元殺し屋さん俺。今、戦闘用メイドロボ。お嬢様をお守りします。   作:蒼樹物書

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【11】(ruler)

『勝者ヴランバルド! 準決勝も難なく勝ち抜きました!!』

 

 納刀の後、落とした首に向かって一礼。

 ツバキの火力で面制圧し、生じた隙を私が食う。

 

 連戦連勝。

 砲戦特化のメイドロイド(護衛メイド)であるツバキと、暗殺に向いた私(元殺し屋)の特性。

 その相性は抜群だった。

 

 初戦こそ功名心……というか褒められたい一心の子犬のようなツバキだったが。

 

「はい、いい子いい子」

「おねえさまー」

「メイド長と呼びなさい」

 

 私の胸に顔を埋めて、褒美を強請るツバキの頭を撫でる。

 アサガオと同じ、けれどもショートカットに揃えたさらさらの赤髪を指と指とで梳きながら。

 ……なぜか、会場が更に沸き立つのを感じる。

 

 「あっあっあっ」

 「私はもうサレ×ツバを推す」

 「間に挟まりてぇー」

 

 脳を破壊された私のファンクラブ1号、何かを諦めた2号は不埒な男を袋叩きにしていた。

 1号は可哀そうになったので投げキッスを送っておいた。即死である。

 

 「ご苦労様」

 

 お嬢様の労いに、スカートを両手で摘まんで一礼。

 ツバキもそれに追従する。

 

 「さて、次の決勝ですが」

 

 その後ろに控えたアサガオが、資料の紙束を確認する。

 睡眠時間が大幅に増えた彼女だが、決勝に備えタイミングを合わせていた。

 強敵に備え修理と補給、装備の変更とむしろ戦闘の前後がメイドスミス(鍛冶メイド)の本領だ。

 

 「相手は王国騎士団副長、その双子型」

 

 前回よりも格の高い大会。

 参加者の格も当然高くなる……それでも王国騎士団、その第二位が所有するメイドロイドが相手とは。

 

 双子型。

 一人のメイドスミスが、同時に二体のメイドロイドを鍛造した場合そう呼ばれる。

 魂を分け与え鍛造する以上、仕手の性質に似るのがメイドロイド。

 しかし、二体同時の鍛造をすればそれはほぼ同質のそれとなる。

 

 ……量産型軍用メイドロイドは『それ』を利用しているそうだが。

 

 双子型の利点は、互いとの連携能力に特化していること。

 タッグマッチに置いて明らかな利点である。

 二体の意図は遅延なく言葉すら必要とせず伝わり、位置状況は遥か遠くとも把握できる。

 

 強敵である。

 

 この大会で初めて組む、相性抜群であってもその連携を崩すには不足であろう。

 片割れに集中攻撃が正攻法だろうが……敵手もそれは承知のはず。

 

 「……上から、叩き潰す方が良さそうね」

 

 お嬢様の黄土色の瞳が、きらりと鋭い光を灯す。

 

 「ツバキは超過積載最大火力」

 「えっ、いくら盛ってもいいんですか!」

 

 アサガオが眼を輝かせる。その光は欲望に塗れていた。

 火力至上主義の彼女は主人の許しを得て……決勝まで積み上げてきた賞金を、ツバキの火力という炉に全て投げ込める歓びに震えている。

 いや賞金稼ぎに来ているのに投げ込むな。

 ……実際、それだけの投資は必要な勝負ではあるのだが。まぁ、大会優勝の賞金でリターンは十分に見込める。

 

 「龍炎放射器(ドラゴンファイアスローワー)、多連装獄炎誘導弾(インフェルノミサイル)巨大埋設型反応式地雷(天使のラッパ)も盛っていいんですか!!」

 

 おい国家予算超えてんぞ火力至上主義。

 最後のはコロッセウムごと王都を消滅させるつもりか。

 ちなみに巨大埋設型反応式地雷(天使のラッパ)とは『前』で言う核地雷である。

 

 「……予算は三百万ヴァイスまでね」

 

 小学生の遠足のおやつ、その予算を告げるようにお嬢様。

 アサガオはご褒美を取られた犬のように膨れっ面だが……対戦者諸共に、後衛に焼かれるのは勘弁願いたい。

 

 「しゃーなしですねー……対メイドロイド高速徹甲狙撃銃(アンチメイドロイドライフル)中心にアセンを組むとして……」

 

