元殺し屋さん俺。今、戦闘用メイドロボ。お嬢様をお守りします。   作:蒼樹物書

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【4】決闘大会(Duell party)盾と剣(Offense and defense)

 ――決闘である。

 

 「従者決闘(maid duel)!!」

 

 王国首都、コロッセウムの中央。

 この円形闘技場は大規模大会も開催される程、由緒正しく。整備されているものだ。

 

 メイドロイド(護衛メイド)同士の決闘に耐える為、足元は固く平らな地盤に砂地。

 囲う円形の壁……その上の、観客席も砂色の石造り。

 

 『前』の、中東での仕事を思い出す。向こうも、砂色で包まれていたから。

 

 ただ『今』。

 私がここに立っているのは、決闘の為。

 

 砂地の中央。

 一息には、少し遠い距離に立つメイドロイドを見つめる。

 

 正調である。

 

 黒のワンピースに、白のエプロンドレス。

 そして白のホワイトプリム。新緑のような美しい髪を、ショートカットに整えている。

 

 衣装は当方とほぼ同じ出で立ちである……向こうは、こちら程には貧窮していないらしく。

 この晴れ舞台に、整えられた衣服だ。

 右腕にはショートソード。

 

 メイドロイドとして、一般的な姿。

 

 その後ろには彼女の主人である、まだ幼い少年が震えながら立っている。敵手の、主人だ。

 しかして、勝負を預ける従者を信じ拳を強く握っている。

 決闘に、多くを賭けていることは目に見える。

 

 「お嬢様を、お守りします」

 

 だが、こちらにも負けられない理由がある。

 金である。

 

 ――異世界だろうと、世知辛かった。

 

 

 「決闘、大会?」

 「そうです、サレナ。当初、貴族の護衛用から……決闘の為に造られてきたメイドロイドですが」

 

 首都、そこへ向かう馬車。庶民も利用できる手ごろな価格の、旅客用のものだ。

 貨物扱いで載せられた私は隣のアサガオへ問いかける。貨物扱いの為、粗雑な木箱の中である。

 幸い粗雑なので、木組みの隙間から周囲の視覚情報を得たり会話するにも問題はない。

 問題は、ない。

 ……旅費節約の為だ。

 

 「メイドロイド同士の決闘は、その忌避感の欠如。多様性の高さで、何時からか大衆娯楽の面を持つようになりました」

 

 かなり、アサガオは言葉を選んでいる。

 

 忌避感……つまり、決闘という血生臭さは人形には無縁である。

 ヒトの形をしているとはいえ、所詮は人形。

 壊れても、手足や首が吹き飛んだとしても『モノ』である。

 

 ――血飛沫が飛び交うことはなく、しかしヒトの形が無残に飛び散る姿は興奮を誘う。

 

 多様性……これは、メイドロイドがヒトを超越する機能を持つことに依る。

 魔法技術が発展したこの世界に置いて、局面によってはメイドロイドをヒトが凌駕することはあるが……けれども、ヒトに腕を『四本』増やすことは出来ない。

 

 ――ヒトには不可能な内臓機構や、逆転の必殺技。

 

 興行として成り立つ魅力を持っていた。

 これまで貴族達が名誉や、領地の所有権を争う為に行われてきたメイドロイドの決闘……それは金の産む魅力があると知られた時、興行となった。

 

 観客を、見料を取れる見世物となった。

 

 決闘を行う貴族達にとって、その流れは一部に不評であったが。

 多くの者たちに、損のないものであった。

 

 興行主は金を集め、当事者の貴族達にもその金は流れ……政治を司る王国にとっても、戦争が終わり残虐性に飢えた国民の腹を満たせるならばと許容した。

 献金を名目とした裏金が、一部貴族に流れたというのは公然の秘密らしいが。

 

 

 従者決闘(maid duel)は、娯楽になった。

 必然の流れである。

 

 「今回の大会は、地方大会です」

 

 ……草野球みたいな単語だな。

 

 「首都のコロッセウムが使えたのはたまたまで。王族の観戦もなく、オッズ分の興行益も参加者に支払われます」

 

 そう、興行主達はただ見料を取るだけではなく。

 当然どちらが勝つかの、賭け金を募った。

 

 興行性が高まる為の必然である。

 

 あー、闇ボクシングで賭けられていた経験がある身としては当然だよなとは思う。

 『前』より司法が機能していないこの世界、賭博がより公然になるのは必然だ。

 

 「つまりは、私達の不利は『有利』に繋がります」

 「負けるだろうと思われていることが、有利」

 

 そう。

 配当金は、観客達が負けるだろうと思っている程に高くなる。

 金を稼ぎたい私達には舐められるほど有利なわけだ。

 

