黒の中の黒(旧版)   作:エンゲルス

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いつもより誤字誤植が多いかもです……


私達はゲヘナに洗濯をしに行く

「やっぱり納得できないっす。渉外は私がメイン、それが今回に限ってリサがゲヘナにコソコソ出入りして、じゃあ後は仕上げをお願いしますって。疑ってくれって言ってるのと同じっすよ」

 

「イチカ、説明したとおりです。リサの行動に関しては私が許可を出した上でのものですし、今ナギサ様と膝を突き合わせているリサの為にも──」

 

「それもおかしいっす! ティーパーティーに話が通ってないから呼び出されてるんじゃないっすか!?」

 ゲヘナ・トリニティの境界未定領域、正義実現委員会の旗が掲げられた陣地の最奥、高位の幕僚が出入りする天幕の中で、2人の少女が言い争っていた。

 

 今朝方、親友から言い渡されたのは案件の引継ぎであった。

 それだけであれば何のことはない日常であったはずだが、今回は明らかにモノが違っていた。

 

「リサとナギサ様の会談は私人間の非公式なものです。それはナギサ様も認識を共有していらっしゃいます」

 

「招待状は『ティーパーティーのナギサ様』から『正義実現委員会のリサ』だったんすよね!? それをわざわざ『リサ』から『ナギサ様』に返答した! それじゃあまるで……」

 

 

 

 

 

「ティーパーティーからの命令に正義実現委員会の監督課長は従わない。あの返事はそう受け取ってもよろしかったので?」

 

「そのような露悪的な言い方を……まるで正義実現委員会が無法者であるかのようで遺憾です」

 

「言葉が足りなかったようですね。事実そうであると申し上げているのです」

 

 ナギサはティーパーティーのホストとして確かめなければならなかった。正義実現委員会がトリニティに忠実な番犬であるかどうかを。

 

 ただでさえエデン条約に消極的な副委員長を擁し、政治的にナギサと対立する理由はあった。

 

 だからこそ、セイアがホストとならなかった現状に不満を持っているはず、かといってミカに与するわけでもない。その上でナギサから露骨な距離の取り方をする。

 

 政治的中立は元々組織としての是であろう、加えてツルギ委員長はこういった駆け引きを好まない。

 断言できる、正義実現委員会という駒の指し手は片岡リサだ。

 

「リサさん旗幟を鮮明にしないというのは、却って敵よりも不安要素なのですよ」

 

「トリニティの生徒はティーパーティーの沙汰に従う義務がございます。部活や団体も斯くあるのが道理と心得ますが」

 

「リサさん個人としての答えを聞いたほうがよろしいでしょうか」

 白のルークが唸り、ビショップを護っていた黒のポーンが脱落する。

 

「私見を申し上げるなら、上意下達の徹底には秩序だった指揮系統が不可欠だと存じます。勿論有事には臨機応変な対応が求められるでしょう」

 だが黒のナイト達が形成を動かす一手を阻み続け、白の浸透作戦は考える以前に棄却させられる。

 

「正義実現委員会の構成員であれば、指一本動かす為であってもまず委員長を通せと?」

 

「組織同士の話であれば組織同士のやり取りがある。これは私よりナギサ様の方がよくご存じのはずでは?」

 

「リサさんの考えはよく分かりました。この際、正義実現委員会との付き合い方を見直す必要がありそうですね」

 元よりナギサは先手のアドバンテージがある、攻撃的な陣形の白に対し、リサの黒は籠城戦を強いられている。引きずり出せればこちらの勝ちは確実となる。

 

「随分と挑発的な」

 

「先に仕掛けてきたのはそちらでは?」

 

「ナギサ様は調印式の余興に公会議の演劇でもおやりになるつもりで? ご来場のお客様には些か刺激が強すぎるかと……私としては吝かではございませんが」

 

「埒が明きません」

 ナギサが半ば本音を零した時、リサのクイーンが動きを見せる。

 乗ってきた? いやブラフだろう。

 

「そこで私から1つ提案が」

 ナギサはタイマーを停止させる。

 

「賭けです。敗者が勝者のささやかな頼みごとを聞くだけの戯れ」

 

「私がそれに乗るメリットは?」

 

「ナギサ様が欲しているのは我々に対する更なる枷、それが手に入るとするなら?」

 

 形勢は先手のアドバンテージを活かしたナギサに有利、成程、ここから勝つ自信があるか、負けることが前提か。いずれにせよ乗るしかないだろう。

 

