元殺し屋さん俺。今、戦闘用メイドロボ。お嬢様をお守りします。   作:蒼樹物書

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【10】決闘大会(Duell party)砲と刀(Fire power is justice!!)

 「おねえさまー」

 「メイド長と呼びなさいツバキ」

 「やー」

 

 このメスガキ。

 長閑な昼下がり。

 洗濯物をバスケットに取り込んでいた私の腰に抱き着いて、甘えるツバキの頭をぐいぐい押す。

 

 『わからせ』て……呼び捨てから、おねえさまに昇級である。

 メイド長と呼べと教育しているのだが。

 

 「庭の剪定は終わったのですか」

 「終わったよー。褒めて褒めてー」

 

 はぁ。

 認めがたいが。

 アサガオの半分を受け取ったツバキは、超を付けるに惜しくない程度には優秀だ。

 

 ……通常のメイドロイド(護衛メイド)に比べ、五倍する魂量を注ぎ込まれたツバキ。

 

 鍛造魔法。

 メイドスミス(鍛冶メイド)の起こす奇跡。

 それは仕手の魂を分け与えることで、完成する。

 

 『前』で言うところのCPU性能はその多寡によって決まる……通常、一割で十分。二割が最大だ。

 護衛・決闘というメイドロイドに求められる性能には、それで事足りるのだ。

 

 さらには、魂譲渡によって起こる弊害がデメリットとして見逃せない。

 鍛造魔法を行ったメイドスミスに起こる現象は様々だが。

 

 思考能力低下・記憶障害・神経系異常……全て、鍛冶に関わる今後に影響する。

 つまりは、多くを使えば使うほど今後の鍛冶が出来なくなる。

 半分も、使ってしまったのならば。

 一生最後のメイドロイド(作品)となるだろう。

 

 「ふわぁ……おはよ、サレナ」

 「アサガオ、おはようございます」

 「ママ―!」

 

 起き抜けに、外の空気を吸いに来たのかアサガオがゆったりと歩み寄る。

 まだのその表情は眠たげ。

 もう、昼を過ぎているのに、だ。

 

 「ママっ、ツバキお仕事頑張ってるよ!」

 「いい子いい子ー」

 

 パジャマ姿のアサガオは、無邪気に報告する我が子(メイドロイド)の頭を撫でる。

 その様子に、今までとの違いはない。

 ただ、眠る時間が増えただけである……あの、ワーカーホリックが。

 

 「……その、アサガオ」

 「おなかすいた」

 

 私の表情に、暗いモノを察したのだろう。

 アサガオは何でもないように、食事を要求した。

 

 

 「いただきまーす」

 「はい、召し上がれ」

 

 テーブルの上。

 たっぷり野菜と鶏肉の炊き込みご飯、根菜の煮合わせ、海藻の酢和え。

 焼き物にターンオーバーの目玉焼きと、揚げ物にワイルドボアのヒレカツ。汁物には、トマトのかきたま汁を。

 今日は和食中心だ。米も醤油もある異世界ファンタジーで助かる。

 

 大量の器が所狭しと、色とりどりの菜がひしめき合っている。

 

 「ツバキは?」

 「お嬢様の傍仕えにやっています」

 

 旺盛な食欲で、次々と皿を空けていくアサガオに応える。

 ツバキはメイド業務においても隙はない。

 ちょっと性格はメスガキだが、お嬢様の補佐にも護衛としても信頼できる。

 

 それにしても。

 早飯は働き者……職人の性だが、もう少し咀嚼して欲しい。

 

 お嬢様のお食事ももちろん、丁寧に手間を惜しんではいないが。

 病弱なお嬢様にご用意するのとは、また別の準備が要る。

 せっかく精魂込めて作った食事……気持ちよく皿が空いていくのもいいが、味わって欲しい。

 

 なにせ、アサガオは一日一食だ。

 

 ……『前』は一日三食がこの世界の基本、海外では二食というところも少なくないが。

 この世界でも、三食摂るのが一般的である。

 ヒトが、それもまだ食べ盛りの少女にとっては足りない。

 

 単純に時間がない。

 

 魂の半分を、ツバキに分け与えた影響。

 アサガオの家系に伝わる秘伝……本来ならば、廃人となるような魂譲渡を最低限の支払いで済ませる。

 最低限。それは、睡眠時間の大幅な増加。

 

 「アサガオ、食べながら寝ないで下さい」

 「うんー」

 

 一日の内、二十時間を眠っている。

 活動時間はたったの四時間。

 

 食事が一日一回の理由である。

 眠る前に、軽めの食事を摂ってもらってはいるが。

 

 「ごめんね、サレナ」

 「いえ」

 

 だから、一回の食事で栄養を摂れるよう手を尽くす。

 大量の料理ではあるが、少量ずつ。

 食欲を刺激する為、彩や食感・バランスにも気を遣う。

 

 奉仕(メイドの仕事)である。

 

 ならば、謝罪は不要。

 奉仕すべきお嬢様でなくとも、大切な同志だ。

 

 「……ありがと。さーて、今日の予定は、と」

 