 コイツの、こういうところが抽出されてツバキになったのか……そう納得するような、クソガキ感。

 なお長距離でも一撃でメイドロイドを沈黙させることができる、高速徹甲狙撃銃は一丁で二百万バイスを超える高級装備である。

 火力に関することになるとバカになるんだ、アサガオ。

 あー、と残念を感じずにはいられないが。

 

 「サレナはいつも通り。二つ、首を取ってきなさい」

 「はい、お嬢様」

 

 命令を受領。

 お嬢様の命じることに、ただ従う。

 私は王都でも最上位に近い豪物メイドロイド、その首を二つ取る。それだけだ。

 

 さあ、仕事をしよう。

 

 

 『第29回シルバーツインハーツ大会! いよいよ決勝です!!』

 

 馴染みになりつつある、砂色のコロッセウム。

 拡声魔法で煽る実況、前回のよりはいくらかマシだがそれでも下劣な声援。

 自転車操業のように稼いだ賞金で次の戦いに備え……ツバキの装備を整えて勝ち上がってはきたが。

 

 「おねえさまー、これ勝ったらちゅーして! ちゅー!!」

 「私の唇はお嬢様のモノです。それとメイド長と呼びなさい」

 

 ……強敵を前に、ツバキは平常運転だ。

 

 敵手、双子型メイドロイド。

 この王国で高貴とされる金色の髪を揃ってロングウェーブにしている。

 装備は片方が拳銃(ハンドガン)短剣(ナイフ)、もう片方は軽機関銃(サブマシンガン)二丁。おそらくは、身を包むメイド服にも発煙弾発射機(スモークディスチャージャー)等の多様な装備を隠し持っているはずだ。

 

 王国騎士団の所属、その二位にある高位な貴族らしい控え目(護衛目的)も備えた布陣。

 こちらと同じく、前衛・後衛に分けた装備ではあるが。

 双子型の連携能力はこちらを凌駕するに余る。

 さて、どう崩したものか。

 

 『それでは……従者決闘(maid duel)!』

 

 ゴングだ。

 ――そう、反応した瞬間。

 

 ごとり。

 ごとり。

 

 二つの、首が落ちる。

 王国騎士団副長、その従者二体の首が砂地に落ちた。豊かな金髪が無残に、頭ごと闘技場の汚れた地に沈む。

 

 

 

 「カルサ、乱入ー」

 

 

 

 首が落ちたことで、倒れ伏す二体のメイドロイド。

 一体の黒炭がその間に立っている。

 

 「はい審議とか面倒なことはいいから。決勝は、この子とその子達でやるわ」

 

 有無を言わせぬ宣言。

 突然大会に乱入した黒炭のメイドロイド。

 その背後から現れたのは。

 

 金色の暴君。

 カルサ・フォン・ゴルドヴァーン。

 王家直系、実質的にこの国を支配する黄金の姫である。

 

 「ヴランバルドの。決闘よ」

 

 いくら高レベルの大会とはいえ、王族の求め。

 誰が拒絶や中断の声を許されるか。

 実況も、観客も吐息すら出来ない緊張の中。

 黄金姫が、お嬢様に告げる。

 

 そもそも、従者決闘(maid duel)とは貴族同士が何かを賭け勝ち取る為の戦い。

 興行化した決闘大会は本質から離れている。

 その欺瞞を暴くような乱入。

 

 「カルサが勝ったらぁ……その子、私にちょうだい」

 「……お嬢様。撤退を推奨」

 

 私を指差すカルサを無視して端的に、状況を把握し進言する。

 

 この勝負に乗る必要はない。

 決勝の賞金は魅力的ではあるが、あの黒炭相手では荷が勝つ。

 ツバキと私、二対一でもだ。

 決闘を拒否することは、貴族にとって恥辱の限りではあるが……元より落ち目の我が家、落とす家名はない。

 

 「ぶっ殺す」

 

 あー。

 駄目だこれはもう駄目だ。

 

 お嬢様の一言で、諦めた私は愛刀の柄を握ることにした。

 オーダーを受けたツバキも同様に、ライフルを構える。

 

 「あのっ、こちらの要求は五億ヴァイスでお願いしますっ」

 「ええ、いいわよ」

 