 「……ただの丸盾しか持っていない、無名のメイドロイド。首都に住宅を持つ、重鎮財務省大臣の息子……そのメイドロイド」

 

 アサガオの目は死んでいる。

 

 「どっちが勝つか、幼児にもわかりますよねー。給金全部、相手に賭けよう」

 「関係者の賭博参加は禁止されていますよ、アサガオ」

 

 主人から丸腰メイドロイドを決闘大会へ送り出せ、と命じられたアサガオは混乱している。

 不憫だった。

 

 「大丈夫よ」

 

 つい先ほどまで、馬車揺れで死に体となっていたお嬢様。

 アサガオの膝枕で沈むように眠っていたとは思えないほど、はっきりした声で。

 

 「私のサレナは、負けないわ」

 

 

 負けないそうである、私は。

 お嬢様は結構、無茶振りのクセがあるというか……でもそういうところも好き。

 

 「まいります……旦那様に、勝利を」

 

 ショートソードを片手に、半身で構える敵手。切っ先の位置は、丁度中央だ。

 こちらの心臓を狙う突き……しかし、上段・下段への変化を含ませている。

 

 上手い。

 

 ――性能・戦闘経験共にこちらを凌駕していると考えるべきだろう。

 この場合メイドロイドとしての経験値という意味だが。

 財務省大臣が息子の身辺を任せるメイドロイド、性能はローズ嬢のそれ程ではない……だが、戦力差は明確である。

 

 その戦力差を埋める手段を策定する。

 【***】の実行は不可能だ。

 あれは……私にも説明できないが、現在条件が達成されていない。

 物理を超越するあれは、それなりに必要なモノがあるらしい。

 

 さて。

 

 こちらに武装はない。

 左腕に構えるバックラーには本来、回転鋸が内臓されており攻守に使用できる装備だが。

 今、機能不全により機構のため無駄に重いバックラーでしかない。

 唯一の装備ということで、敵手は盾と剣、その正面勝負を選択肢に強制可能。

 相手が攻める。こちらが守るという正面勝負。

 

 ……あちらはこちらの財布事情を、全て理解していまい。

 盾のみで決闘大会に参加するメイドロイドの存在を信じているとは思えない。

 盾だけ持ってくる参加者がいるなんて、信じていない。

 

 だから、敵手は油断を持たない。

 メイドロイドに内臓火器や暗器は当然、考慮の内だ。

 盾のみを見せて脇腹を穿つつもりかもしれない。

 手の甲から展開させる鉤爪や、膝部に仕込まれたカルバリン砲なんてモノはメイドロイドにとって常識である。

 

 それが普通なのだろうが。

 実は私、盾しか持ったない。

 

 さらに加えて言えば、この戦いはまだまだ前哨。

 

 決闘大会で賞金を稼ぐという目的である為、一勝では足りない。

 前回、前々回と負けられない闘いではなく……今回は勝たなければならない闘いである。

 

 それも、出来るだけ被害を少なく。欲が、鎌首をもたげる。

 

 メイドロイドが互いに構えたことで、観客達が声を上げる。

 狂乱と言うに相応しい、歓声・罵声の数々……地方大会という場では、観客の質もそれなりである。大貴族の参列する大会ならば、響くことがない声。

 

 欲に塗れた声援、賭けなかった方を罵る醜い叫び声。

 後者の、その多くは私に注がれている。

 オッズは私が圧倒的不利。この場のほとんどの人間が、金を握り締めながら私の敗北を願っている。

 

 『さっさとぶっ壊れろガラクタぁ!!』

 『秒殺だ秒殺ゥ!!』

 『そのデカ乳を貫かれて死んじまえー!!』

 

 聞くに足りぬ。

 聞く必要はない。

 ただ、勝利するのみ。

 

 煽るような全周からの声。

 欲に塗れた声を浴びて、それでも鋼の心は揺るがない。

 

 

 

 「「攻撃」」

 

 

 

 二体のメイドロイド、その声が重なる。

 剣と盾、互いに正面に構えたならば。

 

 ――選択肢は、二択である。

 

 中段で構える敵手のショートソードは、こちらの心臓を突きで貫くには十分であるが。

 

 バックラー諸共に貫くには不足。レイピアのように、刺突に特化した装備ではない。

 斬撃で盾と心臓を破壊するつもりなら。

 構えは上段か下段でなければ、威力が不足する。

 

 敵手は、中段である。突きの構えだ。

 ならばバックラーの守りを欺き隙を作って、一直線に必殺するつもりだ。

 