 謝罪ではなく、感謝を。

 お互い、多くの言葉はいらない……切り替えたアサガオは、限られた一日を有効にしようと頭を働かせる。

 鍛冶仕事の多くは、彼女の半分を受け取ったツバキでも可能だが。

 やはり、腕利きの仕事は多岐に渡る。

 揃えた膳を平らげながら、限りある時間の使い道を組み立てる。

 

 「デザートです」

 「やたっ、サレナのアップルパイだ」

 

 皿の軍勢をあっという間に片づけたアサガオに、紅茶とパイを出す。

 お嬢様向けにハイカロリー仕様の、得意の一つ。

 アサガオにも好評で喜んでもらっている。

 

 「サレナのメンテは、ツバキにやって貰うとして……」

 

 アップルパイにかぶりつきながらも、鍛冶の仕事を組み立てる。

 ツバキの方のメンテナンスは、彼女にして貰うしかない。

 

 「刀、そろそろ研がないと」

 「はい、お願いします」

 

 私の……無銘の刀。

 お嬢様からいただいた、大切な一振り。

 ツバキでも技量的には研ぎをするに十分だろうが。

 

 それでも、アサガオにしか触らせていなかった。これは、私のわがままだ。

 

 「それとメイド長の件ですが」

 

 またそれー? とアサガオは溜息。

 先日頂戴した長の座である。

 

 ツバキが加わり三人となったお嬢様のメイド。

 少数とはいえ、数が増えた以上は組織。

 

 指揮系統の為に長は必要だと、アサガオの提案だった。自身の状況から、彼女は固辞。

 お嬢様に長く仕える、先任の彼女が相応しいとまだ思っているのだが。

 ツバキの方は……特に興味ないようだった。

 

 そうして、結果的に私がメイド長である。

 

 「私の子をお願い」

 「誤解の生成を確認」

 

 産ませてないぞ私。

 我が子を夫へ託す妻のような顔をするな。

 

 「サレナ、おやつー」

 「はいお嬢様」

 

 アップルパイの香りに惹かれたのか、お嬢様がツバキを連れて食堂に訪れた。

 もう三時のお茶の時間だった。

 

 「ね、ツバキ。サレナと組んでみないかしら」

 「くむ? 組んず解れず?」

 

 おいメスガキ。

 お嬢様の椅子を引いて、席を勧めて午後のお茶を用意しながら。

 ……組む?

 

 「タッグデュエル。そろそろ、懐が寂しくなってきたから」

 

 

 再び、決闘大会である。

 我がヴランバルド家の懐事情は、ローズ嬢からの巻き上げでいくらかの回復は見せていたが。

 重火器型メイドロイド(大飯食らい)であるツバキを加えたことで、再び火達磨となっている。

 

 その為の賞金稼ぎである。

 

 メイドロイド同士の決闘大会、その対戦形式(レギュレーション)は多い。

 前回のような一対一をオーソドックスとしつつも、バトルロワイヤル形式、チーム戦等。

 

 『――従者決闘(maid duel)!』

 

 砂色に包まれたコロッセウム。

 拡声魔法で、大きく響き渡る開戦の声。

 

 轡を並べるのはツバキ。

 

 「おねえさまー。勝ったら褒めてくれる?」

 「メイド長です……まぁ、いいでしょう」

 「あはー!」

 

 ツバキにとっては、試合とは言え身内()以外との初陣。

 不安、とは思わないが。

 

 『前回ブロンズハート記念覇者、サレナの参戦に会場は沸き立っております!!』

 

 煽る実況。

 

 「何あのガキ。誰の許可得て私のサレナちゃんの隣に」

 「落ち着けファンクラブ1号」

 「ころせー!!」

 

 声援はいつも通りアレだ。

 私のファンクラブの人はまた観に来てくれたようだ。目線を送って1号を即死させ(にファンサす)る。

 あとはいつも通り、殺気と金目に狂った声援。

 

 「「……」」

 

 敵手も、こちらと同じく二体。

 タッグマッチである。

 

 二対二という、変則式の決闘。本来、貴族が全てを賭けるのは一体のメイドロイド(護衛メイド)……しかし、興行としての決闘大会はその形に捕らわれない。

 面白いことこそ正義である。

 チーム戦もその一つ、その最小となる二対二(タッグデュエル)だ。

 

 お嬢様を背にして、正調のメイド服に身を包んだ私とツバキ。

 対するは鈍銀の甲冑に身を包んだメイドロイド二体だ。

 

 その後方には下種な顔の商人、この大会は小銭稼ぎですらなく自身の力の誇示であることを隠そうともしない。

 従える鎧のメイドロイド、装備・性能は疑いようもなく……金稼ぎに飽きた、顕示欲の為の参加だろう。

 お嬢様を背に、無様は見せられまい。

 

 「ツバキ、牽制攻撃」

 

 相手の装備は、揃って亜ミスリル製重鎧にハルバード。硬く、間合いが広く、強い。

 その隙の無い動作から、性能の高さが伺える。

 

 ――強い機体に、強い装備を揃えれば勝てる。傲慢である。

 