「では、私は、そうですね……正義実現委員会から人質を要求いたします」

 

 ナギサは分派と自治区の長として政に携わり、それなりに人の表情を読むことが得意である。

 断言できるが、リサは本気で嫌がっている。

 しかし、想定していなかったわけではあるまい、まさしく断腸の思いということか。

 

「ご安心下さい。悪いようには致しません」

 

「業務に支障をきたしますので、流石に腕章持ちは勘弁していただきたく」

 

「その点もご安心を。何の権限も持たない1名だけでいいのです。そうたった1人だけ」

 

「末端の1人といえど我々にとってはかけがえのない戦友。これは私個人ではなく、正義実現委員会の全姉妹の総意です。それを忘れないでいただけるなら」

 

 やはりか、可能な限り受動的にこちらに首輪を差し出し、ナギサの視線を和らげる。それがリサの狙いだ。

 

 必要な事とは言え、戦友を差し出すなど自ら提案したくはないのだろう。まんまと汚れ役を押し付けられた。

 

「なら問題はございませんね。そちらは何を?」

 

「改革を。具体的にはティーパーティーに参与できる党派を増やしていただきたく」

 

「出来かねます! 私1人で決められることではないのは元より、代行の身でそのような大胆な行動は……」

 

「お言葉ですがナギサ様、これは最低限のラインです。目に見える形で改革を断行しなければトリニティは外から攻められずとも崩壊します」

 

 トリニティが危ういバランスの上に成り立っているのは誰もが知っている。

 

 だが圧倒的な勢力を誇る3大派閥が、正義実現委員会という唯一の剣を独占することで、余人がドミノの1枚目にたどり着けない盤石な仕組みを形成している。

 

 それが崩れるとするなら、このタイミングで崩すというならその組織は絞られる。

 

「自分が何を口にしているか分かった上での発言ですか」

 

「それを避けるために1人のトリニティ生として申し上げているのです。創立以前からの怨敵と無理やり手を取らされ、強大な敵を失った者達がどうなるかは明白」

 

「最低でも正義実現委員会の意思を統一できれば良い話ではないですか。リサさんを含め、ツルギさんを始めとする司令部は身内の統制ができない無能ではないでしょう」

 

「お言葉ながらナギサ様。屋根を物言わず支えてきた柱は正義実現委員会だけにあらず」

 

 蒼森ミネ、歌住サクラコ、その他多くの有力者たちの顔が頭をよぎる。

 

 だが、リサはセイアが生存しているというある意味正しい認識を持っている。

 

 即ちセイアを守っている二重の嘘を知らない。ミネがナギサに協力していることまでは掴んでいないのだろう。

 

 だが、そこまで難しい話であろうか、サクラコが核となる……いや、シスターフッドは謎が多く他派閥が与s── いや、全てだ! 派閥単位ではない! 見るべきはトリニティの生徒という独立した無数の駒!

 

 とはいえ、そうなると別の疑問が浮かび上がる。

 

「それはゲヘナも同じことでは?」

 

「ゲヘナは元より自治区の統制など行っておりません。端から無法の地で無法者が増えたところで痛痒を感じないでしょう」

 

「両校の戦力を統合する枠組みも検討しています。純粋な戦力差を考えても抑止力足り得ませんか?」

 

 ナギサとて、エデン条約に危機感を覚えた勢力が大同団結する可能性を考慮していないわけではない。

 

 統合された戦力の矛先が変わるだけではなかろうか。

 

「戦力の統合などと言っても、それがどれ程面倒かナギサ様はご存じでない。仮に反乱が起これば初動で躓き、機能不全を起こすだけならまだしも、離反者が続々と出ましょう」

 

 全てを話したわけではないだろう。正義実現委員会とてトリニティの大派閥、腹芸が不得意なわけではない。

 

 だが少なくとも正義実現委員会の上層部はトリニティの崩壊を望んではいない。その一点において共闘を模索することはできる。今はそれで十分だ。

 

「正義実現委員会がエデン条約に対して消極的な理由はよく理解できました。しかし、それら懸念点の克服や、条約締結の是非を含めて、責任を負うべきは現在のティーパーティーです」

 

「……では、エデン条約の交渉役に仲正イチカを加えていただきたい。正義実現委員会抜きで話を進めるのは個人的にも面白くないので」

 