 守りを避けて左右からの突きでは、人体とある程度の構造を共有するメイドロイドにとって不得手。

 速さも、威力も保証できない。

 

 つまりは、中段に構えておいて上段か下段に変化する突き。

 上から突き下ろすか、下段から突き上げるか。

 どちらかで、こちらの心臓を狙ってくる。その、二択だ。

 

 『そう考えている』と計算してもらうよう、バックラーは突き出すように正面へと構えている。

 敵手の性能・経験値面での有利……それらで在った、敵手の無数の選択肢を二択にまで狭めた。

 

 あとは。

 『その二択を両方』潰すだけだ。

 

 下段。

 

 敵手のショートソードが揺れるように盾の防御を誘った直後に、軌道を変化。

 踊る剣先は下へ沈んだ後、こちらの心臓へ向かって登るように突き上がる。

 

 身長差の有利から、相手は上段からの突き下ろしが有利と計算し選択するはず……私、全長138cm。小学生サイズだしね。

 

 そう、考えたのだが。

 バックラーは上段に備えてしまっている。正面への誘いに乗った振りの後に、上段からの刺突に合わせようと左腕を上げた。

 

 思ったより敵手は優秀だった。

 そう、考えると計算しての下段なのだろう。

 

 「貫きます」

 「――防御」

 

 下段から襲い掛かる、ショートソードの突き。

 

 唯一の装備である左腕のバックラーは、遥か上。防御は間に合わない……空いた右腕で防御するにも、心臓ごと貫かれる。

 そう、本能的に右腕を。

 本能的に守ろうと『横』に構えて、盾として防御するならば。

 二択は両方潰すと言った。

 

 「貫け……ない!?」

 

 襲い掛かるショートソードの切っ先。

 それを私は右掌で迎え入れた。

 心臓を守るように、右腕を横に構えたならば腕ごと心臓を貫通される。

 切っ先の威力を減衰する距離が足りぬ。

 

 ならば。

 距離を稼ぐ。右腕を、ショートソードを正面から迎えるように差し出す。

 

 切っ先を掴んだ、右掌が貫かれる。

 手首が、右腕がだが心臓には届かない。心臓には届かない。

 防御は成った。

 敵手の優秀さ、こちらに隠し武器があると信じてくれた切っ先は。

 全速には遠い……二の矢を警戒する為に、必要な遅さ。

 だからこそ、右腕一本で受け切れた。

 

 あとは、勝利するのみ。

 

 敵手は私の右腕に、必殺のショートソードを咥えこまれたことで体勢的に首を差し出した形。

 こちらは、二択に敗北したはずのバックラーを上段に構えた形である。

 左腕を、打ち下ろす。

 

 機構を失い、ただの重いだけのバックラーであるが。

 鈍器として使うのならば、重いほうが良い。

 

 メイドロイドの贅力とアサガオの鍛えで得た硬さ。

 上段から下段への打ち下ろしという条件ならば。

 無防備となった首を叩き潰すには十分だった。

 

 ――ごとり、敵手の頭部が砂地の上に鈍い音を響かせる。

 

 「ご苦労様」

 「はい、お嬢様」

 

 

 月が、綺麗だ。

 

 文字通りに、蒼い月。

 サファイアのような輝きを、静かに降り注ぐ夜空の下。

 夜空一つとっても、遠い異世界だ。

 

 ……喧噪、絢爛。数多の灯が夜空を照らし尽くさんと、栄えている。

 

 「ねぇサレナ、あのヤキソバって何かしら」

 「焼きそば――東国の麵料理。多様な材料で作られるソースを、麺と具材に絡めて炒めた料理です」

 「ナポリターノみたいなもの……食欲を誘うわ、買ってきて頂戴」

 「お嬢様、カロリーオーバーです。予算も超過しています」

 

 決闘大会、その一回戦の後。

 右腕をショートソードに喰わせて、隻腕状態の私は……お嬢様と屋台回りに出かけていた。

 ちなみにナポリターノというのは『前』のところで言うナポリタンである。

 

 メイドロイドの決闘大会は、市民たちの絶好の娯楽。

 そうなれば当然、集まる客の腹を満たすには通常の食堂や酒場では足らず。

 商機を見た者たちは臨時の飯屋を並び立てる。

 

 人々の営みというのは、どこも変わらないらしい。

 

 いわゆる、お祭り騒ぎ。

 普段は馬車が走る広い石畳みの通りは、屋台によってその範囲を狭めている。

 通りを挟んで左右に伸びる屋台の列……お嬢様が、ソースの焦げる匂いと物珍しさから注目した屋台はその一端に過ぎない。

 酒を誘うような肉や魚の料理を扱った屋台から、子供相手の玩具や遊戯。

 