 ならば、その隙を漏れなく頂戴しよう。

 ツバキの火力で牽制、守りに入った二体の致命のみを刈り取る。

 いくら硬かろうが、鎧はどうしても関節部を始めとした急所を隠せない。

 私の装備はいつも通り(愛刀一本)。ツバキは左腕バズーカ・右腕三連速射砲(ガトリングガン)。両肩に迫撃砲を一門ずつ。

 

 「やー」

 

 ツバキが……後衛が、雑な拒否と共に突撃した。

 後衛が突撃した。

 

 「おねえさまに、いいとこ見せたげるー!」

 

 舌足らずの甘い声。

 こいつ。

 新兵の手柄目当てが、どれだけ危険か。

 

 「「攻撃」」

 

 戦場処女のツバキ、その突撃を二体の甲冑メイドロイドが迎撃する。

 出遅れた私は仕掛けを迷っていた。

 敵手二体は、機械的に、緻密に連携している。

 

 ――このまま、遅れて突撃すべきか。

 後方援護? 否、刀だけの装備では届かない。

 もー、あのバカ!!

 

 「あは」

 

 近接銃撃戦法。

 ハルバードの間合いにまで接近したツバキが、踊る。

 

 精密に突かれる切っ先二対を、体捌きのみで避け切り。

 二本の柄をバズーカとガトリングの砲身で受け流す。

 

 一瞬で空いた、二体のメイドロイドの腹。

 両肩の迫撃砲は。

 照準すら要らなかった。

 

 「あはは」

 

 零距離砲撃。

 自身もその砲火に焼かれながらも、亜ミスリル鎧を上回るツバキの装甲はものともしない。

 結果、吹き飛ばされた敵手二体は。

 

 「あはっあははははははははは」

 

 ハッピートリガーに焼かれる。

 追撃の迫撃砲連射、バズーカの集中射撃、ガトリングガンの精密射撃という曲芸。

 

 私の妹分が強すぎる。

 

 「火力は正義!」

 

 ――そうですね。

 言いようのない敗北感を感じながら、実況が我が家の勝利を告げるのを聞く。

 アサガオ……火力至上主義(バカ)の、あなたの子は心配要りませんよ。

 

 

 「ツバキは、役目を果たせた?」

 「ええ、存分に焼くことを果たしました」

 「……焼く?」

 

 コロッセウムで一日の対戦カードをやり切って。

 前回よりもレベルの高い大会、貴族観戦はないがそれでも高い格式に王都コロッセウム開催である。

 その近郊にある宿……前よりも、いくらかは質の良い一室。

 

 二部屋借りれたそこで、微睡むアサガオを膝枕している。

 

 夕食も終えて、休息の時間。

 明日の対戦に備えてアサガオとミーティングの為、お嬢様をツバキに任せ二人きりである。

 

 「あの子は危ういところはありますが、実に優秀です」

 

 貴女に似て。

 そう、言いかけるのを控える。

 

 「そう。良かった」

 

 ベッドの上、私の膝枕に頭を預けるアサガオはとても安堵した表情で。

 

 「……サレナ、あの子を頼ってね」

 「?」

 

 頼る?

 まだまだ経験不足の生まれたて。

 導くのならば、まだ分かるが。

 

 「私があの子を鍛造(つく)ったのは、もちろんお嬢様の為だけれど」

 

 アサガオが、不自由な身体を許容してまで鍛造したツバキ。

 二割の魂でも十分だろうに、それでも半身を捧げたメイドロイド。

 

 「あなたは、とてもあやういから」

 

 私が、全てを捧げる前に。

 少しでも、足せる一手になりたいから。

 そのためにアサガオは半分を『使った』らしい。

 

 ……叶わないな。

 この同士には、私の本望が見透かされている。

 お嬢様の為に今度こそ終われることを、私が望んでいることを。

 

 お嬢様を、終わらせることを望まれていることを。

 そうしてお嬢様からの『依頼』を果たした後は。

 ――私は。

 

 アサガオは、主人(お嬢様)同志()の危うさ。

 それを見抜いて。

 私達を護る為に、ツバキを全力で鍛造したのだ。

 

 「……ええ、そうします」

 「おねがい、ね……」

 

 私の答えを聞いて、安心したように眠るアサガオの赤髪をゆっくりと撫でる。

 すぅすぅ、と寝息に私も安心する。

 

 まだ。

 まだ。

 

 しばらく、この時間に浸る。

 温かい湯船に身を沈めるように……心地よい時間に、浸る。

 

 黄金姫と魔堕姫に睨まれ、それでも最後にお嬢様を殺す時を予感しながら。

 まだ、愛おしい時間に浸っていたかった。




◇異世界トピック◇
【サレナのアップルパイ】
生前、殺し屋であったサレナは多芸なタイプの殺し屋である。
多種多様な知識・技能に精通し仕事に活用していた。
アップルパイを始めとした調理技能は、そこに由来する。
『元』の世界で三日三晩土下座して弟子入りした、伝説のパイ職人のおばあさんからの直伝で作られたアップルパイは王都パティシエのそれを凌駕する、らしい。
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