

 デストロイヤーの内部で、何かが連鎖的に爆発していくのが見えた。胸部に突き刺さったブレードを中心に、亀裂が全身へと広がっていく。そして女性的な声音のシステムボイスが、断末魔の叫びとなって戦場に響き渡った。

 

 

『システムダウン…システム…ダウン…エラー…エラー…エラー…』

 

 

 次の瞬間、デストロイヤーは、内部から膨大な光を放ち、音もなく、巨大な火球となって爆発四散した。凄まじい爆風が、活動を停止したゼノゲリオンを襲う。コハクは、衝撃吸収ユニットの中で、その全てをただ見届けていた。

 

 やがて、全てが終わった。爆風が止み、静寂が戻ってくる。ゼノゲリオン初号機は右腕をデストロイヤーの残骸に突き刺したまま、ゆっくりと膝をつき、完全に沈黙した。その背後で天を焦がしていた爆炎が、ゆっくりと黒い煙へと変わっていく。

 

 コクピットの中で、コハクは、汗と安堵の入り混じった、浅い呼吸を繰り返していた。白いプラグスーツは汚れ、身体は疲労で鉛のように重い。だが、その心は、確かな達成感と、仲間への感謝で満たされていた。

 

 視線を上げると、視界の隅に、数キロ離れた山頂が映った。そこにいるであろう、恩人の姿は見えない。だが、感謝の念は、きっと届いているはずだった。

 

 

「ハ! …やったぞ、千空…」

 

 

 小さな、しかし確かな勝利宣言が、静まり返った戦場に、静かに響き渡った。




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