 これを呑めば、エデン条約は正義実現委員会に相当の譲歩を強いられるだろう、だが条約そのものに反対される可能性が消えると考えるなら、こちらに利がないわけではない。

 

「対価としては妥当ですね。良いでしょう」

 

「これで賭けは成立。では、再開いたしましょうか」

 

 

 

 

 

 

「イチカ……その辺にしとけ……」

 

「っ! ツルギ先輩は何で納得してるんすか!?」

 

「1つ、リサは正義実現委員会の利益の為に動く。2つ、ティーパーティーとの関係悪化は正義実現委員会の利益にならない。3つ、それがわからない程の無能を起用した覚えはない。4つ、今のトリニティにゲヘナと全面対決する余力はない。5つ、正実が一方的に危険視され蚊帳の外に置かれている状況は組織の長として座視できない。6つ、部下を信じ、その行動の責任をとるのが私の仕事だ」

 

「リサを信じろと……」

 

「相棒なら余計にな。まぁ……帰ったら思う存分殴り合え……」

 

 ツルギなりにイチカを和ませようとしてくれているのだろう、先輩が気遣ってくれているのだ。これ以上は駄々をこねているとも言われよう。

 

「時間です。行きましょう、私達の戦場へ」

 

 

 

 

 

 

 ゲームも終盤に入り、両陣営とも目に見えて疲弊していた。

 

 可笑しい、いやゲームの進行自体に不可解な部分はない。

 

 先手であるナギサが優位に進めたのに対し、リサは粘り強く守りを維持。

 

 このまま引き分けかナギサの勝利で終わり、ナギサは正義実現委員会に確実に枷をつけることが出来る。 

 

 これがリサの狙いだったというなら、賭けなどという手段に出なくともよかっただろう。

 

 単にこちらが要求するよう誘導されれば、ナギサはその意を汲んでいたはず。

 

 そもそもこの会談自体、ナギサの方から申し出たもの。アドバンテージは向こうにないはず。

 

「先程から時間を気にされていますが、この後ご予定が?」

 

 待て、そもそもナギサがリサを呼び出した理由は、リサがハスミの意思でゲヘナに交渉に向かっていたからだ。

 

 リサが対ゲヘナとの融和自体に否定的でないと分かった以上、正実が切れるカードは1枚だけ……

 

「……ちょうど終わったところです」

 

「貴女は陽動でしたか」

 

 大きな音と共にドアが勢いよく開かれる。

「ナギサ様!」

 

「騒がしいですよ」

 慌ただしく飛び込んできた従者を叱りつつ、差し出された端末を観る。

 

 

『歴史的和解! ゲ風紀&ト正実 遂に休戦合意!』

 

 テロップの上では、手を取り合う両委員長とそれを囲む側近たちが映し出されている。

 

 手の込んだことに、慣習上2番手が立つ場所に居るのはハスミではなくイチカ。

 

 傍から見た場合、次期委員長に箔をつけるためのお披露目の構図となっている。

 

 歴史的偉業たる休戦協定にトリニティの政治的要素を視覚的にリンクさせたことで、当分は正義実現委員会及びトリニティから衆人の耳目が離れることはなくなった。

 

 

『──また、これを契機に自治区単位での条約締結が現実のものになることを願うとの共同声明を──』

 

 

 クロノスのレポーターが特ダネを嬉々として宣伝している、これも仕込みだろう。

 

 徹底的に『和平の道を切り開いたのは正義実現委員会と風紀委員会である』というプロパガンダを既成事実にするようだ。

 

 乗り気ではないが、他者にかすめ取られるのも癪なものがある場合どうすればいいか。

 

 答えは簡単、損をすることは大前提で自分が先に手を付けてしまえばいい。

 

「エデン条約が前に進むよう我々も微力を尽くさせていただきました。それと」

 ビショップが退き、ナギサの駒に道を譲る。

 

「レペティション。パーペチュアル・ドローですナギサ様。さて、賭け金はどういたしましょうか」

 

「……双方が履行ということにいたしましょう」

 

「それがよろしいかと。また機会があればお相手願いたいものです。では」

 

 

 

 

 

 

 帰り際、今回の会談が確実に行われるようアシストしてくれた人物に頭を下げる。

「ミカ様。この度は口添えを頂きありがとうございます」

 

「あんまりナギちゃんのこと虐めないんでほしいんだけど」

 