 黄金姫はアサガオの要求へ即答した。お嬢様は私を要求した姫への殺意だけで決闘に応じてしまった為、アサガオは慌てて条件を成立させたようだ。

 

 私イコール五億ヴァイスになるらしい。

 ……なお、その金額は小さな村が十年は遊んで暮らせる額だ。

 とはいえ金策という大会参加の目的は、これで達せられる。

 

 アレ相手に勝てれば、という条件付きだが。

 

 「――」

 

 黒炭の、メイドロイド。

 黄金姫が十数体は控えさせている、直近の内一体である。

 

 ゴールドを引き立てるブラック、その役目に相応しく黒に全身を染めている。

 黒のロングワンピースに黒のエプロンドレス、黒髪のストレートロングにホワイトプリムと手袋まで黒。

 その顔は、のっぺらぼうの黒い仮面で覆われている。

 

 しかし、徒手である。

 

 剣も銃も持たぬ、非武装。

 両手はへそ下に組んで真っすぐの直立。

 戦闘を前にして、ただの待機姿勢。

 メイドらしい立ち姿であるが。

 

 「ツバキ。私が仕掛けます」

 「……うん」

 

 相方も、その様子に油断を許されぬと感じたらしい。

 カルサ・フォン・ゴルドヴァーンの従えるメイドロイド。

 格上というのも烏滸がましい『最高級』である。

 

 ――彼岸流合戦礼法、散華・裏。

 

 抜刀からの乱斬り。逆袈裟、兜割、喉突き。

 この身(機械仕掛け)となってから、さらに鍛えた技。

 多対一に対応する術を一体に集中する。

 

 敵の性能発揮を許さずに、必殺の乱れ打ちにて圧殺する。

 

 「――」

 

 しかして。

 

 「全斬命中。効果を認めず――!」

 

 ……倒れ――ない!?

 まるで巨木に正拳を打つかのように。

 鍛え上げた必殺の一刀は、全て致命どころか傷を付けるにも届かない。

 

 「Attack」

 

 黒のスカートを翻しながら、反撃の回し蹴りが私の背骨を捕える。

 古い機体とはいえ、強靭に鍛えられた鋼の骨格が粉砕する。

 

 ――下半身の反応途絶。1ミリも動かせる気がしない。

 いちおう、まだ腰から下は繋がっているようだ。

 

 蹴り一つで、か。

 支えを無くして落ちた上半身を、無理矢理に腕で起こしながら状況を確認する。

 

 「おねえさまに、なにしたの?」

 

 ツバキが、激昂していた。

 

 「死んじゃえよ、お前」

 

 対メイドロイド高速徹甲狙撃銃(アンチメイドロイドライフル)を、心臓目掛けて七連射。

 弾倉を使い切る精密狙撃の連射。

 一発でメイドロイドを機能停止に追い込む弾丸を、全て一体に叩き込む。

 

 その的となった黒炭のメイドロイドは三発までは装甲で受け、残り四発を左腕で防御。結果、左腕が吹き飛んだが構わずツバキに向け駆ける。

 

 ツバキは両腕上部に装備した、撃鉄式短槍で迎撃の構え。

 だめだ。

 

 「あっ」

 

 赤い花冠が宙に舞う。

 黒炭のメイドロイドが迎撃の遅さを許さず。

 ただ真っすぐに突き出しただけの手刀で、ツバキが機能停止に追いやられた。

 

 ごとり、と妹分の首が落ちる。

 その目は無力感に染まって、こちらを見ていた。

 

 「……ツバキ」

 

 我が子を殺されたアサガオの、悲痛な声。

 まだだ。

 

 

 

 【***】起動。

 

 

 

 ――下半身の全機能復旧を確認。

 いちおう、程度に繋がっていたはずの腰から下が完全な状態に回復する。

 理知外の回復。

 メイドロイドの自動修理機能では説明がつかない、完全回復である。

 だが、お嬢様の為にこの世の法則を踏み倒す。

 

 お嬢様をお護りするために必要な全てを揃える。

 

 目標設定……黒炭のメイドロイド、首部切断。

 条件達成のために、必要な要素を確保。

 

 ツバキの両椀上部に装備されていた、二対の撃鉄式短槍を脚部にセット。

 倒れ伏した彼女の腕、そこに固定されていた装備が『転送』される。

 

 短槍を、推進力に転換する。

 敵を穿つための槍を、地に突き立て自身を加速させる為の装置に仕立てる。

 