 『元』の世界の、祭りと同様だ。

 

 「サレナのケチ」

 「お嬢様の健康と資産をお守りするのも、私の仕事ですので」

 

 ぷくう、と頬を膨らませるお嬢様に一刀両断する。既に牛串焼き、鶏唐揚げ、豚串揚げを召し上がられている。

 中学生男子並みの食欲である。お嬢様は病弱であらせられるはずだが、祭りの空気に毒されてしまっているかもしれない。おまもりしないと。

 

 なお、アサガオは次の決闘に備えて私の右腕を修理中だ。

 安宿で半泣きになりながら、ショートソードを『縦』に迎え入れてズタズタになった前衛芸術を直している。

 メイドロイドの身体は自己修復機能を持つが、それでも限界はある。

 だからこそ、メイドスミスによるサポートは必須だ。

 

 右腕丸ごと、翌日の戦闘に耐え得るまでに回復させるには。

 また、眠れぬ夜を迎える必要があるだろう。

 ……焼きそば、アサガオのお土産に買っていこう。

 

 「……」

 

 アサガオの、献身に想いを馳せて。

 屋台のおじさんに焼きそばを包んでもらいながら。

 

 ふと、視界の端に何かが映った。

 

 ……メイドロイドは何かを欲しない。

 食事も、睡眠も必要としない。生殖機能を持たない人形は、だれかを欲することもなく。

 

 ただ、目的を達成する人形。

 なのに。

 

 「主人。これが欲しい」

 「ああ?」

 

 お嬢様が、屋台の通り……その隅、路地入り口にひっそりと粗末な敷布に商品を並べた露店。その主人に声をかける。どうやら、古物商のようだ。

 壺や皿、用途不明な道具たち。

 その共通点は、古いということのみ。

 

 私が、目にしてしまったそれ。

 お嬢様が、指差したそれ。

 

 刀だ。

 二尺一寸ほど柄は正絹、鞘は黒石目。

 抜いてみなければ断言できないが……居合刀である。

 

 まさか魔法と魔物が遍く跋扈し、蒼い月が照らす世界にそれが存在するとは……。

 焼きそばが存在するのなら、刀くらいあってもおかしくないかもしれない。

 

 求めていた、武装である。

 

 だが……メイドロイドの武装として主流は西洋剣。

 最大の弱点である心臓を狙えるレイピアか、メイドロイドの贅力で以って断ち切ることに向いた厚刃剣である。

 

 薄刃で、戦場向きではない刀。

 

 刀は戦いの場においてはサブウェポンだ。

 主役は弓・槍であり……護身、最後の武器として携える物。

 だが。

 

 魂を賭ける、それに値する武器。

 そう感じるのは『俺』だった頃の名残だろう。

 

 「50万ヴァイスだ」

 「……桁を二つ、間違えていなくて?」

 

 屋台の主人は、老獪だ。

 値札を付けているのは皿などの実用品のみ。

 たまさか、世間知らずが物珍しさから値段を『間違える』のを期待した品は値札なし。

刀には、値札がついていなかった。

 

 「サレナー。このご老体に、物理的値段交渉を」

 「お嬢様」

 

 お嬢様。そういうところですよ。

 私のお嬢様は、少しばかり暴に頼る部分が多い。

 詐欺紛いの夜店相手ではあるが、誇りあるヴランバルド家がチンピラ行為をするわけにはいかない。

 そもそも、偶々目に留まっただけだ。

 

 刀は、手に持ってもいないが……恐らく、凡作である。

 メイドロイド同士の戦いに、益するとは思えない。ヒト相手ならば、威力は十分かもしれないが。

 

 「でも、欲しいのでしょう?」

 

 いたずらっぽく、微笑むお嬢様。

 

 ――結局。

 最初に提示された桁から三つ、値段を下げた後に購入。

 お嬢様の交渉技術は……ちょっと言葉にできない。いろいろな意味で。

 それでも宿に帰った後、アサガオから滅茶苦茶怒られた。主に私が。監督不行き届きらしい。

 

 この世界では、遠い東国。玩具のように見える薄い剣。

 無銘、どこで誰が鍛えたかもわからない。

 どんな来歴を以って、この場に流れてきたのかもわからない。

 

 

 

 名無しの刀は、お嬢様から私へ初めて与えられたモノになった。

 

 

 

 ……お嬢様、ありがとうございます。

 手ずから渡された、刀を胸に抱く。

 名無しの刀。

 わたしの、武器。

 お嬢様に与えられ、お嬢様をお守りする武器。

 

 負ける気がしなかった。

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