「失礼、念には念をと思いまして」

 不味い、リサの背に冷や汗が伝う。

 聖園ミカという女は本質的に無鉄砲であり、それを気遣いや労り、嘘によって抑え込んでいるだけだ。

 不機嫌であるなら、こちらを巻き込んで派手に自爆することに躊躇はない。

 

「セイアちゃんは殺されたんだよ。それが疑心暗鬼になった理由の1つ」

 

「聞かなかったことにさせて頂きます」

 

 

 

 

 

 

 最後の最後に爆弾を放り込まれ、完勝を逃した少女は、ホワイトホールの執務室に逃げ込んでいた。

 

「これでエデン条約の交渉はコントロール可能な状態になりました。あとは名探偵ナギサ様の三流推理小説が幕を下ろすのみです」

 

「骨を折っていただきありがとうございます。これでマダムも満足することでしょう。本当は貴女との友誼に無粋な貸し借りを発生させたくはなかったのですが」

 黒いスーツに黒い顔、ゆらゆらと黒い靄を立ち上らせた怪人物が困ったような声音を挙げる。

 

「構いませんよ対価として十分すぎるヒントを頂きましたから。お陰で最後のピースがはまりました」

 

「役者は揃ったと言ったところでしょうか」

 

「まさか残党がいるとは。vanitas vanitatum, et omnia vanitas……死にぞこないの負け犬を探す手間が省けた上に、ノコノコと集まってくれるとは祝着至極」

 

「余り虐めないでくださるようお願いいたします。マダムとはそりが合わない故……」

 

「分かっています。ですが我々の狩場に踏み入った以上は役に立っていただこうかと」

 

 黒服と名乗る男と出会ったのは、アビドスに所有する不動産を売却しようとした際のことであった。

 

 近辺でアビドスの生徒がカイザーと戦闘に入り、ゲヘナの生徒がそれに介入したという情報を得た正実情報班。

 

 雷帝の再来かと探りを入れたところ、『アビドス自治区からそう遠くない銀行でトリニティ生と思われる少女が強盗に巻き込まれた』という情報をおまけに引っ提げてきた。

 

 それに対し、ホワイトホールに集った正実が誇る頭脳たちの判断は早かった。

 

 

『とりあえず上に投げよう』

 

 

 斯くしてリサと黒服は邂逅、幾つかのやり取りを経て取引をする間となった。

 

「彼女達のことをご存じだったとは意外ですね。トリニティ草創の争いについては知っていても、その内側まで知る生徒は少ないはず」

 

「いえ、調べるまで私も一切。我々は手を下した一党の系譜だというのに」

 

「黒鉄の騎兵隊長……正義実現委員会の前身の1つを率いた梟雄。そしてユスティナ聖徒会に並ぶ弾圧者」

 

「詳細は不明ながら、最後はユスティナ聖徒会とそりが合わなくなり、他の派閥にも危険視され公会議の指導部から追放。そして首領が異端者として討伐された後、組織は丹念にスクラップアンドビルド、不名誉な名前ごと歴史から抹消された。お陰で正義実現委員会は派閥としての名前が無いし、今では誰も疑問に思わない」

 

 だからこそエデン条約における弾圧者に当たるピースに確証がない。

 

 順当に考えるならシスターフッドか正実だが、シスターフッドは不気味なほど動きを見せていない。

 

 シスターフッドの諜報部門が正実のそれを上回っているのか、或いは何かを見落としているか。

 

「それにしてもよろしかったのですか? 貴女の組織は元々エデン条約には消極的なはず、このままではエデン条約は締結されてしまいますが」

 

「条約の進退はどうでもいいんですよ。ナギサ様が我々を締め出そうとしたことが問題なので」

 

「正義実現委員会の領分を脅かす以上は発言権を与えよ、ということですか」

 

「交渉の場に正義実現委員会の席を用意するという目標は達成されました。後は同胞たちが望むようになるでしょう。とはいえ人質の件は痛手ですが……それにセイア様の件も想定外……」

 

 頭を抱えて唸るリサに対して、黒服の声はどこまでも面白がっているように聞こえる。

「リサさん、貴女は半身たる友、敬愛する上官、唯一の止まり木である組織、全てをいかなる手段でも護ると誓っていながら、それらが望まないであろう自己の流儀に固執し行動している。いやはや、困ったエゴイストだ」

 

「乙女心は天気より読みづらいんですよ。ま、視野が狭いのは他人の事を笑えないですが」

 

「実に子供らしくて結構なことではないですか」

 

「歳でマウントを取ると老けて見えますよ」

 