 「彼岸流合戦礼法――華鬘(けまん)結び」

 

 ツバキの火力で、重いはずのメイドロイドの身が薄紙よりも軽く跳ぶ。

 

 爆裂する砂塵。

 散華・裏のような独立した斬撃の連打ではなく。

 その名の如く、複数のウロボロスが重なったような曲線の斬撃。

 一筆書きのように流れる一太刀による太刀筋は線を伸ばす毎に加速する。

 

 最後(結び)の一閃は、神速の域となる。

 

 「……うふ」

 

 黒炭のメイドロイド、最高級の一体。

 その首が落ちたというのに。

 黄金姫は、まるで窓際に置いた鉢植えがようやく花開いたことを認めたような。

 

 そんな、嬉し気な笑みを讃えていた。

 

 

 王城、玉座。

 カルサ・フォン・ゴルドヴァーンはこの場所がお気に入りだった。

 

 父である王を支配し。

 実質的に、文字通りの一国一城の主。

 その現実を感じさせてくれる場所だからだ。

 

 王にしか許されぬ椅子を、独占する。兄弟達を実力で蹴落とし、政を自身が差配し。

 国民という、莫大な数の人々の人生を自身が左右している。

 

 愉悦であった。

 

 誰もが彼女に敗北し服従する。

 この国一つで終わらせる気はない。隣国と、それを壁として安穏としている世界覇者である島国を陥落させる計画は着々と進行している。

 戦争の業火すら、彼女にとっては自身を照らす照明の一つでしかない。

 

 それを可能とする天から与えられた才を持とうとも。

 

 不快であった。

 

 冗談でも言わないようなことが、現実には起こる。

 天才が予想不能なことは日常茶飯事である。

 無論、備えは十重二十重に張り巡らせているが……それでも、砂の一粒二粒は彼女の小さな掌から零れ落ちてゆく。

 

 不快。

 

 その感触を、全てを手にする黄金姫は不快であると感じていた。

 全てを支配できるはずなのに、零れ落ちてゆく砂一粒が不快だった。

 

 「姫様」

 

 僅かな数の蝋燭だけが照らす玉座。

 そこに座する黄金姫の背後に、いつの間にか一人のメイドが立っている。

 特徴らしい特徴を、記憶しにくい容姿のメイドだ。

 

 「お仕事ですか?」

 「ええ。ヴランバルドのを、殺して」

 

 カルサは、メイドに茶を要求するが如く求めた。

 

 「姉の方?」

 「彼女は良い友人よ。互いの利害が一致している間は」

 

 リリム・ヴランバルド……長女である魔堕姫とは、互いに求めるモノが違うからこそ無二の友だ。

 求めるモノが重なれば奪い合うことになるが、まずは。

 

 「あの子(サレナ)は忠誠心旺盛なようだから。まずは、その主にいなくなって貰わないと」

 

 忠犬は決して他人のモノにならず。

 

 尽くすべき主の盾となって終わることを望む。

 そんな忠犬を望むのであれば。

 まずは、主の首を落とす。

 

 無論、主の敵討ちに躍起となるであろう。

 だがそれすら望めぬ絶望を叩き込めば?

 手足を奪い、尊厳を奪い。

 根気よく『調教』し直せば。

 

 「気長にやるつもりよ」

 

 所詮、忠誠心も感情である。

 膨大な時間と覆せない環境で破壊可能だ。

 

 そう黄金姫は認めている。

 あのメイドロイドは、ヒトと同じ心を持つ。ならば、壊せると。

 

 ふと、東国の漢字という文字を思い浮かべた。

 黄金姫は、世界中の語学を全て修めている。

 

 『主』の頭に当たる一画、それを消し去れば『王』。主のモノから王のモノとなる。

 じゃあ、消してしまいましょう。

 

 「お願いね」

 「かしこまりました姫様」

 

 亡霊のように、背後のメイドが姿を消す。

 

 従者の所作ではない。

 ――暗殺者の、それである。




◇異世界トピック◇
巨大埋設型反応式地雷(天使のラッパ)
国土防衛最終決戦兵器として開発された地雷。
王都を丸ごと消滅可能な威力を持つ、火力至上主義(バカ)垂涎の兵器。
アサガオは自爆装置として、ツバキに装備したかったようである。バカの戯言である。
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