「我々は悪い大人なので」

 

 今後の付き合いを考えなくてはいけない人間より、いざとなれば縁を切っても構わない程度の他人のほうが却って気楽に過ごせるのは皮肉なことだ。

 

 だが、黒服を信用できる根拠が1つだけリサにはあった。

 

 彼、いや、彼等はその一点においてのみ行動が一貫している。

 

「まぁ、根っこは多分一緒。貴方達は譲れない領域があって、その為にはキヴォトスが今のところ必要、だからこそキヴォトスを最低限維持しようとする。それと大して変わらない」

 

「成程、あくまでトリニティに対する荒療治と」

 

「雨漏りの酷さに耐えかねて、大家にクレームを付けるか自分で直すか考えてたら、大家は鼠を狩る為壁に穴をあけるのに夢中。その上、気象予報士は台風が来るなんて言うもんだから困ったものですね」

 

「この場合は引っ越しも手では」

 

 リサに限ってその為の蓄えや、プランがないわけではないだろう。と、黒服は判断しているらしいが、それは大正解である。

 

 しかし、それは最後の手段にしたい。

 

「黒服。貴方は好いてる人というものがありますか?」

 

「は?」

 

「あー、漠然としていてごめんなさい」

 

 黒服の声音が変わる事は珍しい、ここまで困惑していたのは、依然誘われて『彼女』を観察していた時以来だ。

 

「普段そんなでもないけど、ここ一番って時に怖いぐらい強くて、だから皆から好かれてて、ずっと見ているはずなのに全く目が慣れないぐらい眩しい太陽みたいな人」

 

 

「始めは昇る太陽を見ていた、そしたら空の向こうを知って、一等星にも焦がれて、アルデバランとプレアデスの間に自分を書き込んだ。けれども追いかけた星は何れも遠くにあった」

 

 

「荒いですが素直な詩ですね。共感できる部分は大いにあります」

 

「嘘……貴方と恋バナ成立するだなんて……うわー……やっぱあの人そうなの?」

 

「あれはあくまで勧誘ですよ。そして貴女にも」

 

 

「未だ見果てぬ彼方。覗き見る方法があるとすれば?」

 

 

「残念、悪い大人の誘いに乗っちゃいけないってのが子供の常識ですので」

 

「今更ですか」

 元より期待はしておらず、からかい半分だったのであろう。黒服は残念そうな素振りを見せない。

 

 だからこちらも相応の答えを。

 

「乙女ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 ホワイトホールから寮へ戻ろうと歩みを進めていると、壁にもたれかかったイチカに呼び止められる。

 

「ツラ、貸して貰うっすよ」

 

「色気のない誘い文句ね」

 

 2人で向かった先は少人数での銃撃戦を想定した屋内演習場の1つ。

 

 観客席が窓で保護されていることと、床が砂であること以外は一般的なスポーツ競技に用いられるそれと変わらない構造。

 

「ここ、今日の予約は入ってないわよ?」

 

「ハスミ先輩が二つ返事でOK出してくれたっすよ」

 

「片付けは結局こっちでしょ」

 

 床が砂であったり、観客席の窓素材が高価であったり、保守点検が複雑であったりと、気軽に使用許可が下せない関係上、正実が演習で使う以外は晄輪大祭等でしか用いられない程度には失敗ハコモノである。

 

「当然っす」

 

「全く、他人に話も聞かず、いざ事が起きたら仕事だから片付けろ。ナギサ様もそうだけどパターナリズムの先にあるのは破滅よ」

 

「他人のこと言えた立場っすか?」

 

「私達は対等。まぁ、ゲヘナの件は悪いと思ってる。でも、ナギサ様の心象かこっちの発言力どちらかマシにしないと血の雨が降る。私達が望まなくとも」

 

 ふと、こちらに近づいてくる気配を知覚する。

 

「ギャラリーを呼んだの?」

 

「借りる条件だったんっすよ。ここ使うなら役に立つよう使えって」

 

 イチカがEM-2「レッドドラゴン」を構え腰を低く落とすと、リサの袖口から明らかに銃身の長いベレッタが二丁飛び出す。

 

「やっぱ、口より銃口のほうが音がでかいし良く届くっすよ」

 

「話すことはもうないのね?」

 

 リサは「プロジアム」「リブリウム」と名付けた異形の拳銃を、弓を引き絞るような姿勢で構える。

 

「満員御礼ね。お金取ればよかったかしら」

 

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